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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-225 家族で暮らす上での課題点


深い雪の中、俺達は温かな部屋で過ごす。

 楼門や尾根の見張り台で監視している兵士には申し訳ないけど、彼らも毛皮のマントに体を包んで小さなコンロで暖を取っているに違いない。

 深い雪の中を魔族が攻めて来るとは考えられないけれど、北の山脈にはいくつものトンネルが作られているからなぁ。

 マーベル共和国の近くはレンジャー達の探索では見つからなかったらしい。

 本当にないのか、巧妙に隠されているのか分からないが、大部隊の移動用であるならそれなりの大きさになるはずだ。

 レンジャー達で見つけられなかったとすると、存在するとしても先行偵察用の小さなものに違いない。

 そのトンネルを通って魔族の大部隊がやってくるというのは、あまりにも想像を超える話だ。


 さて、こんなものか……。

 見張り台の改造計画案の図が出来たところで、筆記用具を片付けながらパイプに火を点ける。

 そんな俺の様子を見たナナちゃんが、編み物をテーブルに置いてお茶の支度を始めた。

 レイニーさんも編み物を中断したようだ。

 ナナちゃんを手伝おうと腰を上げかけたけど、直ぐに腰を下ろしたからナナちゃんに任せようと考えたんだろうな。


「出来たんですか?」

「概略ですけどね。後はガラハウさんが修正してくれるでしょう。中庭が無い砦というのは見たことがありませんが、これなら早々魔族に蹂躙されることは無いと思いますよ。中に入らない限り、庭が無いとは思わないでしょうね。軍馬もボニールも見張り台には置きませんから、案外小さく出来ますね」


 散歩したいなら見張り台の周辺を歩けば良いだろうし、屋上が広いから、テーブルセットを置いてのんびりできるだろう。

テーブルは倒せば防壁に使えるからなぁ。1つだけでなく数個置いておいても良いんじゃないかな。


「食料と水の補給が欠かせませんね」

「一応、井戸を掘ってはみますが、水が出るかどうかは分かりませんからね。水樽を数個常備しておけば十分でしょう。雨が降ればそれを貯めることも出来そうです」

「上手く水脈に当たると良いですね」


 こればっかりはなぁ……。

 そういえば、かつて出城を築いた時に、ナナちゃんが棒を持って歩いていたな。

 あんなまじないじみた代物で水脈が見つかったんだから、今回もナナちゃんに頼んでみるか。

 井戸が見つかったら、井戸に合わせて見張り台の形を変えることになるだろうけど、まあ仕方がないところだな。

 別に長方形に拘っているわけでは無いからね。


「ナナちゃん。またナナちゃんの仕事が出来たよ」

「何をするのかにゃ?」

「尾根の南の見張り台で井戸を掘るんだ。前にも水脈を見付けたよね」


 笑みを浮かべて頷いてくれた。あの時はヴァイスさんも一緒だったから、今回も頼んでみよう。

 レイニーさんも安心したような顔をしているのは、前例を知っているからに違いない。

 井戸があるか否かで、籠城戦の士気がだいぶ違ってくる。

 固く扉を閉じておけば、10日程度は耐えてくれるに違いない。

               ・

               ・

               ・

 新たな年を迎えると、とりあえずは皆でいつもより贅沢な食事を取る。

 昼食が豪華なのは良いんだけど、皆がたっぷり酒を飲んでいるんだよなぁ。

 夕食は、案外さっぱりしたものになるんじゃないか?

 ひょっとしたら、夕食がなかったりして……。

 小さな鍋を用意するように言われたのが気になるところだ。

 俺とレイニーさんそれにナナちゃんの3人分のスープが入る鍋をバッグに入れてはあるんだが、『ご馳走のあまりを持ち帰れ!』ということかもしれないな。


 酔いつぶれる前に食堂を後にする。

 帰る時に、食堂の小母さんが具沢山のスープとパンを渡してくれた。

 いつもならライムギパンなんだけど、今日は小麦のパンらしい。バターをたっぷりと使ったと教えてくれたから、今夜もご馳走が続いてしまう。


 指揮所に戻ったところで、鍋を暖炉近くに置いておく。パンはバッグから出して木皿に載せた。

 レイニーさんはまだ戻ってこないようだ。火が消えかけた暖炉に薪を放り込んで部屋を暖める。

 防寒用のマントはもうしばらく着ていよう。出掛ける前に薪を放り込んでおいたんだが、火が弱まると直ぐに室温が下がってしまうんだよなぁ。


 家族単位で住む家の間取りは6ユーデ四方の部屋が2つに大きなリビング兼食堂兼作業部屋が1つということだった。指揮所よりも2周り程小さいと言っていたけど、ロフトまで作るらしい。

 子供部屋には丁度良いとエルドさんが言ってたな。

 大きなリビングになったのは、冬場の内職を行う為らしい。

 編み物ならそれほど場所を取らないけど、木工や蔦を編むような仕事となるとやはり場所を取るようだ。

 部屋が大きいと暖かくないんじゃないかと聞いてみたら、今住んでいる長屋よりも隙間風を無くすとも言っていたけど、できれば既存の長屋も何とかして欲しい。

 俺達の部屋も隙間風が気になるんだよなぁ。木をトンカチで叩いて繊維の塊にしたものを隙間に詰め込んでいるんだが、まだまだ塞ぎきれないようだ。


「そういえば、稚魚は順調に育っているの?」

「うん。まだまだ小さいけど、争って餌を食べてるにゃ。この間、マクランお爺さんが遊びに来たにゃ。貯水池で魚を育てたいと言ってたにゃ」


 確かに今は何も住んでいないからなぁ。だが、養魚池と違って上流域で育つ魚は無理かもしれない。中流域で育つ魚を手に入れれば何とか育てられるんじゃないかな。

 中流域に住む魚の産卵時期は確か春だったと思う。

 浅場の水草に卵を産むと本で読んだことがあるから、エルドさん達が今年の砂鉄採取を行う時に調べて貰おうかな。

 卵が付いた水草を桶に入れて貯水池に投げ込めば、案外育つんじゃないか?

 もし今年が上手く行かなければ、孵化した後に放流してみよう。

 結構大きな池だからなぁ。数年も過ぎれば釣りを楽しめそうだ。

 貯水池ではあるけど、干ばつが来なければただの池だからなぁ。

 有効に使ってみよう。


 一服を終えようとする頃、レイニーさんが少し顔を赤くして戻ってきた。

 勧められるままに飲んでいたのかな?

 少し横になると言って部屋に入って行ったから、夕食はレイニーさんが目を覚ましてからにしよう。

 ナナちゃんと一緒に暖炉の傍で、一仕事。

 俺は大砲の改良をもう少し考えてみよう。ナナちゃんはちょっと小さなセーターを編んでいる。赤い色のセーターだから、女の子にあげるのかもしれない。

 自分のセーターを編むことはしないようだ。去年マリアンが編んでくれたのを着ている。古いセーターは解いて靴下を編むと言っていたけど、靴下が編み終わる頃には冬が終わってしまう気がするな。


 すっかり日が落ちた頃に、レイニーさんが部屋から出てきた。

 顔を洗って来ると、ナナちゃんからお茶のカップを受け取り美味しそうに飲んでいる。

 俺達も仕事を中断してお茶を頂く。

 まだお腹が空かないんだよなぁ。夕食は夜食になりそうだ。


「今年は色々と仕事がありますね。しっかり管理しないと来年に持ち越してしまいそうです」

「優先順位はきちんとしておいた方が良いですよ。尾根の南の見張り台の改造と、一戸建ての住宅を尾根の集落とこの街の中間地帯に設ける。この2つをしっかりと行えば、後は年を越しても良いように思えます」


「これで町が1つに村が2つになりますね」

「オリガン領とおなじですね。どうにか貴族並みの領地を得たということになるんでしょうが、多くの貴族は領地経営を代官に任せきりで税金だけを領地から巻き上げているようです。まあ、それでも良いんでしょうけど、税金を全て自分達で使うのは考えてしまいますね。父上は税金の三分の一をオリガン家に維持に使い、三分の二は住民の福祉に使っていました」


 下層民への救済は教会の神官に任せていたようだけどね。その外には、橋の修理や道の整備、漁港の整備などに還元していたらしい。

 そういえば、飢饉対策だと言って、町や村に食糧庫を1つ作っていたな。3か月ほどの食料だと聞いたことがあるけど、毎年中身を交換して、古い食料は貧民に分け与えていたようだ。

 そんな領地経営をしていたから、オリガン家の館は石造りではなく木造なんだよなぁ。

 

「共和国の住民の収入は、自分達で得た収入というわけではありません。全てをエクドラさんのところに集めて、働きに応じて一定金額を年に3回配布しています。これをそろそろ改める時期なのかもしれませんね」

「働いただけ収入が得られるということですね。となると大きな問題が出てくるのですが……」


 貧富の差が生まれてしまう。

 生産職よりは加工職の方が給料は高いだろうし、更に商人は大きな収益を得ることだってできるはずだ。

 その格差をなるべく小さくしたいが、そうなるとやる気が起きない可能性だってあるんだよなぁ。

 現行で大きな利潤を生む工房は国の管理として、それ以外を一般に開放することになるのだろうか?

 さらに税金についても考えねばならない。

 貧富の差を軽減するためには収入に応じて税率を変えるのが一番だ。

 毎日の食事をするのがやっとの収入しかない者達に税を課したらひもじい思いをしなければならないだろうし、大きな収入があるのに低額の税では貧富の差が開くばかりになる。

 収入額によって税率を変えるのは面倒だが何とか導入したいところだな。あまり収入が無い時には多く取った税から分配してあげるのも良いだろう。

 となると……、平均的な家族が暮らすために必要な金額はいくらか? という問の答えが欲しいところだ。

 それが共和国の税の基準になる。それ以上の収入に対して税を累進課税すれば貧富の差が大きくなることは無いだろう。目安としては3倍以内に抑えたいところだな。


「家族単位で暮らすというのは、中々難しいことになるかもしれませんよ」

「ここに来る前は皆がそうやって暮らしていたはずですから、それほど難しいことにはならないと思うんですけど……」


 メモを作りながら、いかにして彼らの収入のバランスを取るかについて説明する。

 メモは、そのままエクドラさんに渡せば良いだろう。

 国会で議論して住民の代表者も納得してくれる形にすればいい。

 出来れば税は無くしたいところではあるんだが、戦が続くからなぁ。武器や火薬は高価な品だ。

 国営工房で収入を得てはいるけど、それだっていつまで国営とはいかないだろうからなぁ。

 予算管理はあまり健全ではないところもあるけど、少しずつ帳簿に乗るようにしていけば良い。

 裏取り引きはなるべく減らしたいところだな。


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