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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-022 早めに移動した方が良さそうだ


 南の砦の様子を見に向かった分隊を見送ったところで、小隊長達を指揮所に集める。

 砦を逃げ出すと簡単に言うけれど、色々な準備も必要だから上手く役割分担を決めねばならない。

 それに、家族の元に帰ろうとする兵士だっているだろう。

 帰った里がどんな事態になっているのか想像すらできないが、無事に家族に会えたなら家族と一緒に行動することも1つの選択肢ではある。


「もしも、南の砦に誰もいないとなれば、皆の家族が無事だという保証はどこにもない。出掛けた連中に近くの開拓村の様子を探ってくれるように頼んでいるが、たぶん開拓を行っていた獣人族は惨殺されている可能性が高い。

 魔族による襲撃を受けたと王宮には報告するだろうが、実質は人間族に耕地を明け渡すためだ。

 町や王都なら、獣人族への迫害は起きてはいるだろうが、その場で殺すことまでには至っていないはずだ。

 もし、家族の元に帰るなら今の内だぞ。上手く家族に会えたなら、隣国に逃げればとりあえずは安心だ。少なくともこんな状況はこの王国だけだろう」


 重い空気が指揮所に漂う。

 何も言わないけれど、親兄弟を考えているに違いない。


「そこまでするでしょうか? まだ私達は、この砦にいるんですよ?」


「いるからこそだ。近くの部隊から獣人族を新たな砦に送り出している。後ろで起こっていることを見せないと同時に、あわよくば俺達の働きで魔族の襲撃を低減できると踏んでるんだろう。

 冬に訪れた商人は、かつてのように手伝いを獣人族とせずに人間族の少年を連れていた。国境の関所で獣人族の入国を拒んだらしい。既にそこまで事態は進展している」


「そうなると、王都や町からも追い出されている可能性が高いということになるでしょうね……。全く人間族ときたら! ……いや、レオンさんを悪く言うつもりはありませんよ」


 罵りながら追い出してくれた方が遥かに楽なんだが……。

 ここまで一緒に暮らしてたからなぁ。落ちこぼれと揶揄されることもないし、皆も親切にしてくれる。

 そんな俺達の王国の中で選民思想が生まれるんだから困ったものだ。

 差別感を持つのは個人の自由だ。だが王国内にはもともと種族間の垣根はそれほどなかったように思える。王国内の法律も基本的には種族の違いによる罪の高低は無かったはずだ。あるとすれば地位による差別があったように思えるぐらいだな。平民と貴族では貴族の言い分が通るらしいからね。

 

 だが、今回は全く事態が異なる。人間族のみの王国が前提になり、他種族を認めることが無いようだ。

 よくもこんな事態を教団が黙って見過ごすのか不思議でならない。


 待てよ……。教団内で何かあったのだろうか?

 狂信者が教団の指導的地位に着いたら、神の教えとして民衆を洗脳しかねない。

 さすがに義を尊ぶ連中は苦言を言い出すだろうけど、場合によっては異端者扱いになりかねないな。


「それで、次はどうします?」

「ん! 俺の考えで良いのか? ある程度は皆に考えて欲しいんだけど……」


「それができるなら、こんな場所にいませんよ。学が無いのが俺達の共通点ですからねぇ。レオンさんがこの場から離れるならそれでも良いという理由も分かりました。

 連中が帰ってきたら、それを元に考えたいところですが、元々俺達は口減らしで家を出たような連中です。家族も大切ではありますが……」

「戻っても行く場所がありません。隣国に逃げても盗賊になるぐらいが良いところでしょう。たぶん半数以上は残ると思います。私もそうですから……」


 レイニーさんも口減らしの口か……。


「それなら、皆に手伝って欲しい。やることは色々だ。冬が直ぐにやって来る。ぐずぐずしていると、冬が俺達を殺しに来る。先ずはいくつかの部隊を作りたい。先行部隊、本隊、それと偵察部隊の3つだ。先行部隊は……」


 メモを取り出してそれぞれの部隊の役目を伝える。

 先行部隊は、移動先である川の上流に向かい俺達の暮らす場所を確保する仕事になる。

 本隊の移動は荷車も使うから荷車が通れる場所を見付けないといけない。更には仮小屋の設営と簡単な柵の設置も必要だ。

 偵察部隊の仕事は3つ。この砦にやって来た商人の内、黄色の旗を掲げる荷馬車を見付けて、食料を購入すること。やって来た商人の中では信用できそうな人物だが、さすがにこの王国に来るのは難しいだろうが川の西で受け取れるようする。

 2つ目は、南の砦を放棄した連中が向かった先の調査になる。たぶんさらに南に砦を作っていると思うんだが、確認しておく必要があるだろう。

 最後は、開拓村を追い出された村人の保護になる。俺達も逃げ出すが、路頭に迷っているような開拓民を見付けたなら俺達で保護してあげたい。それに、彼等の開拓の技術は俺達にとっても役に立つだろう。


「砦に向かった連中は、俺の分隊です。偵察部隊は俺の小隊に任せてください」

「先行部隊と言っても場所が分からないような連中に務まるとは思えません。先行部隊は私の小隊が向かいます」


 エルドさんが名乗りを上げた。すぐにダレルさんが先行部隊に名乗りを上げる。ダレルさんの小隊は6個分隊だから、簡単なログハウスを作ってくれそうだな。


 残った小隊が、本隊になる。

 本隊の内1個小隊は、先に川を渡って荷物の番をすることになりそうだ。

 船が3艘あるから、ゆっくりと荷を送って行こう。


「食料の移動は荷車ということですが、3台で足りますか?」

「車輪が3つあるから、もう1台は工房に作って貰えるんじゃないかな。それに乗り切らない荷物が何になるのかも考えないといけないね」


 何時でも逃げ出せるようにと、荷作りが始まる。

 とりあえずあまり使わない物から、川を渡せば良いだろう。


 翌日の夕暮れ近く、荷車が数台砦に向かって来ると知らせを受けた。

どうやら、砦の様子を見に出かけた分隊が同行しているようだけど、荷車の後ろを歩く人数がかなり多いらしい。


 車列が砦に入ったところで、南の砦に向かった分隊長から話を聞く。

 焼け落ちた砦には誰もいなかったらしい。兵士の死体があちこちに散乱していたから、広場に穴を掘って埋めてきたようだ。

 魔族の死体もあったらしいが、一緒に埋めたらしい。それぐらいは南に逃れた軍の方で行ってもらいたいところだ。

 

「レオン殿の言う通りでした。破壊された砦で使えるものを探していたところ、途方に暮れた村人がいましたので保護してきた次第。6家族で41人です」


 やはり村を追いだしたか……。

 追い出された村人の話では、一方的に家から追い出されたらしい。とりあえず持てるだけの食料を持ち出せたらしいのだが、家畜は全て没収されたようだ。

 若い連中が抵抗すると、兵士がその場で斬り捨てたというんだから穏やかじゃないな。


「いずれ王都や町もそうなるんでしょうか?」

「間違いないだろうね。選民思想に染まった連中に付ける薬は無いんだ。徹底的に取り締まり、自らが反省するまで牢にでも繋いでおくのが一番なんだが……」


 食料はそれほどないようだが、荷車が増えたのは嬉しい限りだ。

 砦は略奪を受けたようなありさまだと言っていたから、俺達が帰ってくるのを恐れたのかもしれない。

 さて、これでこの王国にいつまでもいる必要はなくなったな。

 さっさと移動を開始しよう。


 本格的に荷作りを始まる。利用できそうなものは全て持って行くことにしたんだが、ベッドの毛布まで荷作りするのは早いんじゃないか?

 今夜はどうやって寝るつもりなんだろう。


 南の砦の様子が分かってから3日目。先行部隊と、偵察部隊が砦を後にした。

 少なくとも1か月以内には砦を出たいから、報告の期日だけは守るように言いつけてある。

 俺とナナちゃんの荷作りは全て終えてある。毛布は最後の日にナナちゃんの魔法の袋に仕舞えば良いだろう。


「大鍋や食器類は最後になりますね。小さな荷車を1つ専用に用意しました」

「それで食料の方は?」


 俺の問いを聞いたレイニーさんが顔を曇らせる。

 やはり足りないってことだな。


「3か月程の分量です。食料を1日、2食に制限しても春分まで持つかどうか……」

「やはり購入するしかないな。ところで砦の運用費はまだ残っているの?」


「銀貨20枚ほどです。出発時に皆から寄付を募りたいと思いますが、それでも40枚には達しないかと」


「俺の貯えも使って欲しい。大銀貨を1枚渡すから、これで当座の食料が買えるだろう。1個小隊を砦に向かわせて、魔族の装備を集めればそれも売れるはずだ」


 これで残った大銀貨は1枚になってしまったが、元々はこの王国から受け取った金だ。

 皆に還元できるなら問題は無いだろう。

 それでも、母上から頂いた金貨と父上に頂いた銀貨がまだ少し残っている。


 翌日、砦に向かった小隊が荷車にたっぷりと魔族の剣や斧を積んで帰ってきた。それを積んだ荷車は今にも壊れそうな荷車だけど、ドワーフ族が一緒だからなぁ。直ぐに直して貰えた。

 

「あの魔族の武器は売っちまうのか?」

「食料の足しにしようと思ってるんだが、良い品なのかい?」


「粗雑だが、鉄の質は良いんだ。半数ほど残してくれねぇか? 兵士の武器だって必要だろう」


 予備の武器ということだろうか?

 確かに全員に片手剣ぐらいは持たせたい。

 ドワーフ族の工房長に、半数を渡して、残りの武器を軽く洗うように指示を出す。

 あまり泥が付いていてもねぇ……。少しは見栄えを良くしておかないと。


「詳しい話を聞かないんですか?」


 指揮所に入ってきた俺に、レイニーさんが問い掛けてきた。

 

「聞かなくても分かることだってあるよ。かなり悲惨な状況を見てきたはずだ。それを行う連中は、罪悪感も持たずにやってのける。

 やはり神殿に元凶があるとは思うんだが、ここではそこまでは分からない。

 嵐が去るのを待つしかないよ……」


 いつまで続くかは分からないが、それ程長くは続かないだろう。

 獣人族が王国の底辺を支えていたからなぁ。人間族の中にも同じような貧しい連中もいたけど、圧倒的に獣人族が多かったはずだ。

 オリガン家の所領でさえ、小作農家の多くが獣人族だった。

 果たして彼等を追い出した後、農業を継続できるのだろうか?

 人間族の小作農家の多くが土地を大きくできるだろうが、人間の耕す土地の大きさなんてたかが知れていることも確かだ。

 農業、漁業、鉱山……、それらの生産量が同じになるとは思えない。

 放逐した獣人族を奴隷化する動きもありそうだな。

 当然のごとく反乱が頻発するだろう。王国を脅かすのは魔族だけに限らなくなりそうだ。


「偵察部隊が、まだまだ獣人族を連れ帰るかもしれませんが、本隊と俺達もそろそろ動きますよ」


「川を渡るということですね。対岸に拠点を設けて、少しずつ北に移動させるようにします」


「簡単でもテントの周囲には柵は必要だ。魔族が川を渡るとは思えないけど、魔族の本国は北にあるはずだからね。向こう岸だって、魔族の脅威が無いとは言えないだろう」


「既に作り始めました。2個分隊が運搬した荷を守っています」


 さすがは中隊長だけのことはある。

 それなら、ドワーフ族の連中と軍属の小母さん達もそろそろ対岸に移動して貰った方が良いだろう。川の西側に2個小隊ほど移動しておけば、小母さん達も安心できるだろう。弓隊と俺の直轄銃兵がいれば、この砦の当座の守りは何とかなりそうだ。


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