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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
239/384

E-238 新型大砲の試射


 ドォォン!!

 雷が落ちたような大きな砲声が谷底に何度も木霊した。

 点火棒を持った女性兵士が吃驚して尻もちをついている。彼女だけでなく近くにいた数人の新人も同じように地面に座り込んでいるところを見ると、かなり驚いたに違いない。

 自分の持つ銃を使っての射撃訓練は何度もしているはずなんだが、使う火薬の量がまるで違うからなぁ。

 それでも点火棒を放りださずにしっかりと握っているのには感心してしまう。


「これが、今までの大砲だ。使うのは門の中だから音が半端じゃないぞ。あのようにしっかりと予防しておかないと、しばらくは何も聞こえなくなってしまうからな」


 エニルが指さした先にいたのはナナちゃんだった。

 耳栓をした上からしっかりと両手で押さえているんだからなぁ。


「さて、次は……。ファメル達が撃つ番だ!」


 数人ずつ何度か試射してみるようだ。

 大砲は火薬食いだから、あまり試射できなかったようだ。現在は石火矢や爆弾を作っている関係で大量の火薬が蓄積されている。

 暴発を考えて数か所に分散してはいるんだが、ドワーフ族は興味があるとどんどん量産してしまう性格を持っているみたいだ。

 訓練である程度消費しておかないと、更に火薬庫を作ることになってしまうに違いない。

 

 旧型の試射を続けていると、俺の隣に『どっこいしょ』と言いながら腰を下ろしたのはガラハウさんだった。

 パイプに火を点けてのんびりしているようだけど、その眼はジッと大砲を見据えたままだ。


「旧型もまだまだ使うつもりのようじゃな」

「あれはあれで、使い道があるんです。門に押し寄せてきた敵兵をまとめて倒せますからね。有効射程は短いですが、威力的には申し分ありません」

「あれも、砲弾を改良してやりたいのう。見ていると操作が面倒に思える」

「でも単純な構造で、しかも数人で容易に動かすことができます。あれで十分ですよ。今までに何度も破壊槌を破壊してますからね。ガラハウさんにかなり凝った門を作って貰ったんですが、1枚目の門を破壊出来た軍はいませんよ」


 せっかく3重の門にしてあるんだけどなぁ。まあ、それだけ防衛能力が高いということだろう。ガラハウさんも苦笑いを浮かべている。


「全く……、今までの戦が変わってしまうのう。レオンの事じゃ。まだまだ兵器の案はあるんじゃろう?」

「大砲については、これで終わりにしますよ。口径を大きくして砲身を分厚くすれば1発で王都の城門を破壊できるでしょうが、俺達は十分な領地を持っていますからね。これ以上領土拡大の戦をすることはないでしょう。となれば、防衛力の向上になるんですが……」


 バッグからメモを取り出して、ガラハウさんに見せる。

 どれどれと、つぶやきながらメモを受け取って見ていたんだが、突然ベンチから腰を上げると東門の中に駆け込んでいった。

 試射を見るんじゃなかったのか?

 まったく興味が湧くと子供のようにはしゃぐんだからなぁ。そんなガラハウさんを首を傾げてナナちゃんとエニルが見送っていたけど、あれがドワーフ族の良いところでもあり困ったところでもある。


「試射を見に来たんじゃなかったんですか?」


 俺のところにやって来たエニルが、座っていた俺の耳元に身を屈めると小声で問いかけてきた。

 

「そう言ってたんだけどなぁ。新しい兵器の案を見せたら、ああなってしまったんだ」


 俺の答えに、門の方を見ながら頷いているエニルを見ていると、やはりエニル達もドワーフ族という種族は俺と同じように思えているに違いない。


「そろそろ、新型を試してみようと思うんですが?」

「そうだね。それじゃあ、操作説明をするよ……」


 銃兵達を新型大砲の傍に集めて、先ずは概要を説明する。

 重いけど移動式であることは確かだからね。普段は東門の倉庫に押し込んでおくけど、敵が攻めて来たなら南の楼門にこの大砲を運ぶことになる。


「旧型の大砲は木枠に固定してあるし、広範囲に鉄屑を爆散させるから、敵のいる方角に砲身を向けるだけで済んだ。だが新型は違う。爆弾と同じような砲弾を遠くまで正確に飛ばせるんだ。だから、大砲をこのような頑丈な砲架に設けることになった……」


 砲架から馬具を外して左右に広げる。約45度ぐらいに開くんだが、俺の腕程の太さの木の棒だからなぁ。これで発射時の衝撃を受けてたなら折れてしまうだろうと、外側に鉄の板を沿わせて補強している。それに設置面は鋭角でなく曲面だ。少し後退するぐらいは諦めないといけないだろうな。


「次に、両側の車輪なんだが、根本部分に垂直の棒が付いている。このハンドルを回すと棒が上下するから、車輪が地面を離れるまで回して欲しい。出来たなら、この車輪を固定するプラグを引き抜く。すると車輪が横に出来る。右側も同じだから、やってみてくれ」


 恐る恐る操作しているけど、慣れれば素早く行えるだろう。

 2つの車輪が横になったところで、左右の棒を引き込む。2人が上手く行わないと、片寄ってしまうから、前で誰かが確認しながら行った方が良さそうだ。

 今回はエニルが様子を見ながら2人に指示を出している。

 最初だから慎重に砲架を設置させたところでエニルが俺に顔を向けて大きく頷いた。


「これで砲架の準備は完了だ。次は大砲に砲弾を装填する。今までは装薬の袋を先に入れて、その後に鉄屑が詰まった砲弾を押し込んだけど新型はかなり違っている。

 大砲の後ろを見てくれ。ハンドルが付いているだろう? このハンドルを左に半回転させる……、すると、こんな具合に右に外れるんだ。この機構を閉鎖機構と名付けた。

 この状態で、この枠を持ち上げてくれ。方針に向かって動かせば、上手く動くはずだ。カチリ! と音がするまでしっかりと伸ばしてくれ。

この枠が砲弾を砲身内に入れるガイドになる。枠に上に砲弾を乗せて、この棒で押し込む……。見ての通り砲弾よりも押し込む棒の先は太いんだ。これが砲身の中で止まるまでしっかりと押し込んでくれ。

押し込んだら、枠を固定していたこのフックを外して、枠を後ろに下げる。最後は砲身の尾栓を閉じて、ハンドルを右に90度回せば終了だ。

 ここまでは良いかな? それじゃあ、この模擬砲弾を使って、ここまでの操作をやってみて欲しい」


 火薬の代わりに砂を入れた模擬砲弾は赤く色が塗られているから間違えることは無いだろう。

 数回、装填操作を行ったところで、今度は実弾を装填する。

 何回かやってみたから少しは慣れたかな? 砲弾の重さはワインのボトル程だからなぁ。砲弾の装填は慣れれば1人で出来るだろうけど、今回は数人がかりで行っている。

 順番を間違えなければ問題はないし、砲弾内の炸薬も火を点けない限り爆発はしないから万が一落としても爆発することはない。


「装填完了です!」

「よし! それじゃあ、撃ってみよう。この紐を引けば発射されるんだけど、その前に的を狙う必要がある。ここにある望遠鏡を順番に覗いてみてくれ、中に十字の線が入っているはずだ。その隣に左右上下ともに2本の短い線も入っている。狙いは真ん中の十字だけど、照準が正しいとは限らない。どれほどズレたかを、短い線で確認して次の砲弾を撃つことになる。照準器を覗きながら、このハンドルとこのハンドルを使って左右上下に砲身を動かして照準を合わせるんだ。

 的が用意されているから、早速試してみてくれ」


 一応砲身の中心線と照準望遠鏡の軸線は合わせてくれたらしい。あまりズレるようなら、ガラハウさんに少し調整して貰おう。

 エニルが照準器を覗き込み、2人の銃兵に指示を出しながら微調整を行っている。

 エニルならきちんと合わせるだろうな。俺ならおおよそ合っていれば発射するに違いない。


「照準合わせ完了です!」

「よし! 大砲を撃つぞ!! 皆、大砲から少し離れてくれ。音が大きいからしっかりと耳を塞ぐんだぞ」

「最初は、私が……」


 エニルが名乗りを上げると、短く笛を吹いた。

 皆ちゃんと離れているな? ナナちゃんもしっかりと耳も抑えているから問題ない。


 砲架の横に立ったエニルが勢いよく紐を曳く……。

 ドッコーン!!

 耳をつんざく砲声と共に方向から炎が噴き出た。

 少し遅れて、ドォォン!! という音がした。砲弾が爆発したようだな。どこに落ちたんだ?

 滝の東に目を向けると、迫程まで2つあった的の1つが無くなっている。周囲に炸裂煙があるから、狙い通りに的に当たったということか?

 3本の丸太を三脚のようにして紙を張っただけの的なんだが、よくも砲弾が突きぬけずに爆発したものだ。

 運よく丸太に当たったということだろうか?

 偶然とは言え的が吹き飛ぶぐらいだから、攻城櫓やフイフイ砲を1発で破壊できそうだ。


「狙い通りでしたが……」

「まあ、当たったことは確かだ。数発撃って、感触を確かめて欲しい」


 次発準備を進めながら、手順がしっかりと守られていることを確認する。

 エニルの事だから、後で手順書を作るに違いない。

 数回やれば、しっかりと手順を飲み込めるはずだ。


 3発目は川下に向かって放つことにした。丁度良い具合に、崖の上に大きな岩が顔を出している。距離は500ユーデ程あるんじゃないかな?

 

「エニル、あれを狙えるかな?」

「かなり大きな岩ですね。荷車よりも大きいのではないでしょうか?」

「破壊槌ならあれぐらいあるんじゃないか? 物は試しだ。何発か放って長距離射撃の照準を学んで欲しい」


 長銃でも200ユーデ程先を狙う時には頭1つ上を狙うようだ。大砲の場合はどれほど狙いを上げないといけないのだろう?

 先ずは十字線の真ん中に岩を捉える都言っていたけど……。


 ピィー! と大きく笛の音が響く。

 その音を合図に俺達が耳栓を確認したり両手で覆ったりしている。

 俺達の様子を見て、エニルが自分の耳栓を確認した。

 両手でごそごそと調整していたけど、どうやら終わったらしい。

 俺達に向かって片手を上げると、トリガーに連動した紐を引いた。


 ドッコーン! 

 砲声が谷に木霊し、砲煙で前が見えなくなる。それが晴れた時に見えたものは……。


「だいぶ下で炸裂したようですね。やはり銃と同じで標的の頭上を狙わないといけないようです」

「次は十字線の下1つで照準を合わせてみよう。それでどれぐらい砲弾が落ちるか分かるだろう。3発目は当たるんじゃないか?」


 補正射撃ということになるのかな。

 大きな岩から崖下に10ユーデ程だから、次の砲撃で岩を飛び越さないとも限らない。

 とはいえ、砲撃間隔はかなり短いように思える。大砲なら2発目はしばらく掛かるからね。

 新型大砲の砲弾は銃弾と同じく薬莢式の砲弾だから、1発ずつ砲身内の掃除をする必要もないから、連続した砲撃ができそうだ。


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