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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-217 時計の調整と工房の様子


 天空を巡る星は、1時間に15度移動する。

 実際には1時間に満たないらしく、4年に1度1日を追加することになると記憶が浮かんでくるんだが、それぐらいの精度であるなら文明がかなり進まない限り問題はないだろう。

 これぐらいが1時間だろうと、最終歯車までの減速を歯車を繋いでみた。砂時計を使って5分を合わせてあるから、そんなに狂いは無いと思うんだけどねぇ……。

 今夜は星の動きで1時間を振るこの長さで確定するつもりだ。

 さすがに1時間も待つのは面倒だから、5度の動きとなる20分の位置を決めて、最終的には振り子の長さを微調整するネジと振り子の分銅の後ろに重りを追加することでなんとかするつもりだ。


 変わったことを始めると興味を持つ連中が多いから、今夜は東の楼門の上での実験だ。

 楼門の守備は俺の直営であるエニルの率いる銃兵達だから、俺の指示をきちんと守ってくれるからね。

 

 最初の観測と時計の誤差は20分に対して16分だった。少し振り子の長さと計測時間を記録して振り子の位置を短くする。

 2回目の値は22分……。少し短くしすぎたかな?

 数回の調整で、おおよそ20分を得ることができた。

 次は星の動きを5度刻みに15度の変化と時計の指示を確認する。

 5度で20分だったが、10度で40分と少し、15度で61分になってしまった。

 微調整ネジを1回転させて振り子を短くする……。


 明け方近くにようやく1時間で最終歯車を1回転させることができた。

 明日は長時間の観測で誤差を確認しよう。


「終わったのですか?」


 時計と観測用望遠鏡を片付けていると、エニルがお茶のカップを両手に持って俺の傍にやって来た。

 ありがたく片方のカップを受け取ると、篝火の近くにあるベンチに腰を下ろしてお茶を頂く。

 これから寝るんだけど、お茶を飲んで眠れるかな?


「どうにか1時間で誤差が無くなったところだね。今夜も行いたいけど天候次第かな?」

「かなり凝った仕掛けですが、あれで時間を計れるんですか?」


「1年は365日。1か月は30日で12か月、その内、5つの神の祝日のある月に祭日の1日を追加しているのが現在の暦だよね。1日を24分割するという考えを誰が始めたのかわからないけど、それなりに役に立つ。

 星が空を1日掛けて巡るから星の移動を計れば1時間が分かるんだ。1時間に移動する星の動きは15度になる」

「夏の星空と冬の星空では星が変わりますよ?」

「それが唯一の問題だけど、俺達は4年に1度闇の神の祝日を入れることで修正しているんだ。いったい誰がそんなことを考えていたのかと不思議に思うよ。神話時代の前に俺達より進んだ文明があったのかもしれないね」


 たぶんあったに違いない。

 なぜ滅んだのか分からないけど、神話の中の神々の戦争というのがそれなのかもしれないな。


「1日の誤差が5分以内に納まれば上出来だよ。神殿の神官達も決まった時間に祈りを捧げられるだろうし、働く人達の労働時間も決められる。それに食事の時間だって決められるからエクドラさん達が食事の準備を始めるにも都合が良いと思うんだ」

「定時報告も同じ時間に行えますね。この時計を何か所かに設置することになりそうです」


 それが一番面倒なんだよなぁ。

 だけど、これから寒くなるから指揮所でのんびり作ってみるか。

 ガラハウさんが出来たら見せて見ろと言っていたから、ガラハウさんに頼むのも良いかもしれない。

 今は木製だけど、やはり歯車は金属で作りたいからなぁ。


 10日程観測と調整を行って、何とか1日の誤差を1分に収めたところで、指揮所の片隅で時を刻ませることにした。

 当然皆が興味を示したところで時間を計る機械だと教えたんだけど、あまり必要だとは思っていないんだよなぁ。


「それであの機械で何をするんですか?」


 エルドさんの問いに皆が頷いている。レイニーさんまでもがそうだから、やはり工程管理を時間で行うのは早かったかもしれないな。


「とりあえずは、時間を皆に知らせようと思っています。8時、10時、12時、13に15時、17時になったところで礼拝所の鐘をついてみようかと……」

「仕事初めに、お茶の時間。昼食の知らせと午後の仕事開始、休憩を入れて仕事の終わりですか」


 黒板に横線を引いて、適当に区切りを入れて鐘を突く時間を記載したら、すぐにエルドさんが気付いてくれた。


「仕事初めの少し前に鐘を鳴らした方が良いじゃろう。朝食時間と夕食時間もじゃな」

「今の鐘がどれか分からなくなるにゃ。面倒だから6時から20時まで1時間ごとに鐘を突いた方が良いにゃ。8時と12時17時と20時には2回突けば良いにゃ」

 

 いろんな意見が出るなぁ。少なくとも食事時間が明確になるようにと言うことらしい。

 最終的に朝6時の鐘と正午の鐘、そして最後の20時の鐘は3回鳴らし、奇数時は1回、偶数時2回の鐘とすることに決まった。

時計はガラハウさんが来春までに5台作ってくれるということで、俺の作った時計を預けることにした。

 時計に合わせて鐘を突くにはガラハウさんが作った時計が出来てから始めると決まったけど、目標は新年の真夜中からということになった。


「ここまでレオンが頑張ったのじゃから、後はワシ等に任せるが良い。だが、出来上がった後での調整はレオンが行うんじゃぞ」

「それぐらいはちゃんとやりますよ。それと凝った意匠で1台作ってくれませんか? エクドラム王国に売り出したいですからね」

「それなら小型のものを作ってみるか……。レオンでは小型にするのは無理じゃろうがワシ等なら容易じゃからのう」


 どれぐらい小さくなるんだろう?

 俺の作った時計はナナちゃんの身長ほどあるからなぁ。半分以下なら貴族相手に売れそうに思える。


「最終目標は各家に1台です。時間に縛られるという拘束感があるかもしれませんが、あまり時間を気にしないのも困りますからね」

「1日の作業時間が一定なら、工程管理も容易になるでしょう。とは言え当座は礼拝所の鐘が聞こえる範囲ということになりますね」


 最後にレイニーさんが締めくくってくれたけど、レイニーさんにもそれが生活に便利に使えるかどうか疑問があるみたいだな。

 でも、他の王国の時間管理からすれば数歩以上進めることができそうだ。

 他の王国での時間管理は、日時計とロウソクを元にしたものだからなぁ。

               ・

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               ・

 時計作りをガラハウさんに任せたところで、陶器研究工房に足を運ぶ。

 陶器の量産は大型工房が行っているから、当初の工房は新たな釉薬の試験や次の磁器作りへの挑戦を目的にしている。

 磁器は粘土だけでは出来ないからね。確か特殊な石を砕いて作るんじゃなかったかな。その石がどんなものかは記憶が曖昧だけど、白っぽい石らしい。

 白くて砕けば粉状になり水を加えると粘土のように成形できると教えたんだが……。


「今日は! しばらくですね」

「任せっきりで申し訳ないけど、どんな感じだい?」

「これが、この前の作品です。まだ完全な赤を出せませんけど、だいぶ赤くなってきました。そして、これがもう1つの方です」


 赤はこれで十分に思えるんだが、彼らにはまだ物足りないらしい。向上心があるということはさらに色彩が深まるということに繋がるだろう。

 磁器の方は、窯の温度を更に上げるように伝えたことで結構ち密に焼きあがっている。すでに陶器を越えているが、白にはもう少し足りない感じだな。限りなく白に近いグレーという感じだ。

 皿の端を爪で弾いてみると、金属音がする。

 もう少しという感じだな。


「まだ粘土は使ってるのかい?」

「石の粉だけでは足りないように思えるんで半分ほど混ぜています」


「思い切って粘土を止めてみるのも良さそうだね。それと、ガラスの原料の砂を混ぜてみては? 骨を焼いて砕いた粉も試してみてくれ」

「了解です。……これを作っていて気が付いたんですけど、これって光を少し通すんですよね?」

「正解だ。分厚い焼き物はそうならないけど、薄く仕上げると光をぼんやりと通す。陶器とガラスの中間製品に思えるけど、ガラスではないよ。それと、だいぶ釉薬の種類が出来たから大きな皿に釉薬を使って絵を描いてみてくれないか季節の花をあしらって4枚組を作ってくれると助かる」


 先ずは献上品ということで良いだろう。直ぐに注文が殺到しそうだ。

 磁器についても、お茶のセットをいくつか作って貰うことにした。どちらも秋分には完成すると言ってくれたから、楽しみに待てばいい。


 試験工房を後にして、次は陶器の量産工房に向かう。

 長屋2つ分ということだったけど、中に陶器窯が2つもあるんだよなぁ。入ってみると10人ほどが忙しそうに窯から陶器を取り出していた。


「頑張ってるね!」

「レオンさんでしたか! 少なくとも従来の3倍ほどの生産量です。倉庫を新たに1つ追加して貰ったんですが、秋分に全部運んで貰えますかね?」

ちょっと心配そうな顔をしてネコ族のお爺さんが教えてくれたけど、全てエディンさんが持って行ってくれるんじゃないかな?

 なんと言っても、金貨で取引されているそうだからねぇ。まだまだ需要が生産量を上回っている。


 問題はないみたいだから、隣のガラス工房に足を運ぶ。

 工房に入ると熱気が押し寄せてきた。真ん中にガラスの溶融炉があるからなんだが、長い鉄のパイ部の先に溶けたガラスを絡めとって頬を膨らませながらガラスを膨らませている。

 吹きガラスはワイングラス作りの基本だからなぁ。

 こっちも問題はないようだが、ふと片隅のワイングラスを見て時だ。

 思わず近寄って手に取って詳しく眺めてみる。


「これで良いんでしょうか? 現在添加物の量を変えて試験しているところではあるんですが……」

「かなり良いんじゃないかな。まだ試験中なら、さらに透明度が上がる可能性もあるってことだね」


「今年は試験だけに留めたいと思ってます。量産は来年以降になりそうです」

「無理と妥協はしないで欲しいな。マーベル共和国の主力産業にしたいからね」


 クリスタルガラスの開発も順調だな。

 案外早く豪華なシャンデリアが出来そうだ。


 工房を巡り終えたところで指揮所に戻る。

 もうすぐ昼食だから、ここで待っていればナナちゃんも戻ってくるに違いない。今日はどこに出掛けたんだろう?

 

「ナナちゃんならステンドグラス工房に行ってますよ。ヤギの乳しぼりから帰って来たところで、工房から使いが来たんです」

「ナナちゃんの仕事は原画作成だけだと思ってましたけど?」

「ステンドグラスだけで再現できない部分があるようですよ」


 笑みを浮かべて教えてくれたけど、黒の塗料を加える部分かな?

 黒の染料に漆を加えて描くんだが、あまり描くと全体が暗くなってしまう。その辺りも美的感覚が要求されるところではあるんだよなぁ。


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