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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-270 長城造りは先が長そうだな


 見張り台は直径40ユーデ、高さ5ユーデほどの城壁で周囲を囲んでいる。

 2階作りではあるんだが、住居は2階部分で1階は倉庫だ。

 天井は太い柱で天井の梁を支えている。屋根には弓兵や軽装歩兵が乗るからね。かなり丈夫に作ってある。屋上には東に作られた直径10ユーデほどの見張り台に設けられた扉から出入り出来るのだが、扉は東側に作られているから屋上に昇られても直ぐに扉を破られることはないだろう。床も板張りの上に厚く樹脂を塗り、その上に土と砂を載せている。火矢で見張り台を焼き落すことは出来ないだろうな。


 見張り台の指揮所で夕食をご馳走して貰い、今夜の宿をお願いすることにした。

 いざとなれば2個小隊は駐屯出来る砦だからなぁ。

 空き室を使わせて貰えるらしい。

 食事が終わったところで、ワインを頂きながら状況を確認する。


「南北と西には擁壁だけでなく、2ユーデほどの柵を巡らせています。石火矢の発射にも役立ちそうです」

「その上にカタパルトが2台ありますからね。見張り台を落とすのはかなり難しいと思いますよ」

「とはいえ絶対ではありませんから、十分注意願いますよ」


 見張り台に駐屯していた小隊長に注意をしたんだけど、苦笑いを浮かべながら頷いてくれたから重々承知しているということになるのだろう。

 ワットンと名乗ってくれた小隊長はダレルさんの配下だと言っていた。エルドさんはオオカミ顔なんだけど、ワットンさんはエルドさんに似た風貌だ。


「長城工事は順調です。尾根近くでは既に石垣が作られています。尾根から20ケム程ですから3年以内には完成出来るかと」

「空堀と土塁だけでもできれば少しは安心できるんだけどねぇ……。当座は同盟軍の行動範囲に含めることで何とかしたいところだ。異常があれば連絡してくれ、直ぐに1個中隊は派遣できるはずだ」


「了解です。でもこの見張り台を抜こうとするでしょうか? 俺なら防御が手薄な南に真っ直ぐ向かうんですがねぇ」

「俺もそう思うよ。とはいえ、万万が一という言葉もあるくらいだからね。備えることは必要だと思うな」


 グラムさん達から見れば過大防衛にも思えるに違いない。だが、ここを抜かれると、北はともかくエクドラル王国の東端の領地が蹂躙されることは間違いないだろう。

 1階の倉庫には、同盟軍に派遣した部隊が運用する石火矢や爆弾も保管してあるらしい。3会戦分と言っていたからとりあえずは十分じゃないかな。

 

 翌日は、工事状況を視察しながら俺達の町に戻ることにした。

 2個小隊ほどで作業をしているから、取り入れを早々に終えた民兵が動員されているのだろう。

 俺もエニル達の部隊を率いて手伝いに来た方が良さそうだ。

 ここならレイデン川で異変があったとしても、光通信機で状況を直ぐに知ることが出来るだろう。遅れを取ることはないはずだ。


「やはり王国軍の工事よりも進捗が速く思える。それだけ慣れた工事ということなのだろうな」

「基本は南の城壁と同じですからね。でも進捗が速く見えるのは姉上のおかげなんですよ。何といっても土魔法で空堀と土塁を同時に進行出来ましたからね。姉上がマイヤーさんに嫁ぎましたから、今度は東の砦から見張り台に向けての工事が捗るはずです」

「それなら、魔導士を集めることも視野に入れねばなるまい。さすがに魔導師には及ばずとも10人もいればそれなりに使えるかもしれん」


 その辺りはどうだろう?

 姉上には及ばずとも空堀を掘削するぐらいは出来そうだけどね。俺達の工事は、姉上に代わってナナちゃんが力になってくれるはずだ。

 姉上が「生まれながらの魔導師!」と言ってたぐらいだからなぁ。ケットシー族は魔法に長けた一族だったに違いない。そんな一族を嫌って魔族は集落を襲ったんだろうな。


 西の尾根の末端は既に長城の一部になってしまっていた。

 どうにか古い監視所の跡があるから、あの辺りが尾根の待ったんだろうと推測が出来るぐらいになっている。

 

「尾根の末端にも小さな砦を作ったようだな」

「尾根が低くなりますから、その補完もあるんでしょう。谷も浅いでしょうからね。とはいえ向こう側の尾根との距離は広くなっていますから、魔族が集まればすぐに石火矢で攻撃が出来るでしょう」


 石火矢の散布界はかなり広い。命中率が悪いから数で補うために一度の攻撃は広範囲に被害を与える。

 石火矢を量産しないといけないんだが、石火矢の種類も増えてしまったからなぁ。どれをどれだけ作るかについては、皆でよくよく相談しないといけないだろう。


 どうにか夕暮れ前に帰ることが出来た。

 指揮所のいつもの席に座ると、ナナちゃんが直ぐにお茶を出してくれる。

 パイプ片手に、レイニーさんに状況報告を簡単に済ませた。

 夕食後に皆が集まるだろうから、その時に詳しく話すことになるだろう。


「とりあえずは平穏。ブリガンディ王国崩壊後の対応も関係する王国間で調整が出来たということですね」

「やはり街道を重視しているようです。オリガン家が参加している貴族連合の領地が北に拡大しますが、俺達と同じく寡兵ですからねぇ。エクドラル王国が俺達の教授した大砲とフイフイ砲、それに放炎筒の技術を提供するそうです」


 俺の言葉にちょっと驚いていた。

 自国だけの兵器とせずに他国に技術提供することは、それだけ自国の戦力との差が少なくなるということだからだろう。


「俺としてはありがたい話だと思っています。俺達の提供した大砲と放炎筒をエクドラル王国は直に改良を始めたようですが、戦で使うには難があります。石火矢の技術、それに新型の大砲の技術を提供しない限り、マーベル共和国を攻めることは出来ないかと……」

「数ケム先を攻撃できる兵器と聞きました。羽付き石火矢は実射試験を見ましたけど、大砲の方もそれほど飛ぶんですか?」

「有翼石火矢を越えますよ。その上狙いも正確ですし、炸薬量は石火矢の2倍程あります。数台作りますが、マーベル国内での使用にしばらくは限定します」


 見ただけでは理解できないだろうな。かなり凝った造りになっているんだからなぁ。

 砲弾は原理はライフル銃と同じだけど、砲弾内の信管については分からないはずだ。それに、なぜ正確に飛ぶのか、その為にどんな工夫がされているか理解することなど出来るとは思えない。


「周辺の王国でも銃兵を主体的に使おうとはしていないはずです。良いところ弓兵部隊に2個分隊ほどの規模で使われているようですけど、未だに前装式ですからねぇ。それなりの使い方はあるんですが、まだそこまで戦術が出来ていないようです」

「マーベル国が積極的に銃を使っているのは知っているはずですが?」

「エクドラル王国と戦をした当時は俺達も前装式でしたから、カートリッジを多用することで戦に臨んでいるとおもっているのかもしれません。未だにカートリッジを購入していますからね」


 前装式の銃は、民兵達に配布している。クロスボウに似た弾道で、クロスボウから放たれるボルトよりも強力だ。

 カートリッジを使用することで銃身内の掃除頻度も低くなるから、クロスボウ兵1個小隊の内1個分隊が装備しているようだ。

 オーガでさえ3発程当たれば倒せるようだから、彼らも安心できるみたいだな。


「滝の東の砦はどのように?」

「工事を始めるのは見張り台までの城壁が出来てからですね。南の城壁の東の楼門に設けた見張りを高くしましたから、滝の東の広場の先まで見通せます。しばらくは魔族接近を確認したところで有翼石火矢を数発放つだけで十分でしょう」


 作ったとしても、見掛け倒しの砦になるだろうな。

 俺達にはそれほど戦力が無いからね。石火矢を放てるような発射台を設けた城壁だけになるんじゃないかな。


 しばらく贅沢してきたけど、やはり俺にはエクドラさん監修の野菜スープが一番だ。黒パンにバターを塗って頂いたけど、レイニーさんの話では全て共和苦内で作られた者らしい。どうにか自給自足が出来るまでになったのかな?

 とはいえ、調味料はさすがに購入することになるんだが……。


 食事が終わると指揮所に戻る。

 ナナちゃんはミクルちゃんを連れてヴァイスさんの小隊に遊びに出掛けたみたいだな。皆で御菓子を食べながらスゴロク遊びを楽しむんだろう。

 ミクルちゃんの保護者2人が指揮所に居るからなぁ。ナナちゃんもお姉さんとして頑張っているんだろう。


「やはり結婚式ともなると、祝いのワインも上物じゃな」

「2本頂きました。今夜全て飲んでしまいましょう」


 俺の言葉に、ガラハウさんが笑みを浮かべる。

 少なくともカップで2杯は飲めるだろう。余ったワインはガラハウさん達が飲んでくれるに違いない。


「レオンがいない間は、平穏だったぞ。魔族の動きもないし、レイデル川も静かなものだ」

「とはいえ、ブリガンディの終焉は目前です。エクドラル王国、ブリガンディの東の王国それに貴族連合間での調整を終えているようですから混乱はブリガンディ王国だけになると思います。それで……」


 地図を広げて、各王国の新たな版図を大まかに描いた。

 事前に説明してあるからいまさらではあるのだが、レイデル川上流に俺達の版図を描く。


「版図というにはおこがましいぐらいなんですが、将来的には滝の東の広場の先に砦を作りたいと思います。作ると言っても見張り台までの城壁が出来た後になりますが、城壁と石火矢の発射台、それに見張り台だけの砦です。魔族が接近したなら、東門に駆けこめば誰も怪我をせずに済みます」

「見張り台が目的だな。魔族の南下を貴族連合に知らせるつもりか……。石火矢も積極的に放つことはないと言う事なら、使うのは有翼石火矢ということか」

「東門と南の城壁の東の楼門に新型石火矢を設置すれば新たに作る砦は射程に収まります。魔族が攻め込んでも維持することは出来ないでしょう」


 そこに俺達の砦があるということを知らしめるだけで十分だ。

 背後を突かれかねないから、魔族としても南下することに躊躇するに違いない。

 それに貴族連合の版図までには2日程度の距離がある。

「魔族の南下を確認」と知らせてあげれば、防衛を強化できるだろう。


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