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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-248 誰にも分かるように秘密基地には看板がある


ティーナさんに大砲の説明をしてから数日が過ぎた。

 エニルに大砲の試射を見せて貰って、自分でも装填を行い発射まで行ったそうだ。

 物好きにもほどがあるなぁ……。ティーナさんが嫁に行くのはまだまだ先になりそうだ。


「軍内部に砲兵隊を作れるよう父上と相談してみる。マーベル国での大砲の使い方は分かったつもりだが、防衛手段として用いるよりも攻撃手段として用いるというレオン殿の考えは今までの常識を覆す。フイフイ砲のように移動に苦労するものではないが……、爆弾を発射できないのが残念だ」

「現状でも爆発物を発射する方法はあるんですが、これはエクドラル王国の賢人を頼るのも手でしょう。マーベル共和国としては一方的な殺戮兵器となり得そうな武器は限定したいところです」

「全て教えて貰うとなればエクドラル王国としての矜持も問われかねんからな。現状で十分だ。それにしても、1門頂いて良いのか?」

「西の楼門用ですから、問題はないでしょう。石火矢で代替可能と判断しました」


 旧式の大砲だって、ガラハウさんが苦労して作ってくれたものだ。単純に複製できないんじゃないかな?

 だが、威力をエクドラル王国に知らしめるためには1門の供与は問題にならないだろう。鉄の球体を打ち出すとしても、門は破壊出来るだろうが城壁を破壊することは出来ないだろうからね。


「近々、父上が訪問すると連絡があった。たぶん先の戦の礼を言う為だろう」

「礼はいりませんよ。ところでエディンさんから聞いた話では、近々サドリナス領内の分配が始まるとのことでしたが?」

「その相談にやって来るはずだ。マーベル国はサドリナス領の要でもある。大きく出た方が良いぞ」


 いよいよサドリナス領内を貴族へ下げ渡すということだな。

 王子様も、いよいよ領地を持つことが出来るのだろう。それにより次期国王の継承権が無くなるのかもしれないな。元王族という肩書を持つ貴族となるのだろう。

 長子後継という王制がある以上仕方のないことなのだろうが、愚鈍な長子であった場合はどうなるんだろう? まさか暗殺なんてしないとは思うんだけどねぇ……。


「サドリナス領が明確となるわけですね。併せて我等の国の線引きもそれに加わるということですか」

「さすがに、町や村を渡すことは出来ぬが、北の荒野を大きく手に入れることは可能だろう。父上が話してくれたところでは、『今までの働きと今後の働きに見合うだけの広さを与えなくてはなるまい』とのことだった」


 あまり大きくてもなぁ……。俺達で守り切れないのでは本末転倒だろう。

 身の丈に見合った大きさが一番なんだけどねぇ……。


どうなるんだろうと、レイニーさんと顔を見合わせていた時だった。指揮所の扉がトントンと叩かれ、ミクルちゃんの手を握ったナナちゃんが入ってきた。

いつもなら扉なんて叩かないんだけどなぁ……。

そんな事を考えていたら、ナナちゃんの後ろから2人の少年少女が入ってきた。


「忙しかったかにゃ? 出直した方が良かったかにゃ」

「いや、我等の話は終わっている。ナナちゃんの方こそ大事な話なのだろう?」


 ティーナさんの言葉に、後ろにいた少女が一歩前に出た。


「レオン様の指示を受けて、私達の仕事をまとめてみました。私がビーデル団団長のエクレ、隣が副団長のビレル、そして名誉団長補佐のナナ、ナナの副官ミクルになります」


 俺とレイニーさんの顔に笑みが広がる。ティーナさん達は首を傾げているが、後で質問があるかもしれないな。


「これが団員名簿にゃ。総勢266名、6歳以上15歳までにゃ。秘密基地にはエルドさんが大きな看板を作ってくれたにゃ。誰にもビーデル団の秘密基地だと分かるはずにゃ」


 可笑しくて噴き出しそうになるのを懸命に堪える。

 誰にも分かる秘密基地なんて……、あるんだろうな。看板を出しているぐらいなんだからね。


「俺達からのお願いはナナちゃんを通せば良いってことだね。それじゃあよろしく頼むよ。必要な品があれば連絡して欲しいな」

「分かりました。それではこれで……」


 俺達に頭を下げて指揮所を出て行ったぞ。

 扉が閉まったところでレイニーさんに顔を向けたら、両手で顔を覆って下を向いている。肩が震えているのは、吹き出すのを懸命に堪えているって感じだな。

 俺も我慢できそうにないんだよなぁ……。


「「アハハハハ……」」


 ひとしきり笑い声を上げたところで、首を傾げているティーナさんに気が付いた。

 ここは早めに訳を話しておいた方が良さそうだ。


「もう可笑しくて、可笑しくて……。っ! 失礼しました」


 レイニーさんが急に真顔になって、ティーナさん達にペコペコと頭を下げる。

 

「先ほどの少女の件なんだろうが? それほど可笑しいのか」

 

 ティーナさんはまだ気が付かないみたいだな。隣のシレインさんは気が付いたらしく下を見て肩を震わせている。


「俺達が笑い出したのは先ほどのナナちゃんの話なんです。『秘密基地に大きな看板……。誰にでも分かる』それでは秘密とは言えませんよね」

「ハハハ……、確かにそうだな。後で見に行ってみよう。面白そうだな。だがビーデル団の秘密基地という言葉の響きは穏やかではなさそうだが?」


「子供達の集団ですよ。住民が少ないこともあって、子供達に色々と仕事を頼んでいます。指揮所の伝令もそうですし、通信兵の補助も行っています。ヤギの世話や養魚場に運営、それに食堂の裏手の仕事……、あまり押し付けることが無いように子供達の仕事の状況を見守ろうということで、秘密組織を作って貰ったんです」

「子供は秘密が好きだからな。秘密組織の団員ともなれば組織の一員として頑張ってくれるということか。上手く考えたものだが、それにしても誰もが分かる秘密基地とはなぁ……」


「一応見て見ぬ振りはしないといけませんね。何といっても秘密組織なんですから」


 言ってる傍から笑いがこみあげてくる。

 今夜集まってくる連中も大笑いするんじゃないかな。


「でも、案外よく考えられています。公然の秘密とはいえそのような集団で育った少年少女は、集団に慣れていますし責任も自覚できるようになるでしょう。自分達で運営される幼年学校のように思えてなりません」

「ほう……、そのようにも見えるか。そのまま軍に入っても良し、入らずとも民兵の下地は出来ているということになるのか?」


「はい。旧王都でも下町には子供達の集団が出来ているようです。彼らに仕事を与える目的で組織しても良さそうに思えてきました」

「なら、シレインはビーデル団をしばらく見守ってみるべきだな。その運営と仕事の内容を調査すれば類似の組織を作ることが出来るやもしれん。領地分割が間近に迫っている。私兵の徴募には間に合わずとも潜在的な要求に応えることが出来るであろう。だが用心することだ。相手は秘密組織なのだからな」


 私兵ねぇ……。確かに下層住民には願ってもない仕事になりそうだな。

 集団生活で善悪の判断がきちんと育ったならそれでも良いんだろうけど、それを教育せずに集団を作らせたら困ったことになりそうだな。

 シレインさんにはゆっくりと、マーベル共和国の秘密組織を研究して貰おう。


「それにしてもナナちゃんが名誉団長補佐ですか……」

「一応、永代団長補佐なんでしょうね。いつまでもあの容姿ですからね。それに指揮所で暮らしていますから報告は任せるつもりなんでしょう」


「秘密組織の副団長ということだな。中々なれる者ではないぞ。そんな組織がエクドラル王国にあったならなぁ……。我も入団して活躍できたはずだ」


 憧れてるのかな? まあ、子供達の一時的な活躍の場かもしれないけど、案外歳をとっても思い出は残るかもね。

 やがて自らの子供を持った時に、秘密基地を訪ねるように言い聞かせるかもしれない。

 たくさんの子供達がいるんだから、ある意味社会の縮図のようなものだ。

 中には秘密組織の行動に反するものも出てくるだろう。どんな制裁をするんだろうか? 出来れば団員資格の期限付き剥奪ぐらいに止めて欲しいところだな。


「さて、そろそろ失礼する。次はレオン殿の姉上を訪ねねばならんからな。シレイン、ついでに秘密基地の偵察に向かうぞ!」

「了解です。それにしても……、プククク」


 まだ笑い足りないようだ。

 俺達もまだ顔が緩んだままだからなぁ。


 ティーナさん達が指揮所を離れたところで、レイニーさんが団員名簿を手に取って眺めている。

 まだ笑みが浮かんだままだけど、見ている内に、だんだんと真剣な表情になってきた。


「思った通りですね。全員がいくつかの仕事を掛け持ちしています。これでは遊ぶ暇が無いように思えますよ」

「押し付け過ぎたということですか……。となると、その中にいくつかを兵士達で行うことにすれば良いでしょう。いくつか見繕って今夜にでも皆で相談してみますか?」

「そうですね。私の方で考えてみます」


 これで少しは子供達の苦労を減らせるかな?

 親達が頑張っているから、子供達も頑張ろうとしていたんだろうけど、さすがに仕事を幾つか掛け持ちするのは問題だろう。せいぜい午前と午後に仕事が違うぐらいにしておきたいところだ。

 だけど……、帰ったなら、家の手伝いもしているんだろうな。

 単に子供達の仕事を減らすだけで解決することでもないようだ。出来れば子供達の仕事時間を、家庭内のお手伝いを含めて決めた方が良いのかもしれない。

 幸いにも、マーベル共和国では時報ともいうべき時間を知らせる仕組みが出来たんだからなぁ。

 ……待てよ。あの鐘を鳴らすのも少年達の仕事じゃなかったか?

 いくら何でも押し付け過ぎだろう。

 少しは、考えて頼めばよかったと反省してしまう。


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