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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-191 オルバス夫妻がやって来た


 エディンさん達がやって来たとの知らせを受けて指揮所で待っていると、慌てて伝令が駆け込んで来た。

 伝令の少年の報告では、護衛の兵士だけで1個小隊がいるとのことだ。誰か宮殿からやって来たのかな?

 エクドラさんに連絡して、迎賓館の用意と護衛の兵士達の宿泊所への案内を頼む。


「誰が来たんでしょうか?」

「さすがに王子様は来ないでしょう。来るとしたなら、ティーナさんの両親かもしれません。一度訪ねたいと言っていましたからね」


 ある程度、図上演習が纏まったのかな?

 あまり問題を持ち込まないで欲しいところだ。


 お茶よりはワインが良いだろう。試作した陶器のワイングラスを出してみようかな。

 ナナちゃんに頼んで用意して貰っていると、指揮所の扉を叩く音がする。

 一呼吸おいて扉が開き、エニルさんが指揮所に一歩足を踏み入れて騎士の礼を取った。


「エクドラル王国よりオルバスご夫妻がまいりました!」

「ご苦労様。中に案内して下さい」


 レイニーさんの言葉を受けて、直ぐに指揮所の外に出ると2人を中に案内してくれた。

 咳を立って出迎え、グラムさんの騎士の礼に答礼したところで、座って貰うことにした。

 質素な作りの指揮所だからなぁ。それでもグラムさんは1度見ているから知っているのだろうが、デオーラさんは興味深々な様子で指揮所を見ている。


「長旅ご苦労様でした。ティーナ殿はもう直ぐ到着すると思います」

「なに、気遣いは無用だ。デオーラがどうしても行きたいというので、

エディン殿と一緒にやって来た次第。城壁を見てデオーラが驚いていたぞ。この地にこれほどの物が作られていたというのが信じられなかったのだろう」


 薄く仕上がった陶器のカップでワインを飲みながら、先ずは軽く世間話……。

 どうやら、デオーラさんの懇願に負けてやって来たらしい。

 ナナちゃんとティーナさんとで、デオーラさんを案内して貰えば十分に思える。


「図上演習については、だいぶ形が出来てきたぞ。とはいえ少々課題も出てきておる。まとめて来たので、できればどのように対応すべきかを教授して欲しい」


 そう言ってバッグから数枚の紙を取り出した。

 かなり細かな文字だから、ゆっくりと読んで答えないといけないだろう。

 

「3泊お願いしたいのだが?」

「大丈夫です。ごゆっくり過ごしてください。その間に解答書を作ります」


 俺の言葉にグラムさんが笑みを浮かべる。

 外から足音が聞こえて来たかと思うと、扉がバタンと音を立てて開いた。

 やって来たのは、ティーナさんだ。今日はどこに行っていたんだろう?


「父上、いらっしゃったのですか! それに母上まで一緒とは……」

「いくら私達の目がないとはいえ、少しのびのびし過ぎでは? まったく困った娘ですねぇ……」


 デオーラさんのお小言で、ティーナさんが急にしぼんで見える。とりあえず座って貰い、デオーラさんたちの案内を頼むことにした。


「礼拝所を見せて頂きたいですね。光の神殿の将来を少し早く見ることができると思って楽しみだったのです」

「デオーラはそれで良いだろう。ワシの方は、明日にでも少しレオン殿に教授してもらいたい。例の西に上がった魔族の煙の事だ」


「明日でよろしいですか? こちらにやってこなかったということは、砦を襲ったということでしょうか?」

「真ん中の砦が襲われた。とは言っても、事前の連絡を受けていたことで、砦の南には被害が及んでいない。王子殿下が、やはり友好こそ防衛の要だと言っておったぞ」


 やはり南に向かったか。真っ直ぐ南ではなく南西方向に攻め入ったということのようだな。


「その後でティーナから手紙を受け取った。レオン殿なら……、という書き出しで面白い作戦が書かれていた。直ぐに王子殿下が軍の重鎮を集めて、作戦の有効性を確認する始末だったからなぁ……」


 思い出し笑いをするぐらいだから、あの作戦は使えると判断したのかもしれない。


「極めて有効と判断した。だが、ティーナの手紙はかなり短いものだった。もっと詳しく聞くべきだということで、ワシが来た次第」

「弓兵を囮として使う作戦でしたね。朝食後に宿舎を訪ねましょう。何分にも辺境の土地ですから晩餐会を開くことも出来ません。とはいえ山麓には良い獲物が生息していますから、明日は少し豪華な宴を開くことにします」

「狩りということかな? ワシも出掛けたいところだな。作戦の教授は今夜お願いしたい。そうすれば明日は狩りを楽しめる」


「狩りは久ぶりだ」なんて呟いているから、デオーラさんがキツイ目で見てるんだよなぁ。

 まあ、俺達と一緒に狩をするのも、もてなしと言えるのかもしれない。


「それでは夜を楽しみにしているぞ。ティーナも同席すべきだろう。そうすればもう少し文章で作戦を知らせることが上手く出来るかもしれん」

「それでは夕食後に尋ねることにします。デオーラ様は俺の母上と会ってみませんか? ブリガンディから一時避難していますが、あまり尋ねる人がいないので退屈しているようなんです」


「それは是非ともお伺いしたいですわ。ここに来ればレオン殿の母上にあえるとは思っていたのですが、どのようにお願いしてよいやらとずっと悩んでいたのです」


 母上も部門貴族の出だから、案外デオーラさんと話が合うかもしれないな。

 夕食後にお願いすると言い残して、グラムさん達が指揮所を出ていく。

 エミルさんに迎賓館への案内を頼んだから、後は任せても問題は無いだろう。

 

 しばらくすると、今度はエディンさんが指揮所を訪れた。

 エディンさんだけのようだ。

 ナナちゃんからお茶のカップを受け取ると、直ぐにバッグから3つの革袋を取り出す。その上に10枚の金貨を乗せてくれたから、陶器が良い値で宮殿に引き取られたのだろう。


「砂金2袋と陶器の引き取り額から、今回の購入品を差し引いております。『もっと運んで来れぬのか!』と直接私の元を訪れる貴族様がいるぐらいですよ」

「陶器工房を新たに作ることにしました。作る品は出来ればエディンさんに選んでいただけるとありがたいです。もっとも稼働するのは来春になるでしょう」


「我等が欲しいものを作ってくださると!」

「たぶん今までよりも2倍の生産量になるでしょう。とはいえ特注品も受けることができるようにしたいところです」


 俺の言葉にちょっと驚いていたけど、直ぐににんまりと笑みを浮かべる。

 やはり、好みがあるみたいだな。色々と作っていたけど、これからはニーズに合わせた陶器作りということになる。特注品は現在の工房で取り組めば十分だろう。


「商会ギルド長が色ガラスで作られた絵を宮殿で見たと言っておりましたが……」

「礼拝所に行けばどんな品か分かりますよ。まだエディンさんに扱って貰えるほどに量産が出来ないんですが、エクドラル王都の図書室と旧サドリナス王都の光の神殿に飾る品を請け負いました。2つだけですけど、完成するまでに1年ほど掛かりそうです」


「やはり量産は無理ですか……。今回も大量に色ガラスを運んできましたよ。大きなものということになるんでしょうなぁ」

「ご想像にお任せします。ところで旧王都でガラス工房を見学させて頂きました。モルデン商会の工房です」


「モルデン殿よりお話を聞いております。レオン殿から教えられた色ガラスとの組み合わせは、すでに他国との交易にまで使われておるようです。困ったことがあるなら、頼って欲しいと伝言を頼まれましたぞ」

「それなら、ガラスの原料を手に入れることは出来るでしょうか? 俺達でガラス工房を作ろうと考えてます。炉は何とかなるんですが、原料ともなると……」


「私どもでご用意いたしましょう。その代わり……」

「しばらくは試行錯誤、だけど満足した品が出来たなら半分をエディンさんに商ってもらうことでどうでしょうか?」


 俺の提案にますます笑みを深めて、テーブル越しに手を伸ばしてきた。

 その後の話では、ガラスの材料は全てエディンさんがタダで用意してくれるとのことだ。製品の半分を買う権利だけなんだが、エディンさんにすれば十分に手を握れる提案になるらしい。


「ガラス工房でガラス製品を作るのは、もう1つの目的があるためなんですが、そのためにかなりのガラスのカップが今回の荷の中にあったはずです。来年の今頃には、それが出来ると思っているんですが、その製品についても同じ割合で引き渡せると思います」

「ガラス製品が2つになると? ガラスのカップですよね?」


「加工できるか試してみようと考えてます。上手くいけばかなりの値が付くと思いますよ。もっとも模倣することは出来るでしょうから、将来的には最初に作ったのがマーデル共和国であるという誇りを持つことで満足することになるでしょうけどね」

「ガラスは加工できるものでは無いと聞いたことがあります。せいぜい製造過程で形を調えられるだけだと教えられたのですが?」


「そこは思いつきですが、何とかなるんじゃないかと。出来たなら真っ先にお目に掛けますから楽しみにしていてください」


 細かな注文はエクドラさんが行ってくれるから、エディンさんとパイプを楽しみながらの雑談に興じる。

 エディンさんから聞く話は、サドリナス領内の経済活動全般だ。

 グラムさんなら軍事面についての話は出来るけど、経済については商人に聞くのが一番だろう。


「それほど、活発に他国と商船が行き来しているんですか?」

「はい。ブリガンディも南の貿易港の利権の半分で最初は手を握った程ですからねぇ。入ってくる品の関税が1割ですから、かなりの収益になるはずです」


 間に海があることで、軍事的な対立にならないそうだ。しなうすの商品をいち早く見抜くことが、貿易商の必要なスキルらしい。


「海を越えての貿易だけでなく、王国内についても基本は同じです。近頃は本土の紹介の荷車もだいぶ目に付くようです」

「ブリガンディからに荷馬車が来るんでしょうか?」

「そうですねえ……、街道の東の橋に関所があるんですが、ブリガンディの交易は毎日荷馬車20台にも上るそうですよ」



 国境を閉鎖しているわけでは無さそうだ。

 貿易額が均衡しているなら良いんだが、持ち出すばかりになったなら王国体制を維持することが難しくなりそうだ。

 最悪、借金を棒引きさせる目的で戦が起こらないとも限らない。

 俺達も蓄財だけに目をやらずに、エクドラル王国への還元を考えるべきかもしれない。

 主要な購入品が食料とワインだからなぁ。レイニーさん達に、交易の不均衡を是正するための購入品を検討して貰おうかな。


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