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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-273 空堀作りにレンジャーが使えそうだ


 夕食後に指揮所に主だった連中が集まるのはいつものことだ。

 1杯のワインを傾けながらマーベル共和国の課題を話し合うのだが、今夜はいつもと違っておめでたい話になっている。


「すると、来春に6組が所帯を持つってことか! ログハウスは10軒用意しているが、直ぐに作らねばならんな」

「ここに1つで、西の村に5軒です。西の村のログハウスは3軒しか空いてなかったんじゃありませんか?」

「開拓民ってことか! それなら冬の間に作らんとなるまい。エルドは長城造りじゃから……」

「私の方で作りますよ。丸太の運搬はよろしくお願いします」


 兵士は1組だけだったらしい。まあ、それはそれとしてどうにかなりそうだな。ガイネルさんが名乗りを上げてくれたから、明日から伐採が始まりそうだ。

 どうにか皆が安堵したところで、俺から課題を告げることにした。

 課題をメモ書きしておいたから、早急に考えなければならないものを皆に告げると、ちょっと驚いているんだよね。


「果樹が育っているかじゃと?」

「はい。色々と果物を植えてはみましたが、土地柄もあるでしょうから育ちの良いものに統一することも必要かと……」


 途端に皆が頭を捻りだすんだから困ったものだ。俺もそうだけど、皆気にしていなかったということだろう。

 たまに子供達が食べているようだけど、俺達は相変わらず干し杏だからなぁ。


「ブドウはワインにもしておりますから、かなり育っていますよ。とはいえ寒い土地柄ですから収穫量は多いとは言えませんね」

「柑橘類は全滅だったそうだ。杏は10本ほど植えたようだが採れる量は大きな籠に2つ分程らしい」

「リンゴはかなり実ってましたよ。子供達に配っているぐらいです」


 なるほど……。やはりある程度見切りをつけて、植樹をやり直した方が良さそうだな。


「どうにか収穫できるのはブドウに杏、それとリンゴということになるんでしょうね。となると杏とリンゴの苗を沢山購入して果樹園にしても良さそうです」

「新鮮な果物が食堂で食べられるのは、もう少し先になりそうだな。だけどその他の果樹も少ない実を付けるなら子供達の楽しみに引き抜くことはないんじゃないか?」


 少ない実を付けるというなら、もっと植えようなんて考えは無いようだ。

 その辺りの見極めはマクランさんにして貰おう。エクドラさんと話し合えば俺達の食事の色取りも増えるかもしれないからね。


 ついでに、気になっていた貯水池の魚について聞いてみたら、それなりに育っているらしい。


「初秋に竿を出してみたんですが1日で数匹というところですね。大きさは10イルムに足りませんでしたが、小魚も多かったですよ。放流した魚の稚魚のようです」

「砂鉄採取の帰りに、もっと運んで来るようエルドに頼めば良いじゃろう。貯水池は大きいからなぁ。どんどん魚を追加しても大丈夫じゃ」


 マクランさんとガラハウさんが笑みを浮かべて話し込んでいる。

 それぐらい釣れれば、かなり魚がいるってことじゃないかな。養魚場で飼育するより稚魚の歩留まりは悪いかもしれないけど、弱肉強食の世界で育つんだから身が締まった魚になることは確実だろう。

 引退したら釣り三昧とマクランさんは考えているようだけど、まだまだ元気なお爺さんなんだよなぁ。

 さすがに西の尾根には上ってこないけど、滝の東で事があれば民兵を率いてやって来るんじゃないかな。


「レオンが次に工事に向かう頃には雪が深くなりそうですね」

「進捗は遅れるでしょうけど、空堀作りは進められそうです。空堀と土塁があればそれなりに戦えますからね。魔族がやって来たなら土塁の上に簡易柵だって置けるでしょう」


 簡易柵ではあるが丸太を三本使った三角柱のようなものだ。1個分隊ならネコ族でも移動できるし、高さも1ユーデはあるからね。補強材を途中にいくつも丸太と丸太の間に取り付けているから、石火矢を発射するときにも抑えとして使える代物だ。

 1つ5ユーデ程の長さしか無いんだけど、20個程作ってあるそうだから結構役立つと思うんだけどね。


「あの簡易柵は使い道が色々ありますよ。ヤギを使った除草も区画をあれで区切っているんです。さすがに子供達には移動は難しいですから民兵達がその都度移動していいますよ」

「全くヤギを使って除草するって聞いた時には笑ってしまったが、案外上手く行くものだな。おかげで城壁の内側は綺麗なものだ」


 ヤギは結構増えたかと思っていたんだが、50頭を越えることが無いように飼育しているらしい。ヤギのチーズは結構美味しいんだけどね。子供達が世話しているから無理が無いようにとの考えなんだろう。羊は開拓村の民兵が世話をしているらしい。休耕畑を簡易柵で区切って放牧しているようだけど、羊毛は開拓村で毛糸にするまで加工を行っているからなぁ。子供達が介在することはないようだ。

                ・

                ・

                ・

 朝食を終えたところで、ギルドに顔を出す。

 ナナちゃんはレイニーさんと指揮所に向かったから、俺1人になってしまった。

 ギルドに入ると、数人がテーブルでお茶を飲んでいた。

 これから狩にでも出掛けるのかな?

 雪が降ると獲物が少し変わるようだ。山麓から大型の獣が下りてくるからだろう。


「あら? 珍しいですね。ギルド開店から初めてでは」

「レンジャーに憧れていたんだけど、まだ兵士をしてるからね。ところでちょっと相談があるんですが」


 カウンターから声を掛けてくれたのはレイラさんだ。冬だからお仕着せの冬服の上にセーターを着ている。

 少し太めの毛糸で編んであるようだから、結構暖かいんじゃないかな。


「暇でしたから、暖炉の傍で聞きましょう。先に暖炉傍のベンチに行っててください」

「済みませんが、俺では判断できないもので……」


 言われるままに暖炉傍のベンチに腰を下ろす。

 暖炉から少し距離を置き、小さなテーブルを挟んで2つのベンチが並んでいる。

 外から入ってきた時に体を温めるのだろう。さすがに此処で長居をすると、皆から白い目で見られそうだ。


 ベンチに腰を下ろす前に暖炉の焚き木でパイプに火を点ける。

 上手く行けば良いんだが……。こればっかりは俺にも分からないからなぁ。


「どうぞ! 外は寒いですからね。暖かい飲み物が一番です」

「ありがとうございます。それで、相談の件なんですが……」


 レンジャーは狩りをする。これは間違っていないはずだ。その狩を上手く行うためにレンジャーは各々得意な武器を装備している。


「それぐらいは理解しているんですが、不意の負傷や野犬のように群れを作る獣を相手にする時の為に、いくつかの魔法も持っているはずです。土魔法を使えるレンジャーはいるのでしょうか? もしいたなら、一定期間土魔法を俺達の為に使って頂くわけにはいかないでしょうか? その場合の報酬についても教えて頂ければ幸いなんですけど……」


 俺の言葉に、レイラさんが首を傾げて少し考えている。

 何とか納得したらしく、お茶を一口飲んだところで答えてくれた。


「3つの疑問だけど、まず最初に土魔法を使えるレンジャーはそれなりにいるわよ。期間限定で土魔法を使うというなら、荷馬車の護衛任務に近そうね。出来ないことはないけど、あまり短いのも考えてしまうわ。少なくとも10日以上にならないと。最後の報酬なんだけど、10日で銀貨2枚というところかしら」


 レイラさんの話をメモに残しておく。

 なるほどねぇ……、確かに護衛任務は長期になるだろうな。食事と寝る場所を提供することは問題にならないが、1日辺り20レクとなると、それほど高いとも思えない。


「今夜、皆で話し合ってみます。皆の了解が得られたなら、再度レイラさんに相談ということでよろしいでしょうか?」

「それで良いわよ。ギルドでその要件を依頼書にして掲示板に張り出すわ。でも、レンジャーは何人かでパーティを組んでいるから、3日掲示して応募者がいない時にはレンジャーギルドの本部に連絡することになるの。その時は旧サドリナス領内の町や村にあるギルドに、その依頼書が張り出されることになるわ。場合によっては旧王都からやって来るかもしれないわよ」


 エクドラル王国のギルドだからなぁ。さすがにエクドラル王国の王都からはやってこないだろうが、旧サドリナス領内の政庁都市からやってくるかもしれないということか。

 1か月程度の契約で数人を雇えるなら良いんだけどなぁ。


「それでは、明日もう1度やってきます。上手く依頼が出来れば良いんですが」

「待ってるわ。大型獣を狩ることが出来ないレンジャーには、嬉しい仕事になるのかもしれないわね」


 席を立ってレイラさんに頭を下げると、笑みを浮かべて小さく頷いてくれた。

 さて後は、いつもの連中を説得しないといけない。


「何だと! ギルドに依頼を出すだと?」

「1人1か月を期限として銀貨6枚。土魔法が使えることが条件です。ナナちゃんと兵士の中で土魔法を使える兵士が空堀予定地から土のブロックを取り出して石済み面に積み上げています。ナナちゃんは別として、兵士達が切り出せるブロックは1日に数個ですから、どうしても進捗が良くない。10人程土魔法の使えるレンジャーを集めて作業して貰えばかなり進むのではないかと……」


「10人ならば銀貨60枚という事じゃな? 金貨3枚ちょいで、半年は作業を手伝って貰えそうじゃ」


 出来れば自分達で作りたかったけど、使えるものは使いたいところだ。それだけマーベル共和国の安全性が向上するんだから。


「砂金は最近それほど採れなくなりましたが、それに代わる品がマーベル共和国で作られています。陶器や磁器、それにガラス工芸……、どれもが末端では金貨で売買されているそうですよ」

「落とせば割れる品なんだけどなぁ。俺達の売値はそれほど高いものじゃないんだけど、それでも金貨が毎年国庫に入ってきます。金貨数枚を使わせて頂けませんか?」


 エクドラさんの言葉に繋げて、十分な資金があることを皆に教えると、う~んと悩んでいた連中の視線が俺に向けられる。


「全てレオンが形にしてくれたものじゃ。それを使うのにワシ等の許可はいらぬと思うがのう。まあ、それがレオンなのじゃろう。ワシは、賛成するぞ。レンジャー並みの報酬は出せんでも、農閑期であるなら開拓民にも手伝って貰えるじゃろう。その辺りの調整はマクラン任せになってしまうがのう」

 

 ガラハウさんの答えが、皆の思いに違いない。

 ウンウンと頷いているからね。

 席を立って皆に頭を下げる。これで長城造りにレンジャーを投入できそうだ。


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