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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-262 姉上の婚礼までもう少し


 秋分が近付くと、姉上の輿入れの準備が始まる。

 マイヤーさんは身一つで十分と言っていたけど、さすがにオリガン家の矜持もあるからなぁ。

 サドリナス領を統括する庁舎は旧王都に設けるとのことだから、空き家になった貴族屋敷を新たに叙任された貴族に下げ渡されたらしい。マイヤーさんの屋敷にはオリガン家からの婚礼用品が既に届いているらしいけど、いったいどんな品ものなんだろう。俺の贈り物と重複するとは思えないが、あまり差が出るというのも考えてしまうんだよね。


「それほど気に病む必要はありませんよ。レオン殿の姉上には散々世話になりましたし、今も見張り台までの空堀作りと土塁工事を手伝って頂いているんですからね。レオン殿からの贈り物と言わずに、マーベル共和国からの贈り物であるなら問題は無いと思うんですが?」

「ずっと、ここで御世話になった上に共和国からの贈り物ですか? 良いんでしょうか。余り手伝いも出来なかったように思えるんですが……」


 俺の言葉に首を横に振っている。そんなことはないと言うことなんだろう。

 ここはありがたく、頭を下げておこう。

 確かに、弟からの贈り物というよりマーベル共和国からの贈り物ということになれば、本家の祝い品を上回るようなことになっても世間的には納得できるのかもしれない。

 クリスタルのワイングラスセットと陶器のお茶のセットなんだが、エクドラル王国内の取引値を考えるとかなりの値段になってしまうんだよなぁ。

 レイニーさんの言葉に感謝するしかないな。

 母上達も婚礼と共にマーベル共和国を去ることになる。母上にはオリガン家の家紋が付いたお茶のセットを送ることにしたが、これは陶器試験工房の連中が俺にために作ってくれたものだ。

「オリガン家の家紋って、どんな形なんですか?」と問いかけられて、家を出る時に頂いた短剣に刻まれた家紋を見せたんだけど、まさかそれを陶器に描いてくれるとは思わなかった。

 エディンさんを通して貴族からの特注を受け付けているからなぁ。彼らの家紋描写力は何時の間にか高まっていたらしい。


「もう直ぐですね……。レオンは何時頃出発するのですか?」

「10日前に、母上達と共に向かいます。馬車をグラムさんが貸してくれるそうですから助かります」

「家族であるとともに、マーベル共和国の代表でもあるんですから、よろしくお願いします」


「もちろんです!」とは答えたけど、式が済んだら早めに戻ることにしよう。

尾根から伸ばしている空堀と土塁、それに石済みの状況も確認しておかないとなぁ。

               ・

               ・

               ・

 秋分の日の10日前。俺達はグラムさんが用意してくれた馬車に乗り込んだ。

 騎馬隊が1個分隊護衛についてくれたけど、マーベル共和国から南に向かって街道に出るルートであるなら、魔族も盗賊もいないと思うんだけどねぇ。

 ある意味、貴族としての矜持を守るためにも思えるが、オリガン家にはそんな矜持は無いんだよなぁ。どちらかと言うとエクドラル王国貴族であるマイヤーさんに対する不評を避ける目的かもしれない。

 まったく貴族というのは面倒なものだと感心してしまう。

 

 馬車の中は、母上と姉上それにナナちゃんが俺達の対面の席に座り、俺とティーナさんユリアンさんが同じ席に座る。

 大きめの馬車だから、6人がゆったりと座れる。

 帰りの足としてティーナさん達と俺の馬やボニールは、馬車の後ろに手綱を結んで一緒に移動している。

 魔法のバッグに王子様に謁見した時の軍服が入っているから、婚礼当日の俺の装いはそれで十分だろう。ナナちゃんも従者姿で問題はないんじゃないかな。

 姉上の婚礼衣装と母上のドレスは、既にグラムさんの館に用意しているらしい。ティーナさんは軍服なのかな? それともドレスなんだろうか?


 何事もなく、4日目には街道に出る。

 やはり歩くより2倍近い速さで移動できる。荒野をボニールで進むならばかなり時間を節約できるんだけど、このまま行くと婚礼の3日前には到着できそうだ。


 マーベル共和国を出発して7日目の夕暮れ、俺達は旧王都のオルバス館に到着した。

 館の玄関前で、デオーラさんと10人ほどの家人が出迎えてくれる

 馬車と帰りの馬やボニールを家人に任せて、俺達はデオーラさんの案内で館に入る。

 大きなリビングに案内されて、先ずはお茶という事らしい。


 母上が今回世話になる礼を言うと、笑みを浮かべたデオーラさんが「娘が世話になっている礼をしたまで」と言っている。

 それほどティーナさんを世話しているとは思わないんだけどなぁ。どちらかと言うと俺達が色々と助けられている感じがするんだよね。


「陶器のカップを使ってお茶を出す貴族が増えましたが、ポット等を含めたセットを持つ貴族はオルバス家ともう1つ。でもさすがに茶器に家紋が入るとなるとサドリナス領ではここだけです。おかげでサロンが賑やかになりました」

「オルバス家以外にもう1つ、マイヤー家も持つことになります。とはいえ、姉上の持参品になりますから家紋はオリガン家の者になります」


「舞い降りる鷹でしたね。新たな楽しみが出来ました。お茶のセットに家紋を入れる工房は別にあると聞いたのですが?」

「実験工房に近いんです。そこで得た知見を基に大きな工房で数を作るという考えでいます。これはデオーラ様への贈り物です」


 バッグから布包みを取り出して、俺達が座っているソファーの真ん中にある小さなテーブルに乗せた。

 

「何でしょう?」


 嬉しそうな表情で目の前に置かれた布包みを解くと、現れた品にその手が止まった。

 ちょっと指先が震えているようだし、デオーラさんの表情は驚きで固まっている。


「前回の人形から比べれば小さなものですが、ちょっとした場所に飾るには丁度良いと思いまして……」


 ナナちゃんを模した小さなネコ族の子供を模った人形だ。陶器よりも透明度がある磁器だからなぁ。

 あいつらもだいぶ腕を上げている。座った子供と見下ろすように立った子供の2体なんだけど、窓辺に飾っても見栄えがするんじゃないかな。


「前に頂いたトラ族の人形を皆が欲しがっていましたが、さすがにこれは……」

「まだ量産が出来ません。試験的に他の品と一緒に作っているだけですから、年に10体程が出来るだけでしょう」


 ティーナさんが冬前にマーベル共和国を離れる際に、何体かを持たせることでデオーラさんの活動にも役立つに違いない。

 俺の表情を読み取ったのか、笑みを浮かべて頷いてくれた。


「明日、明後日はゆっくりとお休みください。客室に婚礼衣装は飾ってありますわ」

「色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません」


 母上が丁寧に頭を下げるのを、デオーラさんが慌てて押しとどめている。

 貴族の地位的にはデオーラさんの方が遥かに上なんだけど、オリガン家をだいぶかってくれているんだよなぁ。

 あまり丁寧に対応されると、こっちが恐縮してしまう。


「さすがに事前パーティは無いのだろうな?」

「レオン殿ぐらいですね。グラム殿が楽しみに待っていたようですから」


 ティーナさんの問いに答えたデオーラさんの言葉を聞いて、思わず俺とティーナさんが顔を見合わせてしまった。

 今後の計画については、ある程度纏まっているはずなんだが……。何か問題でも出てきたんだろうか?


「ティーナも式に参列するのであれば、ドレスにするのですよ。軍人の男子であるなら軍礼服で良いでしょうが、女性は全てドレスです」


 ティーナさんが困った表情をしているけど、さすがに1人だけ軍服とはいくまい。

 ここは大人しく母上の言葉に従った方が良いと思うな。

 待てよ……。ナナちゃんには従者の服を用意しているだけだ。後でデオーラさんに確認してみるか。場合によっては明日にでも商会に行ってドレスを買い込まねばなるまい。

 陶器の小さな人形がいくつかバッグに入れてあるはずだから、それを売ればなんとか買えそうだな。


 夕暮れ前にグラムさんが帰って来たから、豪華な夕食を皆で頂く。

 母上や姉上はデオーラさんと歓談しながら頂いているけど、俺とナナちゃんはナイフとフォークの使い方が適当だからなぁ。あまり恥をかかないように、母上達の使い方を横目で眺めながらの食事だから結構緊張感がある。

 どうにか食事を終えると母上達はリビングに戻り、俺とグラムさんそれにティーナさんの3人だけが食堂に残ってワインを傾ける。


「レオン殿に頼みがある。明日ワシに付き合ってくれぬか?」

「式までは何もすることがありませんから構いませんが、何か問題でも?」


 グラムさんが話をしてくれたところによると、長城建設が始まったらしい。作るうえでの問題はないとの事だが、マーベル共和国から技術を引き渡した大砲と放炎筒に問題があるようだ。


「少し欲をかいているのかもしれん。大砲は口径2イルムではなく3イルムにしたのだが、数発撃つと砲筒にヒビが入ってしまう。放炎筒も同じだ。トラ族がどうにか持てる大きさにしたのだが……」

「大砲の口径を大きくすると、それだけ火薬を多く装填しないといけないんです。俺達も散々実験したんですが、口径を大きくすると装填した火薬の炸裂に耐えられる砲筒の厚みが必要ですからかなり重くなってしまうんです。移動を考慮して2イルムにしました」


 俺の話を聞いてグラムさんが溜息を漏らす。

 大きく作ればそれだけ威力は上がるんだが、いろいろと問題も出てくるんだよなぁ。

 新型大砲は、そもそもが鋳物ではないからね。色々と考えて作った鍛造品だから砲身の厚みはかなり薄くなっている。それでも1イルムほどの厚みになったし、砲弾を装填する砲尾部分は2イルム近い厚みになってしまった。


「やはり、口径を大きくしたのが原因か……。動かすだけで1個分隊を使うぐらいだからな。ティーナがネコ族の女性兵士数人で大砲を扱っていると聞いて驚いたのだが……、それが可能な口径であったということか」

「案外、放炎筒についても同じかもしれませんよ。威力よりも信頼性を重視するべきでしょう。数を作ればそれなりに使えるはずですから」


 諦めるような表情でグラムさんが頷いているんだが、やはり大口径の大砲の威力は凄いからなぁ。

 散弾を打ち出すなら、2個分隊をまとめて葬れそうだ。

 とはいえ数発でヒビが入るなら、やはり諦めるべきかもしれないね。


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