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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
275/384

E-274 どの工房も人手不足らしい


 翌日。ギルドに出掛けるとレイラさんに、レンジャーへの依頼をお願いする。

 報酬は1か月で銀貨6枚。食事と宿泊場所は用意するけど、宿泊は場合によってはテントになること。募集人員は5人から10人としたいことを告げる。


「そうなると、春からにした方が良さそうね。食事込みでこの報酬ならかなり集まるんじゃない。それで、期間は1か月で良いのかしら?」

「出来れば半年でお願いしたいところです」

「筆頭のトレムさんと相談してみるけど、近くのレンジャーだけにはならないと思うわ。それを考えるだけでも春分以降が望ましいわね」

「よろしくお願いします」


 これで肩の荷が少し下りた感じだな。

 レンジャー達の技量が高ければ、その後も雇っていきたいところだ。

 レイラさんに頭を下げてギルドを後にする。

 工房にでも寄ってみるか。 

 冬の最中だけど、この国の工房は屋外作業がほとんどないからなぁ。

 暖かな工房内で制作に励んでいるに違い無い。


 最初に訪れたのはステンドグラスの工房だった。

 原図はナナちゃんが描いているんだけど、それを元に製作するガラス窓の大きさになるよう数枚の大きな絵に模写してガラスの枚数に裁断しての作業になる。

 横1ユーデ高さ2ユーデ程の大きな枠に銅の枠を模写した絵に沿って曲げているところだった。


「頑張ってるね。それはどこからの注文なんだい?」

「商会ギルド本部からなんです。市場の様子だとナナさんが言ってましたけど、こんなに人がいるんですか?」

「これより多いと思うよ。さすがに遠景は描くことになってるんだね」


 近場の人物はガラスを組み合わせて描いているけど、さすがに遠景まではステンドグラスで描けないからなぁ。この辺りは誰の采配なのか分からないけど、良い案だと思うな。

 そもそもステンドグラスで絵画を作れるわけがない。そこは妥協の産物になるんだろうが、どこまでをガラスで描いてどの辺りから絵筆を使うかは、製作者の絵心次第だからなぁ。

 工房の連中に話を聞くと、すでに3年先までの注文があるらしい。

 場合によっては、工房を大きくすることも考えねばならなくなってきたようだ。


 次に向かったのは陶器の試験工房だ。

 陶器工房は、技術的に確立している気がする。失敗作は2割に満たないし、色むらがあってとても売れる品ではないと思った陶器でも、エディンさんが嬉しそうに買ってくれるんだよなぁ。


「この風合いは2度と出せないでしょう。それが良いという客人がいるんですよ。それこそ金貨を積み上げて他者と競り合うんですからねぇ。王子殿下にその話をしたらしく、是非とも欲しいと頼まれて困ってしまいました」


 希少価値ってことか? そんな思いしていた時に、『わびさび』というわけの分からない言葉が浮かんできた。

 何のことかさっぱりだが、俺には意味のない言葉に違いない。


「お邪魔するよ。その後どうなんだい?」

「レオン殿ですか! どうぞこちらに」


 案内されるままに暖炉傍のテーブルに案内されたんだけど、お茶を御馳走になりながら自慢げに新たな作品を見せてくれた。


「透き通るような白、それを超えた青地まで出せるようになりました。薄手に仕上げましたが、中に光球を入れるとぼんやりと光が周囲に広がります。これはガラスに近いように思えるんですが……」

「使う材料でそうなるんだろうね。だけどガラスはガラス、これは磁器だ。全く異なるものだと認識したほうが良いよ。こっちの人形はかなり精巧だね」


「製作者が女性ですからね。私にはとてもじゃないですがそんな加工は出来ません。それにドレスや髪、口紅の色までこの通りなんですから」

「貴族達に大人気らしいよ。出来れば庶民にも手が出せるような廉価版も欲しいところだけど、この人形は焼き上げる前に手間がどれほど掛かってるんだい?」


 5日と聞いて、思わず溜息が漏れる。

 やはり精密な粘土細工であることは確かだからな。

 1体ずつ作りあげると、それぐらいの日数は必要なんだろう。廉価版を作るなら、1日で数体できなければ無理に思える。


「なるべく簡単な粘土細工を作って、それをガラハウさんに見せてほしい。青銅で型を作れば、後は型に粘土を押し込めれば同じ人形が大量に作れるはずだ。型から取り出したところで手直しと釉薬を塗れば後は焼き上げるだけになるぞ」

「数体作ってガラハウさんを訪ねます。やはりレオン殿は物知りですね。感心しました」


 半年後が楽しみだな。

 たくさん作れれば、行商人に卸すことも出来そうだ。

 特に問題は無さそうだ。人形を作ることで住民参加も進んでいるらしい。場合によっては専門の工房を作っても良いのかもしれない。

 お茶のお礼を言って、工房を後にする。

 

 最後はガラス工房だ。

 クリスタルガラスの製作と、ガラス加工を1つの工房で行っているんだが、直ぐ隣にもう1つ小さな工房が出来た。

 元は住民の暮らす長屋だったが、町の区分けで上手く空き家が出来ていたらしい。

 そのリビングで作られているのはシャンデリアだ。

 色々な形にカットされたガラスを銅の枠に吊り下げていく。

 ガラスの数が増すほどに重くなるから、大きなものは鉄の枠を使うらしい。

 

 最初に入るのは、ガラス工房にした。

 扉を開けて中に入ると、冬でもかなり温かだ。

 作業員が、袖をまくっているほどだから、夏はかなりきつい仕事場になりそうだな。


「おや? レオン殿じゃないですか。どうぞこちらに」


 入ってきた俺を目ざとく見つけたまだ少年の面影を残した責任者が部屋の片隅のテーブルに案内してくれた。


「どうなってるのかとやって来たんだが、皆忙しそうだね」

「シャンデリアとワイングラスの注文が殺到してますからね。でも加工はきちんと夕食前に終わらせていますよ。さすがに炉は止められませんから、交替勤務になっています」

「それなら良いんだが、無理はしないでくれよ。だけど、依頼が多いなら工房を広げることも考えないといけないだろうね」

「そうなんです。俺達が結構器用な種族だと思いませんでした。作業員を増やしたいところですが、やはり工房の大きさが問題ですね」


 どの工房も大忙しってことか。

 やはり根本的に考えないといけないんだろうな。

 いっその事、仕事の斡旋所を作ってみようか?

 人それぞれにやりたいことや特技もあるに違いない。そんな人達を、それぞれの特性が生かせる職場を紹介するというのは、案外面白い試みかもしれないぞ。


 その日の夜に、集まってきた連中に斡旋所の話をしてみた。

 なるほどと頷く者が多いなぁ。案外本人達が、今の職業を変えたいのかもしれないけど、全員が現在の仕事を辞めたらマーベル共和国が瓦解しかねない。

 ここは、若者限定と釘を刺すべきかな?


「確かに農家の次男三男では親の農業を継ぐことは出来ませんからねぇ。でも今のところは耕す土地がかなりありますから」

「開拓農家なら開拓を志すというのも理解できるが、避難民の全員が農家ではないのも確かだ。今さら農家という連中も多いらしいぞ」

「いろんなお店が出来ましたが、ある程度数は限られています。かつての職業を一度調査して似た職業が出来るようにすることも大切なのでは?」


 色々とあるんだなぁ。工房の作業員が足りないことから、斡旋所の提案をしてみたんだが、どうもそれだけでは足りないようだ。


「直ぐに結論を出さずにじっくりと考える必要がありますね。ここは国会で議論してみませんか?」

「提案箱の対応だけでは無いということか。確かに国会なら住民の代表も参加しているからのう。案外上手い手を考えてくれるかもしれんぞ」


 レイニーさんの提案に皆が賛成しているけど、簡単に結論が出そうもないと国会に丸投げしている感じだな。

 だけど、確かに良い手ではある。住民が参加しているからには、彼らの不満も吸収できるに違いない。


「唐突に何を言い出すのかと思いましたよ」


 俺の本音を聞きたかったのだろう。皆が帰った後にレイニーさんが残り暖炉傍でお茶を飲みながら問いかけてきた。


「今日、あちこちの工房を巡ってみたんです。作った以上ある程度の責任はありますからね。どこも忙しそうでした。話を聞くと来年はもちろんその先までの注文が舞い込んでいるようです。無理をしないように言っては来たんですが、やはり工房を大きくする必要があると感じました。それはもう少し先でも良さそうですが、早急に10人単位で人数を増やす必要を感じたので、それならと考えた次第です」

「そういう事でしたか……。何とかマーベル国を維持していけるのは、レオンの知見のおかげではありますが、それを維持して発展させるとなると中々苦労があるんですね」


 うんうんと頷きながら、レイニーさんが納得しているようだ。

 確かに工房立ち上げは色々とやっているけど、後は若手に任せてしまっているからなぁ。

 何時の間にか、予想を上回る人気が出てしまったが、我々にとっては都合が良いことになるんだろうな。

 おかげで食料不足は解消しているし、国庫の蓄えも増えるばかりだ。

 後は人口をどうやって増やすかだけど、移民と新しい家族の子供を待つことになるんだろうな。

 フレーン様達が頑張って子供達に読み書きと計算を教えてくれているから、この国の識字率がエクドラル王国を上回るのはそう遠くではないんじゃないか。

 考える事を学んだ子供達が大きくなった時が、本当のマーベル共和国になるのかもしれないな。


「前に新たなお店という話をしたと思います。エクドラさんとある程度まとめたところで国会に諮った結果は大賛成。服屋と靴屋、それに金物屋が出来ますよ。そこで問題になったのも、誰に仕事を任せるかという事でした。開店は来春以降ということでエディンさんと品物の調整をしてはいるのですが……」


 そんな話もあったな。エクドラさん達の任せることにしてたから、すっかりと忘れてしまっていた。

 でも、3つの店を開くとなればやはり10人以上の人数を確保しないといけないだろう。仕事の斡旋所と言う考えは悪くないかもしれない。

 国会の審議結果が楽しみだな。


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