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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
207/384

E-206 マーベル共和国の南は開拓民で賑わっているらしい


 ティーナさんが指揮所を出てしばらくすると、今度はエディンさんとオビールさんが指揮所を訪ねてきた。

 エディンさんからレイニーさんが砂金の残額を金貨4枚と残りを革袋に入った銀貨と銅貨で受け取る。

 これを今夜中に分配するんだから、エクドラさん達は大変だな。人数が増えたから簡単じゃないんだよね。

 オビールさんが2本のワインとパイプ用のタバコの包みを撃折れに渡してくれるのはいつものことだ。 

 ありがたく頂いてバッグに仕舞いこむ。


「ブリガンディからの移住者が6家族、だいぶ減ったように思いますがまだまだ移住したいという希望者がいるとのことです」

「まだ雪が残っているからね。となると夏至にはやって来る移住者が多いということになりそうですね」

「こちらの受け入れもあるでしょうから、できれば10家族以内ということで了解を取らせて頂きました。受け入れの方はよろしくお願いいたします」


 長屋5軒というところだな。エルドさんに頼めば6件は作ってくれるだろう。多く作ってある分には問題は無いはずだ。


「火薬と肥料をたっぷりと運んでまいりました。銃のカートリッジも500個を越えております。昨年の魔族との戦はエクドラル王国の貿易港まで届いているようですよ。マーベル共和国が貿易港の北にあるなら安心して商売が出来るということでしょう。ましてや、取引に使う砂金や陶器がマーベル共和国よりもたらされるということで貿易を担っている商会ギルド内での評判も良いようです。私共が注文する品は直に届けてくれますからねぇ」


「旧サドリナス領の東端には、旧サドリナス軍の兵士や王都で職を失った人達でいくつかの集落が出来ていますよ。開拓して10年は無税、その後は開拓した人物が亡くなるまで税が半分ですからねぇ。北西部の開拓者達までやってきていると聞きました」

「魔族の脅威はかなり低いと思いますが、直ぐ東はブリガンディ王国なんですけどねぇ」

「街道の関所の守りも強化されていますし、大部隊が国境の川を渡河する動きがあればすぐに対応できるという話でした」


 エクドラル王国とブリガンディ王国の関係は悪化してはいるが、直ぐに戦が始まるとも思えない。潜在的な脅威であって当座は現状維持ということになるのだろう。

 ブリガンディとしても依然として魔族との戦は続いているし、例の獣人族排斥政策で国内の治安は悪化するばかりだ。ブリガンディの沿岸地方を領する貴族達が貴族連合を組む動きさえあるからなぁ。

 姉上の婚姻話は、父上にとっても喜ばしいことだったに違いない。ブリガンディの貴族に嫁ぐよりはエクドラル王国の貴族の方が将来性があるだろうし、何といっても戦乱に巻き込まれる可能性も無いだろう。

 それに……、貴族連合が一気に加速してブリガンディの手を離れる事すらあり得る話だ。

 

「ブリガンディの領民はまだまだ安心して生活できないでしょう。その憂さ晴らしが獣人族に向けられなければ良いのですが……」

「憂さを晴らしたくとも、街道の北には獣人族はおらぬそうです。街道の南ではそのような動きがあるとのことで、南に移住しているとの話を聞いております」

「全く難儀な話だな。おかげで街道を使わずにブリガンディの沿岸地方と船で交易がおこなわれているようだ。海産物が大量にエクドラル王国にもたらされているようだぞ」


 貿易港が近いこともあって、海賊の心配も無いのだろうな。商会ギルドの運営する沿岸警備船の連中は精鋭揃いらしい。

 国境の関所で荷改め等の煩わしい手続きもいらないだろうし、関所からブルガンディに入る際には獣人族の入国を認めていないらしい。

 海路がますます賑わいそうだ。

 そうなると、オリガン領内の漁港は案外交易船が入港しているかもしれないな。父上の事だから先を睨んで港の整備も進めているのかもしれない。

 ブリガンディ王国の将来はどうなるのだろう?

 異端を説く神官の教えを最後まで守るのだろうか?

 王国の黄昏を迎えて、慌てて政策の見直しを行っても、民衆は従うことが無いだろう。

 新たな王国が生まれるのか……、それとも東西の王国に飲み込まれるのか……。

 宗教とは怖いものだな。


「オリガン領には変わりは無いということですね?」

「ああ、さすがはオリガンとエクドラル王国の船主からも評判が良い。案外次のブリガンディはオリガン家が統べるんじゃないか?」


 レイニーさんの問いに、オビールさんの返答は少し意外な言葉だった。

 父上の事だ。絶対に表には出ないだろう。出るとしても貴族連合の中での委員辺りで満足するに違いない。

 オリガン家は、現場で動く家系なのだ。皆の安全を守ることが信条であって、国を治めるつもりは全くないだろうからなぁ。


「なんだ? 笑みを浮かべて……」

「さすがにそれは無いと思ってのことです。そもそもが部門貴族。民衆を束ねるのは領内の住民だけで精いっぱいの筈ですよ」


「自分の器を知っているってことか? それが分からん連中が王侯貴族だと聞いたことがあるぞ。宮廷にふんぞり返っていられるのは領民のおかげだと全く分かっていないらしい。その点、同じ貴族であってもレオン殿は違うようだ。常に皆と一緒にいるんだからな。いつまでもその位置を保てるなら、貴族からは疎んじられるだろうが領民からの支持と信頼は得られるはずだ」


 立場が人を作るという話もある。

 俺も、現場から離れることが無いようにしよう。

 

「ところで、街道から北に向かって開拓が進められているのですが、渡河地点から1日半ぐらいにまでに、今年中には達するでしょう。渡河与点より2日の距離に村が出来ますよ」


 集落の人口が増えて村になるのだろう。

 それだけ開墾が進んでいるとは驚きだな。となると西の尾根の南端から街道に向かって、魔族侵入の阻止線を作ることになりそうだ。砦の兵力と合同軍、それに予備兵を上手く使えば容易かもしれないが、できれば砦と見張り台の中間地点に出城を作りたいところだな。

 合同軍の運用が始まったなら、出城についてグラムさんと意見を交わしてみるか。


「たぶんエクドラさんから注文を受けていると思いますが、昨年の魔族との戦で大量に火薬を消費してしまいました。出来れば量を上乗せして早急に運んで欲しいところです」

「大丈夫ですよ。エクドラ殿とマクラン殿からも大量の資材のリストを頂きました。特に肥料と火薬は急いでいると聞いております。オビール殿に、運んで貰いますから1か月ほどお待ちください。それと、あの陶器は全て運んでも構わないでしょうか?」

「俺達の商況確保の手段ですから、よろしくお願いします……。そうだ! エディンさん、これは商えますか?」


 バッグから布包みを取り出して、エディンさんの前に差し出す。

 なんだろうと首を傾げながら、布を解いて出てきた品に目を見開いている。


「こ、これは……」

「何とか、それぐらいまでは出来るようになりました。今はグラスの持ち手だけを加工していますが、将来は上のカップ部分にも手を加えるつもりです」


「ところで、幾つ出来たのですか?」

「試行錯誤で作ってますから、できたのはエディンさんの手元にある3つだけになります」

「まだまだ作るのが難しいということですか……。これは値段を付けることが出来ませんね。どうでしょう、王子殿下に進呈することにしては?」

「売れないということでしょうか?」

「大騒ぎになってしまいます。ある意味陶器を凌ぐかもしれませんな。このような品があると、先ずは宮殿の王侯貴族に知らせるのが一番かと思います。直ぐに、これを買い求めようと、金貨が積まれていくに違いありません」


 高価すぎて値段が付けられないってのも、面白い話だな。

 先ずは市場の需要を見てみようということかもしれない。製作者達の給与はエクドラさんに前借して何とかすれば問題は無さそうだな。


「エディンさんにお任せします。加工に慣れれば数をこなせると思いますから、販路の調整を含めてよろしく頼みます」

「お任せください……。とは言っても、商会ギルドも動くでしょうな。ガラス工房と繋がる商人が一枚加わりそうですが、それは私共で何とかしましょう」


 陶器はエクドラル王国でも初めてらしいから、関連する商会が無かったようだ。だが、ガラスは確かに工房があるぐらいだからね。

 加工に使うガラス製品を購入できないと加工も出来ないからなぁ。それはステンドグラスも似たところがあるけど、あれはさすがに他で作ろうとは考えていないようだ。


「ガラスと言えば、色ガラスの色を指定されましたぞ。赤と黄色の中間色を少なくとも3種類を各15枚というものです。他にもいくつかありましたが、中間色はガラス工房の方でも少しは考えることになるでしょうな」


 面白そうだと、エディンさんがおらい声を上げている。

 色ガラスを使うステンドグラスには、あまり中間色を使わないんだけどどうしても必要ということになったんだろう。

 原画を描いたのはナナちゃんだから、どんなステンドグラスになるのか楽しみだ。

 王都の図書館に納める品は夏至前には出来あがるとのことだが、光の神殿に納める品は秋分に間にあうのだろうか?

 あまり進捗が悪い時には、王子様に中間報告を入れておいた方が良いのかもしれないな。


「さて、我等はこの辺で……。ティーナ殿が用事があるとのことでしたので」

「たぶん、少年兵達を一緒に連れ帰って欲しいということだと思いますよ。昨年より1個分隊程預かっていたんです。ちょっと変わった兵器の取り扱いを学んで貰いました。ところで、商人の人達は、貿易港や宮殿、それと本国の王都の間で俺達がここで話すように要件を伝えられるとしたなら、商売に利用できますか?」


「市場の相場をその日の内に分かるということでしょうか? それが出来た商人は大きな利益を上げることが出来ますよ。……その話をしたということは、それが可能になるということですか?」

「先ずは軍に導入しますが、軍だけで使うのはもったいないかと思いまして……。利用料金も考えることになりますから」


「全く、底のしれない知識をお持ちですな。軍で利用するとなればすぐに貴族の知るところになるでしょう。私共にその利用が許可されるのは時間の問題かもしれません。それにしても……、そうですか……」


 最後は自分で問いかけて自分で納得している。

 さて、そうなると将来の通信網についてもいとど王子様と調整すべきかもしれないな。大使としてティーナさんが来ているんだから、ティーナさんと通信網の概要を整理すれば良いか。


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