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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
201/384

E-200 同盟軍創設ともなると


 軽めの昼食を取りながら、集まって来た中隊長達と状況の確認を行う。

 戦が終わって最初に確認するのは、被害状況になる。

 北の詰め所から順に報告をして貰ったのだが、やはり軽傷だけでは済まなかったようだ。

 3個中隊が受けた被害は重傷者12人に軽症者73人と言うんだから、思わず溜息が漏れてしまう。

 戦死者が無かったことが幸いだが、早めに戻ってフレーンさんや姉上の魔法でなんとかしないといけないだろう。

 軽症者は部隊で治療魔法が使える者達が治療を行っているとのことだ。


「下の村まで担架で移動して、その後は荷車で運ぶことにしよう。エルドさん、お任せできますか?」

「任せてください。歩ける者は、介添えを付けて下に下ろします。それでは……」


 食事が済んでお茶を飲んでいたエルドさんが、直ぐにテーブルを離れて出て行った。

 相変わらず、すぐに動いてくれる。

 ヴァイスさんはいかないのかな?


「私にゃ? 食事が終わったら矢とボルトの回収をするにゃ。面倒だけど、新たに作るには時間が掛るにゃ」


 皆の視線がヴァイスさんに向いたから、理由を教えてくれた。

 確かにほとんど矢筒に矢が残っていないからね。それも大事なことだ。


「明日まで様子を見て引き上げることにしましょう。その間に、柵の補修とこちら側の斜面に転がっている魔族の死体を谷底に転がしておいてください。獣が始末してくれるでしょうが、柵近くまで肉食の獣がやってくるのは、あまり歓迎したくないですからね」

「それもそうじゃな。いつの間にか前回の戦で倒れた魔族の死体が谷底から消えておる。

すでに死臭を感じて近寄っておるかもしれんぞ。斜面の半分から下に転がせば十分じゃ。谷に下りてはいかんぞ」


 ガラハウさんが注意してくれた。それにしても死肉食らいはどんな獣なんだろう?

 柵を越えてこなければ良いんだが……。


 皆の状況報告を元に、少し長めの報告書を書き上げて伝令の少年にレイニーさんまで届けて貰う。

 これでとりあえずの対応を終えた感じだな。

 勝ちはしたものの、俺達に利することは何もない。どちらかと言うと、大量の石火矢と爆弾を消費したから、改めて作らないといけないんだよなぁ。

 他国を侵略すれば、領土と住民それ蓄えた財貨を手にすることが出来るのだろうが、防衛戦では消費しただけだから戦力がそれだけ低下したことになってしまう。

 この状態で他国に攻め入られたならと思うと背中に冷や汗が浮かんでくる。

 1回の防衛戦を考えるのではなく、次の戦力が整うまでの間を考えて今回のような戦をもう1度行えるように予備戦力を充実させる必要がありそうだ。


 状況報告が終わると、各中隊長達が帰って行く。

 指揮所に残ったのは俺とグラムさん親子の3人だけだ。ナナちゃんは負傷者の治療に向かったから夕暮れまでは戻ってこないだろう。


「良い体験をさせて貰ったぞ。今回の訪問の最大の成果は、今回の戦に違いない。ケイロンを連れて来るべきであった。圧倒的多数を相手に戦をすることがどんなに難しいかを体で覚えることができただろうな」

「兄上は何度か魔族と戦をしたはずですが?」


「砦を襲う中隊規模の魔族相手だ。それでも戦死者をかなり出している。今回の戦ではおよそ3個大隊はおったに違いない。それを相手の防衛戦で戦死者を出しておらん。レオン殿は優れた軍略家だと実感したよ」

「それは石火矢と爆弾があればこそでしょう? なければ柵を破られて東に攻め入られたはずでは?」


「だから優れた軍略家だと言ったのだ。それを防ぐ方法を考えたのだからな。石火矢や爆弾はブリガンディ王国軍は持っておらん。レオン殿がこの場で魔族を相手にするために考案したものだからな」


 実際は王国軍の攻撃に対する防衛兵器として作ったんだけどね。

 大軍を相手にするのはもってこいだから、量産してこの尾根を守れるようにしているだけだ。

 とはいえ善意に解釈してくれているなら、真相を話すこともないだろう。


「レオン殿。マーベル国の現状を見ると、防衛戦を維持することがどうにかだろう。だが、国力がさらに充実したなら……。同盟軍の編成を依頼したいのだが?」

「かなり先の話になりそうですよ。現在でも民兵を含めて1個大隊程度の戦力ですからね。同盟軍ともなれば少なくとも2個中隊ほどの規模にならなくては話になりません」


「1個小隊で良い。兵站は全てエクドラル王国が面倒を見る。エクドラル王国軍1個中隊と組み合わせて機動部隊を作れぬか?」


 砦で補給が出来るということかな?

 1個小隊と言っても、機動部隊なら全て騎馬隊になるんだろうな。弓騎馬兵としてなら何とかできそうだけど……。


「レイニーさんを交えてマーベル共和国の重鎮との相談事項ですね。俺の私見では可能だと思いますが、俺だけで決められるものではありませんから」

「十分だ。マーベル国で検討して貰えるならそれで良い。条件が付くならティーナ経由で宮殿に知らせて欲しい。レンジャー達が伝令になってくれるだろう」


 レンジャー達の足なら、街道傍の町まで5日も掛からないらしい。町のレンジャーギルドに手紙を届けるだけで銀貨5枚と言うんだから、すぐに請け負ってくれるらしい。


夕暮れ近くに、油が入った十数個の壺が届いた。

 谷に向かって壺をカタパルトで落とし、その後で粗朶をまるめて油を掛けた即席の火炎弾を放つ。

 谷がたちまち炎に包まれたから、魔族の亡骸をある程度燃やしてくれるだろう。

 炎の中で蠢く者もいないようだ。これで一応の作業を終えることになる。


 夕食が終わると、指揮所に中隊長達が現れる。

 残件の処理の報告が殆どだ。重傷者は全員町に移送できたみたいだな。


「やはり石火矢は強力ですねぇ。数もそうですが、もう少し威力を上げても良いように思えるんですが?」

「案外難しいんです。威力を上げようとすると飛距離が足りなくなるんですよ。とりあえず同じものを来春までにまた作らないといけません」

「爆弾もじゃな。それに矢も不足じゃろう。冬の仕事がたっぷりありそうじゃわい」


 今年の冬は色々と忙しくなりそうだな。

 工房の方も早めに建物を作らねばなるまい。冬は雪に埋もれる共和国だからなぁ。

               ・

               ・

               ・

 西の尾根から帰投してしばらくのんびりと過ごす。

 グラムさんは1個小隊の兵士と共にエクドラル王国に帰って行った。

「よろしく検討してくれ」と言っていたのは、同盟軍の創設ということになるんだろう。面倒だが、魔族限定の同盟軍ということであるなら協力してあげたいところだ。


「……ということで、グラム殿より打診を受けたんです。中隊規模ということですから、街道の北にある砦の救援、あるいは砦後方の町や村の防衛ということになるのでしょうが、きちんと約定を結んでおかないと他王国への侵略戦争に加担しないとも限りません」

「俺達はこの料理で十分ですからねぇ。友好協定により歩いて1日の距離が版図になっています。現在は荒地ですが移住者が増えても、これだけあるなら十分でしょう」


「侵略戦争なんてしたら碌なことにならないにゃ。でも魔族相手なら、近隣の村や集落を守ってあげたいにゃ」

「とは言っても、現状では魔族の集結を察してから3日ほどで戦が始まってます。腕木信号機で連絡を取り合えるのは砦まで、遊軍となれば情報を受け取れなくなりそうです」

「その連絡なんですけど……」

 

 今回初めて実戦に使用した光通信機について説明した。

 文字を長点と短点の2つを組み合わせることで、言葉を相手に伝えることが出来る。腕木信号機よりも格段に情報量を多くすることが出来るのだ。


「唯一の問題は、光の点滅を文字として認識できる訓練が必要です。すでに伝令の少年達は覚えてくれましたが、さらに光通信機を扱える人間を増やせば、網の目のように連絡網を張り巡らせることが出来ます。腕木信号が見えなくとも、惹かれ異の点滅を見ることが出来るなら、詳しい情報を送れますよ」


 現在は西の尾根の見張り台と指揮所、それに南の城壁の3つの楼門と、東の楼門の6か所だけだ。尾根の南に作った見張り台とエクドラル王国の東の砦間で腕木信号が使えるのだから、東の砦にも光通信機を設ければ、かなり広範囲に連絡が取り合えるだろう。


「何時でも同盟軍と交信が出来るということか?」

「さすがに、東の砦の見通し距離内ということになりますが、必要に応じて移動通信局を作れば、エクドラル王国の宮殿とも連絡を取れるでしょう」


「伝令がいらなくなりますね」

「さすがに伝令は必要になると思いますよ。部隊内での連絡は伝令が主体になるでしょうね。遠方なら光通信機ということになると思います」


「一応、賛成ということで良いですね? そうなると派遣する部隊は軽装歩兵と伝令の少年……、ということになるのでしょうか?」

「可能であるなら、ボニールに騎乗した弓兵とボニール2頭が曳く荷車5台としたいです。弓兵は俺の使っている弓と同じ形状にすれば、射程が伸びるはずです。荷車5台には石火矢を搭載したい。伝令の少年は3人は必要でしょう。光通信機を2台持たせたいところですね」


 石火矢だけで100本以上欲しいところだ。寡兵だから、弓兵にも爆裂矢を持たせねばなるまい。


「そうなると、荷車の御者と助手を軽装歩兵にすることになりますね。総勢で1個小隊半というところですか……」


 エルドさんの言葉に皆が考え込んでしまった。

 一番の問題は、石火矢を持ち出すということなんだろうな。

 だが、カタパルトでは石火矢ほどの射程が取れない。敵の前列に石火矢を打ち込んで素早く後退する。

 それが機動部隊の基本だと思うんだけどなぁ。


「編成はレオンに任せますが、エクドラル王国軍との合流は来春ということで調整してください。それと……、ガラハウさんの方は、何とかなりますか?」

「だいぶ消耗したからのう。まあ、来春なら問題ないだろうが、材料が足りん。それは早々に送って貰わねばならんぞ」


 エディンさんにはいつも通りの分量を頼んだということだから、追加依頼をギルド経由で頼むことになりそうだな。

 まあ、それぐらいは何とかなるだろう。とりあえず、ティーナさんに同盟軍への傘下の同意を得られたことだけで伝えるとするか。


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