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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-190 生活基盤作りは水場から


「生活基盤作りじゃと!」


 ちょっと大きな声でガラハウさんが問いかけてきた。

 女性達にはレイニーさんが根回ししてくれたようだけど、男性は今夜初めて聞かされる話だからなぁ。驚くのも無理はない。


「ガラハウさん、マクランさん達のおかげで西に用水路を伸ばすことが出来ました。名目は渇水対策用の灌漑用水路なんですが、途中にいくつかの水場を作って住民に利用できるようにしてあります。大きな通りの両端に浅い溝を掘って排水路も作りました。一応の形は作っているんですけど、やはり便利に使いたい。マーベル共和国の住民がだいぶ増えていますからね。早めに整備しておかないと後々後悔することになります」


「確かに水場は町中に無いのう……。ある程度作っておけば火事や戦時にも安心できるんじゃが……」

「水場を作れば、その排水ということですね。通りの溝を土を掘っただけではなく、石組に使ったセメントで固めるということは出来そうですね」

「途中にゴミを集める場所も作った方が良さそうじゃ。そのまま流すより、ゴミはクリルで始末すべきじゃろうな」


 色々案が出てくる。便利になると分かれば直ぐにとりかかろうとするのがこの連中の良いところなんだよなぁ。

 レイニーさんの大統領の立場があまりないんだけど、そこは庶民的な大統領として後々に伝えられるんじゃないかな。

 今も笑みを浮かべて、皆の意見を聞いているだけだからね。


「それでは、生活基盤の整備を始めるというレオンの提案に皆さんは賛成して頂けるのですね?」


 話が一段落したところで、レイニーさんが指揮所に集まった人達に賛否を問いかける。

 一斉に頷いてくれたから、これでいつでも始められそうだ。


「じゃが、エルドは工房作りで、ガイネルは丸太運びじゃ。エクドラは新たな食堂でワシは工房内の設備を作らにゃならん。先ずは水場作りからになりそうじゃが、誰が担当するんじゃ?」


 ガラハウさんの問いは、俺が一番懸念していたことでもある。

 現在も開拓を進めている最中だからなぁ。開拓民を使うことは出来ないから兵士達の誰かということになるんだが……。


「私の部隊で担当しましょう。女性兵士も多いですから、彼女達の見立てを元に水場を作ります。それで1つ問題があるんですが、居住区についてはあまり空き地が無いんです。場合によっては住民の引っ越しもあり得ると思っていたのですが……」


 あり得るどころか確実にそうなるだろう。

 俺も失念していたなぁ。ダレルさんのことだから区画ごとに水場を作ろうと考えているのかもしれない。そうなると……。俺達の視線がマクランさんに向いた。


「仕方のない話ですな。先ずはダレルさんの方で水場を設置する場所をいくつか簡単な地図に描いてくれませんか? それを元に区画に住民と話し合ってみましょう」


 水場が近くにできることには賛成するけど、自分達が引っ越しをするのは嫌だ、ということなんだろう。

 隣同士仲良く暮らしているのが獣人族だからね。連帯意識は人間族よりも強いはずだ。

 そんな人達に非越して欲しいというのは、確かに言い難いよなぁ。


「申し訳ありませんが、よろしくお願いします。町作りに思いつかなかった俺の責任です」


 マクランさんに深々と頭を下げる。

 そんな俺の姿勢に慌てて手を振っている。


「とんでもない。レオン殿の事を誰もがこの国では勿体ない人物だと噂していますよ。見かけは人間族ですから新たにやって来た住民が怪訝そうに問いかけて来るときもあります。でもハーフエルフですからね。我等の仲間ですし、ブリガンディから川を越えてこの地に国を作った立役者です。皆が感謝することはあれ、非難することはありません。水場の話も、避難民を数多く受け入れるために長屋作りを優先した結果でしょう。住民の暮らしを良くしたいと言うのであれば、皆も分かってくれるはずです」


 中には反対する人もいるんだろうな。常に皆が俺達に賛成するようでは将来が心配になってしまう。何が良いのか悪いのか……。その辺りの教育は読み書き以上に大事かもしれない。


「それにしても、城壁作りが終わったかと思ったら、今度は基盤作りが始まるってことか。レオン殿と一緒だと、一生退屈しないで済みそうだ」

「確かに退屈はせんな。ワシ等も知らぬ技術を知っているからのう。レオンのもう1つの工房で何を作るか知っておるか? 単なるガラスではないぞ。どうやら水晶のような透明なガラスを作ろうと考えておるようじゃ。そんな発想はワシ等には無いからのう」


 水晶は融けるのか? なんて囁きが聞こえてくる。

 さすがにそれは無理かもしれないけど、俺のもう1つの記憶では材質は同じらしい。結晶なのかそうではないのかの違いらしいのだが。ガラスは粉々になるから結晶のようにも思えるんだよね。

 その違いは俺のもう1つの記憶にないんだよなぁ……。


「とはいえ、レオンの知識も必要でしょう。レオンは全体をよく見ていてください。それと、必要な資材は秋分にやって来るエディン殿に頼みましょう。エクドラさんに取りまとめをお願いしますね」

「外部調整担当だからねぇ。それぐらいは容易いことさ。でも食器は何とかして欲しいところだね」

「俺のところで何とかしますよ。内職ということで、エディン殿の買値でお願いします」

「60人分をお願いするよ。エディン殿の買値にワインを3本付けてあげるよ」


 エクドラさんとエルドさんが笑みを浮かべて頷いている。

 確かにタダというわけにはいかないだろう。昼間は別の仕事をしてるぐらいだ。避難してきた住民達の木工工房に頼むのかなと思っていたんだが、どうやらあっちはエディンさんに引き渡す分で手一杯らしい。

 ワインのおまけがあるなら、少しはやる気が起きるんじゃないかな。


 そんな話し合いが行われて10日も経つと、ガラハウさんがたくさんのレンガを焼き始めた。何といっても窯が3つだからなぁ。ドワーフの青年が、荷車にレンガを乗せて10日おきに運んでくる。

 1度に焼けるレンガが100個に満たないのが問題だな。鉄を鍛える炉で焼いているらしいから数多く焼けるわけでは無い。

 工房は逃げないんだから、のんびりと数が揃うのを待つしかなさそうだ。


 エルドさん達は5日も掛からずに6件の長屋を解体して、現在は整地作業の真最中だ。

 斜面を崩し足り砂利を運んだりする作業は、新たな工房で働く連中も一緒になって行っている。

 整地作業が済む間を利用して、通りを挟んだ反対側の長屋を調理場と食堂にするべくエルドさん達が頑張っているようだ。

 こちらの食堂の方が近い住民もいるんじゃないかな? たまに工事の進捗を見に来る人達がいるらしい。


 俺が状況を見に行った時は、丁度休憩時間だったらしい。

 一緒になってお茶を飲みながら、エルドさんから状況を聞くことにした。


「長屋を連結するのは案外難しいですね。微妙に張りの高さが違うんです。まぁ、その辺りは現場合わせて何とでもなりますけどね」

「工房の方はまだ先になるんでしょうか?」

「整地作業は、数日以内に終わるそうですよ。そうしたら、土台の石を並べることになりますが、全て土間になりますから、窯の位置を決めてからになりそうです。それはエルデさん達が行うことで話が済んでますよ」


 現状では問題なし、ということだな。

 

「だけど、ここで暮らし始めてから、大きな工事ばかりだったなぁ。レオンの事だから次これが終わった頃には、次の工事の提案をするんじゃないか?」

「その工事を行うことで俺達の暮らしが安全になるんですからねぇ。理解できるからこそ俺達も頑張ってきたはずです」

「そうにゃ。安全に暮らせるだけじゃなくて、ここなら皆で食べていけるにゃ」


 先ずは安全と食べ物……。それが何とかなったところで、次は暮らしやすくということになるんだろうな。

 開墾地の農業が軌道に乗って、工房の製品を周囲の王国が購入してくれるならマーベル共和国は発展していくに違いない。

 でも、周辺の国々よりも突出すると、それを妬む国が出てこないとも限らない。共存できる関係を保ちたいところだ。


 工房予定地に太い柱が何本も立ち始めたのは、秋分の10日ほど前の事だった。

 エディンさん達がやってきても、この辺りまで散策はしないだろうから気付かれる心配も無いだろう。

 陶器工房の方は、エディンさんに引き渡す品を倉庫代わりに使っている長屋の棚に並べ始めたようだ。

 エディンさんの目で、陶器の良し悪しを見て貰わないといけない。

 品によって梱包まで違うんだからなぁ。梱包用の木箱や緩衝材の木工所から出る木屑も大量に用意してあるらしい。

 陶器を作ることで、それに関わる他の産業も活発になるのが面白くも思える。


 工事現場を一回りして指揮所に戻ると、レイニーさんがお茶を淹れてくれた。

 大統領自らがお茶を淹れるというのはマーベル共和国だけだろうな。もっとも俺達の国以外は全て王制だ。国王の権威を保つために国王がお茶を淹れるなんてことはあり得ないだろうけどね。


「昔は毛糸玉も購入していたんですけどねぇ」

「今では自分達で紡ぐことも出来ます。でも染色は草木染ですから、華やかな色の毛糸は交易で手に入れているようですよ」


 レイニーさんも冬場は暖炉傍で編み物をするんだよなぁ。ナナちゃんもだいぶ上手くなった。去年は手袋を作ってくれたけど、今年は何を作ってくれるのかな?


「レイニーさんは今年も、子供用の靴下を編むんですか?」

「今年は2人分作らないといけません。でも、これは楽しみでもありますね。砦暮らしの頃は、子供用の靴下を編むなんて考えたこともなかったですよ」


 レイニーさんは何時でも自分のことは2番目だからなぁ。

 自分で編んだセーターを着ることは無いんじゃないか?

 そういえば、俺のセーターはマリアンが編んでくれたんだよね。マリアンもレイニーさんと同じ思いなのかもしれないな。


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