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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
244/384

E-243 飛んだ! そして魔族もやって来た


 開けない夜は無い。東の空が白地ん出来たかと思うと、あれほど輝いて居た星空が急激に星の数を減らし始めた。

 さて、ガラハウさんに頼んだ代物は何時頃出来るのだろう。

 出来れば早く試してみたいところだ。


「ずっと起きていたのですか! 少し横になってください。後は私が対応します」


 エニルがテーブルでパイプを楽しんでいた俺に声を掛けてきた。

 エニルだって2時間ほど横になっただけだと思うんだけどなぁ。ありがたく申し出を受け入れることにしよう。さすがに女性ばかりいる屯所で横になるのは考えてしまうから、毛布を貸して貰って門の内側で横にさせて貰う。確かベンチが置いてあったはずだ。


 体を揺すられて目を覚ました時には、周囲がすっかり明るくなっていた。

 起こしてくれたナナちゃんに礼を言うと、近くの水場で顔を洗う。

 まだ眠いのは仕方がないけど、とりあえず今日1日ぐらいは何とかなりそうだな。


 テーブルに向かうと、ガラハウさんの姿が見えた。

 ということは……。


「おはようございます。ガラハウさんがここにいるということは、例の品が完成したのでしょうか?」

「おう、できたぞ。立っていないで座ったらどうじゃ。6発作ったが、あれで従来の石火矢よりも遠くに飛ぶのか? どんな風に飛ぶのか見せて貰おうと思ってここにいるんじゃが……」


 結果を見たいってことだな。

 とは言っても、直ぐに飛ばすのも考えてしまう。

 先ずは全員の朝食を終えて、迎撃準備を調えてからだ。


「まあ、戦は腹が減っていては出来んからなぁ。ついでに酒を飲ませてくれればもっとやる気が出るんじゃが」

「それはガラハウさんだけですよ。上手く誘えたら石塀の上で乾杯しましょう」


「それも良かろうな。それで発射機は出来取るんか?」

「用意できています。エニル、上手く乗せられそうか?」

「問題ありません。ちょっと試してみましたけど、バランスもしっかり取れてますね」


 掌ほどの幅で長さ1ユーデの羽を、新型石火矢の重心位置の左右に取り付けた。噴射口の上下左右には三角形の小さな羽を付けたから、真っ直ぐに飛ぶはずなんだが風の影響や、噴射ガスの方向は飛んでいる間に微妙に変化するからなぁ。

 風を観察して、少し風上に向かって放てば大きく知れることは無いとおもっているんだけど……。途中で方向が変わってこっちに飛んで来ないことを祈るばかりだ。


 簡単な朝食を終えると、エニルが銃兵達を守備に就かせる。

 エニルにそろそろ始めるかと声を掛けると、ガラハウさんが同行したいと言ってきた。

 結果を見るなら東の楼門が一番なんだけど、それを教えたらレイニーさんとティーナさん達が急いで向かったんだよなぁ。

 どう考えても1時間は後になるんだから、ゆっくりと歩いていけば良いと思うんだけどなぁ。


 砲兵を2個分隊に銃兵1個分隊を使って、三脚とV字型の樋、それにガラハウさんが作ってくれた新型石火矢の改造品を滝の向こうにある広場へと運ぶ。通信兵の少年も1人同行したから、連絡も密にできそうだ。

 東の楼門からの連絡で魔族の姿は無いということだったし、先行して銃兵を5人派遣してあるから安心して荷を運ぶことが出来る。


「出来れば羽を後からつけるようにできませんか? 結構運ぶのが面倒です」


 2人でモッコを担ぐようにして、木の棒に石火矢を吊り下げて運ぶしかないんだよなぁ。東門までは荷車を使って運んできたようだが、滝の裏の道は荷車が通れないのに気が付かなかった。


「何事もやってみないと課題は見つからないよ。とはいえ、確かに面倒だよなぁ。3発で良かったかな?」

「3発で十分なら6発撃てばさらに良いじゃろうが? 苦労すればするほど成功した時が嬉しいんじゃぞ。それだけ酒が美味いからのう」


 酒の楽しみ方は人様々だからなぁ。相槌は打たないでおこう。でないと昼からワインを飲まされそうだ。

 広場まではそれほど時間が掛からない。15分というところだな。滝の裏手を迂回したような道だから、遠回りだ。真っ直ぐに伸びているなら10分も掛からないんだが……。

 

「さて、銃兵は東の道の監視、残った砲兵は発射台を組立てくれ。方位角は52度、発射角は30度で行こう。何度か仰角を変えるから、樋の後ろに大きな石を置いて角度を変えられるようにしといてくれよ!」


 エニルが砲兵を指揮して作業を始める。

 俺とガラハウさんは少し下がってパイプに火を点けた。

 ここからだとブリガンディの領地が良く見えるんだが、見通し距離は3コルムほどだ。荒れた土地が緩やかな丘をいくつも作っている。遥か南には森が見えるな。あの森を越えればさすがにブリガンディ王国軍も気付くんじゃないかな。


「魔族軍は見えんが、あの煙が魔族の集結地という事じゃな?」

「たぶんそうなんでしょうね。西にレイデル川がありますから、魔族も西はあまり警戒していないようです」

「監視部隊も出して来んからなぁ。だが、何発か放ったらさすがにやって来るぞ」

「その時はさっさと後退しますよ。銃兵がライフルを放てば滝の裏を越えてくることはないでしょう」


 やって来た魔族が多ければ、カタパルトで爆弾を此処に放てば済むことだ。

 ここから東の道は滝の裏の道よりも広いからなぁ。先細りの道は迎撃するには丁度良い。


「レオン殿、準備完了です!」

「出来たか! それじゃあ、始めるか。通信兵! 東の楼門のレイニーさんに連絡だ。『石火矢を放つ。着弾点の観測を頼む』以上だ」


少年が東の楼門に向けて信号を送りだした。

 その間に、最初の1発を発射台に乗せる。既に少し長い松明をエニルが握っているから、いつでも点火できそうだ。


 しばらくすると、東の楼門から光が瞬く。その光を見ながら通信兵の呟きをナナちゃんがメモに記録している。


「返信が来ました。『準備完了』以上です」


 報告してくれた少年の後ろで、ナナちゃんが頷いている。ナナちゃんも光通信が出来るようだ。後で通信機を貰ってやろう。


「東門に連絡。これより石火矢を放つ!」


 俺の声が終わると、銃兵の1人が広場の端で東門に向かって旗を振っている。白と赤の旗を持って両手を水平にして、その次に上にあげた。あれで分かるんだろうか?

 門の上でも同じように旗を振っているということは、あれが返信ということなんだろうな。


「連絡完了です!」

「了解だ。エニル、頼んだぞ!」


 松明を大きく掲げてエニルが頷くと、ゆっくりと発射台に近づいていく。

 石火矢の噴出口に取り付けた導火線に松明で火を点けると、直ぐに側面後方に下がった。

 ジジジ……導火線が燃えて噴出口に到達した途端、後方に炎と白煙を噴出する。噴出炎が一段と大きくなった時、ビュン! と音を立てて石火矢が青空に向かって飛んで行った。

 噴出した燃焼ガスの煙でどの辺りを飛んでいるか分かるけど、少し南に逸れているなぁ。やはり風で流された感じだ。

 

「中に仕込んだ導火線は15秒じゃ。もう少しで爆発するはず……」


 ガラハウさんの呟きを聞き流している時だった。東南東の彼方で爆炎が上がる。

 かなり遠くだな。数秒ほど経過したころ、ドォォンという音が聞こえて来た。


「だいぶ飛んだのう! 地上爆発したかどうかわからんが、土煙も混ざっておるようじゃから、着弾した後ということになるんじゃろうな」

「通信兵! レイニーさんに連絡。『着弾地点の方角と距離をしらせ』以上だ」


 エニルに次弾装填を指示したところで、ガラハウさんに顔を向ける。

 パイプを咥えて、爆発が起こった方角をまだ見ているんだよなぁ。


「やはり風に流されたようです。どの程度流されたか知りたいところですね」

「まあ、あれだけ上空を飛行したならしょうがないわい。ワシとしては新型石火矢の2倍を飛ぶ理由が知りたいところじゃな。やはりあの翼ということかのう」

「紙飛行機も翼が無いと飛びませんよ。上手く重心にガラハウさんが付けてくれましたからね」

「じゃが、途中で重心が変わるぞ。推進薬が燃えれば前が重くなるんじゃからな。少し重心を変えてみたんじゃが、やはりうまくいったのう」


 そんなことがしてあったんだ。言われてみればその通り、どれほど前に移動させたのかはガラハウさんの秘密ということだな。


「返信が届きました。『爆炎位置方位角55度、距離およそ4トリム』以上です」

「ほう! 戦の常識が変わるのう」

「まあ、脅しには有効でしょうね。とはいえ、草が靡くぐらいの風で3度も着弾点が狂うんですからねぇ」


 およそ500mほど流されたということだろう。

 これでは数発一度に放っても、魔族の大軍の中に着弾させることは困難だ。


「エニル、次の発射は可能か!」

「いつでも行けます!」


 東の楼門と東門に再び発射を伝えると、今度は仰角35度で発射した。方位角は50度に設定したから、上手く行けば魔族の終結地に着弾できるかもしれないぞ。


「発射!」


 再び白い白煙を残して石火矢が青空に向かって飛び出した。


 仰角を変えながら発射を継続していると、突然東の楼門から光通信が届いた。

 通信内容は……、魔族の襲来を告げるものだった。

 急いで荷物を畳んで東門に引き返す。

 東門の石塀にはずらりと銃兵が銃身を滝向こうの広場に向けている。

 そんなに近づいているのかな?

 急いで戻りたいけど、滝の裏側の道は滑りやすいからなぁ。慎重に足を進め、抜け出したところで駆け出した。


 門に入ると、すぐにエニルが点呼を始める。

 ガラハウさんもいるし、俺の傍にはナナちゃんもいる。途中で落後した部下はいないんじゃないかな。


「レオン殿欠員なしです。この門は砲兵達が守ります。後方で待機してください」

「門の上にいるよ。すでに盾を巡らしているようだからね。ナナちゃんは盾を貸してもらってその後ろにいて貰うよ」

「わしも、一緒じゃ。白兵戦になったなら、ナナの前で上がって来た魔族を叩き斬ってやる。ナナも助力するんじゃぞ」


 バッグの中から取り出したのは両刃の斧だ。俺には重くて使えそうにないんだが、ドワーフ族の連中は片手で振り回すからなぁ。

 普段から槌で鉄を叩いているからなんだろうけど、長剣は不思議と誰も使わないようだ。

 ガラハウさんに頭をなでられていたナナちゃんも、自分の仕事ができたと喜んでいるんだろう、何度もガラハウさんに頷いているからね。


 門の上に上ってみると1個分隊の銃兵が10ユーデ四方もない広場で銃を東に向けている。

 盾にカップ程の穴が開いているから、それを銃眼とするのだろう。

 後ろの擁壁に立て掛けてあった盾を2枚並べて立てた後ろにナナちゃん用の陣を作ってあげた。階段近くだから、万が一ここを放棄しることになっても直ぐに下りられるだろう。

 さて、東の広場はどうなったんだ?

 盾から顔を出して様子を見ると、魔族が数体こちらを覗っている。

 ゴブリンではなく、ホブゴブリンだな。猪のような獣に乗っている。

 イノシシの親戚なんだろうけど、それなら結構早く走れるに違いない。ボニール騎馬隊よりも速く移動できるとなると、少し考えなくてはなるまい。


「動きませんね。こちらまで攻めて来ると思ったのですが?」

「通信兵、「レイニーさんに連絡だ。『魔族の偵察部隊の数を知らせ』以上だ」


 通信兵に伝えたところで、エニルの顔を向ける。

 エニルまでここに上がって来たのか。下の砲兵の指揮はだいじょうぶなのかな?


「さすがに数体ということはないだろう。広場の向こうにもっといると思う。小隊規模なら一当たりしてくかもしれないが、分隊規模なら単なる様子見だ。直ぐに帰るんじゃないかな」

「出来れば来て欲しいですね」


 笑みを浮かべながら東を見てエニルが呟いている。

 俺としては来て欲しくないけどなぁ……。


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