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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
233/384

E-232 魔族軍はなぜ俺達を襲うのか (4)


 俺達の会議が終わったところで遅い昼食になる。

 それほど贅沢な料理ではないけど、美味しい料理はエクドラさんが頑張ってくれたんだろう。

 とはいえ……、誰も言葉が出ない。

 静かな食事の音だけが小さく聞こえるだけだ。

 食事を終えてお茶が配られると、グラムさんが重い口を開く。


「なんとも難しい舵取りをせねばならんようだな……」

「勝利は得ても、殲滅はせぬ方が良いとは……」

「それでもこのまま推移すれば、ブリガンディが滅びることは間違いないと言うことか……」


 お茶が苦く感じるな。

 どうにか俺の認識を理解してくれたようだ。

 

「ブリガンディ領内に魔族が砦を築く可能性も考えねばならん」

「魔族が地上に領土を持つ等、今までは無かった。だがそうなると……」

「レイデル川の監視を重視せねばなるまい。マーベル国との同盟はこれまで以上に重いものになるだろうな」


「ブリガンディ王国の北の砦は大きなものが3つあります。たぶん魔族が地上に永住するとしても、それほど南には下がらないでしょう。街道の維持はさらに東の王国との貿易に影響が出るでしょうから、貴族連合だけでなく東の王国も街道の防衛に軍を出すと考えられます」


 地図で大まかな侵出範囲を示す。

 東の王国、貴族連合そしてエクドラル王国の3つが街道に沿って軍を展開するに違いない。


「我等も関所の東は考えねばなるまい。貿易船も使えるが、陸路はそれなりに各穂せねばならんからな」

「1個大隊の派遣で何とかなるでしょうか? おおよそ100コルム程を担当することになりそうです」

「本国と調整せねばなるまい。ブリガンディがいつ滅びるかが分からんからなぁ。急な兵力増強は隣国に不安を煽るだけだ」


「魔族はどの辺りを拠点にするかで状況は変わるでしょうが、少なくともブリガンディ領の西には設けないと思います。レイデル川より東に30コルム近くには設けないと思います」


 グラムさん達が俺に顔を向ける。その理由が分からないようだな。


「そういう事か! 父上。マーベル国には門が4つあるのです。3つは南の城壁に楼門を作っていますからご存じでしょう。もう1つは、レイデル川の魚止めともなる滝の裏を通る道に作られています。その道を使ってブリガンディ王国軍が何度か攻め入っています」

「攻め入ることが出来るなら、逆に攻めに出ることも可能ということか! となれば、エクドラル王国軍のマーベル国への駐屯を認めて欲しいところだが」


「さすがにそれは許可できません。エクドラル王国軍の精鋭ならこの国は簡単に陥落してしまいます。それにその道は兵士が2人並んでどうにか通れるほどの悪路。大軍を出そうとするならそれこそ容易に殲滅されてしまいます。とはいえ、攻めることが可能という状況は俺達に有利になることは間違いありません」

 隘路を使っての攻撃を行わないと知って、少し残念そうな顔をしている。

 こちらの迎撃が簡単なんだから、向こうにとっても迎撃は容易だろう。なら、その存在を明らかにすることで相手の動きを制限するのが一番だろう。


「軍を動かさずに相手の動きを制するのですか……。私が20程若ければ、この地で教えを受けたいところです」

「今さらだな。だが我等の相談に乗ってくれる存在でもある。連絡は通信機も使えるのだから、迷った時には相談するのも良かろう。エクドラル王国の住人で無いのが残念ではあるが、同盟国であることは確かなのだからな」


 相談ぐらいなら容易いことだ。

 俺達に色々と便宜を図ってくれているんだからね。

 エクドラル王国が俺達に友好的だからこそ、飢えることなく暮らして行けるだから。


 レイニーさんが席を立って、部屋を出ると直ぐに戻ってきた。

 固い話が終わったから、ワインを頼んできたのだろう。

 直ぐに、キツネ族のお姉さんが俺達にワインを入れたグラスを運んできた。

 各自の前にワイングラスが置かれると、そのグラスにグラムさん達の眼が釘付けになる。

 進められるままにグラスを手に取ったのだが、直ぐに飲まずにワイングラスをジッと眺めているんだよなぁ……。


「レオン殿が来訪した折にガラス工房へ足を運んだのは知っていたが……。すでにここまでの品を作れるようになったのか!」

「分厚いガラスではなく、薄い作りですね。それに持ち手部分の加工をこのように行うとは……」


「まだまだ試作を繰り返しているところです。望む透明度には達しませんから」

「これで十分ではないのか? さらに上を目指すということは、既存のガラス工房では再現できんのではないか?」

「それが狙いです。独占できますからね。独占するなら高品質でないと、他の工房から文句を言われてしまいますよ」


 まだ水晶の透明度には達しない。もう少しという感じだな。

 ちょっとワイングラスには驚いていたようだけど、その後はエクドラル王国の様子を色々と聞かせて貰った。

 出来れば姉上の気に入ったお相手の情報が欲しいところだけど、それを詳しく聞く相手はデオーラさんということになるんだろうな。


「出来れば夏至にワシの館を訪ねて欲しいところだが、魔族の動きを考えるとそれは無理か……。ワシ等が再び尋ねることになりそうだな」

「場合によっては俺達を相手にせず、魔族の大軍が南進しかねませんよ。防衛にはグラム殿達の力が必要では?」


 俺の言葉に、2人が顔を見合わせながら笑みを浮かべる。

 今度は俺に顔を向けたけど、苦笑いを浮かべているな。


「幸いに光通信は文章を送ることも可能だ。状況はなるべく共有したい」

「もちろんです!」


 これで互いの情報整理は終わりになる。

 さすがに今年でブリガンディが瓦解することは無いだろうが、魔族次第だからなぁ。

 レイニーさんと一緒に迎賓館を出る。

 グラムさん達は明日早朝に帰ることになるだろう。ティーナさんを残したままだから、色々と指示を与えているに違いない。


「本当にブリガンディは滅びてしまうんでしょうか?」

「かなり確率は高いと思います。沿岸部の領地を持つ貴族が袂を分かちましたし、獣人族をいまだに狩り続けているというんですから、国力はかなり低下しているはずです。人間族だけで軍を作ったようですが、かつての軍隊よりも規模は小さくなっているんですからね」


 3個大隊ぐらいに縮小してしまったんじゃないかな?

 街道沿いの町や村、そして王都ぐらいでしか住民は安心して暮らせないだろう。

 北に設けた砦はいまだに機能しているんだろうか?

 魔族の定期的な侵入に対処するために戦力を擦り潰し続けている気がするなあ。

 定数を満たすために徴募兵を集め続けているなら、どんどん戦力は低下していくに違いない。

 後は、坂を転がり落ち続けるだけだ。


 指揮所の扉を開けようとした時だ。礼拝所の鐘が聞こえてきた。1つだから……、15時ということだな。

 夕食は18時過ぎに食堂で取るのが俺達の習慣だから、しばらくは指揮所でのんびりしていよう。


小さくなった暖炉の火に薪を投げ込むと、ポットを金具に下げて暖炉の中に入れた。お茶は、もう少し待つ必要がありそうだな。

 

「あの話でグラムさんは納得したのでしょうか?」

「事前に、周辺王国の調査をティーナさんを通してお願いしたんです。さすがはグラムさんです。調査結果の分析に驚いていたようですからね」


「勝ちすぎてはいけないということでしょう? それではいつまでも魔族の脅威に脅えて暮らすことになります」

「その対処方法はグラムさんに教えました。魔族の押し寄せる波を止める長城を築けば良いんです。とは言っても、王国にとっては一大事業になってしまうでしょうね」


 その時には、サドリナス領の東部の城壁作りだけでも手伝ってあげよう。

 見返りには俺達マーベル共和国の長城としても使えるように、尾根の南の見張り台と連結して貰おうかな。


「ガラハウさんが前回使用した爆弾の2倍の量を作ったと知らせてくれましたけど……。ブリガンディには無いんですよね」

「エクドラル王国と友好関係があるなら、製作方法を教えて貰えるかもしれませんが、俺達は教えずにおきましょう。エクドラル王国にも俺達の爆弾の製法は伝えておりません。それでも見様見真似で爆弾を作ったんですから大したものです」


 同じドワーフ族であっても、ガラハウさんは教えないだろうな。

 その爆弾が俺達に飛んでくるかもしれないんだからね。

 ましてや石火矢を教えるなんてとんでもないことだ。だが、エクドラル王国の工房では試作ぐらいはするかもしれない。

 だけど、炸薬と推進薬の火薬の調合が異なるとは思わないだろうな。

 さらに飛距離を伸ばす方法もあるんだが、現状では散布界が広すぎることが想定するだけでも十分に理解できている。風の影響をもろに受けてしまうのが問題だ。使うとすれば都市攻撃ぐらいになってしまうのであるなら、作らない方が良いだろう。


「魔族は今年やってくるんでしょうか?」

「やってきそうに思えるんですが、マーベル共和国を狙わずに南に向かうかもしれませんね。魔族の攻撃を2度跳ね返しています。それも魔族減を壊滅近くに追い込んだんですから、魔族にとってこの地は鬼門も良いところです」


 レイニーさんからお茶のカップを受け取って、パイプを楽しみながらゆっくりと味わう。

 魔族がサドリナス領を攻撃する確率は7割程になるだろう。だがこの地を狙う確率は3割も無いはずだ。両者を考慮すると2割程度になってしまう。

 それなら、たっぷりと爆弾や石火矢を準備しておけば十分だろう。


「ところで、集団農業から個人農業への移行については進展があったんでしょうか?」

「マクランさんが頑張っていますよ。先ずは20軒の家を建てて、農地を引き渡すと言っていました。引き渡す農地は新たな集落近くになるようです」


 20軒の農家は、最初に俺達と一緒にこの地にやって来た開拓民の中からくじ引きで決めるようだ。来年にはさらに20軒増やすらしいけど、クジ引きは最初の連中とその後の連中で10軒ずつとするらしい。

 不公平感をなくそうということだけど、そのクジ引きでまたお祭り騒ぎになるんじゃないかな。


「中には集団の方が良いという者もいるようです。そんな人達にどこの区画を渡そうかと悩んでいるみたいですね」

「ある意味贅沢な悩みかもしれませんよ。でも、上手く経営が成り立てばいいですね」


 俺の言葉にレイニーさんが頷いている。

 開墾して直ぐの農地では、作物が良く育たないからなぁ。少なくとも3年以上前に開墾した農地を分配して欲しいところだ。

 もっとも元開拓民であるマクランさんだ。そんなことを知らないはずがない。

 案外、良く育つ畑を優先して分配するんじゃないかな。


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