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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-183 砂金の採取量がかなり減っているようだ


 オルバス家にやって来た8日目の朝。

 どうにか、旧王都での催しをこなしてマーベル共和国に帰ることになった。

 俺達以外の同行者は、荷馬車2台の御者と護衛の兵士が1個分隊。護衛してくれる兵士は全てイヌ族の兵士だが何と騎兵だった。もっとも軍馬ではなくボニールに騎乗なんだからちょっと驚いてしまった。これなら俺がボニール乗っても、あまり奇異にみられることは無いだろう。

 イヌ族なら軽装歩兵や弓兵なんだけど、彼らの武装は片手剣と丸い盾だから軽装歩兵そのものだ。それ以外に短槍を装備しているのは、ボニールで敵陣に突撃するつもりなんだろうか?

 

「彼らは索敵部隊なのだ。ボニールに乗って広範囲に索敵をする役割をこなしている」

「そういう事ですか……。それなら納得できます。通常は分隊の半分程度で索敵をしているんでしょうね」


 荷物や、食料の確認を終えたところで見送りに出てくれたデオーラさんに深々と頭を下げる。

 グラムさんは生憎と宮殿に用事が出来たらしい。朝食時に別れを交わしたが、「来年も待っているぞ!」と言われてしまった。

 図上演習が気になるところだから、是非とも来たいとは思っているんだが、それは来年の状況次第だな。


「長らくお世話になりました。次はデオーラさん達がマーベル共和国にいらしてください」

「ティーナが仕事をしているのか気になるところです。甘やかせたところがありますから、よろしくお願いします」


 互いに笑みを浮かべて再度頭を下げる。ナナちゃんはデオーラさんにハグされていたけど、そのままナナちゃんを抱きかかえて、ティーナさんの乗った鞍の前に下ろしてくれた。

 互いに手を振っているから、ナナちゃんも楽しい思い出がたくさんできたに違いない。


「それでは、出発するぞ!」

「「オオォ!!」」


 ティーナさんの指示で護衛の半数が先行する。その後ろを俺達が続き、俺達の後ろは荷馬車が2台と残りの5騎がついて来る。

 真っ直ぐに通りに延びる石畳を進んで、門を出る際に後ろを振り返るとデオーラさん達が手を振っているのが見えた。

 俺達も手を振って応えたところで、護衛の兵士達に遅れないようにボニールを進めて行く。

 小さいけれど馬には違いない。

 小走り位の速度で貴族街を抜け、住民の暮らす街へとボニールを進めて行った。

                ・

                ・

                ・

 旧王都の外側の城壁を抜けて、街道を東に進む。

 1時間ほど進んだところで小休止、ボニールから降りて体を伸ばす。ボニールは護衛の兵達のボニールと一緒に道端の草を食んでいる。その姿が可愛いのか、ナナちゃんがボニールの首を撫でているんだよなぁ。

 街道近くに集落がいくつか見えるけど、見渡す限りの小麦畑だ。

 集落近くに林がいくつか見えるのは、薪を取るために違いない。森を作ろうとはしないのかな? 水場を作るには先ずは森作りからだと思うんだが。


 来たときと同じように途中の町や村で宿泊する。この先はブリガンディとの国境である石橋になるという村に到着すると、翌朝は北に向かって伸びる小道を進む。

 馬車1台がどうにか進めるほどの道幅だ。周囲は雑草ばかりだけど、それほど草丈が無いから盗賊が潜むことはないだろう。

 朝の澄んだ空気の下では、北方遥か彼方に青黒くそびえる大山脈の姿が見えたけど、日が昇るとたちまち霞んでしまった。

 まだまだマーベル協和国は遠いと実感してしまう。

 街道の村から北に1日で開拓村に到着する。

 まだ日が高い時刻での到着だが、明日からは野宿だからねえ……。たっぷりと食事を取って、ベッドに入ることにした。


 俺達が渡河した場所を過ぎたのは開拓村を出て2日目の事だった。行軍速度が少し早い気がするけど、馬車ではなく荷馬車だからだろう。それに全員が騎乗しているということもあるのかもしれない。

 軍馬だけを使ったなら、案外日数がかからないのかもしれないな。


 渡河地点から歩いて3日でマーベル協和国だ。

 前方には雄大な山脈が俺達を阻止する城壁のようにそびえている。

 あの北に魔族の土地があるということになるんだが……、どんな暮らしをしているのか想像すらできない。

 少なくとも農業を大規模に行うことは出来ないだろう。太陽の恵みが乏しいとなれば、大平原で放牧をするような暮らしなんだろうか?

 それを考えると、この大陸の南にあるいくつもの王国に不定期な攻撃をすることになりそうだが、ブリガンディは毎年のように魔族の攻撃を受けている。

 やはり、定住が可能な何かの食物を育てていると考えられるな。

 

 前方からボニールに乗った兵士が近づいて来た。周辺の偵察に向かった2騎のようだ。

 俺と並んで馬を進めていたティーナさんのところに走ってくると、隣を並走して報告をしてくれた。


「河原にマーベル国の部隊がいただと?」

「およそ2個小隊。我等の到着を喜んでくれました。部隊を率いているのはエルド殿です」


 今頃は急いで道具を片付けているに違いない。

 砂鉄を採取しながら砂金を取っているのがばれてしまいそうだ。

 さて、どんなごまかしをしてくれるか楽しみだな。


「それなら、今夜は安心して野宿できますね。今の時期なら大掛かりに魚を獲っているはずです」

「育てた魚は冬越しということか。野戦食にも飽きたところだ。今夜はワイン2杯は飲めそうだな」


 ティーナさんの言葉に、近くの兵士達から喜びの声が上がる。

 単調な行軍をしていると、ちょっとした変化だけでも士気を上げることが出来るんだな。

 

 エディンさん達によってだいぶ固められた道を進んでいくと、先を進んでいた兵士が道を外れて河原に下りていく。

 広い河原にいくつものテントが見える。

 少し大きなテントの出入り口に立っているのは、エルドさんとヴァイスさんのようだ。

 列を離れて、片手を振りながらテントに向かう。

 俺の姿が分かったのか、エルドさん達が手を振ってくれた。


「ようやく帰ってきましたよ。イヌ族の騎兵達はエクドラル王国が用意してくれた護衛です」

「戦になるかと思ってたにゃ。でも武器を取らないから、エディン殿の先行部隊かと思ってたにゃ」

「何とか道具は片付けましたよ。ヴァイス達が魚や獣を獲ってくれましたから、本来の仕事を隠せそうです。明日は一緒に帰りましょう」


「今夜は宴会にゃ!」なんて言ってるけど、あまり飲むと帰りが1日遅くなりそうだ。

 ほどほどにしておこう。

 エルドさんの部下が、俺達一行の野営場所を案内してくれた。河原から少し高台になるけど、周りにはたくさんの雑草が生えているからボニール達も食事に困ることはないだろう。

 

 野営準備を兵士達に任せて、俺達は先ほどエルドさん達がいた大きなテントに向かった。

 入り口の兵士が俺を見て、すぐにテントの入り口を開いてくれる。

 中に入ると盾を2枚横にした簡単なテーブルと組み立て式のベンチが4つ置かれていた。明りは上から吊るしたランタンだけだけど、結構明るいな。


「ご苦労様でした。だいぶゆっくりしていたようですね」

「お土産が楽しみにゃ」


 先に席に着いていたエルドさん達が、笑みを浮かべて俺達の到着を喜んでくれた。

 苦笑いを浮かべて席に着くと、早速ネコ族のお姉さんが俺達にワインのカップを渡してくれた。


「色々と商談を取りまとめてきました。住民が増える一方ですけど、開墾は捗っていませんからねぇ」

「それでも、エディン殿から買い入れる穀物の量はそれほど増えていないようです。マクラン殿には頭が上がりませんよ」


 初期の人口から比べれば10倍近くになるんじゃないかな。それだけ俺達の自給自足が軌道に乗っているということなんだろう。

 ある程度の食料購入は、不作時の備蓄を考えれば仕方のないことだろう。現状では半年分ということだけど、何とか1年分程度に拡大しておきたいところだ。


「今夜は焚火で串焼きにゃ! 魚もたくさん獲れたし、下の森でイノシシを狩ったにゃ」


 ヴァイスさんの言葉に思わず笑みが浮かぶ。

 俺達が増えたぐらいで分け前が減るような分量ではないらしい。

 ヴァイスさんがナナちゃんやティーナさんを誘って夕食の準備の状況を見に出かけたんだが、あれって摘まみ食いをしたいだけなんじゃないかな?


「上手く誤魔化せました……。ヴァイス達が斥候部隊を見付けてくれましたので大急ぎで川の中に組んだ樋をバラしましたよ。河原の一か所に纏めてありますが、あれなら簗の資材だと思ってくれるでしょう」

「川で砂鉄が取れる。しかも上質だということになれば、直ぐに動くだろうからなぁ。だけど、ガラハウさんの話では鉄は鉄鉱石から作るらしい。砂鉄の存在は知っているようだけど、効率的に砂鉄を分離する方法が分からないようだ」


「海の砂にかなりの砂鉄があると教えてくれましたよ。海の砂鉄では上手く行かないんでしょうか?」

「その辺りは俺にもよく分からない。案外不純物が精製した鉄に交じってしまうのかもしれないね」


 俺達の製鉄は大規模ではないからなぁ。長剣を作るためだけに採取しているようなものだ。他の武器や農具、それに台所用品を作る鉄は、エディンさんから買い入れているのが現状だ。

 このまま推移すれば、マーベル共和国のドワーフ族の腕が良いからだと勘違いしてくれそうだな。

 

「やはり砂金はかなり採取量が減りましたか?」

「最初の頃に比べると半減以下になっています。今年は2袋になるかどうか……」


 暗い顔になったのは、砂金を使っての交易をずっと続けていたことを知っているからだろう。だが砂金は直ぐに枯渇してしまうものだ。まだ三分の一程度の採取が行えるなら問題はあるまい。


「採掘場所を上流に移動してはいるのですが、粒は当初と比べて大きいですが数が少ないようです」

「それでも、1袋で金貨数枚にはなることを考えれば十分ですよ。俺達は砂金採掘で暮らしているわけではありませんからね。砂金の取れる間に開拓を進めて産業を作れば将来は安泰です」


 とりあえずは陶器工房とステンドグラス工房を大きくしよう。それだけでも不足する食料品の購入は可能だろう。さらにガラス工房を立ち上げられれば、陶器に匹敵する利益を上げられそうだ。


「マーベル共和国に工房街を作れそうですよ。陶器の需要はかなりのものです。それに礼拝所に作ったステンドグラスと同じようなガラス窓を土産に持って行ったのですが、大きな注文を受けてきました。2つの工房だけでもかなりの求人を募れそうです」

「あの窓ですからねぇ……。ティーナ殿がここで目にしたことも大きいのでしょう。でもドワーフ族が今の工房から出るとは思えませんが?」


 細工ならドワーフ族と言われるぐらい手先が器用な種族だからなぁ……。

 そこはガラハウさんと相談してみるか。

 ガラハウさん達が今の工房を退くのはかなり先だろう。案外若いドワーフの青年を紹介してくれるかもしれないぞ。


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