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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
203/384

E-202 グラムさんへの返答はティーナさんに頼もう


「すると父上の言っていた同盟軍は名目だけでは無いということか?」

「ある意味名目ではあるんですが、それだけではもったいないでしょう? 1個中隊を越えた遊撃部隊ともなれば砦の救援にも使えますし、場合によっては砦を狙う魔族の側面を攻撃することも出来るはずです」


 ティーナさんに同盟軍を機動部隊として運用することの利点を説明する。

 俺の説明を聞いてユリアンさんがしっかりとメモを取っているから、グラムさんへの部隊創設案については彼女がまとめてくれるだろう。


「父上は軽装歩兵を考えていたようだが?」

「できるなら主力を弓兵としたいですね。軽装歩兵は1個分隊で十分でしょう。荷馬車を彼らに任せたいところです」


「その弓兵をボニールに騎乗させるわけだな?」

「イヌ族、ネコ族の兵士となれば軍馬では大きすぎます。それに飼葉を考えると、蘇軾に耐えるボニールが何かと都合が良いと考えました」


 同時に200本近い矢を放つんだからなぁ。放ったなら直ぐに後退すれば、魔族の足が速くともボニールの方に分があることは確かだ。

 それに砦の防衛を行う場合でも軽装歩兵よりは弓兵の方がありがたいだろう。砦の弓兵はせいぜい2個小隊ほどだからね。

 

「1つ確認したいのですが……。1個中隊半の部隊に荷馬車5台の荷は少し多いように思います。遊撃部隊としての運用なら、せいぜい3日程度の糧食で十分の筈。それぐらいの食料と予備の矢なら魔法の袋を分隊ごとに渡せば済むと思うのですが」

「弓兵の装備としてなら、それで十分でしょう。荷馬車5台に搭載するのは、石火矢です。移動運用を考えて少し小型になりますが、飛距離はフイフイ砲並みの物を開発中です」


「石火矢を我等に供与してくれるということか?」

「供与はしません。マーベル共和国の弓兵に使わせます。指揮はエクドラル王国軍の指揮官になるでしょうから、その指示で石火矢をマーベル共和国の兵士が使うのであれば問題は無いでしょう。石火矢の秘密は保たれます」


 これも名目を保つための理由付けに他ならない。

 ある意味、エクドラル王国軍が石火矢を使えることになる。魔族限定という使い方になるから、エクドラル王国としても歓迎して欲しいところだ。


「あれが使えるのか……。となると、かなりの数になりそうだな」

「マーベル共和国の弓兵には、さらに爆裂矢を数本持たせます。一撃離脱で放てば戦果を拡大できるでしょう」


 とりあえず納得はして貰えたかな?

 ユリアンさんがメモを閉じて、ワインのカップを俺達に出してくれた。ありがたく受け取って一口飲んでみる。

 やはり良いワインを飲んでいるなぁ。


「出来れば、マーベル共和国の弓兵達が乗るボニールを用意して頂きたいのですが?」

「言い出したのはエクドラル王国だからな。それぐらいは簡単なはずだ。だが、石火矢をこの部隊に持たせるとは思わなかったぞ。せいぜい弓兵に何本かの爆裂矢を持たせてくれるぐらいには考えていたのだが……」


 さすがに部隊全体の機動性を上げるまでは考えていなかった様だ。

 だが、せっかく作るんだからねぇ。友好の象徴として飾るような部隊にはしたくない。


「シレイン。今の話で、父上あての運用計画書を書いてくれぬか?」

「レオン殿の部隊構想と、それに伴うエクドラル王国で供与する武具ということでよろしいでしょうか? 魔族軍の攻撃時に側面攻撃を行う機動性を重視した遊撃軍という軍略については先ほどのレオン殿の話をそのまま記載します。でも、ティーナ様も概要をについて1枚を追加してください」


「まあ、それぐらいなら……」と口ごもっているのは、普段からあまり報告書を書く習慣が無いんだろうな。

 大使としての近状報告も、全てシレインさん任せになっているに違いない。


「そうなると、気になるのは新たな部隊の指揮官に誰が就任するか……、ということですね」

「さすがに、大使と兼任は難しいだろうな。出来れば、私が就任したいところなんだが」

 ティーナさんが、困った話だという感じで残り少なくなったワインに口を付ける。

 そんな呟きに頷いているシレインさんも、新たな部隊に興味深々な様子だ。

 だけど、かなり危険な部隊にも思えるんだよなぁ。

 上手く側面を突かねば、包囲されかねない。

 それに、同盟軍と言えば聞こえは良いが、出身母体が異なる兵士達の集まりになる。

 指揮官のカリスマ性も重要だろうし、何といっても突入にタイミングと場所を的確に見抜く人物でなければならない。


「これを土産に、帰るとしよう。例の図上演習も行われるそうだ。参加することは無理だが、監察軍の見学は許して貰えるに違いない」

「ここで冬を越すのかと思っていたんですが?」


 俺の言葉に笑みを浮かべて首を振っている。

 やはり雪に包まれると体を動かせないのが嫌なのかもしれないな。

 

「それで、ステンドグラスの製作は順調なのだろうか?」

「俺が見た限りでは、それなりに進んでいるようですよ。王都の図書館に使うものは来春には完成するでしょう。光の神殿に飾る方は、原図をナナちゃんが描き始めたところです。かなりの大きさですからねぇ。来年の秋を過ぎるかもしれません」


「となると、新たな工房の製品はまだ先ということになりそうだな」

「陶器工房の方は来年には生産が始まると思います。陶器の需要がこれほどあるとは思いませんでしたね。新たな工房で製作した陶器も一括して王子殿下に購入して貰えるそうですから、俺達の生活の安定に役立てそうです」


「砂金が採れずとも、外貨を稼ぐことは出来るということか……。マーベル国は繁栄するに違いない」

「それではマーベル共和国が長く続くとは思えません。エクドラル王国と共に繁栄したいと考えています」


 両者に利をもたらすことが共存の原則だからなぁ。

 それはレイニーさん達も理解してくれたに違いない。


「エクドラル王国側に利が多すぎるようにも思えるが?」

「だからこそ、新たな部隊装備をエクドラル側で用意するという考えも出てくるのです。それに一番大事なことは、この利をもたらすならマーベル共和国を保護した方が良いという考えをエクドラル王国が持ってくれるということです」


 自分達の方が利が多いと思えるように、販売価格はかなり低めだ。

 俺達だけで商売が出来るなら、10倍の価格で取引できるだろう。

 だがそうなれば小さな国に大きな富が蓄えられることになる。俺達を狙う王国が直ぐに出てくるに違いない。


「弱小国の戦略ということか?」


 ティーナさんの言葉に、苦笑いで頷いた。

 それぐらいは王子様やグラムさんも知っているに違いない。だからこそ合同軍等というお飾りの軍を組織しようと考えたんだろう。

 だが合同軍が武勲を上げるようなことになれば、既存の軍からの妬みも出てきそうなんだよなぁ。

 既存の王国軍の勝利に寄与できる遊撃部隊としての遊撃部隊に徹したいが、こればっかりは赴任してくる指揮官の力量にも関わる話だ。

 合同軍で武勲を上げて王国軍の上部に食い込もうなどと考える人物では、いろいろと問題が出てきそうだ。


「出来れば、将来はケイロン殿の幕僚となりえる人物を指揮官にして欲しいところです」

「兄上の幕僚? 兄上でもなく、兄上の副官でもないと?」


「すでに何度か魔族と戦っているでしょうし、今更遊撃部隊と言うのも考えてしまいます。ケイロン殿であれば将来は王子殿下の右腕として魔族を相手に戦ってくれるでしょう。指揮する部隊の数は数倍になるかもしれません。となれば今回作る遊撃部隊の運用が出来る指揮官は役立つと思うのですが……」

「兄上が喜びそうだな。だが、先ずは父上と相談ということになるだろう。レオン殿の具申、決して軽くはないぞ」


 笑みを浮かべているところを見ると、案外自分を売り込みたいって感じがする。

 2度ほど俺達と緒に魔族を相手にしたが、トラ族出身だけのことはある。武技も体力も俺より遥かに優れている。

 だが、真面目過ぎるのが目に付くんだよなぁ。

 戦では真面目な人物よりは狡猾な人物の方が良いんだけどねぇ。こればっかりは性格もあるから矯正は出来そうもないし、ズルをしてでも勝利を勝ち取れなんて言ったら、粛清されそうな気もする。

 まだ若いし、年頃の女性だからだろう。

 一度手酷い負け戦を経験させてやりたいところだが、そんな場に出くわしたら撤退の援護を買って出て討ち死にしてしまいそうだ。

 そんな娘を見かねての大使就任ということになったのかもしれないな。


「それと、私から確認したいのだが……。レオン殿の姉上の話はあれから進展があったのであろうか?」

「ありましたよ。父上、兄上とも喜んでくれたようです。姉上の顔の怪我は一生残るだろうと考えていたようですから。兄上がオリガン家を継ぐことになりますから、いずれ姉上は有力な武門貴族に嫁がせようと相手を探していた矢先での戦傷ですからね。オリガンの名を、他王国が歓迎してくれるとは思わなかったとも言っていたようです」


 とはいえ、婚期を逃しているようにも思える。

 果たして良い縁談があれば良いのだが……。

 母上は相手の身分を気にするような人ではないし、姉上としては魔道具の研鑽を続けられるような環境を欲しがっていた。

「先ずは人物ではないのですか?」と質問したら、それは当たり前でしょうと言われてしまったんだよねぇ。

 そんな条件だと、変な男性に掴まってしまうんじゃないかと心配してたんだけど……。


「なるほど……。母上が喜びそうだ。王女殿下と一緒になって開いて探しを始めそうじゃな」

「ケイロン殿を私は推薦しますが?」

「兄上じゃと! ……条件としては問題なかろうが、兄上にはもったいないと思うぞ」


 何となくケイロンさんが可哀そうに思えてきた。

 妹の兄に対する評価はかなり厳しいものがある。俺の場合はどうなんだろう?

 兄上も姉上もオリガン家の名を高目ることが出来る能力の持ち主だからなぁ。

 俺からすれば評価するなど恐れ多い存在に思える。兄上達から見た俺の評価の方が気になるぐらいだけど、決して過小評価せずにどちらかと言えば過大評価をしてくれているように思える。

 俺にとっては、その評価が重圧になるんだけどなぁ……。


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