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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
222/384

E-221 銃と大砲の改良は秘密にしておこう


 エディンさん達の乗る荷馬車の列の後に、リットンさん達が整然とボニールを2列に並べて続いている。小型石火矢を乗せた荷馬車は5台のはずだったが、6台を運んでいるのは1台が予備ということだろう。石火矢を積まずに野営用の荷物を積んでいるようだ。いざとなれば1台が脱落しても落伍者を出さずぬ済むだろうというガラハウさんの気配りに違いない。

 普段は頑固爺さんそのものだし、大酒飲みなんだけどねぇ。マーベル共和国を大切に思う気持ちはだれにも負けないってことだろうな。

 

 姿が見えなくなるまでナナちゃんと見送っていたんだけど、とうとうなだらかな丘の向こうに姿が消えてしまった。

 この冬は何もないとは思うんだけど、来春になれば色々と忙しくなりそうだ。

 全員無事にマーベル共和国に帰って来れるようリットンさん達が消えた丘に向かって頭を下げる。


「寒くなってきたにゃ。下に下りるにゃ」

「そうだね。先に行ってくれないか? エニルと話をしてから戻るから」

「それなら一緒に行くにゃ」


 エニル達の屯所は東の楼門の直ぐ西にある……、というよりも楼門に組み込まれているといった方が良いのかな。

 楼門と繋がって石造りだから、中で火を焚けば結構暖かい。とはいっても中は待機所のほかに部屋が2つだけだし、その1つはエニルとエニルの副官が住んでいるぐらいだからなぁ。中で暮らせるのは1個分隊ほどだ。

 その分、待機所は広くなっているから詰めれば1個小隊が入れるほどだ。

 他の連中は、城壁の裏の斜面下にある通りを挟んだ向かい側のログハウスで暮らしている。こっちは結構大きいから1個小隊以上の兵士が住むことが出来る。

 

 待機所の扉を開けると、エニル達数人が暖炉傍のテーブルに座っていた。

 俺達を見て全員が立ち上がり騎士の礼を取る。

 軽く片手を胸に当てて答礼を済ませると、エニルがテーブル越しの席を勧めてくれた。先に座っていた兵士達が近くにあったベンチを移動している。

 

「済まないね。ちょっと寄ってみたんだが……」

「リットン達の見送りですね。ご苦労様です。今回は全員が弓兵でしたが、私達が変わることはあるのでしょうか?」


 問い掛けてきたけど、エニルだけでなくその場にいた兵士達が興味深々で俺に顔を向けている。

 行きたいのかな? だけど、エニル達が出掛けるとなると色々と不都合が出てくるんだよなぁ。


「残念だけど、エニル達を出すことは出来ないよ。マーベル共和国の防衛に関わる兵種の中でエニル達は特別な存在だ。何と言っても銃兵だからねぇ」


 王国軍にも銃を持つ兵士は存在するが、使っている銃は前装式で弾丸と火薬がセットになったカートリッジを使っても、数発撃てば銃身後部のネジを外して銃身内部を掃除しなければならない。

 魔法を使って行うことも出来るけど、銃兵の多くが獣人族だから魔法を使えてもその頻度は少ないのが実情だ。せいぜい1、2回といったところだろう。

 それに魔法を使って銃身内部の掃除を行なっても、銃身内部の徐熱が出来ない。

 打つ度毎に銃身内部の温度が上がってしまうから、カートリッジが銃身内の熱で暴発してしまう可能性が出てくる。

 数発撃ったところで銃身内部の掃除するという作業が出てくるから、軍もクロスボウよりも強力な兵器であることは認めていても、積極的に使うことはしていない。

 軽装歩兵が槍を使う前に2、3発敵に向かって放つぐらいを考えているようだ。銃兵という兵種をきちんと組み込んだ戦術が出来ていないんだよね。

 そういう意味では、エニルの部隊は特殊も良いところだ。


「私達の存在があまり表に出るのはよろしくないと?」

「端的に言えばそうなる。使う銃が特殊だからね。従来の銃と比べて格段に飛ぶし命中率も良いだろう。それに何と言っても10発以上撃っても銃身内部の掃除をしないで済むし、カートリッジの装填も格段に速いからね。その存在を知られたくはない」


 後装式の銃は銃身後部に設けたボルト操作でカートリッジを銃身内に装填することが出来る。おかげで伏せたままでも体を起こすことなく射撃が続けられる。銃身内に刻んだ溝によって発射された弾丸が回転するから遠くまで飛ぶし、狙いもあまり狂うことが無い。

 100ユーデ程なら、エニル達は確実に命中させられるだろうし、200ユーデ先でも2割程度の命中率を誇るんだからね。

 そんな銃を持っているんだけど、王国軍と同じ銃もある程度所持している。

 行軍や屯所のラックに飾っている銃はそんな品だから、ティーナさんもエニル達の腕が良いぐらいに思っているに違いない。

 それに……、大砲の存在もある。

 ガラハウさんが構成する部品を知り合いの工房に頼んでいるらしいが、それが一体何なのかは作っている工房長すら分からないだろうな。

 後装式の2イルム40口径(砲弾直径50mm、砲身長2m)の大砲だ。これがどれほどの性能になるかでフイフイ砲が無くなる可能性も出てくる。

 先ずは1台を組み上げて、この冬場に試射してみたいところだ。


「それに、何とかこの冬に大砲が出来上がる。既存の大砲はそのまま使うとして、新たな大砲の威力をエニルに試してもらいたい」

「やはり白兵戦用ですか?」

「いや、フイフイ砲の替わりだ。とはいえフイフイ砲は残しておくよ。あれが存在するだけでそれなりの威圧感はあるし、住民たちの安心感もあるからね」


 腕木をセットするだけで10人以上の人間が必要なんだよなぁ。

 おかげで住民達が頑張ってくれるんだけど、あれって俺達も参加しているっていう思いがあるんだろうな。連帯感を持てるということになるんだろう。

 それなら、残しておいても問題はない。何と言っても300ユーデ以上の距離に爆弾を降らせることができるんだから。


「砲弾の直径が2イルムではあまり威力が無いように思えますが?」

「フイフイ砲よりも狙いは正確だし、飛距離は数コルムを越えるはずだ。敵の攻城兵器をフイフイ砲より先に破壊できる。対人兵器として用いるには砲弾の開発を進めないといけないんだが、当座は攻城兵器対策として用いるつもりだ」


 機動部隊に持たせたい気もするけど、止めておこう。

 だけど移動を考えると、あまり砲弾を大きく出来ないんだよなぁ。


「城門の大砲は現状通りということですね。それなら安心できます」

「今のところ、3つの城門だけだけど、東と尾根にも使いたいね。さらに改良したいけどそれは大砲の次になりそうだな」


 エニルが首を傾げたのは、大砲ではない大砲? という俺の言葉の裏を気にしてのこ

とだろう。

 散弾をばらまくだけなら大砲の形を取らなく手も良いはずだ。俺のもう1つの記憶に、

そんな兵器の存在があるのだが、原理と効果が良く分からない。それにそんなことで押し寄せてきた敵を倒せるのかという疑問すらある。

 その内に関連した記憶が浮かんでこないとも限らない。冬は長いんだからね。ゆっくりと考えて行こう。


「それで、新型の長銃用のカートリッジは十足してるのかな?」

「各自に20発。予備は200発程です。従来型のカートリッジは千発程ありますから、十分に思えます。強いて言うなら、砲弾が足りません。十数発というところでしょうか」


 散弾銃を大型化したような大砲は各城門に1門ずつ備えてある。前装式だからなぁ。敵が押し寄せてきた時だけに使う感じだから、とりあえずは問題ないだろう。


「考えておくよ」とエリるに伝えたところで、指揮所に戻ることにした。

 指揮所にはレイニーさんだけだ。

 エディンさんが色々と運んできてくれたから、店や酒場は賑わっているのだろう。

 俺達にお茶のカップを運び終えると、ナナちゃんが指揮所を出て行ったのは、雑貨屋にでも出掛けたに違いない。

 急いで出て行ったナナちゃんの後ろ姿を、レイニーさんが笑みを浮かべて見ていた。


「女の子ですから、新たな商品が来てないか確認しに行ったんでしょうね」

「あまり変わり映えしない品ばかりだと思うんですけど?」

「行商人達が専用の棚を雑貨屋に設けているみたいですよ。儲けの2割が雑貨屋に渡されるらしいです」


 売れ筋を確認する感じなのかな?

 行商人と言えど立派な商人だからなぁ。商売がうまく行って。町屋村で雑貨屋を開けるように努力しているのだろう。


「冬になってティーナさんが旧王都に戻る時に、母上と姉上が同行するそうです。姉上の婿探しということになるんでしょうが、ある程度はエクドラル王国が人選してくれるでしょう」

「良い相手が見つかると良いですね。私は諦めました。老後はヴァイス達と一緒に暮らそうと思っていたのですが……」


 言葉が途切れた。

 まさか、結婚相手を見つけたってことか?

 パイプに火を点けようとしていた手を休めて、レイニーさんに顔を向ける。


「養子を取ろうかと考えてます。ブリガンディの獣人狩りで家族を亡くした子供達がいると聞いたものですから」

「なるほど……。ナナちゃんの友達が出来るということですね。となると、養子を欲しがる兵士は多いんじゃありませんか?」

「今のところ、十数人というところです。中には2人で育てるなんて人もいますから、子供達の負担にならないように連れて来てほしいとオビールさんに頼もうかと思っています」


 さすがに雪の中を連れて来るとは思えないから、来春以降になりそうだな。

 今までは家族で移住してきたけど、今度は子供達か……。

 どのように育てるかは養い親となる兵士に任せることになるけど、立派な人間に育てて欲しいな。


「今回の荷物の中にもたくさんの火薬と肥料があったと聞きました。まだまだ石火矢や爆弾を作るんですか?」

「前にも話しましたが、魔族相手の戦では多用してしまいます。もう1度同規模の魔族が攻めて来ても安心できるほどの量を確保したいところです」


 使い勝手が良いから多用してしまうのも問題だけど、使わなければ白兵戦になってしまいそうだ。

 爆弾を出し惜しみして戦死者を出すなど、本末転倒だからね。

 出来れば、長剣が届く前に魔族を倒していきたいところだ。


「問題はリットンさんの穴をどうやって塞ぐかですね」

「ヴァイスはクロスボウ部隊を1個小隊マクランさんの部隊から移動すると言ってましたよ」


 弓兵の抜けた穴はクロスボウで塞ぐのか……。もっとも、クロスボウを使わせるよりは石火矢を任せるんじゃないかな。

 とはいえ、同じ遠方攻撃が可能な部隊だから、ヴァイスさんの考えは分からなくもない。

 それなりに部隊運用も考えたんだろうから、次の魔族との戦いが楽しみだな。


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