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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-239 慎ましい暮らしから余裕のある暮らしへ変えるには


 次発は崖の縁に命中した。

 だいぶ近くなったから、3発目は当たるかな? 慎重にエニルが狙いを定めている。最初は照準器の十字線に合わせて、次は1つ下の横線に合わせたから、もうちょっと下に照準を合わせることになるだろう。さすがに2本目の線に合わせると岩を飛び越しそうだ。

 エニルが屈みこんで照準器を覗き込んでいると、エニルのふさふさした尻尾が左右に揺れるんだよね。

 キツネ族特有の立派な尻尾は濃いオレンジ色だが先端は白いんだよなぁ。

 ナナちゃんがエニルの尻尾の動きをしっかりと見ているようで、瞳が尻尾に合わせて動いている。

 このまま長くエニルが照準を合わせていると、ナナちゃんが尻尾に飛びつきかねない。

 早く終わりにしてくれると良いんだが、エニルは妥協をしない性格だからねぇ。


 やがて照準を合わせ終えたのだろう。小さく頷いてエニルが照準器から離れて首に掛けた笛を咥えると、鋭く鳴らした。

 俺達が急いで耳を塞ぐのを見て、エニルの片手が高く上がる。


 ドッコーン!

 周囲の砲煙が風に流されると、目標の岩が真ん中から大きく割れていた。


「命中だな。さすがはエニルだ」

「3発目なら容易でしょう。出来れば2発目で命中させたかったところです」

「照準器の改良は必要かな?」

「このままで十分かと……。最後にもう1発川下に放ってみます。2本目の下線に照準を合わせた時に、どれほど遠くに飛ぶのかを見てみたいです」


 確かに確認しておいた方が良いだろうな。

 それに今回の射撃はあまり仰角を取っていない。40度近くに仰角を取った時にどれほど遠くまで砲弾が届くのかも確認したいところだ。

 とはいえ、これでバリスタよりも威力のある攻城兵器対策が出来た。

 現在設置してあるバリスタはそのままにしておけば、エクドラル王国にも新型大砲の存在を知られることは無いだろう。


 訓練を終えると宣言して、大砲の掃除を指示した。終わったところで東門の前の広場から大砲を城壁内に運びこんでもらう。

 大砲の掃除の指揮を執っているエニルを呼び、門のすぐ近くにあるテーブルセットに座って貰った。

 

「明日は、城壁の南に新型大砲を運んで、最大射程を確認してくれないか? 石火矢の仰角を測る分度器を使って、仰角30度から45度まで3度刻みに確認して欲しい」

「了解です。距離計の使い方も教えて貰いましたから大丈夫です。仰角を変えるごとに2発でよろしいですか?」

「ああ、そうだね。散布界も確認したいところだ」


 これで最大射程を確認できるだろう。

 ガラハウさんの話では1コルム以上ということだが、今日の試射を見てみると3コルムは飛びそうだ。

 あまり飛ぶのも問題なんだが、見通し距離なら問題は無さそうだ。さすがに5コルムも飛ぶとなると、弾着観測班を作ることになる。

 飛距離が3コルム程度なら、大砲を並べた後ろに身長の倍ほどの見張り台を設けて、弾着観測をすればいい。


「私の部隊も2個小隊ほどになっています。大砲を専門に扱う部隊と銃を扱う部隊に分割しても良さそうです」

「そうなると、大砲の運搬や操作に必要な人数を1つの分隊とした方が良いだろうね。東門には誰も来ないだろうから、何度も訓練しながら分隊の人数を決めてくれると助かる。だけど大砲部隊の連中には、全員に拳銃を渡してくれないかな」


 新型の拳銃は前装式ではなく後装式だ。銃身と銃床部分がレバー操作で銃身後部が上に持ち上げられる。真鍮製のカートリッジを採用したから、簡単に銃身の中に装填できるし、銃身は上下に2つあるから続けて2発発射できる優れものだ。


「了解です。かつて2丁持っていましたけど新型でだいぶ運用が楽になりました」

「とはいえ、ライフルと違って至近距離対応だからなぁ。それでも大砲だけ扱うよりは、防衛力を上げられる。ところでライフルの方は順調に更新出来ているのかな?」

「1個小隊は換装できました。大砲部隊を分離するとしても3個分隊にはならないと思いますから、残りの銃兵も今年中には全員ライフルを持たせられるはずです」


 旧型も2個分隊分ほど残してあるらしい。

 魔族の大部隊が押し寄せてきたなら総動員体制になるからなぁ。その時の為だということだけど、ちゃんと整備しておかないと、いざという時に使えないんじゃないかな?

 

「ライフルは実戦でのみ使用しています。普段の楼門警備では旧型を使っていますし、交代時に訓練をしていますから、旧型の長銃でもライフルでも全員使用できますよ」

「となると銃弾が心配なんだが……」

「旧型のカートリッジが千発。ライフル用の銃弾の予備は2千発です。弾帯に24発入っています」


 予備を含めて2会戦分ということだな。出来れば予備だけで2会戦分を確保したいところだ。

 ガラハウさんに頼んでみよう。

 魔族の強敵にはライフルが最適だからなぁ。


 ナナちゃんが大砲の掃除の見学から帰ってきたところで、エニルと別れて指揮所に戻ることにした。

 帰る途中の養魚場でナナちゃんと別れる。

 ナナちゃんにとっては、大砲よりも今年の魚の生育の方が気になるらしい。

 養魚場に目を向けると、たまに波紋が広がっている。

 元気に育っているんじゃないかな? 今年から始めた貯水池の魚も気になるところだけどね。


 指揮所に戻ると、レイニーさんとエクドラさんそれにマクランさんが相談していた。

 この顔ぶれだと開拓した畑の分割ということじゃないかな。家族単位の農家を20軒作るという話だったからなぁ。


「大砲の試射は終わったんですか?」

「さすがはガラハウさんです。かなり凝った大砲なんですけどきちんと作ってくれました。これで攻城兵器を200ユーデ以上離れて破壊できます。とはいえ、現状その役目を持っているバリスタはそのまま使用しましょう。エクドラル王国もその方が安心できるでしょうからね。明日は最大射程を確認します。南の城壁の先で試してみる予定です」


「エニル殿の部隊もかなり充実しますね。現在は2個小隊に満たないはずですが、増員は可能でしょうか?」

「全員女性の部隊ですよ? 普段は楼門の監視を行っていますが、西の尾根の戦が起こるような時には指揮所で戦ってもらうことになるんですが……」


「他の中隊は男女とも募集しているんですが、入隊名簿を見るとやはり男性の比率が高いんです」

「そういう事なら、エニルの部隊に編入するのも手でしょうね。でもヴァイスさんの部隊も当初は全員が女性ですよ」


 レイニーさんの話では、どうやら定員いっぱいらしい。現在はさすがに全員女性ということにはなっていないらしいけど、それでも1個小隊には満たないとのことだ。

 そうなると、エニルの部隊ということになるのかなぁ……。砲兵部隊を作るから、削減した銃兵部隊の増員という形になるのかな?


「明日にでも伝えておきましょう。でもこの顔ぶれは、来年の兵士の補充だけではありませんよね?」

「そうです。例の村が何とかできましたから、そろそろ移動させようと思いまして」

「既に当座の食料と食器や農具は分配してあります。後は彼らの農地ということになるんですが……」


 100ユーデ四方の畑を5つ渡すということだ。それ以外に20ユーデ四方の小さな畑が1つずつ家の後ろにあるらしい。スープの具が足りない時には裏の畑から採ってこれそうだな。


「俺には農業の事が良く分かりませんが、それで自活できるんでしょうか?」

「さすがに農業だけの収入では、かなり慎ましい暮らしになるでしょう。それで内職の斡旋ということを考えていたんです」


 なるほどねぇ。さすがはエクドラさん、マクランさんだ。その許可を求めてレイニーさんのところにやって来たんだろうな。


「何を始めるんですか?」

「当座は炭焼ですね。炭焼窯を2つ作れば炭の供給は今年の冬越しを考えると十分に思えます。簡単な木工と毛糸紡ぎ、それに編み物は今まで通りに行えるようにしたいと考えています」


 慎ましい暮らしから、余裕のある暮らしになるわけか……。

 そんな内職を沢山見付けておかないといけないな。ある程度は工房を作っていきたいところだけど、隙間産業というものはどうしても出てきてしまうらしい。


「既に考えていたとなれば……、来年以降の話ということですか!」


 俺の問いに3人が頷いた。

 なるほど、同じ仕事となると需要と供給のバランスが悪くなりそうだ。

 エディンさんが買い込んでくれるとはいえ、やはり同じ品物ばかりではねぇ……。


「レオンも何か考えてくれるとありがたいんですけど……」

「急に言われても、良い案はありませんよ。でも、無いこともないです。例えば……」


 矢の鏃はガラハウさんが鋳型に鉄や青銅を流し込んで大量に作るんだが、鋳物だからまるで櫛のように棒に滝さんに鏃が突き出た形で武具屋に納品されている。武具屋ではそれを1個ずつ折り取って研いでいくんだが、結構面倒らしい。その作業をやって貰うのも手だと思う。

 戦になれば、矢はそれこそいくらあっても足りないからなぁ。


「なるほど、分業ということですね。それも使えそうですね」

「銃弾も同じように出来そうですよ。同じ太さ同じ長さにしないといけませんから、ガラハウさんがいつも文句を言ってますからね」


 完成品を作るのではなく、中間製品を作るのも良い収入になるんじゃないかな?

 さすがにそれで生活は出来ないだろうけど、農業という基本の収益があるんだからね。


「食堂の下準備も任せられそうね」

「開拓場所から石や木の根を運ぶのも任せられそうです。木の根は良い薪になりますからね。石だって石垣を作るのに大量に必要でしょう」


 運送業は専業化しても良さそうだけど、纏まった品を遠方に運ぶ仕事と、細々したものを近くに運ぶ仕事に分割しても良さそうだ。

 農作業の片手間に出来そうな仕事と、その仕事の課題を皆で話し合う。

 色々と出てきたから、後はマクランさんとエクドラさん達に任せよう。国会があるんだから皆で話合えば、もっと色々とあるんじゃないかな。


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