E-250 第2即応部隊は銃兵部隊
マーベル共和国の領土については、いつもの連中にどうにか納得して貰った。やはり南の土地を手放すには惜しいという意見が多かったが、俺達で防衛できないのではしょうがない。
それでも、ここから歩いて3日なんだからねぇ……。あまり欲をかくと碌なことにならないに違いない。
「たぶん、今後の領地拡大は無いでしょう。とは言っても当初の数倍ですからねぇ。レイデル川の監視だけでも大変になりますよ」
「渡河地点に見張り台を設けて、1日2回は川の巡視をすることになりそうじゃな。歩いて3日ともなれば、歩兵では無理じゃろう。ボニールが必要じゃな。出来れば1個小隊は欲しいところじゃ」
レイデル川沿いに中継所を作っても良さそうだな。
それで監視兵を削減できそうにも思える。尾根の南の見張り台程堅牢に作らなくとも、扉を閉めて2日ほど耐えることが出来れば十分だろう。
待てよ……中継所を見張り台とするなら、レイデル川の監視兵を分隊規模に出来るかもしれない。
歩いて半日ほどの距離に中継所を作りとして……。中継所と監視部隊で1個小隊にはなってしまいそうだな。
「1個小隊で監視するより、川沿いに中継所を作って見張り台を兼ねる。その上で監視部隊を作れば、監視部隊の規模は小さく出来るでしょう。敵を発見してその連絡が届く時間を少なくしないと、魔族の渡河を許してしまいそうです」
俺の言葉に頷いているけど、そうなると早急にレイデル川の地図を作る必要がありそうだな。
エルドさんには申し訳ないけど、砂鉄採取の片手間にお願いするしかなさそうだ。
「やはり即応部隊は必要になってきますね。場合によっては東西同時期に魔族が現れかねません。現状の4個中隊を5個中隊に増やさねば、せっかくの領地を手放すことになりかねません」
レイニーさんの提案で、即応部隊を1個中隊。レイデル川の監視に1個小隊を新たに作ることになった。
だけど、即応部隊の1個中隊を指揮するのは俺になってしまった。エニル達銃兵部隊を拡大して1個中隊にするのはありがたいんだけど、門の守りはどうなるんだろう?
「楼門は、東の門を含めて4つの中隊交代しながら対応します。西の尾根、城壁、第一即応部隊、待機部隊とします。同盟軍への派遣部隊、南の見張り台にレイデル川の中継所に関しては、中隊編成の中から外しましょう。指揮所直属として運用したいと思います」
どうやら1個中隊を越える増員になってしまいそうだ。
今でも定員に達していない部隊が多いんだよなぁ。一気に増員は出来ないから、先ずは体制を整えて状況を見ながら少しずつ増員することになるのかな?
「今年中に2個小隊、毎年1個小隊規模で増員したいと思います」
「徴募ということだな。秋の収穫を終えたところで掲示板に張り出してみよう。レオンの部隊の装備は銃だったな。ガラハウ殿も大変だな」
「まあ、銃ならそれほど面倒では無いんじゃが……、銃弾作りが面倒ではあるのう」
しょうがない話なんだけどね。
新兵には少なくとも30発以上撃って貰わないと、使い物にならないんじゃないかな。1個小隊40人なら千発以上消費することになる。その上で、1人25発だからなぁ。
「弓兵は使わないのか?」
「やはり同一兵器で統一したいですね。将来はマーベル共和国の兵士全員を銃兵としたいところです」
「まだまだ弓は使えるにゃ!」
「ええ、使えます。でも爆裂矢に特化していきたいですね」
ヴァイスさんは弓兵だからなぁ。愛着もあるだろうし、銃のように大きな音を立てないから、狩りの道具として使い続けるのかもしれない。
だが、1発の威力は銃弾の方が格段に上だからなぁ。その上有効射程も倍以上の150ユーデほどだ。
唯一の欠点は銃弾が矢の10倍ほどの製造費が掛かることだけだろう。
先ずはエニルの中隊を全て銃兵としたところで、他の中隊の弓兵を徐々に銃兵と変えていけば良いか……。
「そうなると、例の大砲はどうするんじゃ?」
「エニルの中隊の中に、砲兵小隊を作って運用しようかと考えています。2門の大砲を1個分隊として運用するなら8門を使えますからね。石火矢もヴァイスさんに教えて貰ってはいるんですが」
「石火矢は他の中隊が主体ということになるのか。とは言っても、マクランさんの民兵部隊はカタパルトを使うんだろう?」
「あれはあれで便利ですからね。爆弾の在庫は十分にあるそうですよ」
エルドさんの問いに答えると、満足そうにマクランさんが頷いている。
民兵は1個中隊ではあるんだが、結構集まってくれるから実数は6個小隊にはなるんじゃないかな。
「レオンの直営部隊なんだから、徴募はレオンにお願いするわ。武器は……」
「予備もあるじゃろうが、1個小隊分は今年中に作ってやるぞ。銃弾も、仲間達が何とかするじゃろう」
かなり曖昧なんだけど、とりあえず「よろしくお願いします」とガラハウさんに頭を下げることにした。現状で2個小隊とちょっとだからなぁ。銃兵を3個小隊、砲兵を1個小隊とすることでエニルと調整してみるか……。
翌朝。朝食を終えたところでナナちゃんと別行動になる。ナナちゃんは秘密基地に向かうようだ。皆で相談でもするのかな?
大きな看板を掲げた秘密気に向かうナナちゃんに手を振ったところで、東門に向かった。
魔族との小競り合いをしてまだ1か月も経っていないから、東門の上には銃兵達が東を睨んでいる。
これだけ監視を強化しているなら、不意を突かれるようなことはないだろう。だけど、兵士達の緊張が続くのはあまり良いことではないんだよなぁ。
東門傍の屯所に向かうと、屯所前で休憩していた兵士達が俺に気付いてベンチから腰を上げると騎士の礼を取ってくれた。
軽く片手を上げて答礼したところで、エニルの所在を確認する。
「エニル隊長なら、屯所の中に下ります。レオン殿が訪れたということは、また魔族が近付いているのでしょうか?」
「いや、ちょっとした相談だ。それじゃあ、中に入らせて貰うよ」
女性ばかりの部隊だから、屯所扉を叩くと中から扉を開けてくれた。
着替えなんかしている最中に開けたら、今夜の集まりで何を言われるか分からないからね。普段からの危機管理が大切なんだよなぁ。
「レオン殿でしたか! どうぞ中に」
「ちょっと相談があってやって来たんだ。エニルと小隊長がいるなら丁度良いな」
兵士がベンチの1つを空けてくれた。エニルの向かいの席だな。エニルの右手に2人の小隊長が座っている。
とりあえず腰を下ろすと、兵士が直ぐにお茶のカップをテーブルに置いてくれた。
「私に相談ですと?」
「そうだ。サドリナス領の分配がエクドラル王国によって行われたんだが、それに伴って俺達のマーベル共和国の領土が大きく広がった。西は1つ先の尾根、東はレイデル川、南は俺達が渡河した場所までだ。およそ領地が2倍以上になってしまったよ。となると……」
「国境監視が面倒ですね。さすがに南はあまり必要ではないのでしょうが、東が問題です」
直ぐに理解してくれた。魔族がレイデル川の東を南下したのは最近だからね。どうにか南下方向を変えることができたようだけど、果たして結果はどうなったんだろうな。
もっともブリガンディ王国がどうなろうとも、俺達には関係が無いことだ。
父上達の貴族連合にまで魔族が足を延ばすとなれば、何らかの対策が必要だろう。
だが、貴族連合の領地は街道の南だからね。そこまで魔族が侵入したとなればブリガンディ王国の先行きは長くはないだろう。
「分かってくれたか。そんなことで現在4つある中隊を5つの増やすことになったんだ。即応部隊を2つ作ると言えば理解できるだろう。だが、俺達の国は慢性的な人材不足だからなぁ。楼門の守備をしていたエニルの部隊を補強して2つ目の即応部隊を作ることになったんだが……。何とか兵士を集められないか? 現状は2個小隊と少しだけど銃兵3個小隊、砲兵1個小隊としたい。砲兵には大砲を使わせたいけど現在開発中だからなぁ。当座は現在楼門に置いてある大砲と、小型の石火矢を使うことになるだろう」
「都合4個小隊ですか……」
隣の小隊長と小声で話を始めたから、徴募できる人数の推定を行っているのだろう。
エニル達に断って、パイプに火を点けると彼女たちの相談が終わるのを待つことにした。
エニル達の部隊を中隊規模にするとなると、さすがにこの屯所では手狭になるだろう。新たに屯所を作ることになりそうだ。
「期限はいつまでに?」
「ガラハウさんがライフル銃を1個小隊分今年中に作ってくれる。新兵教育は予備のライフルを使ってくれ。年明けを持って第2即応部隊を立ち上げたい」
「場合によっては定数に満たない小隊が出てきますが、何とかしてみます。徴募は私達で行って構いませんね?」
「任せるよ。装備品の手配もお願いする。エクドラさんにも伝えてあるから、請求すれば対応してくれるはずだ」
3人ともうんうんと頷いているから後は任せておけるだろう。
エニル達にも荷馬車が必要になるだろうな。とりあえず3台を頼んでおくか。ボニールも監視兵用に確保するはずだから10頭ほど手に入れておこう。
「そうだ! エニルのところには通信兵がいなかったな。3人ほど確保しといてくれよ。でないと連絡を全て伝令を使うことになるからな」
「了解です。確かに必要でしょうね」
さて、後は任せておこう。10日程過ぎたところで状況を確認すれば良いだろう。
指揮所に戻って、大砲の反動を抑制する方法を引き続き考えてみるか……。




