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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
229/384

E-228 南の見張り台の改造を始めよう


 雪が解けて泥濘が消えると畑に肥料の鋤き込みが始まる。

 いつもなら兵士達も手伝うのだが、今年は尾根の南の見張り台の改造があるからなあ……。

 荷馬車5台を使って、河原から砂利や砂を見張り台へと運んでいく。

 俺もボニールに乗ってエニル部隊の1個分隊と共に荷馬車の周辺を偵察することになった。

 見張り台にはヴァイスさん達がいるから、魔族の偵察部隊なら十分に撃退出来るだろう。

 片道2日の距離だけど、材料が無ければ改造も出来ないからなぁ。

 10回程運び終えた頃にガラハウさん達が来てくれるということなんだけど、まだ4回目だ。畑に肥料を鋤き込み終えたなら、開拓農家の連中も運ぶのを手伝ってくれるだろう。


「ボニールの曳く荷馬車だけでなく、荷車も用意しましょう。荷馬車の半分ほどは搭載できると思いますよ」


 野営の焚火を囲み、ワインを飲みながらそんな提案をエルドさんがしてくれる。

 1個分隊で1台なら大丈夫かな?

 1個小隊で運搬しているんだから4台は使えるだろう。積み荷を半分ほどにしても荷馬車2台分にはなりそうだ。

 それだけ資材の輸送量が増えれば、少しは工事が速まるかな。


「去年は静かでしたが、今年はリットン達も忙しくなるんじゃないですか」

「上手く誘導出来れば良いんだけどねぇ。途中で躓いたなら、死を覚悟しないといけないからなぁ」

「リットンなら大丈夫ですよ。どちらかと言うとエクドラル王国軍の方が心配です」


 エルドさんの言葉に、焚火を囲む連中から笑い声が上がる。

 向こうだって精鋭を出してくるんだからなぁ。ある意味、自分達が同盟軍に加われなかったことを笑ってごまかしているようにも思える。

 俺も行きたかったんだけど、レイニーさんに告げる前に断られてしまった。

 エルドさん達なら、次の派遣部隊としての機会はあるんだろう。何とも羨ましい限りだ。


「リットンさんの方よりも、俺達の方も準備をしておく必要がありますよ。昨年はエクドラル王国の本国領に魔族の大部隊が侵攻したようですし、更に西の王国でも魔族の侵攻があったらしいですからね」

「西の尾根に2個小隊を雪解けとともに派遣していますから、不意を突かれることは無いでしょう。監視と共に柵の修理と強化を行っているはずです」


「木製の柵だからなぁ。2度も戦があったんだから痛んでいることは確かだろうな」

「強化と言うと、柵を高くするんですか? 前回は乗り越えてきた魔族も多かったですからね」


 今度は西の尾根の防衛に話が移ったようだ。

 尾根に作った阻止線だから1ユーデほどの高さに石を積んで、その上に2ユーデの杭を並べて柵にしているのだが、できれば西の尾根も堅固な石造りにしたいところだ。

 尾根が急峻だからあまり土台になる石の防壁の奥行きを取れなかったこともあるし、何といっても早めに完成させる必要があったことも確かだ。

 既存の柵を少しずつ改造するしかないだろうが、そうなると工事資材の運搬に苦労しそうだ。

 尾根の南にある見張り台の周囲は平地だけど、尾根の城壁作りともなればあの急な坂を使って資材を運ばねばならない。

 工事期間を長く取ってゆっくりと進めるしかなさそうだな。


 雑談をしながらのんびりと工事資材を河原から運ぶのは、兵士にとっては良い気晴らしになるらしい。

 8回目の資材を見張り台に運んだ俺達を出迎えてくれたのは、ガラハウさん達ドワーフ族の連中と、次の資材運びを担当する部隊だった。


「まだ8回目ですよ。少し早いんじゃないですか?」

「ワシは縄張りをするまでじゃ。後は若い連中に任せるぞ」


 そんなことを言いながら一緒にやって来たドワーフ族を紹介してくれたんだけど、俺には皆同じ年代に見えるんだよなぁ。

 長命種族だからなんだろうか? ガラハウさんの話ではガラハウさんの半分の歳らしいんだけど……。


 大勢が集まると、早速酒盛りが始まる。

 ヴァイスさん達が周辺の見張りをするついでに仕留めて来たらしい鹿なんだけど、見張りよりも狩りに主眼が行ってないか心配になってしまう。


「たまに周囲を見てるから大丈夫にゃ」


 そんな恐ろしいことを平気で言ってるぐらいだからなぁ。


「ところで水脈はありましたか?」

「直ぐに見つけたにゃ。2つあったにゃ。ヴァイス姉さんが杭を打って赤い布を巻きつけてくれたにゃ」


 ナナちゃんの報告を聞いて、皆の顔に笑みが浮かんでいる。

 場所を詳しく聞いてみると、1つ目は見張り台の直ぐ近くらしい。もう1つは50ユーデ程東に離れているらしい。位置的には東西になるから同じ水脈ではなさそうだな。


「これで籠城戦も安心できますね。もっとも掘ってみないと、井戸として使えるかどうか分かりませんが」

「なら、明日から俺達で井戸を掘ろう。水が出れば川から運ぶ必要も無いからな。それだけ石を運べそうだ」


 ダレルさんの言葉に率いてきた小隊長が頷いている。

 その後の話で、俺達はもう1度資材運びをしてマーベルに戻ることになった。

 ヴァイスさんはちょっと物足りない顔をしているけど、散々狩りをしたんだから十分じゃないのかな?

 工事現場にだいぶ鹿の皮が枠に貼られている。食料事情に寄与してくれたんだから誰も文句は言わないけどね。


「次で戻るとなれば、川で釣りをしたいところですね。レイニーさんにもお土産に出来そうです」

「今度は私も行くにゃ!」


 魚が食べられると知ってナナちゃんが名乗りを上げる。

 ヴァイスさんも笑みを浮かべているところを見ると、獲物が少なかったら怒られそうだな。

 口は災いの元とは、よくいったものだ。

                ・

                ・

                ・

 何とかエルドさん達にも協力して貰って、200匹を超える魚を建設現場に運ぶことが出来た。

 10匹ほどをレイニーさんのお土産にして、残りは建設現場で皆と一緒に味わうことになったけど、焚火で炙る魚は酒の良い肴になるんだよなぁ。

 ガラハウさんが目を細めて焼きあがるのを待ち通しそうに眺めているぐらいだ。


「私達は次の交代まで、ここで周囲を見張るにゃ」

「あまり狩ると、トレムさんから恨まれるぞ」

「レンジャー達ならもっと北で活動してるにゃ。たまに会って情報交換をしてるにゃ」


 ヴァイスさんの言葉に思わずエルドさんと顔を見合わせてしまった。

 思い掛けない言葉を聞いたからなぁ。

 だけど次の瞬間、互いに苦笑いを浮かべる。

 情報交換は魔族と限ったことではなさそうだ。獲物の情報ってことだろう。最後に「魔族を見なかったか?」ぐらいは確認してくれたとは思うんだけどなぁ。


「今のところは問題ないにゃ。リットンも手持ち無沙汰してるに違いないにゃ」

「向こうは広範囲に移動してるんじゃないか? 次は俺の番だと良いだがなぁ……」


 エルドさんが残念そうな声を上げている。

 確かに面白そうでもあるし、やりがいもある。俺だって行きたいぐらいだ。


 予定数の10回には足りなかったが、翌日俺達はマーベル共和国へと向かう。

 荷馬車を置いてきたから、徒歩での移動だ。

 数頭のボニールには野営資材を乗せたから俺やナナちゃんも歩くことになる。

 途中で1泊して翌日の昼食後に、エルドさんの部下が予備のボニーに乗って先を目指していく。

 このまま進めば到着は夕暮れ時だ。数十人の兵士が食堂に向かうことになるから、事前に到着をエクドラさんに知らせておかないと夕食抜きになってしまう。


 東の楼門を潜った時には、すっかり辺りが暗くなっていた。

 エニル達にボニールを預けて、そのまま食堂に向かう。エニルの話では18時の鐘が鳴ってだいぶ経つらしい。俺達の夕食が残っているのかちょっと心配だな。


 早めに使者をエクドラさんに送ったことで俺達の夕食はしっかりと準備されていた。

 予定された作業を終えたということで、その場でワインのカップが追加されるほどだ。

 本当は1回足りないんだけどね。苦笑いを浮かべながらお姉さんからワインのカップを受け取る。


「明日は体を休ませて、明後日から訓練を開始します。魔族相手ではいくら訓練しても足りませんから」

「俺は、たまにしかやらないんだよなぁ。でも素振りだけは欠かさずにやってるんだけど……」


 エルドさんは真面目だからなあ。ヴァイスさんとは真逆なんだけど、結構仲が良い。

 ヴァイスさんの場合は……、狩りが訓練みたいなものかな?


 食事を終えると指揮所に向かう。結構疲れたんだろう、ナナちゃんが眠そうな目をしている。

 指揮所に入ると、レイニーさんに帰還の挨拶をしたところでナナちゃんは部屋に向かった。今夜はぐっすり眠れるはずだ。何といっても固い地面ではなくてベッドだからなぁ。


「上手い具合に水脈が見張り台の傍にありました。井戸を作りましたから川から水を運ばずに済みますよ」

「それは何よりです。リットン達も動きだしたようですね。当座は砦の北3コルム付近を東西に移動しながら魔族の監視を行うようです」


 砦を見ることが出来る範囲ということかな? 砦間の距離が離れているから、どれぐらいなら砦と通信が出来るのかを確認するためでもあるのだろう。

 エルドさんほどではないけど、リットンさんも慎重派だからなぁ。


「西の尾根からの監視と見張り台がありますから、魔族の不意打ちを未然に防止することは出来ますが、一昨年のような大軍ともなるといささか不安ではあります」

「人口は増えましたが、兵士の数は民兵を含めてどうにか1個大隊ですからね。マクランさんに民兵の数を増やせないかと相談はしているのですが……」


 席を立ったレイニーさんが、棚から取り出したカップにワインを注いで俺の前に置いてくれた。

 ありがたく受け取って1口飲むと、パイプに火を点ける。

 既に動いてくれていたか。場合によっては総動員を掛けることになるからなぁ。

 取り合えずは2個小隊ほどの増員が期待できれば十分だ。全員にクロスボウを持たせれば、尾根の阻止能力を格段に上げることが出来る。

 さすがに爆弾を持たせられないだろうが、それは軽装歩兵に任せれば良い。


「出来れば現状戦力での対応計画と2個小隊規模の増援時の対応、更に2個中隊規模の増援時の対応と、段階を追った動員体制を作った方が良いですね。さすがに総動員については概略検討ぐらいで止めておきたい所です」

「そこまでしますか! ……分かりました。エクドラル王国との協力もありますから従来とはかなり違ってきますね。違いが無いのは東門位です」


 その東門も少しは強化したいところだ。

 ブリガンディ王国が気になるのではなく、ブリガンディ王国に攻め入る魔族の方が気になる。

 魔族は俺達がブリガンディ王国と敵対関係にあることは知らないはずだ。

 攻め入った魔族が一番気にすることは、背後からの強襲だろう。それが可能な位置にマーベル共和国がある。


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