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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-185 ガラハウさんへの頼み事


 俺達を護衛してくれたエクドラル軍の兵士達は、3日後に帰って行った。

 お土産に、陶器の皿を1枚ずつ渡したんだけど、皆恐縮して受け取ってくれた。高価だということを知っていたみたいだけど、釉薬の試験をした皿だから皿に何本かの太い横線が入っているんだよね。試作品だからと言って受け取って貰った。


「中には、商人に売る者もおるだろうな」

「さすがに金貨にはならないでしょう。それでもちょっとした金額になるなら、十分じゃないですか? 元々が食器なんです。棚に大事に飾る品ではありません」


 部隊が南に去っていくのを楼門の上からティーナさんと眺めていたんだが、何度かこちらを振り返って手を振ってくれた。

 さて次は、秋分にやって来るエディンさんが楽しみだな。

 図上演習の訓練方法についての後報を、グラムさんが託してくれると思うんだけどなぁ。


「そろそろ降りましょう。風は涼しいですけど、日差しが強いですからねぇ」

「そうだな……。ところでレオン殿は、明日から何を始めるのだ?」

 

「陶器の工房を少し大きくしないといけません。今の窯を撤去したいところですが、新たな窯を作るとなれば陶器の生産を停止することになりますから、西に新たな工房を作ろうかと思っています」

「陶器の数が増えればエクドラル王国の商人達が喜ぶに違いない。試しに交易船で海を越えた王国に運んだら2倍の値で売れたそうだぞ」


 交易品として使えるということだろう。エクドラル王国を囲む諸王国への贈答にも使えるはずだ。

 そんなことがあっても、今のところ陶器作りの教授を願い出てこないところも面白い。安い値段で王子様に提供しているのが、狙い通りになった感じだ。


「陶器は無理でも、あのガラス窓はエクドラル王国でも作れるように思えるのだが?」

「可能だと思いますよ。独占することは無理でしょう。10年も経たずに、旧王都の工房で製作が始まると思っています」


 俺の言葉に、ちょっと意外そうな表情を見せる。

 ステンドグラスはそれほど難しい技術ではないからね。どちらかと言うと図案通りに銅の枠を曲げていくことが面倒なだけだからなぁ。

 美的感覚も必要なことは確かだが、画家はたくさんいるに違いない。ナナちゃんを越える審美眼の持ち主もきっといるだろう。


「良いのか? せっかくレオン殿が考えた技術だぞ」

「砂金の採取量が減っていますから、それに見合った稼ぎがあれば十分です。それに、他では模倣することができないものを別に作ろうと考えていますからね。時間は掛かりそうですが楽しみにしていてください」


 クリスタルグラスのカットが上手く出来るなら、それこそ技術の独占が可能に思える。

 その為にも、先ずはガラスを溶かす炉を作らねばならない。

 陶器を焼く窯と並行して作ろうと思っているんだが、場所だけ確保して最初は小さな炉を作った方が良いのかな? やはり次の計画にはガラハウさんの知恵が欲しいところだ。


「さて、ここで失礼するぞ。ナナちゃんが池で待っておるのでな」


 楼門の階段を下りると、ユリアンさんを連れて養殖池に歩いていく。

 釣りでもするのかな? たまに子供達に断って釣りを楽しむ老人達がいるようだ。

 ナナちゃんに詳しく聞いてみると、孫のような子供達が魚の世話をしているのを目を細めて見ているだけのようだ。

 釣りを名目に子供達の働く姿を見ていたいのかな?

 そんなことなら! ということで、池の近くにエルドさん達が東屋を作ってくれた。老人達の良い溜まり場になった感じだな。チェスを楽しむ老人達が増えたとナナちゃんが言ってたからね。


 さて、それなら俺は……。指揮所ではなく、北の鉱山を目指す。

 鉱山と言っても、ガラハウさん達ドワーフ族が崩壊した山腹に横穴を掘って作った工房だ。

 かなり規模が大きくなったらしいけど、一切が洞窟内にあるから俺にも良く分からないんだよね。

 1日1回、ボニールの曳く荷車が洞窟から銅鉱石を中央広場近くの倉庫に運び入れる。倉庫は住民の住む長屋そのものだけど、季節ごとにやってくるエディンさん達が笑みを浮かべて銅鉱石を受け取ってくれる。

 さて、ガラハウさんの時間を取れそうかな?


「何じゃ。こんなところにやってきて……。ワシに用なら、ガキを使いによこせば良いものを」

「あまり聞かれたくない相談にやって来たんです」


 洞窟の外に作った東屋で数人のドワーフがパイプを使っていた。テーブルに乗ったカップの中身はお茶ではないんだろうな。

 運よくガラハウさんがいてくれた。

 ガラハウさんが横目で他のドワーフに視線を送ると、俺に小さく頭を下げて洞窟の中に入って行った。


「先ずはワシからじゃな。レオンに教えられた蒸留器で蒸留酒が出来とるぞ。ワシ等には丁度良いが、まだ味が出ないからのう。ワインで割って飲んでおる」

「熟成させないからですよ。樽に入れて洞窟内に1年以上寝かせれば、それなりの風味が出ると思いますよ。出来た傍から飲んでしまってはねぇ……」


「わしらに『我慢せい!』というのか?」

「美味い酒を飲むためには努力も必要に思うんですが?」


 俺の言葉に、「ムムム……」と顔を強張らせている。

 さて、どうなるのかな? 果たして我慢できるのか、ちょっと楽しみに思えてきた。


「まあ、それはワシ等の問題じゃな。それで、レオンの相談というのは?」


 気を取り直したガラハウさんに、ガラスを溶かす炉をどのように作るか説明を始める。

 バッグから取り出したメモを見せながら説明すると、どうにか理解できたみたいなんだが……。


「やはり最初から大きな炉は作らんほうが良いじゃろうな。だが炉を小さく作ると、ガラスの温度を一定に保てんだろう。ある程度の大きさは必要じゃ……」


 ガラハウさんが大まかな炉の寸法をメモに記入し始める。

 ガラス工房で見た炉とは異なり、どちらかと言うと陶器を作る炉の構造に近いものだ。記憶の中では反射炉と呼ばれている代物なんだが、炉の底が陶器釜では平面なのに対してガラス炉の場合は半球状にえぐられている。この部分でガラスを溶かすということなんだろう。


「王都の工房ならフイゴを使っていたはずじゃが、大量の風を送れるならフイゴにせずとも構わんはずじゃ。水流で動く風車で風を送れば良いじゃろう。となると水路を新たに作らねばならんな」

「出来れば少し大きめの水路が欲しいですね。回転砥石を使ってガラスの加工をしてみようかとも考えていますので」

「となると場所の選定が重要じゃな。風車でも良いのじゃが、いつでも風が吹くとは限らんからなぁ」


 しばらく話を進めて、最後にガラハウさんの「任せておけ!」の言葉を聞くことができた。

 これで少しは肩の荷が下りる。

 材料の手配は、エディンさんに頼めば問題はないだろう。基本的に既存のガラスとそれほど材料が異なることはない。

 クリスタルグラスの添加物は鉛のはずだから、銃弾用に買い込む量を増やせばマーベル共和国以外に知られることもないはずだ。


「ところで、あれから石火矢の数は増えたんでしょうか?」

「通常型が200に改良型が50増えたぞ。通常型は西の尾根に運んでいるはずじゃ。既存と合わせれば300に近い。それだけあれば数個大隊の魔族でさえ押し返せるじゃろう」

「もう少し増やしたいですね。火薬の方は?」

「十分に在庫がある。銃弾の方もかなり作っているぞ。銃の更新も順調じゃ。エニルの部隊については全員が新型じゃ。旧型は民兵用に2個分隊分を保管している。そろそろ拳銃についても改良したいと考えておるところじゃ」


 真鍮のパイプにあらかじめ火薬と銃弾を仕込んでおき、銃身の後方からパイプを挿入することで発射が可能となる銃は、マーベル国内だけで使用することになるだろう。既存の銃が2発撃つ間に最低でも3発撃てるからね。それだけ濃密な弾幕を張れることになる。

 課題は火薬と銃弾を仕込む同姓のパイプを作るのが難しいことなんだが、旋盤という機械をガラハウさんに説明したら、1か月も経たずに旋盤を作り上げてしまった。

 金属の加工が木工細工のように出来ると、笑みを浮かべてくれたんだよなぁ。


「銃身内に渦状の溝を掘る加工技術は、旋盤では無理がある。我等で考えてはいるんじゃが溝の数は数本になりそうじゃな」

「十分です。銃身内で半回転が理想ですね」

 

 それだけで、発射された銃弾は横方向に高速回転するらしい。その恩恵は飛距離の延長と正確な狙いを可能とするらしいのだが、さて俺達が作るとどうなるのか……。


「信管については魔石が使えそうじゃ。石火矢や爆弾のように導火線に火を点けんでも済むなら理想的じゃな。案外石火矢には使えそうじゃが、本当に大砲を大きくするのか?」

「石火矢は狙いがいい加減なところがありますから、大量に発射することになります。でも攻城兵器対策ならバリスタのような品が確実ですからね。バリスタのボルトを石火矢に変えるという手もありますが、飛距離は200ユーデというところでしょう。改良型の石火矢に匹敵する距離を正確に狙える大砲を作ろうかと……」


「散弾ではなく一発玉ということじゃな?」

「砲弾は球状ではなく筒状に変えます。口径は2イルム程度で十分だと考えています」


 ガラハウさんが面白そうに俺の顔を見ている。

 ドワーフ族が興味を持ったということは、全力でそれを作ると聞いたことがあるけど、果たしてどうなるかな? 大砲の改良は、かなりの技術を要するに違いない。それだけマーベル共和国の技術力が高まるということになるんだろうけど。


「それで、もう1つお願いがあるんですが……」


 機嫌のいい時に話した方が良いだろう。ドワーフ族から新たな工房に人を出せないかを聞いてみた。


「ステンドグラスを作るには必要なさそうじゃな。となると透明なガラスとそれを加工する工房ということになりそうだが……。鉄も作らんといかんからのう……。レオンの作る新たな工房なら力仕事にはならんじゃろうから、嫁さん連中でも構わんじゃろう。3人を出してやるぞ。働き者じゃ」


 笑みを浮かべているところを見ると、嫁さん連中に鉄を鍛えるトンカン作業をやらせたくないってことのように思えてしまう。

 だけど、ドワーフ族の女性なら精密加工はお手の物に思えるなぁ。

 ありがたく協力して貰うことにした。互いの手を握り笑みを浮かべて頷くと、ワインの入ったカップを手に取りカチンとカップを合わせる。

 これで新たな工房の目途が立ったということになる。


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