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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-204 時計作りは難しい


 年が明けて、マーベル共和国はいよいよ深い雪に包まれる。

 通りは中隊単位で雪かきをしているから歩けるけれど、路地裏は住民達の分担だから、ところによってはどうにか歩けるという感じらしい。

 皆が家の中で暖炉や素焼きのストーブで暖かくしながら、内職に励んでいるんじゃないかな。

 子供達だ怪我元気に飛び回っているようだけど、寒がりなネコ族の子供達は直に家に帰ってしまうらしい。

 ナナちゃんだって、指揮所の暖炉の傍にレイニーさんと一緒に座って編み物をしているぐらいだからね。

 2人とも編んでいるのは幼子の靴下のようだ。今年もたくさん生まれたんだろうな。

 ネコ族のお姉さん達の多くが、そんな幼子達の為に編んでいるそうだ。

 マーベル共和国の恒例行事になりそうだな。

 女性達がそんなことをしているから、エルドさん達も子供達への贈り物として、簡単な独楽を作ってあげるようだ。

 きれいな独楽なら木工細工師達が作るんだけど、そこは素人細工だからね。子供達には喜ばれているけど、木工細工師の収入に影響は無いらしい。綺麗に加工され色付けされた独楽だから、エディンさん達が買い取ってくれるからだろう。

 エディンさんから、行商人に売られて町屋村の子供達の手に渡るんだろうな。


「そろそろ、そのおかしな仕掛けを何に使うのか教えて頂けませんか?」


 テーブルで振り子仕掛けを組立ていた俺の横に、お茶のカップを置きながらレイニーさんが問い掛けてきた。

 編み物を置いて、少し休憩するのかな?

 ナナちゃんも興味深々な目をして、テーブルの上に顔を乗せて仕掛けを眺めている。


「これですか? 例の時間を測る仕掛け何ですよ。この振り子の動きが時間経過に関係なく一定なのに気が付いたんです」

「最初は勢いよく振れてもやがて振れが小さくなって止まってしまいます。動きは遅くなると思うんですが?」

「脈拍で確認しました。振れが大きい時には早く左右に動きますが、振れ幅が小さくなると動きは遅くなります。一番右に達してから再び戻ってくる時間が同じなんです。この性質を使って時間を測ろうとしているんですが、どうしたら振れの動きを一定に出来るかと試行錯誤している最中です」


 高さ1ユーデほどの木製の模型なのだが、上部に直径2イルムほどの歯車が俺に向いて取り付けてある。歯車の軸には糸を巻き付けて重りを下げているから、そのままならぐるぐると歯車が回ってしまうはずだ。

 その回転を制限するように、振り子上部に設けた2つの鉤が歯車の真下に取り付けてある。重りによって回転したくとも、振り子の動きでゆっくりと歯車が1歯ずつ動いていく。

 ここまでできれば、後は組み合わせる歯車で減速すれば時間を測定できるはずだ。

 その歯車をどのように組み合わせるか、計算している最中だったんだよね。


「それが時間を測る仕掛けですか……」

「はい。来年中には何とか試作したいと考えてます。1日が24時間、1時間が60分……、何とかなりそうですよ」


 最終的な時刻合わせは、星の動きで合わせることになりそうだな。

 1日の誤差が10分以内になることが当座の目標だ。


「それもマーベル共和国の為になると?」

「どうでしょう? 現在でもあまり困っていない気がしますからね。時間を気にするのは神殿の祈りの時間を気にする教団の神官達や王侯貴族、それに商人達かもしれません。戦の経過を詳細に記録するときにも役立ちそうですけど」


「それならあまり意味が無いようにも思えますけど……」

「ある意味、俺達の技術を誇れるぐらいかもしれませんね。でも多くの王国から時間を測る機械がマーベル共和国によって作られたと歴史に残るのではないかと」


 あと数枚の歯車が必要になりそうだな。

 歯車の歯の数は直径を違えることで作ることが出来る。小さな歯車と大きな歯車を組み合わせれば小さな歯車が5回転することで大きな歯車を1回転させることが出来るのだ。歯車の歯数を違えることで回転数を制御できるのだから、結構面白い仕掛けだと思うな。

 とはいえ、この原理はカタパルトの腕木を引くためのロープを巻き取る軸に使われているらしい。ロープが巻き取られる軸に歯車を付けて、その歯車を小さな直径の歯車を付けた巻き取り腕木の軸に繋げてあるのだ。

 従来は数人でロープを引いていたのだが、今ではカタパルトの左右で腕木を回すだけで良いらしい。

 そんな技術がすでに存在していたから、ガラハウさんが簡単に作ってくれたんだよなぁ。


 小さな歯車で大きな歯車に回転を伝える。大きな歯車と同じ軸に小さな歯車を付けて次の大きな歯車に回転を繋いでいく。

 それを何段階か繋げれば、俺の心拍数の2倍ほどの振り子の振れ幅で動く最初の歯車の回転数が最終的には数十分の一以上に遅く回転する歯車を作ることが出来るはずだ。

 暖かくなったら太陽の動きを観察して、俺の作った時計の最終歯車の回転と比べてみよう。

 それで、どれほどの精度が出るかおおよそ分かるに違いない。


「上手く出来たらどうするのです?」

「そうですね……。1日の内に何回か決まった時刻に礼拝所の鐘を鳴らして貰おうかと考えています。そうすればいつも同じ時間に食事を取れますし、1日の仕事の時間も一定に保てるでしょう。会議も、昼食後や夕食後と言ったあいまいな時間ではなく、自国を決めて始めることが出来ますよ」


「時間に縛られてしまうにゃ!」

 

 ナナちゃんが大きな声を上げた。

 思わずナナちゃんに顔を向けて笑みを浮かべる。

 確かに時間に縛られる。それが良いのか悪いのかは別にして、生活のリズムを一定に出来ると思えば案外普及するかもしれない。

 でも、無理に導入しない方が良いだろうな。そうでないと、ナナちゃんの言う通り、時間に束縛された生活ということに抑圧を感じるかもしれない。


「ナナちゃんの言う通りだよ。でも食事時間はいつも同じにしたいだろう。それに何か始める時に皆を集めるのも楽になるよ。それ以外は気にしないのが一番だ。いつも時間を気にして生活してたら気が滅入ってしまうに違いない」


 そんなものもあるぐらいに考えておけば良いだろう。

 礼拝所の鐘が鳴るのは、祭っている風の神の祝日にマーベル共和国に異変がある時ぐらいだからね。せっかくガラハウさんが立派な鐘を作ってくれたんだから、積極的に使っても問題は無いんじゃないかな。


「ところで、リットンさんの部隊の訓練は進んでいるんでしょうか?」

「レオンと同じ形の弓は命中率が極めて悪いと嘆いてましたよ。矢筒分の矢を50ユーデで放って的を取り付ける板に当たるのが1、2本ということでした。後ろに縦横2ユーデの板を取り付けたようですけど、それでもその板に当たるのが数本のようです」


 困った話だという顔をしているけど、俺には十分に思える。

 通常使っている弓よりも遠距離まで矢が届き、なおかつ板に突き立つなら十分だ。散布界が広いということはそれだけ広範囲に爆裂矢を放てることになる。


「かなり上達してますね。そもそも狙って当てるなんてことは考えないように言っておいたんですから十分ですよ。肝心なのは狙った方向に遠くまで飛ばせることです」


 俺達の弓兵は何とかなっているようだけど、エクドラル王国軍の方はどうなんだろう。少なくとも爆裂矢を50ユーデ先に飛ばせるだけの腕が欲しいところだな。


「ところで、まだ気になっているところなのですが、全員が弓兵で問題は無いんですか?」

「前にも行った通り、一撃離脱に徹する部隊です。その場に留まって敵を迎え撃つ等、考えられませんよ。とはいえ、砦救援時の籠城では矢が足りなくなるかもしれませんので、全員に片手剣は装備させます。出来れば槍が良いんですけど、槍を運搬する手段が限られていますからね」


 石火矢を搭載する荷馬車に数本ずつぐらいは乗せられるかもしれないが、せいぜい2個分隊程度になってしまう。出来れば短槍を小隊分ぐらいは砦の予備として確保して欲しいところだ。


「名目は合同軍になりますが、あくまで名目的な部隊です。それを少しは役立てようと考えているだけですから、あまり期待は持たないでください。とは言っても、リットンさん達を死兵にすることが無いように努力したいところです」

「それで一撃離脱ですか……。騎兵なら、そのまま魔族に突入するのが一般的なんでしょうね」


「ブリガンディ王国の長い魔族との戦いを戦史で調べたことがあります。その中に魔族軍への騎兵突撃が何度も描かれていましたが、結果はかなり悲惨でしたよ。魔族を蹂躙すべく突入した結果、反対に蹂躙されたと言っても過言ではありません。そんな騎兵を率いていた士官達がなぜに生き残れたかが不思議でした」


 成功したと書かれていても三分の一を失っている。それも魔族軍のど真ん中ではなく極端の部隊への攻撃で離脱している。

 魔族軍を両断すべく突入した部隊は、指揮官以外が全滅していたな。

 多分部隊の後方にいたに違いない。状況が悪くなったら一目散に逃げかえたのだろう。

 それでよくも指揮官と言えたものだ。

 戦史にはその戦後の功績者の名が連なっているのだが、ただ1人生還した組兵部隊の指揮官の名があった。よくも恥ずかしげもなくその中に入れたものだと感心してしまったのを覚えている。

 貴族であれば、戦に出て生き残れれば表彰されるということなのだろう。

 俺にはとても、そんな無責任なことは出来ないけどねぇ。

 

「騎兵は突撃して相手の軍をかく乱するのが目的ですから、戦死は覚悟しているとは思います。でも指揮官は生き残っているということですか……」

「ティーナさんが戻ったなら、その辺りを再度確認したいと思っています。もしもエクドラル王国軍の騎兵部隊がブリガンディ王国と似たような戦術を基本とするなら、合同軍はお飾り部隊であるべきですからね」


 せいぜい砦への救援部隊に役立てて貰おう。

 その時には荷馬車の数を増やして、食料の運搬も一緒にすべきかもしれないな。


 レイニーさん達が、再び編み物を始めだした。

 ちょっと疲れたから、反手を一回りしてくるか。

 今日も、エルドさんは小屋の中で子供達を見守りながらスプーンを作っているんじゃないかな。

 数人でワインをチビチビ飲みながらの内職らしいからね。

 どんな品が出来ているのか、少し見学させて貰おう。


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