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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-212 王宮からやって来た武官貴族


 宮殿からの迎えの馬車に3人で乗り込むと、玄関先でナナちゃんとデオーラさんが手を振って送り出してくれた。

 歩いて行ける距離なんだけどなぁ……。何となく様式美を求めているように思えてならない。

 貴族には見えも必要なんだろう。見栄では食べていけないと思うんだけど、貴族にはそれが大切なのかもしれない。

 分家だから最下位の貴族に名を連ねていたはずなんだが、俺には皆目分からない世界だ。中級貴族と言えば聞こえは良いが、田舎の領主がオリガン家なんだよねぇ。


「長剣を背負ってきてしまいましたが、武装はしていても問題ありませんか?」

「部門貴族は皆長剣を下げているぞ。ワシ達もそうだから心配は無用だ」

「レオン殿が長剣を持たぬ方が怪しまれますよ。オリガン家の人物なら常に長剣と共にあるというのが一般的な認識ですからね」


 思わず天を仰いでしまった。

 長剣を引き抜いたら、見敵必殺の活躍をするとでも思っているんだろうか?

 兄上なら正しくその通りに違いないが、俺は近衛兵に簡単に討ち取られそうな気がするぞ。

 間違っても、試合なんか申し込まれないようにしよう。

 弓なら問題は無いんだけど、長剣はねぇ……。俺にとってはお飾りなんだよなぁ。


 少し滅入っていると、何時の間にか宮殿の玄関に馬車が止まっている。

 グラムさん達が降りるのを待って、最後に馬車を出る。

 立派な制服を着た近衛兵が数人、俺達を出迎えてくれた。

 グラムさんの後ろに立ってエントランスに入り、近衛兵の案内で階段を上り回廊を歩く。

 いくつもの部屋があるが、俺達が案内されたのは近衛兵が扉の両側に立っている部屋だった。

 扉を開けて、中に入るとさすがに誰もいないな。

 俺達からすれば遥かに地位が高い王子様だから、最後に入ってくるのだろう。


「しばらくお待ちください。すでに来訪の知らせを出していますから、直ぐに御越しになると思います」

「ご苦労。他には誰か来ているのか?」

「本国から、ランベル卿が今朝早くに到着しております」

「ランベル卿か……。王宮も慌てておるようだな」


 含み笑いをするグラムさんだが、知り合いってことなんだろうな。本国と王宮がキーになる言葉になる。

 今回の俺の行動は、エクドラル王国の王宮も確認する必要があると考えたのかもしれないな。


 しばらく待っていると、近衛兵が王子様が御越しになったと俺達に知らせてくれた。席を立って出迎絵の準備をする。


 扉が開き、王子様とグラムさんと同じ年代に見える人間族の部門貴族が現れた。その後ろに2人の副官が一歩下がって待機している。

 俺達が騎士の礼で、挨拶をすると小さく片腕を上げて答礼してくれた。


「堅苦しいことは止めて、早速話を始めよう。先ずは座って欲しい、直ぐに飲み物が届くはずだ」

「初めてお目に掛かる。グンターネル・ランベルという部門貴族の端くれだ。オルバス卿が殿下と同行することになったので、本国で燻っている始末。面白そうなことを始めたようだと国王陛下の命により、ここに来た次第。来れば武門貴族のあこがれともいうべきオリガン家の人物に会えると聞いて楽しみにしておった」


「レオン・デラ・オリガンです。ブリガンディ王国とは決別したつもりですから、分家貴族の称号はすでに無くなっているでしょう。とはいえ、オリガン家の出であることは確かです」

「ブリガンディの貴族で無いなら、エクドラル王国で貴族に任じれば良い。オリガンの名をエクドラル王国が持てるなら国王陛下もお喜びになるであろう」


 名前だけ有名でもしょうがないと思うんだけどなぁ。

 苦笑いを浮かべて聞き流しておこう。


「そうだ! 王子殿下に頼まれた品を持ってきました。本国の図書館に設ける方です。光の神殿の方は、さすがに大きいですから秋分まで待ってください。……それと、これが今年の冬の手慰みの結果です。まだガラス工房が本格稼働していませんので、前回旧王都を訪れた際に購入したグラスを使いました」


 大きな木枠を取り出したら、近衛兵が丁寧に部屋の隅に移動してくれた。最後に取り出した布包みを開いて加工したグラスをテーブルの上に披露する。

 見た瞬間、王子様とランベルさん達の笑みが消える。

 目を大きく開いて、ジッと見ているから驚いているんだろうな。


「全く、知識の底がない。ワイングラスに色を付けられるようになったにはレオン殿が商会ギルドの役員に教えたようなものだ。そのグラスを使って、さらに上の品を作るのだからなあ」

「見事……、としか言葉が浮かびませんね。これもエクドラル王国に売ってくれるのですか?」

「ブリガンディからの避難民を未だに受け入れています。頑張って開拓を進めてはいるんですが、まだまだ食料自給は出来ません。食料の購入資金を得るために無い知恵を絞りませんと……」


「小さな村を作っているとばかり思っていたのだが……」

「小さなものだ。2度この目で見てきたからな。元々が取りでの守備兵だと言っていたが、今では1個大隊程にまで戦力を上げているぞ。獣人族ばかりの住む国だが、魔族3個大隊を退けるほどだ。軽く見ることは出来んだろうな」


 ランベルさんは、グラムさんの言葉を聞きながら俺をじっと見ている。

 ちょっと殺気を感じるんだが、長剣を抜いて斬りかかって来たなら応戦しても良いんだろうか?

 やがて苦笑いを浮かべると、殺気が嘘のように無くなる。

 やれやれ、という顔をグラムさんがしているのはランベルさんの性格なのかもしれないな。俺という存在はエクドラル王国にとって厄介な人物でもあるのだろう。


「全く、王宮には自称賢人がうじゃうじゃといるのだが、このような工芸品を作ろうと考える者はいないだろうな。ましてや、実際に作れる者はこの世界にいるのだろうか?」

「兵器も似たようなところがある。ランベル卿も爆弾を知っているだろう。あの爆弾よりも破壊力のある爆弾を1コルム近くとばすんだからなぁ。あれがあるならフイフイ砲はいらんだろう。魔族相手にそんな兵器を惜しげもなく使うのがレオン卿達だ」


 今度は1コルムの言葉に、少し表情が変わったぞ。

 王宮内で、国王の相談役辺りを仰せつかっている人物かもしれないな。強力な兵器の存在はマーベル共和国を滅ぼしかねない。

 さて、どんな無理難題を言ってくるんだろうか?


「オリガン卿は国を大きくしようとは考えないのですかな?」

「獣人族の皆が、仲良く暮らせる現在を変えるようなことはしたくありませんね。とはいえ、魔族の脅威には備えねばなりません。俺達を落としたところであまり利は無いと思いますが、南のサドリナス領を攻める上での不安要素に当たるみたいですね」


「我等がオリガン卿の土地を攻めても、得る物は何もないと言うことか……」

「住民のほとんどが避難民だ。この先逃げる場所が無いことを考えれば、最後の1人まで武器を手放さぬだろう。マーベル国を攻めるにはエクドラル王国の滅亡まで視野に入れねばなるまい」


「今では友好協定を結んでいるのですから、ランベル卿もそこまでにしておいてください。あえて王国に大乱を招くことも無いでしょう。魔族相手に私達は同盟軍を作るまでになっているのですからね」


 王子様の言葉に、苦笑いを浮かべてランベルさんは矛を収めてくれた。

 これでいよいよ、本来の話が出来るのかな?


「レオン卿の発案した通信機を使って、文面の言葉を相手に伝えることが出来るようになりました。腕木通信機も凄い仕掛けを作った物だと感心しましたが、今回はそれ以上ですよ。何といっても少年がバッグに納められるほどの大きさですからね。問題点があるとすれば、見通し距離に限るという制約、それと光信号を文字として読み解く能力がいるということですが、マーベル国で教えを受けた少年達が荒廃の指導を行っています。来年には100人近くの通信兵が生まれるでしょう……」


 王子様が話の途中で、腰のバッグから地図を取り出して小さなテーブルに広げた。

 地図に示された砦等の重要地点を点線で結んでいるのだが、点線上に小さな三角形が記載されている。

 旧王都から街道沿いに東に延びる点線の末端は貿易港だし、西に延びる点線の先はエクドラル王国の王都だ。

 やはり通信網の構築を考えていたようだな。


「伝令なら王都まで4日は掛かるでしょう。ですが、オリガン卿が考案した通信機を使うなら1時間も掛からずに王都に連絡を送ることが出来ます。オリガン卿はマーベル国の見張り台と北の3つの砦を結び、遊弋するエクドラル軍と連絡を密にする紺が柄だったようですが……。それだけではもったいないですからね」

「可能なのですか?」


「使うのは少年兵達だ。奴らはシリトリ遊びを通信機でしているよ。それぐらい文字を相手に送ることに長けているということだな。砦間の距離は30コラム以上離れているから、途中に中継所を作ることになるだろう。石組の3階建ての塔を作れば見通し距離は長く取れる。敵が迫って来たなら逃げれば済むことだ。1個分隊を駐留させれば十分だろう」

「街道筋は町や村を使えるということですか……、とはいえ維持費も掛かると思いますが?」

「マーベル国はこの宮殿に陶器を一括納品してくれている。その販売価格は商人達の売値の十分の一程度。差額で十分に賄えるよ。さらに、今度はこれなんだからねぇ……」


 蓄財するという考えは無いようだな。

 さすがに全てを王子様の一存で使うことは出来ないのだろうが、それでもかなりの金額が宮殿に入るのだろう。


「オリガン卿を国王陛下が欲しがるわけが飲み込めました……。それだけの利をエクドラル王国にもたらしてくれるなら、あえて攻める間でもないということですか」

「攻めるよりはその利用を考えるべきなのだろう。ブリガンディ王国の迫害を逃れてきた者達ばかりだ。マーベル国に弓を射る者は、ブリガンディと同じ輩と見るべきだろう。我等は共存できる関係をこのまま維持し続けていきたいと考えている」

「利害の一致を魔族相手の同盟軍で図るということですか。実質はエクドラル軍に僅かばかりのマーベル国軍を加えるということなんでしょう?」


 ランベルさんの言葉に、俺とグラムさんが顔を見合わせる。

 やはり、王宮内では同盟軍を単なるお飾りだと考えているようだな。

 グラムさんに小さく頷くと、地図と何枚かのメモを取り出す。

 今度は俺が説明する番だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 当話の数話前あたりから誤字が増えてきてるけど、もう改編も行わないなら、誤字報告せずそのままにします。
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