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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-182 そろそろお暇しよう


 オルバス館に5日程滞在させて貰ったけど、そろそろお暇しても良さそうだ。

 グラムさんにマーベルに帰りますと伝えると、2日待てと言われてしまった。

 どうやら、俺を帰すための土産を準備するということらしいが、そこまで気を使って貰わなくても良いんだけどなぁ……。


「王女殿下より子供達の衣服、王子殿下からはワインを樽で10個も頂いています。これ以上というのも……」

「陶器のお茶のセットを頂いています。私達から、マーベル国寄りの来訪者の部屋を用意するだけでは足りないでしょう。それぐらいなら他の貴族が、我も我もと言い出しかねませんわ」


 王国にとって重要な来客の滞在は、それだけで他の貴族から一歩頭を出すことになるらしい。オルバス家はエクドラル王国の重鎮だが、俺の滞在を妬む輩もいるというんだから驚きだ。

 敵対するブリガンディの分家貴族なんだけどなぁ。たぶん貴族名鑑から俺の名はすでに削除されてるんじゃないか?


「オルバス家の汚点にならなければ良いのですが……」

「エクドラル王国に富をもたらす人物の滞在が汚点になることはありませんわ。明後日の出発時にはバリウスの部隊から1個分隊を護衛に付けると言っておりました。その準備もあるのでしょう」


 デオーラさんの言葉に、ありがたく頭を下げる。

 色々と買い込んだからなぁ。荷馬車1台分にはなりそうだ。それに片道10日近く掛かるから、途中で野宿もしなければならない。

 魔族に襲われる危険性は少ないだろうが、旧サドリナス王国の兵士達による盗賊行為が未だにあるらしい。


「話は変わりますが、レオン殿はお幾つになられるのですか? 宮殿で色々と尋ねられるのですが、まだお若いと答えられるだけでした」


 通路から足音が聞こえたかと思ったら、扉が乱暴に開かれた。ちょっと顔を赤くしたティーナさんが部屋に飛び込んでくると、デオーラさんの前で仁王立ちになる。後からナナちゃんがやってきて、俺の隣の腰を下ろすと首を傾げている。どうやら部屋の近くまで来たところでデオーラさんの話を聞いたのだろう。それにしても……。


「まさか縁談を進めるわけではあるまいな!」

「そんなに怒らずとも……、とりあえず座りなさいな。確かに向こうにはその思惑があるでしょう。でもそれは叶わぬことです。貴族同士の縁談は国王陛下の許可が必要なのは知っているでしょう? 貴族の数を一定に保つ為に先王が定めています。ですから、思惑だけではどうなるものでもありませんよ」


 案外、ティーナさんをたきつけるために俺を利用したのかもしれないな。近くにティーナさんがいることを知って、少し大きな声で話したようにも思えてきた。


「それなら良いのだが……。せっかくマーベル共和国との友好を維持してきたところで、変な横槍が入ると瓦解しないとも限らんからなぁ……」


 ティーナさんの先ほどの行動を弁明するかのような話を聞いて、デオーラさんが口元を隠しながら目を細めている。

 やはり狙っていたみたいだな。デオーラさんにとってはまだまだ小さい子供に見えるに違いない。


「レオン殿の次には、ティーナの話が出るのですよ。そろそろお相手を決めても良さそうに思えるのですが?」

「私よりも先に兄上だろう。私が身を固めるのはまだまだ先になる」


 ティーナさんがプイ! と頭を横にした。

 そんなことだからデオーラさんがついに笑い声をあげている。

 仲の良い家族なんだな。オリガン家もそうだけど、オルバス家が居心地よく思えるのは家族仲が良いことと、デオーラさんの存在にあるのかもしれない。


「出発は明後日とレオン殿から聞いておりますが、ティーナの準備は出来ておりますの?」

「長剣の礼はワイン3樽。食事の礼に小麦を20袋とボニールが3頭。これで十分であろう。マーベル協和国で取れる麦はライ麦だからな。たまには小麦のパンを皆で食べることが出来よう」


 それにしてもボニールとはね。ロバより利用価値が高そうだから、ありがたく頂戴しよう。


「私も訪ねてみようかしら……」

「のんびりした場所ですし、名物もありませんよ。夏は少し涼しいかもしれませんが、冬の寒さはかなりのものです」


 とりあえずやんわりと釘を刺しておこう。

 ティーナさんもうんうんと頷いている。やはり母上が来ると都合が悪いということかな?


「大きな池にお魚が沢山いるにゃ。私が卵から育てたにゃ。小さな礼拝所は光の中に女神様がいるにゃ。たくさんヤギや羊がいるけど、たまにお花畑に入ってしまうにゃ」

 

 うんうんと目を輝かせてナナちゃんの言葉を聞いている。

 思わずティーナさんと顔を見合わせて互いに頭を横に振ってしまった。

 

「そう……。素敵な場所なのね」

「皆笑顔で暮らしてるにゃ。新しくやってくる人達は暗い顔をしてるけど、すぐに笑顔を見せてくれるにゃ」


 デオーラさんが俺に顔を向けて笑みを浮かべる。

 協和国の統治が上手く行っていることを確認したということかな?

 正式に招待することは俺の一存では出来かねるけど、娘の近況を確認する目的でエディンさんと一緒にやってくるぐらいは許容すべきかもしれないな。

 

 翌日は、明日が出発ということもあって、ティーナさん達がナナちゃんと一緒に商店街へ出かけてしまった。

 

「これに一杯の御菓子を買おう!」


 そう言ってナナちゃんに魔法の袋を見せているティーナさんはちょっとお姉さん気分を味わいたいってことなんだろう。でも、どれぐらい入るんだろう? 

 読み書きを教えて貰いに集まってくる子供達に配ってあげるんだろうけどね。とりあえず銀貨5枚を渡しておいたから、足りないということは無いんじゃないかな。


「頂いたボニールに鞍まで付けて頂いて申し訳ありません」

「あれは、武具庫に長らく保管されてた品らしいですよ。『新兵に渡すのも気の毒だ』とグラム殿が言っていたぐらいですから問題はありません。それより、軍馬を渡せないことを恥じ入るばかりです」


 馬はねぇ……。頂いてもあまり利用できないからなぁ。

 その点ボニールは伝令の少年達が使えるし、何といっても畑を耕すのに都合が良い。

 明日はボニールに乗って行こう。

 馬車を出してくれると言っていたんだが、馬車よりはボニールに乗った方が周りの景色が良く見えるだろう。

 ナナちゃんはティーナさんと一緒に馬に乗ると言っていた。


「次も、いらっしゃってくださいな。レオン殿の話は、サロンで交流するより何倍も見識を深めさせてくれますし、若い士官達も集まってくれますから」

「はあ……。機会があればお邪魔させて頂きます」


 とは言ったものの、できればマーベルでのんびり暮らしたいところだ。やはり根が田舎者だからなぁ。都会はあまり落ち着かないんだよね。


 最後の夜は、グラムさんの顔見知りの貴族達までが集まってのちょっとした晩餐会になってしまった。

 テーブルマナーがいい加減だからなぁ。もう少しまじめに勉強しておけば良かったと思っても今さらだ。

 田舎者だと明言して、最後まで同じ食器で頂くことにした。


「どうですかな? 色々と見て回れらたと聞いておりますが」

「工房から製品を買い取って、さらに価値を高めるという商売を考えています。上手く行けば来年には新たな品を王子殿下に贈ることができるかもしれません」


「「ほう……」」


 数人が、興味を示したのか、ちょっと感心しているようだ。

 果たして、グラスのカットが上手く行くのかどうか早く実験してみたいところだ。並行してクリスタルガラスに挑戦することになるが、簡単に出来るとも思えないんだよなぁ。試行錯誤の繰り返しで何とかしたいところだ。


「光の神殿にいかれたとか……。あの祭壇の大きさには驚いたでしょう」

「さすがは名工の作だと感心しました。王子殿下からの依頼もありますから、来年の神殿改築にはご期待してください」


 改築という言葉を聞いて、隣の貴族と小声で話し合っている。

 神殿にステンドグラスを設けるという話は、それほど広がっていないのかもしれないな。


「レオン卿が持参したガラスの造形を見たであろう? 一般庶民にも見せることができるようにと、神殿に飾るための作品を殿下がレオン卿に依頼したのだ。届くのは来年だろうが、それを設置するには神殿の改築をしなければなるまい」

「あの品を神殿に!」


 ちょっと驚いている。

 ステンドグラスを家に飾るのも良いかもしれないけど、製作費がかなり掛かるからなぁ。だけど陶器を飾るよりは良いかもしれない。

 廉価版も作ってみようか。案外需要があるかもしれない。


 晩餐が終わったところで男性と女性に分かれて雑談を楽しむ。

 ナナちゃんはデオーラさんが連れて行ったけど、御菓子が用意してあるのかな?

 俺達は、グラムさんの私室のソファーでワインのカップを傾けながらパイプを楽しむ。


「この度は色々とお手数をおかけして申し訳ありません」

「お気遣いは無用。ティーナを預かってもらっているのだからな。それにあの陶器を頂いたとあっては……」


「陶器ですと?」

「今頃は、ご婦人方にデオーラが披露しているはずだ。今宵のお茶には陶器のカップを使うと言っていたぞ」


「本国でも陶器をセットで持つ家は少ないと聞いていますが……。レオン殿、次は是非とも私共に……」


 欲しがる人は多いんだよなぁ。

 とりあえず「増産すべく工房を大きくしています」と答えておいた。



「戦術の造詣が深く、さらに富を生み出す能力もあるとは……」

「神は2物を与えぬと言われておりますが、よほど神に好かれておるようですな」


「こうなれば良いな……、と思ってやってみただけです。たまたま上手く行っただけの事、自慢できることではありません。自慢できるのであれば、それを試行錯誤で形にしてくれた工房の職人達がいたことですかね」


 ここは謙虚に出ていよう。

 まだ職人とも言えない連中だけど、数年もすればガラハウさんだって認めてくれるんじゃないかな。


 とはいえ、次ぎに訪問する機会があった時には、たくさん陶器を持ってこなければなるまい。

 釉薬や作品の意匠などを試すから、たくさんの実験作が出来てしまう。その中で良さそうなものをある程度確保して、エディンさんの目で商品になるかどうかを確認して貰おう。


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