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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-275 レンジャー達が来てくれた


 1か月おきに3度ナナちゃんを連れて長城建設に参加すると、春分がやって来た。

 春分の月は休養月に当たっていたから、エディンさん達が荷馬車を連ねてやってくるのを待つことができたのは幸いだった。

 今回も新たな住民を数家族迎えることができたけど、昔から比べると避難民も少なくなった。

 さすがにエクドラル王国からの避難民はいなかったが、貴族連合からの避難者もどうやら頭打ちになって来た感じだな。

 兄上達がそれだけ頑張っているに違いない。それに、貴族連合全体の住民数あまりにも減ってしまうと、ブリガンディ王国が瓦解したときに、魔族との戦に参加できる民兵が減ってしまうだろう。

 不安げに周囲を見ている避難者達を、女性兵士が住居に案内していった。

 簡単なこの国の説明をしてくれるだろうから、今日の夕食は食堂で美味しく頂けるに違いない。


「やはりブリガンディはよろしくないようです。貴族連合と対峙していた兵士がこの冬には姿を見せなかったようですよ」

「少なくとも2個中隊は貴族連合との境界に展開していただろうね。それが消えたとなれば北に移動ということかな? 魔族と一戦したなら崩壊は確実だね」

「となれば、会談の通りに?」


 レイニーさんが、俺に顔を向けて確認してきた。


「そうなりますね。既に調整を終えていますから、瓦解と同時にその版図が切り分けられます。まぁ、逃走先はありますから、そこで暮らしてもらいましょう。俺達に手を出さない限り細々と暮らすことが出来ると思いますよ」


 ナナちゃんが淹れてくれたお茶を飲む。

 少し苦く感じるのは、いよいよ瓦解という事態を迎えるからかもしれないな。


「まあ、ブリガンディが無くなっても、街道が維持できるなら大陸南岸の王国はあまり不便を感じることはないだろうな。俺達にも商隊警備の仕事が増えそうだ」

「残党が盗賊となる可能性もありますが、魔族には注意が必要ですよ」


 俺の言葉にオビールさんが苦笑いを浮かべているところを見ると、少し老婆心が過ぎたかな。

 魔族に対する対応は兄上達がそれなりに考えているに違いない。となるとやはり盗賊対策が商隊には必要だということか。


「マーベル国がブリガンディ領に砦を作ると聞いたんだが?」

「この国の直ぐ東側ですよ。まだ未着手ですけど監視体制は維持しています。レイデル川に近づく魔族に牽制ぐらいはしますが、積極的に攻撃しようとは考えておりません」

「なるほど、流れを変えるということか。それで、残党が少しは安心できそうだな」


 目論見がばれているな。まあ、形だけの砦を作る目的ぐらいは誰にでも理解できそうだけどね。

 しばらく雑談したところで、エディンさん達が指揮所を後にする。

 オビールさんがいつものように、タバコの包みとワインを置いて行ってくれたから、今夜仲間と楽しめそうだ。


「早ければ昨年とレオンが言ってましたが、今年は確実になりそうですね。東の砦はまだ作らなくとも良いのですか?」


 ナナちゃんがお茶を淹れなおしてくれたから、レイニーさんが小さく頭を下げている。俺のカップにも淹れてくれたところで、ポットを暖炉傍に置くと「出掛けてくるにゃ!」と指揮所を出て行った。


 お茶のカップを持って暖炉傍のベンチに向かうと、パイプに火を点けた。

 レイニーさんも同じように席を立ってテーブル越しのベンチに座る。


「作りたいのはやまやまですけど、それより先に長城を作る必要があります。ブリガンディ領については東の楼門の見張り台を高くしましたから、ブリガンディ領内を数トレムは見通せますし、魔族の焚火の煙は10トレム先でも見ることができるでしょう。発見次第光通信機で貿易港に連絡すれば、貿易港からオリガン領の港まで1日で情報が伝えられます。魔族がブリガンディ王国軍とぶつかるまでに3日は掛かるでしょうから、貴族連合がその後に備えるには十分かと……」


 できれば貴族連合との光通信網を作りたいところだが、それはブリガンディ王国の瓦解後になるだろう。現状では魔族発見から1日掛かってしまうけど、それでもブリガンディ王国より先に情報を得ることが出来るだろう。

 とは言っても、レイデル川付近を魔族が南下しない限りこの対策は意味がないんだけどね。


「将来は貴族連合も長城を作ることになるのでしょうか?」

「出来ればその方が良いんですけど、兄上達の考えもあるでしょう。エクドラル王国より大砲と放炎筒の技術が提供されますから、兵器を効果的に使う何らかの方法を考えると思いますよ」


「やはり兵器は拡散してしまうのですね」

「作れば必ず拡散しますよ。でも、石火矢と新型大砲については、製造技術の開示はしません。そうそう、ライフル銃についてもです」


 あんな技術を開示したならそれこそ大戦争が起こりかねない。

 現在エクドラル王国が持つ兵器だけでも、城壁都市への一方的な攻撃が可能だからなぁ。それに石火矢を加えたなら、城壁都市内の住民に大被害を与えかねない。

 そんな兵器の存在が知られれば、各国の工房が試行錯誤を繰り返すに違いない。

 未来永劫にマーベル共和国だけで独占するということにはならないだろう。俺達が技術提供を拒んでも、数百年もすれば他国で作ることが出来るんじゃないかな?

 とはいえ石火矢にしても新型大砲にしても、そう簡単に模造できるとは思えない。少なくとも1つの技術を開発すれば良いということではないからなぁ。

 火薬だけでも俺達が使っているのは数種類もあるのだ。

 中には失敗作が功を上げた毒ガスを出すようなものまである。


「あまり憂うることは無いと思います。火薬の製法を開示しない限り石火矢は出来ませんし、大砲を鋳造している限り大型の大砲を作ることは難しいと思います。ライフル銃ともなればそもそも銃身の製造方法から異なりますからね。エクドラル王国の工房がいくら優秀でも、その発想は出来ないと思います」


 剣や槍を作る時には何度も鉄を叩いて作るんだけど、大砲や銃は鋳型に鉄を流し込むだけだからなぁ。

 円筒形を鍛造で作りだすというのは、結構難しい作業らしい。

 どうすれば円筒形の鍛造品を作れるかガラハウさんに説明したんだけど、形になったのは半年後だからね。それだけ試行錯誤の連続だったに違いない。


「今年、それに来年の目標はとりあえず西の尾根から見張り台までの長城建設で十分でしょう。エクドラル王国も魔導士を抱えていますからね。始めたなら案外早くに終わるかもしれません」


 空堀と土塁は早く出来るかもしれないけど、石積みは時間が掛かりそうだな。

 それはグラムさん達が考えることだから、あまり気にしないで良いだろう。

 とりあえずは、俺達の工事を早く終わらせたいところだ。

                ・

                ・

                ・

 開拓民達が、雪が消えるのを待って畑を耕し始める。

 まだ日陰には雪が残っているんだが、全て消えるのを待っているようなことはない。畑は日当たりが良いし、肥料を薄く撒いたことで雪はどこにも無いらしい。

 冬の間工事を手伝ってくれた開拓民がいなくなってしまったから、工事は兵士達2個小隊で行っている。

 工事から戻って休養している時だった。

 少年が指揮所に現れ、レイラさんが呼んでいると教えてくれた。


「ギルドからですか?」

「たぶん、土魔法を使えるレンジャー達を集めてくれたのかもしれません。直ぐに出掛けてみます」


 春になったら……、と言っていたんだよなぁ。

 少なくとも5人は欲しいんだけど、あまり欲をかくと碌なことにならないからなぁ……。

 足早に歩いていると、何かあったのかと足を止めて俺を見る人もいるようだ。

 そんなに急いでいるように見えるのだろうか。少し歩調を落とすか。

 あまり時間も掛からずに、到着したところで先ずは深呼吸。

 ゆっくりと扉を開けると、レイラさんが俺に顔を向けて手招きしている。


 カウンターに向かい、先ずは情報の確認だ。

 笑みを浮かべたレイラさんが暖炉傍のテーブルを指差した。


「来てくれたわよ。男女混合だけど、8人来てくれたわ。条件は契約通りになるけど、詳細について彼らに教えてあげてくれないかしら」

「分かりました。月が替わる前日にここを出ますから、4日後に出発になりますが、ここで過ごす期間も契約の通りで良いでしょう。それでは、彼らと話してみます」


 レイラさんに頭を下げると、暖炉傍のテーブルに向かう。

 人数が多いから2つのテーブルを寄せて座っている。全員が人間族だ。男性が3人に女性が5人。やはりレンジャーでも魔法を使うのは女性が多いということになるのかな?


「今日は。どうやら俺の出した依頼を受けて貰らえるということで良いでしょうか?」

「んっ? だいぶ若い依頼主だな。土魔法の使い手を探しているということであれば俺達で問題ない」

「なら、俺が出した依頼で間違いありません。ギルドの依頼条件に付いては変更はありません。出来れば期間を半年としたいのですが、問題はないでしょうか?」


 空いていた椅子に腰を下ろすと、早速詳細な話を始めることにした。

 途中で、席を外して暖炉でパイプに火を点けるのを面白そうに見ているんだが、やはり俺ぐらいなのかな?

 それにしても、全員が人間族だ。

 所属指定をしていなかったためだろうけど、魔法力という点では人間族の方が優れているということなんだろう。


「すると、指定場所の土をブロックに切り出して、圧縮して重ねていけば良いのか?」

「簡単そうだけど、それだと切り出したブロックを1日10個は移動できないわよ。落とし穴のように、穴を掘るだけなら簡単なんだけど、私達の魔法力では10個に届くかどうかというところかな」


「十分です。やはり人間族は違いますね。この国は獣人族だけなんですが、1日に数個ですからね。もっとも規格外な人物はいるんですが……」

「あんたってことかい? 魔法の研鑽を積めばさらに魔法力は上がると聞いたことがあるぞ」


「先ほど見た通り、俺は魔法が使えないんです。別の人物ですよ。そんな人物がいても、作業量が膨大ですから、やはり人手を集めることにしました。それで、俺からの条件を1つ追加させてください。御覧の通り獣人族だけの国です。人間族に迫害を受けて親兄弟子供を失った連中がたくさんいます。その辺りに留意して頂ければありがたいです」

「その話はオビール殿からきつく言われている。苦労したんだろうが、今ではここで平和に暮らしているのが何よりだ」


 それほど平和というわけでは無いんだけどねぇ。

 さてと……。とりあえず出発するまでは、空いているログハウスで暮らして貰おうかな。食事は食堂でともいかないだろうから、自炊して貰おう。

 4日間の食事代として、銀貨1枚を渡しておく。報酬は月末に払うことで納得して貰った。

 


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