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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
259/384

E-258 重鎮達がやって来た


 春分になると、さすがに雪が融けてくる。

 たまに降っても、それほど積もらないし通りの除雪は必要ないほどだ。

 春分から5日ほど過ぎたところで、エディンさん達がソリを連ねてマーベル共和国にやって来た。

 ソリはそのままエクドラさんの拠点である食堂の方に向かったが、エディンさんとオビールさんがいつものように指揮所に挨拶にやって来る。

 ホットワインを出して、ブリガンディ王国の状況を教えて貰うことにした。


「そうですねぇ……。食料を購入する商人が冬場に何度か貿易港を訪れたようですよ。昨年の魔族のおかげでだいぶ畑を荒らされたと聞きました」

「レイデル川の東はだいぶレンジャーが動いていたぞ。狩を行っていたようだが、獲物の数はそれほど多くは無いらしい。さすがにレイデル川を渡ろうとするレンジャーはいないだろうし、川沿いに北に向かう連中もいないんだろうな」


 食料不足ってことかな?

 冬場に2回となると、この秋までどうやって食いつないでいくつもりなんだろう?

 毎月のように貿易港に食料買い付けに向かうんじゃないかな。


「エクドラルとしては特に問題視はしていないんでしょう?」

「食料購入が金貨や銀貨であるなら断ることはしないでしょう。関所の東にもまだ難民は現れていませんが、時間の問題でしょうね」


 食料を巡って内乱が起こりそうだな。

 既に貴族達が動き始めているようだし、今年はブリガンディ王国の最後の年になりかねないということか……。


「ところで……、陶器にガラス細工、ある程度持ち帰ることは可能でしょうか?」

「冬の間にかなり作りましたよ。エクドラさんと話をすれば持ち帰ることが出来るでしょう。俺の方から1つ確認したいことがありまして……」


 そう言いながら、バッグの中から布包みを取り出した。

 エディンさんに良く見えるように布包みを開いて、中の2つをテーブルの上を滑らすようにしてエディンさんの前に押しやった。


「こ、これは……」

「せっかくの陶器を部屋の飾りにしているように見受けましたので、それなら最初から飾りになるものをと作ってみました。望みの色を付けられるようになったことも助けになっています」


 高さ10イルムほどの2体の人形はエクドラル王国の士官服を着た人物と、ドレスを着た若い女性の姿だ。

 薄いピンクの地が健康そうな肌を上手く表現しているんだよなぁ。


「ネコ族の男女ですか……。作られたのはこの1対だけでしょうか?」

「人間族と、イヌ族、トラ族等も作ったみたいです。これはエディンさんに見せるために頂いてきたものです」


「全て買い取らせて頂きます。さすがに1対で金貨1枚ということにはなりませんぞ。とりあえず金貨3枚で引き取りますが、場合によっては追加の報酬を出せそうです」


 売れるってことか?

 それなら……。


「2枚で良いですよ。この像はエディンさんに進呈しましょう。その代り、トラ族の像をグラム殿に、人間の像を王子様にお渡ししてください」

「それでは私の利が多すぎます! その見返りとなれば……、一か月後に火薬と肥料を荷馬車5台でどうでしょうか? それでも私に利があり過ぎるように思えますから、これからの交易でその辺りを調整したいと思います」


「そんなに高いと作り辛いんですが……。売れるのであれば、夏至には10対以上作っておきます。よろしくお願いします」

「こちらこそ、新たな商売ができますから嬉しい限りです。実は私の方からもお願いがございまして……」


 エディンさんの言うお願いとは、マーベル共和国に出入りする商会の数を増やして欲しいとの依頼だった。

 商会ギルド内で、高額の品を独占状態で扱っているエディンさんを妬む連中が多くなってきているらしい。

 エディンさんは正直者だから、暴利を得るような商売はしていないはずなんだが、他の商人から見ればそうは思えないんだろうな。

 当然利権の一部でも良いから手に入れようと動いているというんだから、確かに問題だ。


「大きな陶器工房で作られる陶器について、2組の商会が交互に取引するということに同意していただけないでしょうか。それと、行商ギルドとマーベル国の商店との取引が出来るようにして頂きたいのですが」

「かなりエディンさんの取り分が減るように思えるんですが?」

「特注の陶器に、新たな磁器。それにガラス工芸の数々……。私の商い範囲はどんどん広がっておりますぞ」


 そういってエディンさんが小さな笑い声を上げた。

 他の商会の避難を避けるために、俺達とそれほど調整が必要ない部分を他の商会に任せるということなんだろう。確かに事業が広がり過ぎているようにも思える。


「1つ、条件を付けますよ。マーベル共和国に店を出すことは不可。マーベル共和国に人間族はいませんから、その辺りの配慮もお願いします」

「重々承知しております。不備があればすぐにその後を継ぐ商会が出るでしょうから、やって来る商会側もその辺りには格段の注意を払うと思います」


 なら問題は無いだろう。今夜の集まりで調整すれば良いだろうが、反対することは無いはずだ。


「昨年にサドリナス領の分配が行われた。マーベル国の領地が南に広がったが、俺達レンジャーの出入りは今まで通りで良いのか?」

「特に規制はしませんが、レイデル川岸は少し危険ですよ。たぶんもう直ぐブリガンディ王国が瓦解するはずです。レイデル川を越えようとする避難民は撃退するつもりでいますから」

「レオン殿が言うなら間違いなさそうだな。良い狩場ではあるんだが、岸に近付かぬようギルドにも告げておこう」


 オビールさんに軽く頭を下げておく。

 確かにレンジャーの行動範囲は広いからなぁ。あまり北にやってきては欲しくないけど、マーベル共和国にも何組かの獣人族のレンジャーが周辺で狩りをしている。その辺りについてはレンジャーギルドとレンジャーの常識に委ねよう。


「お人形が売れるとは思いませんでした。しかも食器よりも高い値段とは……」

「もう少し早くに気が付くべきでした。食事やお茶用の陶器を飾り棚に置くんですからねぇ。最初から飾れる物ならその方が良いと思って作ってみたんです」


 エディンさん達が指揮所を去っていくと、レイニーさんが意外そうな顔をして言葉を発した。確かにその通りだとは思うんだけどね。

 姉上の婚礼のお祝いに俺とナナちゃんの人形を送れるように工房に頼んでいるのだが、工房の連中の腕がこれほどいいとは思わなかった。高く売れると聞いて、喜んでくれるんじゃないかな。


「エディンさんの話からすると、ブリガンディはかなり不味い状況のようですね」

「国力の低下がかなり進んでいるようですね。王国が割れていることがさらに状況を悪くしているようです。場合によっては、王子様達と事前調整をしないといけないかもしれません。その時には俺とナナちゃんで旧王都を訪ねます」


「ブリガンディ王国の今後の対応ということですね。なるべくマーベル共和国に影響が無いようにお願いします」


「もちろんです!」と言って、まだ残っていたワインを頂く。冷えたホットワインはあまり美味しくないな。

 俺の顔を見たレイニーさんが、笑みを浮かべながら熱いお茶を用意してくれた。


「いつもならエディンさんと一緒にやって来るティーナさんが遅れているのも、関係があるのですか?」

「王子様は忙しいと思いますよ。サドリナス領の最終引継ぎを行わなければなりませんし、進軍してきたエクドラル王国軍の一部は本国に帰さねばなりません。そんなところにブリガンディの話が浮上してきてますし、場合によってはブリガンディの東の王国との調整も必要になるはずです」


 既に調整が行われているのかもしれないな。貴族連合との調整も必要だろうから、調整が始まっていたなら忙しい所の騒ぎではなくなってしまうだろう。

               ・

               ・

               ・

 雪が消えると、開拓民達が畑に肥料を鋤き込み始める。

 肥料の絶対量が足りないから、順番に畑に撒いているようだ。もっと堆肥作りの場所を増やした方が良いのかもしれないけど、そうなると今度は落ち葉を集めるのに苦労しそうだ。

 畑の維持はつくづく難しいものだと感心してしまう。

 肥料の鋤き込みが一段落したところでライムギの種蒔きが始まった。

 エクドラさん達も食堂近くの畑に野菜の種を撒いているに違いない。


 忙しい春の畑仕事が一段落したところで、尾根の石垣を南に延長する作業が始まった。

 河原から砂利や石を運ぶことになるから、今年中にどこまで伸ばせるか全く分からないんだよなぁ。

 今年作った石垣の長さで、工事期間が分かる気がするぐらいだからね。

 何度か手伝いに出掛けてみたんだが、エルドさん達から指揮所に居て欲しいと言われてしまった。

 なんか戦力外通知を受けたったような気がするけど、大人しく指揮所で待つことにした。


 だいぶ暖かくなってきたある日の事。

 伝令の少年が、数台の馬車がやってくると伝えてくれた。


「馬車が4台に、騎兵が2個分隊ということかな?」

「そうです。使者だろうと、ヴァイスさんが言ってました」


「了解した。とりあえず行ってみるか。レイニーさん、指揮所に案内する時には事前に連絡をしますよ」

「そうしてください。でも10人以内にしてくださいね」


 ティーナさん達は間違いないだろうけど、その外の来客は誰になるんだろう?

 とりあえずナナちゃんとレイニーさんがワインの準備を始めたみたいだ。どれ、俺も出掛けてみるか。

指揮所の扉に近づいた俺の眼の前で、扉が勢いよく開いた。

もう一歩足を踏み出していたら、扉に顔を打ち付けていたかもしれない。

驚いている俺の前で、軽く騎士の礼を取った少年が大声をあげる。


「報告します! 来客はエクドラル王国の第2王子殿下、オルバス卿それにマイヤー卿です。王子殿下それにオルバス卿は御夫人を同伴とのことです」

「了解だ。指揮所にご案内してくれ。今日は城壁に待機しているのは誰かな?」


「ヴァイス小隊長です。ヴァイス小隊長に指揮所への案内を頼みますが、同行してきた兵士と従者はどうしましょう?」

「迎賓館に案内してください。同行の兵士は隣の屯所で良いでしょう」


 どうしようと首を傾げた俺の背中からレイニーさんの声が聞こえてきた。

 確かにそれなら問題は無いだろう。

 急ぐ用事が無いなら、詳しい話は明日にして迎賓館で休んで貰うのが良さそうだ。

 メモを取り終えた伝令が、再度要点を俺達に複唱してくれた。内容に間違いがないことを確認してレイニーさんと一緒に頷くと、伝令の少年が騎士の礼を取って指揮所から駆け出していく。


 やはりブリガンディの話になるんだろうな。

 いつもの席に戻ったところでバッグからメモを取り出す。

俺の知っている状況を今の内に再確認しておいた方が良さそうだ。

メモを捲りながら、状況と今後の推移について少し考えることにした。


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