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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-210 才多ければ疎まれる


 街道に達したところで、護衛の騎士達が俺達から離れていく。

 彼らには辺境の砦を守る務めがあるからなぁ。俺達の護衛をしてもらうだけでも恐縮してしまうところだ。 

 野営する時にも、テントや食事の準備を整えてくれるんだからねぇ。

 何かお礼を……、とティーナさんに話をすると、昨晩にワインを数本渡していたらしい。俺の都合での訪問なんだから、次は俺の方でと言うと笑みを浮かべて首を振っている。


「レオン殿の都合であっても、それはエクドラル王国の利になることだ。エクドラル王国でその対価を払うのは当然のこと。気にする必要はないぞ」

「ティーナ様は軍に所属していますから、軍からの士官報酬と宮殿からの大使の報酬、それに活動資金として毎年金貨5枚が支給されているんです。さすがに活動資金のあまりは旧王都の孤児院に寄付しているんですが、元々軍服ばかりで過ごされていますから……」


 ティーナさんの話に続いて、シレインさんが愚痴めいた話をしてくれた。

 確かに軍の中にいればお金の使い道なんて知れているからなぁ。衣食住が保証された職場である以上、嗜好品を買うぐらいでしかお金を使うことはない。

 町や旧王都でもあれば酒場で豪遊ということもありそうだけどね。俺達マーベル共和国には小さな酒場ぐらいしかないだろうし、ティーナさんがそんな酒場に出入りするとも思えない。

 嫁入り資金に困ることはないんじゃないかな。もっとも両親が宮殿内での重鎮であることも確かだ。さすがに本人に結婚資金を出させようとは考えてはいないだろうけど……。いや、待てよ……。案外、駆け落ちするための資金を蓄えようなんて野望を持ってはいないだろうな?

 マーベル共和国に駆け落ちしてきたなら、簡単にエクドラル王国との友好関係が崩れそうな気がしてきた。


「なんだ? 急に私の顔を眺めて……」

「いや、急に気になってしまい……」


 何が気になったのかと追及されてしまったけど、一緒になってシレインさんやナナちゃんまで加わることな無いと思うんだけどなぁ。

 多勢に無勢の関係で、とうとう話をすることになったんだけど、大笑いをするのはマナー違反にも思えるんだよなぁ。


「全く、一人にしておくととんでもないことを考える。さすがに駆け落ちはしないとは思うぞ。……今のところはな」

「デオーラ様が大喜びしそうですね。その時は私は応援しますし、偽装工作は私の担当にも思えます。協力者を今の内に見つけておきましょう」


「止めておけ。兄上に知れたなら冗談では済まなくなりそうだ館の1室に監禁されるのが目に見えている」


 監禁した部屋の扉には、グラムさんは以下の兵士達が複数付きそうだな。

 そういう意味では、凛々しい姿で騎乗しているティーナさんはお嬢様でもあるんだよなぁ。普段の姿を見てると全くそうは思えないんだけどねぇ。


 そんな会話を楽しみながら街道を2日西に向かうと、旧王都の城壁が見えてきた。

 今回もオルバス家の館に逗留することをあらかじめ伝えてあるから、城門を潜ると直ぐにシレインさんが俺達から離れてオルバス館に先ぶれとして向かっていった。

 2つ目の城門を潜ると貴族街になる。西大きくそびえ立つお城を眺めながら、オルバス館にボニールを進める。

 

 館の玄関扉の前にデオーラ様が立って出迎えてくれている。その両側にずらりと家人達が並んでいるんだけど、それほどの客ではないと思うんだけどなぁ。

 ボニールから降りると、ティーナさんの後について玄関の階段を上る。

 ボニールは家人がどこかに引いて行ったようだ。帰る時まで世話をしてくれるらしい。


「また御厄介になりにやってきました」

「レオン殿なら大歓迎ですよ。さぁ、こちらに……」


 昨晩着替えをしておいて良かった。さすがに汗と誇りにまみれたバックスキンではねぇ。ナナちゃんも俺と同じように綿の上下に変えている。

 ティーナさん達は、余所行きの軍服姿だ。改まった場所で着用するようにいつでも持ち歩いているのだろう。


 応接室の入ると、すぐにお茶が出てきた。

 喉が渇いていたから、少し冷めるのを待って一口頂く。


「王子殿下との会見を予定しているのだが?」

「到着の2日後とグラム殿が言っておりました。直ぐに宮殿に知らせを出しましたから、明後日には会見出来るでしょう。今度は何を?」


 ひょっとして、献上するお土産の事かな?

 用意した品を教えたんだけど、最後の加工したグラスという言葉に首を傾げている。


「デオーラ様にも用意いたしました。これなんですけど……」


 バッグから幾重にも包んだ品を取り出してテーブルの上に乗せた。

 1つの布を解いて現れたグラスをデオーラさんの前に置く。

 

「これなんです。まだまだ技術的に問題はあるのですが、どうにかここまで加工できるようになりました」


 俺の説明に全く動く様子もない。ジッとワイングラスに目が向けられたままだ。

 しばらくして、深く息を吐きだして俺に顔を向けた。

 さっきまでの笑みが消えて表情が無いんだよなぁ。思わず椅子の後ろに隠れようと考えてしまうほどの威圧感がある。


「全く、軍才だけではないということですね……。エクドラル王国の国民であったなら王子殿下が右の席を直ぐに用意してくれるでしょう。一瞬、この場で……。とも考えましたが、さすがに罪のない人物を殺めるのも問題でしょう。でも、有り余る才能は自滅をもたらすことが多いことも確かです」

「危険人物に認定されましたか……」


「危険ですね。さすがに王子殿下はある程度理解した上でのことなのでしょうが、私のように考える人物がいないとも限りません。将来を見ることが出来る人物ならなおさらです。それでも憂いるだけなら問題はないんでしょうが、中には行動に走る輩も出て来るでしょう。ある意味、憂国の士ということになるのかもしれません」


「なるべく、マーベル共和国から動かぬようにしましょう。危険人物でも離れているなら危険性は低くなるはずです」

「そうなれば良いのでしょうが、多分王子殿下はますますレオン殿を頼りにすると思いますよ。王子殿下は王位継承の2番手です。兄上との仲はよろしいのですが、取り巻く貴族は反目しあっていますから」


 王位継承は内乱の原因にもなりえるからなぁ。あまり功を立てると兄王子からの妬みが出ないとも限らない。

 だけど、王子様は将来どうなるんだろう?

 現在は旧サドリナス領を統治しているけど、エクドラル本国領よりは小さいが本来は1つの王国だったからなぁ。さすがにこのまま統治を続けるのは無理があるだろう。

 

「将来は貴族の1つでしょうか。兄王子の子が成人するまでは王位継承権が残るとは思うのですが」

「辺境伯ということになるでしょうね。旧サドリナス領の三分の一程度が下げ渡されると思います」


 残り三分の二が王家と貴族の取り分ということだな。

 第二王子であるなら、それぐらいが適当なのかもしれない。それでも大貴族よりは領地が格段に多い筈だ。


「三分の一にマーベル共和国が入らなければ良いんですが」

「そのためにエクドラル王宮に色々と仕掛けているのでしょう? 来年の監察が楽しみです」


 どこまで譲歩できるかを、考えておく必要がありそうだ。

 王国制がまかり通っているこの時代に共和国だからなぁ。落としどころとしては都市国家ともゆうべき自由都市ということになるんだろうか?

 だが、軍備を制限されるようなら少しは反撃に出るのも面白いかもしれない。

 弱小国の戦い方を教えてやろうかな。


「場合によっては、マーベル国に王国軍が迫るかもしれませんよ。さすがに王子殿下は理由を付けて同行することは無いでしょうけど……」

「大義なく俺達を攻撃するなら、本国の王宮を炎に包むぐらいは出来そうです。魔族3個大隊を殲滅する実力が俺達にはありますよ」


「グラム殿より話を聞きました。『目は耳より勝る。あの戦をエクドラル王国軍のどんな人物も想像できまい。レオン殿がエクドラルに食指を伸ばすことはあるまいが、孫逆は容易に想像できる。場合によってはワシが潰すことになりそうだ』……ということでした」

「過分な評価だと思いますが、俺はどこにでもいる分家の1人ですよ」


 俺の言葉に少し呆れた表情を見せてくれたけど、そこまで優秀な人物という自覚は全くないからなぁ。俺の評価も他人事に聞こえてならないぐらいだ。


「話を戻しますと、そのグラスにもう少し加工を施したいと考えているところです。ガラスの自作も現在進めているところですが、まだまだ目標とするところに達しません。それが出来て、初めてこの加工技術が生かされるんですけどねぇ」

「次は何を?」


 デオーラさんの問いに、図上を指差した。

 全員が天井を見上げると、天井の格子状になった枠の中には花の絵が描かれている。それを首を傾げて見ているんだけど……。


「天井画に手を出すと?」

「さすがにそこまでは考えません。その下で揺れているシャンデリアです」


 よく磨かれた真鍮の2重円に10本近いロウソクが立てられている。

 このリビングに賓客を招いた時に使われるのだろう。俺が来た最初の夜にも明かりが点いていたからね。


「シャンデリアを金や銀で作る貴族もおります。そのデザインを含めてということでしょうか?」

「あの輪の下にガラスを下げようかと考えてたんです。そうなると、今のガラスではちょっと透明度が足りないですから、水晶のような透明感のあるガラスを作ろうかと……」


「短冊を下げるわけでは無さそうですね。ガラスの繊細な加工はそれが目的ですか」


 シャンデリアの円環に、いくつもの水晶が下げられた光景が想像できるのかな?

 デオーラさんはずっとシャンデリアを見つめたままだ。


「ガラスを下げるだけなら、今でもできそうに思うのだが?」

「そうではないの……。レオン殿は、ガラスを宝石にするつもりなの……」


 そこまで想像できるとは……。俺にだっておぼろげなんだけどなぁ。

 デオーラさんの知見は、この世界でも屈指かもしれない。

 せっかく来たんだから、シャンデリア計画について考察して貰おうかな。


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