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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
231/384

E-230 魔族軍はなぜ俺達を襲うのか (2)


 ティーナさんからグラムさんがやってくると告げられた日から5日後に、騎馬隊の一行がマーベル共和国を訪れた。

 とりあえず、迎賓館という名ばかりのログハウスで休んでもらい、翌日の朝食を終えたところでレイニーさんを伴って顔を合わせる。

 会議室のテーブルに着いたところで、先ずはグラムさんが口を開く。


「急に訪れて申し訳ない。少しレオン殿の知恵を借りたいと思ってやってきたのだ。隣は、第一大隊長のカルバイン・オクバル、その隣が参謀のヨゼフ・ハーレットだ。向こうの2人は中隊長のマイザにアクトになる」

「ようこそいらっしゃいました。隣がマーベル共和国の元首であるレイニー大統領です。俺は副官のレオン・デラ・オリガンです」


 大統領という肩書は初めて聞く言葉のようだが、元首であるといったことで国王と同一と認識してくれたようだ、慌てて席を立って騎士の礼を取っている。


「エクドラル王国のような大国ならいざ知らず、ようやく町の規模になったような国家ですから、町長と同じだと思ってください」


 レイニーさんが優しい声で言ったから騎士達が恐縮しているようだ。

 まあ、元首ではあるんだけどねぇ……、本人の言う通りあまり自覚してないんじゃないかな。


「おおよその話はティーナ殿から伺いました。俺が推測する魔族についてですね?」

「魔族は北よりやって来る。我等の常識では北の山脈を越えた場所に広大な魔族の王国があるということになる。確かに北からやって来て北へと去っていく。その言い伝えが示す通りではあるのだが……」


 疑問を持つことは良いことだ。その疑問に自答する形で状況を整理し、考察を重ねていくことが出来る。

 言い伝えをそのまま信じるのは構わないけど、それが自分達の暮らしに脅威ともなれば、単に信じるだけでは駄目だろう。その裏付けを取り対処しなければならない。


 ティーナさんに話したことを再度、この場で話すことにした。

 やって来た騎士の2人が俺の話をメモしている。後で報告書を作るのかな?


「なるほど、それほど早い内に魔族は1つでは無いと推測したということか……。しかも我等を使っての選別とは面白くないな」

「地下の王国ですか……。それなら、我等も暮らせるでしょう。でも食料が問題ですな。さすがにキノコだけを食べるというのは」


「俺の推測ですから、外れているかもしれません。でもかなり当たっているのではと考えています」

「トンネルを使った部隊移動だな。南の山麓部に穿ったならば、我等にその位置を探ることは至難の業になる。魔族と蔑んでいるが、案外我等と同じように策を練ることが出来る連中であることは間違いあるまい」


 魔族の穿ったトンネルが山裾ならまだしも、山深い場所にあるらしいからなぁ。

 レンジャーさえ近付かぬような場所ということで、グラムさんもおおよその位置は推測できるのだろう。

 そんな場所に王国軍を向かわせたなら、壊滅的な打撃を受けそうだ。

 陣は高い場所と言うぐらいだからね。まして魔族は俺達よりも体力がある。無いのはゴブリンぐらいだけど疲れ知らずに向かって来るんだから始末に負えないんだよなぁ。


「それで、調査結果はどうでした?」


 俺の言葉に、参謀と紹介されたヨゼフさんがバッグから分厚い資料を取り出した。3つある資料の1つを俺に方に手で押し出してくれたから、封を開いて資料をざっと目で追った。


「やはり、微妙に違いが出ていますね」

「沿岸の5つの王国に対する魔族の侵入時期と魔族軍の構成だ。戦力は1個大隊から多くても3個大隊。は王国軍では、西の尾根の戦のような一方的な蹂躙はできん。各王国ともかなりの被害を出している。我等エクドラル王国も然りだ」


「調査の目的が最初は理解できませんでしたが、各国に派遣した大使からの報告を基にその資料を作成しましたから実情と見て間違いは無いでしょう。ですが、その資料を見て、驚いたことも確かです。さすがはオリガン……、王子殿下が唸っていましたよ」

「これが沿岸王国の地図だ。5つ描いている。全て北のシュバレード山脈の南にあるのだが……」


 グラムさんが地図を取り出してテーブルに広げる。北の山脈が東西に示されているところに、各王国の東西の国境線を北に点線で描いている。

 なるほど、この地図で状況を確認していたということかな。


「部隊構成よりは魔族の種別ということだったな。それがこちらの地図になる。どうやら3つに区分できる様だ」


 同時期に2つの王国攻め込んでも、魔族の戦力が異なるのか……。魔族の種類が同じだということは、同じ魔族の王国ということになるのだろう。

 なるほどね。推定は正しかったようだな。


「王子殿下が是非とも隣に置きたいと言っておいでなのが良く分かりました。となるとその先についても当然考えておられるだろうと、我等がやって来た次第です」

「あまり良い話ではありませんよ。それに俺は魔族ではありませんから、まったくの的外れかもしれないということを前提にして頂くなら……」

「元より承知。中には、だからどうしたという輩もおったぐらいです。それが分かったとしても、戦を変えることにはならんでしょう。魔族の侵入は何としても食い止める。それは王国の使命でもありますからね」


 確かにそうだ。推測だけで戦は出来ないからなぁ。

 

「結論から言うと、俺達は滅びることになるかもしれません」

「何と!!」


 先ずは驚かせてやろう。俺の言葉を一言も逃すまいと耳を傾けていたから、かなり驚いているな。レイニーさんまでもが両手で口を押えて俺の方に体を向けたぐらいだ。


「そこまで推測したということか……。その結論に至った理由を説明をして欲しいのだが?」

「ここに来てからは、魔族を撃退するのではなく殲滅気味の戦を繰り返しています。ですが、ブリガンディの砦時代にはそのような戦をしていません。俺達の装備が今と比べてお粗末であったことも確かですが、大きな理由は戦力の違いです……」


 王国軍の基本編成は10人を1個分隊とし、1個小隊は4つの分隊を持っている。中隊は4つの小隊、大隊は4つの中隊になる。

 大隊は64分隊で640人になるんだが、別にバリスタ部隊や騎馬隊、偵察部隊などを大隊本部が持っているから、実際には800人ほどの兵士になるようだ。さらに兵站を支える軍属がいる。

 だが魔族の編成は10が基本だ。小隊規模が100体の魔族だし、中隊規模なら千体、大隊規模なら1万体になる。

 大隊で比較すればおよそ10倍だ。俺達よりひ弱なゴブリンが主体であるとは言え、奴らは疲れ知らずだからなぁ。


「戦は数と言われています。圧倒的な戦力差があれば策を弄せずに力攻めを行えば相手を壊滅させることは容易でしょう。俺達人間同士の戦であるなら1個大隊で5個大隊を相手にすることなど不可能です」

「だが魔族との戦力差はそれ以上だ。それでも魔族を撃退出来るのだから、我が王国軍の兵士はいずれも優秀な戦士揃いと言いたいところだが、相手が弱すぎるというのもあるようだ」

「戦力差を兵士の数だけで考えると、大きな間違いを犯しかねませんよ」


 戦力は兵士の数だけではないからな。兵士の数が基になることは確かだが、それに兵士の体力差と技量、武器の有効性、防具の有効性を加味しないといけない。

 まったく剣を使うことが出来ない少年達でも、石火矢を敵に向かって飛ばすことが出来るぐらいだ。石火矢が敵軍の中で炸裂したなら周囲の敵兵を数十人まとめて倒せるほどだ。兵士の数で優劣が定まらない状況になってきたということになる。


「爆弾に石火矢……、石火矢は我等の軍に無いが、爆弾を敵に向かって投射出来る。その威力に士官達まで驚く始末だ」

「マーベル国の爆弾の模造品ですが、効果は絶大でした。それらを効果的に使えば1個大隊に満たぬ戦力で魔族3個大隊を壊滅させたという話に頷くことが出来ますな」


 ようやく効果的な戦が出来るようになったことに満足しているのだろう。グラムさん達の顔に笑みが浮かんでいる。

 ナナちゃんがワインを入れたカップを俺達に渡して、さっさと外に出て行ってしまった。

 ここで話を聞いているよりは、養魚場で泳ぐ稚魚を眺めている方が面白いに違いない。

 ワインを一口飲んだところで、パイプに火を点ける。

 いよいよ本題だ。


「先ほどの調査資料を眺めて、やはりと思った次第。何を見てそう思ったのか分かりますか?」

「魔族の種族と攻め込んだ時期を鑑みて、魔族の王国がいくつかあると確信したのではなかったのか?」

「いや、レオン殿のこと。それぐらいは既に脳裏で確定していたのでしょう。あの資料でそれを確認したということでしょう。となると、我等が見過ごした調査結果があの中に書かれていたということになります」

「何度も読み返したが、今までの話以上のことは無かったはずだが?」


 やはり長年戦ってきたから、肝心なことに気が付いていないようだ。


「気が付きませんか……。どの戦いについても、最後の言葉は『追い返した』という言葉で表せます。勝利を得たという言葉もありますが、結果的には同じでしょう。1つも『壊滅』もしくは『殲滅』という言葉が無いんです」


 グラムさん達が、慌てて手元の資料を捲っている。

 最後に俺に顔を向けると……、「確かに」と言葉を発した。


「不思議な話だ。中には『魔族軍に大打撃を与えて……』と書かれているものもあるが、確かに殲滅や壊滅に繋がる言葉が無い」

「それでも性懲りもなく再び軍を進めてくるのです。まったく何を考えておるのやら」

「なぜそんな中途半端な戦をするかを考えてみましたか?」


 俺の言葉にグラムさん達が顔を見合わせる。

 魔族は単体であれば対処しやすい相手だが、集団を作ることで手強い相手になる。

 それでも、王国に侵入してくるのは自らの領土拡大の野望に照らし合わせると、厳しい北の暮らしから豊かな南の土地を狙う輩と見えても不思議ではない。


「魔族との戦はかなり昔から行われています。それなのに魔族はシュバレード山脈の南に領土を確保していないんです。たまに砦が攻略されることがあるようですが、その砦に火を放っただけで北に引き上げています。南の土地を確保するのであるなら、砦を自分達で使うのが一番に思えるのですが……」


 グラムさん達が、ジッと俺に顔を向けている。

 睨まれると、怖いんだけどなぁ……。


「不思議な話ですね。確かにありえない……、と思います。我等であれ場堅固な砦の攻略は、敵にも堅固になるわけですから、修理して軍を駐屯させるでしょう。確かにいくつかの砦が焼かれていますね。でも魔族は引き上げた……」

「まるで我等と戦をしたいだけにも思えてきたな。……っ! まさか!!」


 どうやら、俺の考えに辿り付いたようだ。


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