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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
202/384

E-201 機動部隊を考えよう


 今年の収穫を終えるころに、どうにか工房の建物が2つ出来上がった。

 道を挟んだ真向かいには小さな食堂が作られたから、ここで食事を取る住民も増えて来るんじゃないかな。もう少し大きくしても良かったかもしれないけど、まあそれは店開きすればすぐに分かることだ。

 陶器づくりを担当する連中は、既存の工房で最初の陶器を作っているようだ。2回ほど行ったところで、自分達でロクロを回して作ると言っていたが、どうやらお茶のセットの量産に取り組むらしい。

 陶器の側面の絵柄も、ナナちゃんに倣って野草を描くとのことだ。案外素朴な絵柄が喜ばれるとエディンさんが言っていたらしい。とはいっても、数組は華やかな絵柄も作るんだろうな。売れ行きを見ながら作風を変えていくのもおもしろいかもしれない。

 問題があるのは、ガラスの加工の方になる。

 水を流しながら行うと教えたんだが、さすがに冬になるとそうもいかないだろう。工房の中に回転砥石を持ち込んで、そのまま加工できないかやってみたら、かなり周囲にガラスの粉が飛び散るらしい。

 加工も粗削りが良いところだと言っていたから、急遽ガラハウさんに保護メガネを作って貰った。

 鉄を溶かす炉で用いている顔を保護する防具を作って貰い、目の部分のガラスを色付ではなく透明なガラスにしたものだ。

 ガラスの粉を吸い込まないようにと、布を折りたたんでマスクの下に装着するらしい。

 水を流しながら行う場合はこれほどの防具は必要ないかもしれないけど、簡単なメガネとマスクぐらいは必要になるかもしれないな。


「これが試作品なんですが……」

 

 取り出して見せてくれたワイングラスは持ち手の部分が赤いガラスだった。その持ち手部分の円柱にいくつもの六角形の面が作られていた。

 丸い面を連ねて行ったことで、六角形に見えるのだろう。


「良いんじゃないかな。出来れば表面をもっと滑らかにしたいところだけどね」

「さらに目の細かな砥石がありますから、やってみましょう。基本はこのような加工ということでよろしいのでしょうか?」

「十分だよ。もっといろんなことが出来ると思うから、試行錯誤で取り組んでくれないか? 直ぐに結果を出せるとも思えないけど、上手く加工ができたなら、その方法で量産すれば良いんだからね」


 これから冬場に向かうからせっかく作った水車が使えない。

 足踏み式の回転砥石でここまで作れるんだから、案外ガラスの加工は難しくないのかもしれないな。とはいえ、ただ削れば良いということではない。その削った結果が元のガラス製品よりも価値が高いと誰もが思えることが大事なのだ。

 現状では幾何学模様がやっとだけど、その模様にしても事前に描いて削り手が納得できるものでないといけないだろう。

 どんな絵柄にするかと、テーブルで鉛筆を舐めている小母さん達の感性が大事に思える。


 元長屋の倉庫にはガラスの原料が山積みされている。エディンさんが帰って1か月ほど過ぎたところでレンジャー達が運んでくれた品だ。

 陶器に使用する粘土も、来春からは近くの村から運んでくれるらしい。

 腐葉土であるなら開拓民たちも歓迎するのだが、粘土では何も作れないということで開拓の邪魔もの扱いされているようだけど、俺達が購入してくれるということで荷車を連ねて運んでくると言っていた。

 値段を聞いたら首を振って笑っていたらしいから、陶器の商いで十分に回収できるということなんだろう。


 工房を一回りしたところで、指揮所に戻る。

 今日は池の大掃除だとナナちゃんが言っていたから、レイニーさんも手伝いに出掛けたのかな?

 今年最後の砂鉄採取を終えたところで、エルドさん達が魚の卵を採取に出掛けるはずだ。ヴァイスさん達が笑みを浮かべて串焼き用の串を仲間達と一緒に作っていたからなぁ。かなりの束を作っていたけど、あんなに取れるんだろうか?

 河原でのエルドさんとヴァイスさんのやり取りが想像できるんだよなぁ。


 さて……、カップにお茶を注いでいつもの席に座るとメモ帳を広げる。

 最初の頃は小さなメモ帳だったけど、今使っているのは旧サドリナス王都で手に入れた革のバッグと図板を合体したような品だ。

 メモというより20枚近くのトレイほどの紙と従来使っていたメモ帳がバッグ内に入っているし、定規と数本の鉛筆までが専用のケースに入っている。

 紙を1枚取り出して図番にクリップで挟みこんだ。メモ帳を広げて、先ずは同盟軍の要点を確認する。


 最初に考えるべきは、同盟軍の創設目的だろう。

 両国の信頼の証とする象徴的な軍であるならどうでも良い話だが、グラムさんの意図しているのは機動部隊らしい。

 となれば、部隊の移動速度と拠点が重要になる。

 移動速度を上げるなら騎馬隊が一番だと思うが、案外騎馬隊は制約があるんだよなぁ。

 軍馬の糧食はそれに乗っている人間以上に消費するから、補給無くては維持できないだろう。

 歩くよりも速く、軍馬よりも遅いとなると馬車やロバ、それにボニールが使えそうだ。

 馬車での兵員輸送は街道なら何とかなりそうだが街道を離れた荒れ地ではかなり遅くなりそうだし、乗っている兵員達が消耗してしまいそうだ。

 となると、ロバもしくはボニールということになる。

 どちらも粗食に耐えるし、荒れ地でも周辺の草を食べさせれば十分に思える。飼葉の消費を抑えられるということだな。

 荷車を引くロバは多いんだけど、ロバって騎乗して走らせることができるんだろうか? ボニールなら可能なんだけどなぁ……。


 同盟軍の使う兵器として石火矢を提供することになるが、一周り小さなものを使うことにした。

 飛距離よりも効果を優先してくれとガラハウさんに頼んだんだが、果たして結果はどうなるのかな?

 ガラハウさんとしてはフイフイ砲程度の飛距離を考えているらしい。たぶん西の尾根での使用も考えての事だろう。

 雪解けには試射できると言っていたが、他にも作るものがあるからね。あまり無理を言わないでおこう。

 弓兵の使う弓は町にできた武器屋で作って貰っている。ヴァイスさんの部隊から順次更新しているけど、飛距離は伸びたが中々的に命中しないと文句が出ているようだ。

 そもそも的当てを狙っているわけではないからねぇ。至近距離なら当たるんだから俺的には全く問題がない。

 ヴァイスさんが使った時には矢が80ユーデ以上飛んだぐらいだ。爆裂矢を使って70ユーデ先に矢を落とせるなら十分に思える。


「となると、残っているのは石火矢を運ぶ荷車だな。出来れば荷車から放てるようにしたいところだけど……」


 荷車が石火矢の運搬手段であるかつ発射機にもなるとなれば、発射時の噴炎で搭載した石火矢が暴発しないような手段を考えないといけない。

 全体を鉄板で作れれば問題はないんだが、そんなことをすれば重くて全く動かない代物になりそうだ。

 その辺りをよくよく考えないといけないだろうし、振動で壊れるようでも困る。

 紙に描く前に、先ずは黒板にでも描いて試行錯誤を繰り返してみるか。


 あぁでもない、こうでもない……、と黒板に隊形を描いて見たりボニールに引かせる荷車(小さいけれど一応馬なんだから荷馬車ってことかな?)を描いたりしていると、レイニーさんとナナちゃんが帰ってきた。

 2人ともずぶ濡れだったから、直ぐに部屋に入って行った。


 池の掃除だったはずだが……、子供達が大勢いたから水遊びになってしまったのかな? それとも取り残した魚を皆で捕まえていたのかもしれない。


 一服しながら描いた黒板を眺めて考え込んでいると、ナナちゃんが最初に現れた。

 直ぐにお茶の用意をしているところを見ると、けっこう体を冷やしてしまったのかもしれないな。風邪などひかなければ良いんだけどね。


「だいぶ濡れたみたいだけど?」

「たくさん魚が残ってたにゃ。水を抜きながら魚を捕まえたにゃ。着替えたらすぐに戻るにゃ。リットンさんが捕まえた魚を焼いてくれてるにゃ」


 やはり、そういう事だったか。

 少し遅れて部屋から出てきたレイニーさんが、ナナちゃんからお茶のカップを受け取って、席に着いた。ずぶ濡れの姿を見られたからか、少し顔が赤いんだよね。


「だいぶ魚が残っていたようですね」

「おかげで、あの始末です。子供達は喜んでいましたけど……。また出掛けますけど、それは例の件ですか?」

「同盟軍という名目ですが、実態は遊撃部隊も良いところです。なら機動性を上げた部隊とすることで対応できると思っていたんですが、編成を考えると悩むところですね」


 一撃離脱に特化した部隊とするか、それとも追撃までを考えた部隊にするかで悩んでしまった。

 迎撃は最初から無理だが、1個中隊半という部隊は、砦の援軍としても有効だろうし、砦や村を襲う魔族軍の側面を突いて攪乱することぐらいは出来るはずだ。

 それだけで使うのはもったいないと思って、追撃戦にまで触手を食指を伸ばそうとしたのだが、やはり無理がありそうだな。

 伏兵がいたなら、簡単に全滅してしまいそうだ。それを避けるには……、ともう1つ中隊を投入することも考えてみたのだが、元々大隊規模で押し寄せてくる魔族軍だからなぁ。戦力が半減したとしても5千体近い魔族がいるのだ。偽りの撤退と伏兵という策もありえる話だろう。

 やはり救援と側面攻撃だけに特化すべきだろう。


「それじゃぁ、出掛けてきますね。そのまま夕食に向かいますから」

「了解しました。皆で楽しんできてください」


 レイニーさんがナナちゃんの手を引いて指揮所を出ていく。

 また、1人になってしまったな。

 ナナちゃんが淹れなおしてくれたお茶を飲みながら、黒板に描いた図を紙に書き写していく。

 小型の石火矢はどれほどの威力になるのか……。先ずは数本試作してみるとガラハウさんが言っていたから、その結果を基に荷馬車の長さと荷台の枠を変えないといけないだろう。

 もう1つ気になることは、石火矢を放つ際の噴炎にボニールが驚かないかということだ。

 これも試してみるしかないな。

 石火矢の噴炎に驚くようなら、固定して発射するしかないんだけどね。だけど、移動しながら発射できれば応用範囲がかなり広がるんだよなぁ。



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