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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
236/384

E-235 こっちに来ないとも限らない


 光通信で魔族のエクドラル王国侵攻が伝えられたのは、夏の真っ盛りの事だった。

 侵攻位置は、旧サドリナス王都の真北になるらしい。

 直ぐにリットンさん達と機動部隊が、迎撃に向かったことを伝えてきた。


「位置的には、此処から大分西になりますね」

「さすがに南の見張り台でも戦の様子は分からないでしょうね。連動する動きがないとも限りません。西の尾根に1個中隊、見張り台はまだ石垣が中途半端ですが1個小隊を送りましょう。場合によっては救援に向かわねばなりませんから、1個中隊は待機状態としたいところです」

「エルド達にも知らせないといけませんね。予定ではそろそろ帰国するはずなんですけど」


 それなら、エルドさんの方は待っていれば良いだろう。

 エニル達の道路整備も一度止めて、守りを固めておいた方が良さそうだ。


 伝令の少年を呼び寄せて、直ぐに中隊長達に指示を伝えて貰う。

 状況を見ながら、増援を送れば良い。先ずは守りを固めることだ。

 レイニーさんに指示を受けて、直ぐに少年達が指揮所を飛び出していく。これで先ずは一安心。夜に集まってくる連中は少ないだろうけど、増援部隊を組織しておかないとなぁ……。


「西の尾根を狙って来ると思ったのですが?」

「俺達を脅威として認識してくれたようですね。でも、リットンさん達が上手く役目をこなせたら、旧サドリナス領内への侵攻は魔族も考えてくれるかもしれません」


 とは言っても、威力偵察ぐらいはしてくるんだろうけどね。大部隊が侵攻してこないなら少しは安心できる。

 いよいよつかの間の平和が訪れて来そうに思えてくる。

 次の魔族の侵攻で、それが分かるだろう。


「今回の魔族の侵攻部隊が壊滅した時が、レオンの言う終わりの始まりということになるのですか?」

「次の侵攻の規模次第です。2個大隊を越えるなら、取り越し苦労と笑い者になるだけですむんですが、2個中隊規模にも満たない時にはその可能性が高まります」

「勝ち過ぎるのも良くない……。勝利は良いことに思えるんですが」


「たくさんの王国がありますからねぇ。魔族も1つの王国ではなさそうですし、ちょっとした戦力の不均衡が王国の滅亡に繋がりかねない状況なんです」

「せっかく孤児達の引き取りに目途が尽きそうだったんですけど……」


 孤児を引き取りたい者達と孤児達が一緒になって、いろいろと遊んだり食事をしたりしていたらしい。

 ナナちゃんも手伝いに駆り出されていたんだよなぁ。

「小さい子が何人かいたにゃ」と教えてくれたんだけど、とりあえずは不安な気持ちを早く忘れ去って貰いたいところだ。


「ヴァイスさんも欲しがってましたね?」

「私と一緒に育てることにしてます。同じ村の出ですから、村の子育てをこの地で行うことが出来ます」


 獣人族の村は、皆で子育てをすると聞いたことがある。

 でも、レイニーさんとヴァイスさんでは正確が真逆だからなぁ……。どうなることか、ちょっと心配になってきたぞ。


 お茶を飲みながらサドリナス領の地図を2人で眺めていると、伝令の少年が駆け込んできた。

 どうやらリットンさんから追伸が届いたみたいだな。

 レイニーさんが通信文を受け取ると、「頑張れ! と伝えてください」と伝令に少年に伝えている。

 まだ状況は動いていないだろうから、レイニーさんの思いにやる気を出してくれるんじゃないかな。


「3個大隊規模の魔族らしいです。10コルムの距離を取って、機動部隊の準備が終わるのを待っているようですね」

「位置的には真ん中の砦の北付近でしょう。直ぐ後ろに砦があると兵士達も少しは安心できそうですね」


 いざとなれば砦に逃げ込める。ちょっとしたことだけど、心にゆとりが出来るはずだ。

 魔族の大軍を前に緊張でがっちがちになっているようでは、反対に殲滅されかねないからなぁ。

 戦術が上手く行くことをここで祈っていよう。

 

「大砲が完成したようなので、その内に東門で試射したいと思っています。ティーナさんが興味を引きかねませんので既存の大砲の試射を合わせて行うつもりです」

「それほど違いがあるんですか?」

「かなり違いますよ。今までは散弾を門に押し寄せてきた敵兵に放っていましたが、新しい大砲はバリスタと同じように使えます。敵の攻城兵器を現状のバリスタの3倍以上の距離で破壊できます。もっとも重くなってしまいましたから、南の城壁で使うことしかできませんけどね」


 東門と西の尾根はバリスタで十分だろう。バリスタの射る投槍のようなボルトならイエティでも倒せるからね。もう一回り小型のバリスタを作っても良さそうに思える。先端に爆弾を付ければ既存のバリスタ以上の働きも期待できそうだ。


「だいぶ兵器を作りましたけど、これで最後になるのでしょうか?」

「相手次第ですね。爆弾と砲弾については少し改良したいところがあるんですけど……」


 着発信管が欲しいんだけどなぁ……。どうやって作るかは、銃の点火装置が参考になりそうに思えるんだが、その構造が思い浮かばないんだよなぁ。

 

「エルドさん達の作業場所はかなり上流部に移動しているようですけど、こんな事態に備えて連絡手段を考えておく必要がありそうですね」

「夕刻までに帰らない場合は、明日早朝に伝令を走らせるつもりです。とりあえずの対応は済んでいますから、慌てる必要はないでしょう」


 お茶を入れたカップを俺に渡しながらレイニーさんが呟いた。俺に聞かせるというよりは自分で対応を確認した感じだな。

 お茶の礼を言いながら、とりあえず頷いておく。

 

 お茶が冷めるのを待ちながら、パイプを咥えてテーブルの上に乗せた地図を眺める。

 指示棒に付けた目盛りを確認しながら、サドリナス領の東西の長さを調べてみた。

 およそ300コルム……、この長さの長城を築くとなると、確かに国家事業も良いところだ。

 厚さ2ユーデ高さを4ユーデとしても、築城に使われる資材の量は俺の想像を上回る。

 作れるかと聞かれれば誰もが作れると答えるに違いないが、1年でどれだけの長さが完成するのか考えてしまうな。

 単純に底辺の長さを2ユーデ高さを4ユーデとするなら、横1ユーデの城壁を作るには石材が200樽ほど必要だ。荷馬車で10台というところかな。

 材料さえあれば、板で作った枠の中に砂利や砂を投入してセメントを流せば良いことになる。

 使われるセメントも半端な量にはならないだろう。作業の監督は石材工房のドワーフ族に頼んで、作業員は軍の兵士を使えば良いだろう。

 2個中隊を定期的に入れ替えながら進めて行けば、兵士の不満も少しは低減できる。


「なにを計算してるんですか?」

「これですか? 現状の2倍を超える魔族が侵攻してきた場合を想定した事前措置なんですけど……。長城を作ると言っても簡単ではなさそうですね。数十年は掛かりそうです」

「それほど長く!」


 ちょっと驚いているな。

 俺もそれほど掛かるとは思わなかったんだけど、何と言っても長さが問題だ。1年でどれほどの距離を延ばせるのか、やってみないと分からないからなぁ。3年も行えば1年で伸ばせる長さを平均化できるだろうから、ある程度は長城の完成時期を明確にできると思うんだけどね。


 長城作りについては概要を取りまとめて、ガラハウさんに相談してみるか。

 マーベル共和国の南の城壁を作ったんだから、俺の気付かない課題点を見つけてくれるかもしれない。

 できれば長城が必要な事態にならないことを祈るばかりだけど、長城が出来れば開拓民が安心して畑を広げることが出来ることも確かだ。開拓によって出てきた岩や小石も城壁作りの貴重な資材になりそうだ。

 城壁作りの助力を開拓民にお願いすることも出来そうに思える。

 開拓した土地の所有権だけでなく税の軽減対策の見返りに、資材の運搬を定期的に行ってくれるだけでも助かりそうだ。

               ・

               ・

               ・

「そうですか……。リットンが頑張り過ぎなければ良いんですが」

「次は私が行くにゃ! 石火矢の扱いはリットン以上にゃ」

 夕暮れ時に帰って来たエルドさん達に状況を説明した。

 明日中に援軍を1個大隊召集すると言っていたから、砂鉄取りに向かった連中には少し気の毒に思える。


「爆弾と小型の石火矢で良いでしょう。荷車2つ分も用意すれば十分に対応できそうです。西の尾根に魔族が現れた時にはレオン殿も参加してくださいよ」

「もちろん参加しますよ。ティーナさん達も誘ってあげないと後で恨まれそうですから同行して貰うつもりです」


 なんと言ってもトラ族の騎士だからなぁ。副官も一緒に来てくれるだろうから指揮所の屋上の白兵戦はかなり優位になるはずだ。


 18時を告げる礼拝所の鐘が鳴る。

 食堂が開かれる時間なんだが、最初の30分ほどはかなり込み合うからなぁ。

 連中が食事を終えた頃を見計らって、皆で出掛けよう。


「やはり砂金はあまり採れなくなりました。ガラハウさんに渡す砂鉄は問題ありません。それと、マクランさんから頼まれた魚を桶に入れて運んできましたよ」

「貯水池に放すという話だったね。卵も運んだと聞いたんだけど……」

「春先に1度運びました。果たしてうまく孵化したかどうか……。ダメでも、魚を放せばその内に増えると思います」


 俺達の会話を、ナナちゃんが笑みを浮かべて聞いている。

 来年は無理かもしれないけど、数年もすれば貯水池で魚釣りが楽しめそうだ。


「魚と言えば、滝壺には大物が潜んでいるんじゃないですか?」

「そうだろうねぇ……。だけど、あそこの降りる道が無いんだよなぁ。かなり下流から川沿いに上流に向かうしかないんだ。でも無理に獲ろう何て考えないでくださいよ。今の場所でもそれなりに魚は獲れるんですからね」


 ヴァイスさんが残念そうな顔をしているのを見て、エルドさんが苦笑いを浮かべている。

 それでも、海で取れる魚よりは小さいと思うんだけどなぁ。

 オリガン領から干し魚が今でも届くけど、あれは群れを成して泳いでいる魚だそうだ。その群れを襲う大きな魚がいるらしい。

 オリガン館に住んでいる当時は、たまにそんな魚の切り身が出てきたんだけど、元の大きさが想像できなかったんだよなぁ。

 俺の身長を越える魚なんて言っていたけど、それは魚ではなく魔物なんじゃないかと思うんだけどねぇ。


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