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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-223 雪が降ってきた


 母上達がティーナさん達と一緒に旧王都に向かって10日が過ぎたころ、マーベル共和国に初雪が降った。

 まだ積もるまでにはいかないけど、ナナちゃんは目を輝かせて飛び出して行ったから暖炉に薪を追加して待っていよう。

 きっと凍えて帰ってくるに違いないからね。


「子供は元気ですね」

「ナナちゃんと一緒になってから10年近い月日が流れています。子供時代はとっくに過ぎているんですけど、あまり大きくならないんですよねぇ」

「見た目はネコ族の少女ですけど、ケットシーでは仕方がありません。ナナちゃんがケットシー種族唯一の生き残りなんですよね……」


 同族がいないというのも寂しい話だ。

 ナナちゃんがこの世を去ったなら、ケットシーという種族は昔話の中にしか出てこなくなってしまいそうだ。

 だけど、本当にナナちゃんが唯一の生存者なんだろうか? 

 女神様の話では魔族によって村が殲滅されたということだけど、村から誰も外に出ていないということがあり得るのだろうか?

 マーベル共和国を去る時には、ナナちゃんの住んでいた村を訪ねてみよう。

 廃村になっているかもしれないけど、誰かが戻って住んでいる可能性だってあるからね。


「ステンドグラスの次の制作依頼があったそうですけど?」

「エクドラル王国の王宮からと王子様からの依頼がありました。将来的にマーベル共和国以外でも作れるでしょうけど、今のところは良い収入になりそうです。本国からは謁見の間の玉座の背後を飾る品、王子様からは土の神殿用の品になります。工房の連中が喜んでましたよ。新たに数人を雇うことになるようです。エディンさんからも注文があったのですが、そっちはそれほど大きな品ではありません」


 大型ステンドグラスを作る工房以外に小さなステンドグラスを作る工房もこの冬にできそうだ。

 毎月1つの依頼品ぐらいは何とか出来るんじゃないかな。

 さすがに小さな工房の方はナナちゃんに原図を描いて貰うのは無理だと思うから、美的感覚に優れた子供をフレーンさんに紹介してもらおう。

 大人よりも子供の方が良い原画を描いてくれるに違いない。


「新たな工房まで考えると、20人ほどの職場を作れそうです。とはいっても、まだまだ職を求める者は多いですからね。ガラハウさんが単純な金属加工まで含めた武器工房を考えているようです」

「簡単というと……、剣は無理でも鏃ぐらいは作るということでしょうか?」

「金属の板を筒にするぐらいはドワーフ族でなくとも出来ると言ってましたよ。矢と石火矢の筒を作るぐらいは外部に任せようとガラハウさんなりに考えたようです」


 火薬と最終組み立てはドワーフ族の工房ということになるんだろうが、部材の一部を作って貰えるなら今までよりも作る数を増やせそうだ。

 ティーナさんがマーベル共和国を去っている今なら、石火矢の発射訓練も出来るだろう。冬の間に数十発が訓練で使われるに違いない。


「毛糸を作る工房をマクランさんが作ったみたいですから、毛糸を買わずに編み物製品を売ることができます。開拓農家の収入が少しは増えるかもしれませんね」

「自給自足が出来ればそれに越したことはないんですが、ある程度は仕入れても良さそうです。それによって行商人がマーベル共和国を訪れる機会が増えますし、酒場でしてくれるエクドラル王国の状況も俺達にとっては大事な情報源ですからね」


 酒を飲みながら語ってくれる話を鵜吞みには出来ないけど、そんな話を複数から聞き取ることである程度信ぴょう性の高い情報を得ることが出来る。

 ティーナさんやエディンさん達が教えてくれる情報だけでは偏ってしまいかねない。

 かなり誇張されているようだけど、酒の上の話だと思えばエクドラル王国の統治にどんな問題があるのかを知るぐらいに考えておけば十分だ。


「衣服の工房も作る計画があるようですが?」

「まだ布を織ることまでは出来ませんが、布を切断して縫うぐらいなら私達でも十分にできますよ。村では晴れ着以外は皆自分達で作るぐらいですからね。とはいえ中には上手くできない人もいますし、忙しくて縫えない人だっています。衣服を自分で作るよりはセーターを編んで得たお金で衣服を買うという人だっているんですよ」


 案外レイニーさんがその1人なんじゃないかな。

 針仕事をしているところは見たことが無いけど、編み物は砦時代から行っていたからなぁ。

 そんなレイニーさんにナナちゃんが教えを受けたから、俺の冬場のセーターや手袋はナナちゃんが作ってくれたものだ。

 昨年は別の色の毛糸で模様まで編み込んでくれたからね。

 数年後には、編み物だけで暮らしていけるんじゃないかな?


「皆色々と忙しそうですけど、俺は元来不器用ですから……」

「レオンはこの国を守ることを考えてください。それが出来るのはレオンだけなんですから」


 編み物の手を止めて、俺に顔を向けながらしっかりとした口調で話してくれた。

 それぐらいしか出来ないからなぁ……。

 だけど、なんとなく俺だけさぼっているように自分でも思えるんだよね。

 他の連中が働き者揃いだということかな?

 良く働きよく遊ぶ……。俺の場合は指揮所で頭を抱えていることしか出来ないんだよなぁ……。


 バタンと扉が開き、ナナちゃんが飛び込んできた。

 暖炉の前に腰を下ろして両手を温めている。

 笑みを浮かべたレイニーさんが、ナナちゃんの濡れた髪を布で拭いてあげている。

 歳の離れた妹というより、母親と子供に見えるな。


「雪が降る日に外に行くときには、ちゃんと帽子を被っていくのよ。毛糸の帽子を編んだでしょう? あれなら耳まで隠れるから暖かいわよ」

「忘れてたにゃ。耳が凍るかと思ったにゃ」


 そこまでして、外ではしゃぎまわらなくても良いと思うんだけどなぁ。

 ナナちゃんが1人でいたとは思えないから、他の家でも同じように母親から注意されている子供達がいるに違いない。


「ナナちゃんの仕事は一段落したの?」

「お絵描きは終わったにゃ。渡してきたから今度は編み物をするにゃ」


 原図を描き終わったということかな。

 それなら後は工房の仕事になる。問題が出て来たなら俺の方にやってくるんだろうけど、今では立派な職人になっているからなぁ。指導というよりごまかし方を教えることになりそうだ。


 初雪が降って数日が過ぎると、すっかり根雪が積もり始めた。

 通りの雪かきをして集めた雪は中央広場の南に集めると、子供達のソリ遊びのコースを作るのは例年通りになる。

 兵士だけでなく住民もこぞっての作業だから結構長いコースが出来るんだよね。

 緩急2つのコースが出来ると、早速子供達がソリを持って集まってくる。

 はしゃぐ子供達を眺めながら、カマクラの中で大人達がホットワインを楽しんでいる。隣に2つある小ぶりのカマクラが子供達の専用らしい。

 カマクラの中には、小さなバケツに見えるコンロには炭火があるから結構暖かい。

 子供達はお菓子を焼いているようだけど、大人達は干し魚や干し肉を炙っているようだ。

 まったくどちらが子供か分からないんだよなぁ。

 エクドラさんが大人達に差し入れを持って来てくれたようだけど、帰る時には呆れた表情をしていたぐらいだからね。


 散歩を終えて指揮所に戻ると、尾根の南の見張り台の改造案を考える。

 現在の見張り台は3階建ての塔だけなんだが、その周囲は低い丸太塀で囲んであるだけだ。

 さすがに丸太塀では問題が出てきそうだから、石垣を積み上げたいところだな。

 出来れば、石垣の高さで屋根を作り、その下を倉庫と屯所にすることも出来るんじゃないか?

 通風と明り取りの窓ぐらいは設けないといけないだろうが、それほど大きくなくても良いだろう三分の一ユーデほどなら小柄なゴブリンでさえ入ることは出来ないだろう。念の為に十字に鉄の棒を挟み込んでおけばさらに安心できるはずだ……。

 尾根の石垣作りを参考に出来そうだな。

 石垣の幅に板を両側に立てて、その間に石を投げ込んで焼いた石灰岩と粘土を水で練り込んで流し込む。

 通風や明かり取りの窓は素焼きの筒を埋め込んでおけば良い。10日も経ってから押えていた板を外せば立派な石壁になるはずだ。

 見張り台の基部が10ユーデ四方だからなぁ……。それを囲む石垣の大きさは東西20ユーデ、南北30ユーデほどにするか。

 南に長く取って、北西の見張り台は西の壁と一体化しても良いだろう。1階が丸々使えるから、1個小隊は余裕で暮らせるはずだ。

 天井が高いのは屋上の高さを5ユーデほどにするためだ。近くに森が無いから攻め込むためのハシゴを用意しなければならない。擁壁の高さを肩ほどにして、盾を使って簡単な屋根を作れば敵の矢を防ぐことも容易だろう。

 擁壁には矢狭間は作らずに、腰ほどの高さに3イルムほどの穴を開ける。

 守るのが軽装歩兵なら、クロスボウを使って貰おう。至近距離では1発で相手を倒せるからね。

 東側に石組みの小屋を作るが、これは下から石火矢を引き上げるための小屋だ。

 通常型と小型の石火矢をたっぷりと用意して上げよう。

 移動式の柵を使った発射台なら、1度に10発以上放てるだろう。さらに近付けば爆弾を使うことも出来る。

 白兵戦に持ち込まれる前に下に下りて出入り口を閉ざせば、早々に陥落することは無い。

 屋上に向かって、見張り台から爆弾を投げることが出来るから、屋上への出入り口を破って中に入るのはかなり困難になるはずだ。

 

 基本はこんな感じかな?

 後で皆に批評して貰おう。メモをまとめて簡単な図面を描く。

 暖炉の火でパイプに火を点けると、扉を開けて外に出た。

 指揮所に戻ってくるときには降っていなかった雪が、また降り始めた。

 今夜も積もりそうだな。


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