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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
272/384

E-271 長城造りに出掛けよう


 翌日早くに、ヴァイスさんは見張り台へと向かったらしい。

 同盟軍に参加している小隊を率いているんだから、あまり留守にするわけにはいかないのだろう。

 同盟軍への参加部隊は3か月交代で3つの弓兵小隊が対応している。

 好戦的な性格というわけでは無いんだろうが、やはり広い世界を動きたいという欲求が高いみたいだな。


 俺はしばらくのんびりすることにした。

 10日もすれば長城建設の交代要員が出発するらしいから、ナナちゃんを連れて見張り台に向かうつもりだ。

 指揮所にやって来たエニルに予定を伝えると、1個小隊連れて行くように言われてしまった。

 レイデン川を監視するだけなら2個小隊で十分らしい。


「ところで新型大砲は何門揃ったんだい?」

「3門です。ガラハウ殿は5門作ると言っておりました。ボニール2頭で移動が可能ですが、砲台に設置するには1個分隊が必要です」


 結構重いからなぁ。積み荷を満載した荷車ぐらいにはなってしまったようだ。それでも荒地の移動はボニール2頭で済むんなら十分だろう。

 ボニールが苦労するようなら皆で押してあげれば済むことだ。


「砲弾が1門当たり50発。試射で10発を消耗しましたから予備は30発です」

「季節毎に10発は試射して欲しい。本番で操作にまごつく様では困るからね」


「エニル達は石火矢を使わないんですか?」

「一応20発は持っているけど、同盟軍に参加する部隊の持つ石火矢と同じものですよ。新型や有翼石火矢は東の楼門に保管してあります。エルドさん達なら問題なく使えますから」


 レイニーさんの疑問を直ぐに晴らすことにした。

 大砲の方が正確に狙えるし、何といっても破壊力が格段に上だ。

 とはいえ、なるべく使っているところを見せたくは無いからなぁ。小型の石火矢でも20発を同時に放てば、それなりの威力はある。


「ライフルは何とか配布できたのかい?」

「3個小隊に配布しました。大砲部隊の1個小隊は後装式2連装銃です」


 拳銃よりは良いだろう。

 近寄ってきた敵を狙撃出来るなら十分だ。


「それでは、長城建設の交代要員出発に合わせて、中央楼門に1個小隊を待機させます」

「ありがとう。レイデル川の方はよろしく頼むよ」


 俺達に頭を下げると、エニルが指揮所を出て行った。

 残ったのは俺とレイニーさんだけなんだが、散歩に行くと言って指揮所を出て行ってしまった。

 1日1回、南の城壁を西から東まで視察するのを日課にしているみたいだ。

 士気を維持するためなんだろうけど、毎日ではなくても良いと思うんだけどね。

 

 さて、誰もいなくなってしまったからメモ帖を取り出して、先送りしていた仕事を探してみるか。

 パイプを楽しみながらメモを捲っていると、砂金の採取量を記録したページを見付けた。

 最初は年間で小袋に6個から7個も採れたんだが、近ごろは1袋にも満たないようだな。袋単位でなく、採取した砂金の重さを金貨の枚数で書いているぐらいだ。

 去年は4枚だったらしいから、今年はそれを下回ることは確実だろう。

 場所を変えるのが一番だが、そうなると……。


 レイデル川の地図を取り出して眺めてみると、現在の砂金採取地点から滝までの間に屈曲部が4か所あるようだ。

 1つ上の河原に移動するよう今夜の集まりで話してみるか。

 砂金採取は同時に行っている砂鉄採取にも関わるからなぁ。砂鉄で作った鋼で長剣を作れば1振りで金貨5枚にはなるんだよね。

 今後とも砂金を採掘していくかどうかも判断する必要があるかもしれないな。


 次に目に付いたのは、果樹園の構想だった。

 ブドウはワイン作りと蒸留酒作りに活用しているけど、その他の果樹はどうなっているんだろう? 色々と植えてはみたけどこの地に適した果樹があるならその量産を計っても良さそうだな。

 出来れば日持ちする果樹が良いんだが、マーベル共和国の住人も1万人近くになっているから、俺達の国の中で消費しても良いだろう。

 新鮮な野菜と果物をたっぷりと食べられれば子供達も元気に育つに違いない。


 先ずは、この2つで良いだろう。

 いつも兵器ばかり考えていては、碌な国にならないんじゃないかな。

 寡兵だが兵器の性能で戦力を上げるのはこの辺りで打ち止めにするか……。魔族が統一する動きが出たところで、さらなる改良を図ってみよう。


「ただいまにゃ!」


 元気な声を上げながらナナちゃんが帰ってきた。

 どこに行っていたのかな?


 自分のカップにお茶を注ぐと、俺のカップにもお茶を注いでくれた。

 俺の隣に座ると、フーフーとお茶を冷ましている。


「養魚場に行ってたの?」

「そうにゃ。稚魚が小さいから一番苦労する時にゃ。だいぶ増えたけど、あれ以上池は作れないにゃ」


 頭打ちになったということかな?

 そうなるともう1つの養魚場はどうなっているのか気になるところだ。

 あっちは貯水池だからなぁ。開拓が進めばさらに貯水池を増やすことになるから、上手く魚が育っているなら魚の数を増やすのは容易だろう。

 マクランさんに聞いてみるか。

 誰か釣りをしたことがあるかもしれないからね。

 そういえば、北の村にも貯水池があったはずだ。小さな池でも魚は増やせるかもしれない。

 

「貯水池の魚はどうなったのかな? 今度マクランさんに聞いてみるよ。貯水池はこれからも作るだろうから、去年放した魚がどうなったのか釣りでもして確認してみ見ようかな」


 うんうんとナナちゃんが頷いているけど、貯水池の魚は養魚場の魚とは種類が異なるんだよね。養魚場の魚は上流に住む魚だし、貯水池の魚は中流域の魚だ。

 少し味は落ちるんじゃないかな。でも、自分達で釣り上げた魚を食べられるなら喜ばれそうだな。


 メモ帖に、貯水池の魚はどうなっているのか? と記載しておく。

 夜の集まりで確認する項目が1つ増えた感じだ。


「ところでビーデル団に困ったことはないのかい?」

「今のところは無いにゃ。団長と副団長が来年変わるけど、次の団長が団長の手伝いをしているにゃ。年長組の男の子達がエクドラさんの依頼で倉庫の整理をしていたにゃ」


 団長達は年長組だから、ビーデル団を卒業するってことか。

 次の連中が困らないように次期団長に引継ぎを兼ねながら一緒に仕事をしている感じだな。俺達よりも先を考えているかもしれないぞ。

 子供達に呆れられないように俺達も頑張らないといけないな。


「ナナちゃんは年長組なんだろう?」

「そうにゃ。ミクルちゃんは年中組にゃ」


 何時までも子供の姿だからなぁ。とは言っても、少しは成長しているみたいだ。

 砦に向かう途中で買いこんだ衣服はきつくなったらしく、今では1つサイズの大きな衣服になっているからなぁ。

 弓も子供用ではなく、短弓を使っている。さすがに弓の力は弱いけど、30ユーデほどの有効射程はある。

 クロスボウも持ってはいるんだが、弓ならボルトを2本放つ間に5本は矢を放てるからなぁ。


 俺と同じように背中に片手剣を背負っているんだけど、元はデオーラさんの短剣だ。

 トラ族の持つ短剣は、まだ小さいナナちゃんには片手剣ほどの大きさがある。

 さすがにそれを引き抜いて戦うような事態は今のところ無いんだが、ヴァイスさんがたまに片手剣の訓練をしてくれるらしい。

 ネコ族の片手剣の使い方は、相手の隙を見て素早く飛びこんで一撃を与えると直ぐに後方に下がるという戦法が基本らしい。

 先の先で一撃離脱ってことかな?

 すばしこいネコ族ならではの戦法だ。一度ヴァイスさんに教えて貰ったけど、真似すらできなかった。

 長剣2級だからかなぁ? とりあえずは今の戦い方で切り抜けて行こう。


 夕暮れ前に帰ってきたナナちゃんと共に食堂へと向かう。

 少し遅れて出掛けると、テーブルの空きが結構あるんだよね。皆は真っ先にやってくるんだろうか?

 ナナちゃんと一緒に夕食を食べていると、エニル達がテーブル越しの席に座った。

 俺達と同じように、少し遅れて食堂を訪れたようだ。

 隣の女性はオリエさんかな? イヌ族でもエルドさんよりダレルさんのようなオオカミの雰囲気がある。


「ご一緒させてください」

「あぁ、構わないよ。何か話でも?」


 どうやら、長城造りに向かうのはオリエさんになったようだ。

 小隊規模の砲兵部隊を率いているんだが、まだ定数には満たないんだよなぁ。3個分隊に少し足りないところだからね。


「小型石火矢と銃を持って参加します。砲車の操作で力仕事は慣れていますから土砂運びなら問題はありません」

「済まないけど、よろしく頼むよ。エルドさん達が冬に備えて小屋作りをしてくれたらしいけど、冬は寒そうだからねぇ。先は長いから無理をしないように」


 簡単な小屋を数棟建てたようだけど、3個小隊が入れるんだろうか?

 工事事務所にも2部屋作ったらしいから、俺とナナちゃんは事務所で寝泊まりすることになりそうだ。


「雪でも工事は続けると?」

「さすがに降っている時は中断するよ。雪が積もっていても空堀と土塁作りは何とかなるのが南の城壁造りで分かっているからね。なるべく早く空堀と土塁ぐらいは作っておきたい。いざという時には土塁の上に柵を作れば魔族を阻止するぐらいは何とかなるんじゃないかな」


 石積みはさすがに冬は止めておいた方が良さそうだ。

 土塁が形になっているなら外側に石を積むぐらいはそれほど難しくは無いんだが、積む石がコンクリートで固めたブロックだからなぁ。冬では固まる前に凍ってしまいそうだ。


 出発前までにスコップと一輪車を手に入れるように指示したところで、ナナちゃんと食堂を後にした。

 さて、そうなると……。他の中隊から1個小隊、それにマクランさんの部隊から1個小隊とエニルのところの1個小隊か……。定数に満たないのは他の中隊も同じだろうから、実質作業するのは2個小隊というところだろう。

 来春までに、どの程度の進捗になるんだろうな。


 姉上の結婚式から戻って10日程過ぎたところで、長城建設の交代要員が中央楼門前の広場に集合する。

 やはり人数は100人に満たない数だ。

 荷車に、ソリや一輪車等の工事用具が乗っているし、1台に荷車には杭が10束ほど載せられている。食料に焚き木、大きな真鍮の水の容器……。色々とあるんだな。

 砲兵部隊が用意した荷車にも色々と積み込まれているが、布が被せてあるのでよく分からない。各人の荷物や宿泊用の毛布辺りが積まれているのかもしれないな。


 出発を告げたのは、ダレルさんの中隊から派遣されたイヌ族の小隊長だ。名前を忘れてしまったから、後で聞いておこう。何度か顔を合わせたことはあるんだけど、名前を覚えるのは苦手だからなぁ……。


 オリエさんの部隊は殿だった。

 3台の荷車を曳いていくから、俺も手伝うことにした。

 オリエさんが、前を歩いてくださいと言ってくれたんだけど、女性に荷車を曳かせて俺だけ歩くというのもねぇ……。

 ナナちゃんは荷車の後ろにちょこんと座っている。

 先が長いから、歩くよりはその方が良いだろう。


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