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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-184 帰還報告


 翌朝。ガンガンする頭を抱えて寝ていると、ナナちゃんに叩き起こされてしまった。

 あまり食欲は無いけれど、何とか朝食を取って苦いお茶を飲む。

 さらに河原で顔を何度も洗ってみたが、すぐには二日酔いがさめてはくれないんだよなぁ。

 ティーナさんの号令で、俺達は再び北を目指すことになった。

 エルドさん達も、作業を中断して一緒に戻るらしい。

 すでにガラハウさんより頼まれた量以上の砂鉄の採取は終わっていると教えてくれた。

 少しでも砂金を増やそうとしていたんだろうな。ヴァイスさんは少しでも魚を多く獲ろうとしていたのかもしれないけど……。

 エルドさん達の部隊に歩調を合わせて進むから、マーベル協和国への到着は夕暮れ時になるだろう。

 今夜は俺達の部屋でゆっくりと休めそうだ。


 日が傾いてきたころに、マーベル共和国の南の城壁が見えてきた。

 だいぶ立派な城壁に思えたけど、旧王都を囲む城壁と比べると見劣りがするのは仕方のないことだろう。

 だが、あの城壁でブリガンディ王国とエクドラル王国の連合軍を食い止めたことは確かだ。

 フイフイ砲の数は減ったけど、石火矢の覇者装置をいつでも設置出来る状況だから、あの時の倍以上の敵軍が押し寄せてきても跳ね返すことは出来るだろう。

 東の楼門の上で数人が俺達に手を振っているのが見える。

 さすがに中央楼門はここからでは良く見えないが、望遠鏡で俺達が帰って来たことは分かっているんだろうな。


「やはりこの場所で、この規模の国と言うのは色々と考えるな」

「異様に思われるでしょうね。でも砦なら納得できるでしょう? 共和国を名乗ってはいますが、現実には城壁都市ですからね。とはいえ、エクドラル王国との約定では歩いて1日の距離が俺達の領土ではあるんです」


「開拓村を周囲に作れるようにとの配慮だと聞いている。だがそれはかなり先になるんじゃないのか?」

「まだまだ城壁の中を開拓している状況ですからねぇ……。さすがにエクドラル王国から避難してくる住民はいなくなりましたが、ブリガンディ王国からは季節ごとに100人単位で移住者が増えています」


 一体いつまで続くんだろう? 迫害を逃れて来た獣人族が再び元の地に帰るとは思えないんだよなぁ。帰るとなれば、それなりの待遇改善を行うことになるのだろうが宗教色で染まった王宮の連中が既存権益を手放すとも思えない。

 内乱が起きても、ブリガンディ全体を掌握できるとも思えない。やはり将来はブリガンディ王国が2つに分裂してエクドラル王国の治世に近い貴族連合が出来ると考えたほうが良さそうだ。

 貴族連合の版図は小さいけれど、海に面した穀倉地帯だから贅沢をしなければ十分に民を養うことが出来るだろう。

 体制強化を図るために、エクドラル王国と軍事協定を結ぶ可能性もありそうだ。

 状況次第では、エクドラル国王に恭順するかもしれない。その場合は地方領主となるんだろうな。

 俺としては、マーベル共和国のような自治を認められた国家にしたいところだな。


 夕暮れの中、東の楼門を潜ると楼門の防衛を任務にしているエニルさん達がずらりと並んで俺達を出迎えてくれた。

 知らせを受けたのだろう。レイニーさんとエクドラさんまでが出迎えの列に並んでいたから、ボニールから降りてレイニーさんに帰投を告げた。

 うんうんと笑みを浮かべて頷いてくれたレイニーさんが俺達を指揮所に連れて行く。

 護衛の兵士達はエルドさんが宿に案内してくれるようだし、ティーナさんの副官であるユリアンさんは荷馬車を引き連れてエクドラさんと食堂に向かっていった。

 

 指揮所に入ると、レイニーさんが俺達にお茶を入れてくれた。

 とりあえず席について、簡単な報告を行う。

 俺達の贈り物に対するエクドラル王国の返礼についてはティーナさんがメモを見ながらレイニーさんに報告してくれた。


「それほど頂いてきたのですか! ちょっと信じられない量なんですが?」

「斬鉄剣の長剣を王子殿下が大変気に入っておられる。さらにあのガラス窓は王女殿下の実家の家紋と同じだと言っておられた。子供服は王女殿下から特にということだった」


 ナナちゃんはどうしてあのヒマワリを描いたんだろうなぁ。案外俺達の知らない何かを見ることが出来るのかもしれない。


「王子殿下からは、2つのステンドグラスの制作を依頼されました。本国の図書館の窓に飾る品と、旧王都の光の神殿を飾る品です。製作費は案外安いと教えたんですが、本国に送るステンドグラスを向こうの王宮で価値を決めて貰おうということになっています。さらに陶器の生産を増やせないかと宮殿の貴族達からだいぶ要求が出ていました。これらを勘案してガラハウさんと工房の拡大を検討するつもりです」


「住民の働き口がさらに増えるということですね。現状では無職という住民はおりませんが、まだまだ住民は増えそうですし、自分の望まない仕事となれば捗ることはありませんから……」


 働きに応じて報酬を出す。衣食住が国で保証されているようなものだけど、人間はそれだけでは満足できないからなぁ。酒を飲み、パイプを楽しみお菓子を食べる。

 それは自分達で得た給与の中で行うのが基本だ。

 働いた日数に応じて季節ごとに纏めて報酬を出しているけど、今のところ不平不満は出ていないらしい。

 

 大まかに報告を終えたころにユリアンさんが指揮所に現れた。

 エクドラさんへの引き渡しを終えたようだな。

 ティーナさんが俺達に騎士の礼をすると、ユリアンさんと一緒に指揮所を出ていく。俺達を警護してくれた兵士達に酒を振る舞いに行ったんだろう。

 そんなところに気を配れるのだから、兵士達の間で人気が高いのも頷けるところだ。


 ティーナさんが出て行ったのを見計らったかのように、エルドさんとヴァイスさんが指揮所に入って来た。

 ここからは内密な話ということになる。

 改めてお茶が注がれたカップを持ち、旧王都での出来事を話すことになった。


「……すると、かなりの数のフイフイ砲を作ったということですか?」

「爆弾も作ったようです。でも俺達のように爆発させることができないとのことでしたから、魔法で作る火炎弾の拡大版というところでしょう。とはいえ、周辺諸王国にしてみればかなり脅威に思えるでしょう」


「良かったのかにゃ? 覇王に成ったりしないかにゃ」

「なるかもしれませんね。出来ればブリガンディを滅ぼして欲しいところです。旧サドリナス領の統治はかつてのブリガンディのような穏やかなものでした。旧王都にはたくさん獣人族が暮らしています。サドリナス領内からマーベルに移住してくる獣人族はこれからは無いと考えます。もし、移住者が現れたなら身辺調査を入念に行う必要があるかと……」

「犯罪者の駆け込みってことか。確かにありそうだな。その辺りはギルドとも相談しておいた方が良さそうだ」


 ギルド内の連絡は月に2度ほど早馬を使って行われている。ギルドなら犯罪歴が分かるかもしれないな。問題は間諜対策なんだが、さすがに石火矢をどのようにして作るか理解できないだろうし、火薬の調合を含めてドワーフ族の工房の中だからなぁ。他人が入って行ったならすぐに分かるはずだ。


「陶器とステンドグラスの工房は、現在の工房を大きくすれば問題は無いんでしょうが、新たな工房を2つ作ろうと思っています」

「直ぐに結果が出るとは限らないと?」


 レイニーさんの問いに、小さく頷いた。


「透明度を上げたガラス、それとガラスを削る工芸品です。向こうで回転砥石を幾つか購入してきました。ガラスのコップも20個ほど手に入れましたから、それで可能性を探るつもりです」

「今度はガラスってことか……。鉄も溶かせるんだからガラスも作れるとは思うんだが、ガラスは窓を見ても分かる通り、結構透明に思えるんだけどなぁ……」


 エルドさんが窓越しに外を見ている。だいぶ暗くなって来たな。そろそろナナちゃんが戻ってきそうだ。


「目指すのは水晶のように透明なガラスですよ。向こうの工房のガラスを作る炉を見てきたのですが、どうにかガラスが溶かせるといった感じですね。同じものを作るなら彼らの権益を侵しかねません。それ以上のものを作るなら彼らに恨まれることも無いかと」


 案外、そんな心掛けが大事かもしれない。

 俺達にガラス工房を見せてくれた商人も、俺達が同じ製品を作ろうとは考えないだろう。だから見せてくれたんだろうな。それで、課題を俺に相談したに違いない。商売で競合すると考えたなら、自分達の課題を俺に話すようなことは無かっただろう。


 強いて競合しているというなら木工製品に革製品になるんだが、そもそも王国内の工房自体の規模が小さいものばかりだ。行商人用に安く売るぐらいなら問題にもならないんだろう。工房で作るというよりは兵士達の内職だからねぇ。


 ナナちゃんが戻ってきたところで、皆で夕食に出掛ける。

 今夜はワインが1敗タダで飲めると掲示板に書かれていたようで、いつもより騒がしい。少し遅れて来たんだけどねぇ……。


 食事が終わると、ナナちゃんは母上のところへ行くと言って、食堂を出ると分かれてしまった。

 今夜はワインを飲みながら、今後の話をすることになるのを知っているのだろう。

 母上の事だ。自分の子供のように可愛がってくれるに違いなし、姉上も妹のように見ているからなぁ。


 いつもの連中が集まったところで、バッグからワインを3本取り出す。

 グラムさんから頂いた品だから、皆にも飲んで貰おう。

 ワインのカップが皆に回ったところで、再度エクドラル王国の状況を説明する。


「今の所は問題はないらしいのう。だが、王都を囲む城壁にフイフイ砲を配置したとなれば、小型の品を攻撃用に作ったに違いない。爆弾の試作は先ず不可能じゃろう。レオンにワシ等も教えられたような物じゃからな」

「だが、石火矢の秘密はバレそうだぞ。前回もティーナ殿は尾根で魔族を切り伏せていたぐらいだからな。次は石火矢を使うだろうから、隠せるとは思えんな」


「西の尾根で使うなら、ヴァイスさん達が使う石火矢で十分でしょう。あれなら飛距離は新型石火矢の半分ほどです。それにそもそも魔族相手に作った物ですからね。隠すというのも問題ですよ」


 2つあるからね。威力の小さいものなら多用しても問題ない。あの石火矢でもフイフイ砲の射程に倍する射程があるんだから、フイフイ砲を教えた背景にある兵器として欺くには十分すぎるだろう。

 もっと口径の大きな大砲も作りたいところだが、信管と呼ぶらしい着弾時に爆発する仕掛けをどうやって作るかが皆目分からない。

 散弾を広範囲に打ち出す仕組みをもう少し考えて、次弾装填の容易化を図るぐらいしかできないかもしれないな。


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