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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-178 今夜は士官達がやって来る


 工房から帰る途中で光の神殿に立ち寄った。

 さすがに旧王都の神殿だけあって大きなものだ。

 鐘楼の高さは宮殿を越えているんじゃないか?

 神殿の両側に鐘楼を持った姿を、神殿前の大きな池に白亜の姿を映している。

 それを見るだけで、信仰心が高ぶる感じがするな。

 ティーナさんの後について10段ほどの階段を上り、開け放たれた大きな扉を潜ると、そこが礼拝堂になっていた。

 奥行だけで50ユーデはありそうだ。天井が高く壁画が描かれている。

 円柱が左右に並ぶ礼拝堂を進むと、大理石の大きな彫刻があった。

 光の神は女神なんだ……。

 ベールから顔を出して優しいまなざしを俺達に投げかけている。

 背景には巨大なタペストリー、題材は神話の一部なんだろう。左右の篝火に照らされてはいるんだけど……、なんとなく全体が暗い感じがする。

 光の神なんだから、もっと明るくしてほしいところなんだが、礼拝堂があまりにも大きいからだろう。円柱に付けられたランタンだけでは光量が足りないみたいだ。

 かといって、やたらとランタンを付けるということも問題がありそうだな。威厳との兼ね合いが難しいってことなんだろう。

 ナナちゃんがジッと女神像を見ている。

 案外、女神様と話し合っているのかもしれない。精霊種だからねぇ。神との俺達の仲立ちをしてくれる種族なのかもしれない。

 ナナちゃんが女神像から視線を外したところで、早々に去ることにした。

 あまり宗教に肩入れすると色々と問題が出てきそうだからね。


 館に戻ると、応接室でお茶を頂きながら工房の様子を思い出してメモを取る。

 ナナちゃんはティーナさん達と庭を散歩に出かけたみたいだ。

 誰もいない大きな部屋で俺一人というのも、勿体ないような気がするなぁ。

 開け放たれた窓から涼しい風が入る。

 パイプを使いながら工房立ち上げに必要な品がさらに必要かを考えていたんだが、そういえば、今夜は士官達が訪ねてくることになっていた。

 シミュレーションとかいう言葉が浮かんできたけど、それがあの図上演習を指す言葉なんだろうか?

 少なくとも聞いたことが無い言葉であることは確かだ。

 言葉なら何でも良いんだろうけど、問題は3つの部屋とその部屋との連絡だろうな。

 時間経過を同一にしなければならないということは、正しい時間を計るための工夫にも繋がるんだよなぁ。

 とりあえずは3つの部屋をある程度近付け、砂時計を使って時間経過を示す鐘を鳴らすことで良いだろう。

 2つの勢力が戦うんだから、名前も必要だろうな……。


 工房に関するメモをとりあえずまとめ上げて、早めに図上演習を考えたほうが良さそうだ。

 パイプを置いて、残ったお茶を飲むと再び工房に関わるメモを読み返しながら、補足を加えて行く。

 新たに必要な資材のメモを作り終えたところで、ベランダで庭を眺めながらパイプを楽しむ。

 本当に大きな館だよなぁ。

 小さな集落が作れそうな感じだ。

 遠くで小さな炸裂音がしたので、そちらに目を向ける。

 ナナちゃん達が私兵の魔導士達の訓練に混じっているようだ。さっきの音はナナちゃんの放った魔法かな? 魔導士の放った魔法の炸裂音はここまで聞こえてこないからね。


 さて、今度は図上演習を考えてみよう。

 概念は説明したから、士官達が演習を行えるまでに昇華してくれているはずだ。

 その補足となると、やはり先ほど考えた伝令の使い方と時間経過が肝になることは確かだ。外乱を導入しても良さそうだな。急な豪雨なんてどうだろう? 視界が悪くなるから敵情の観察も容易ではないはずだ。進軍速度も遅くなるし、部隊の展開だって普段よりも時間が掛るだろう。

 その状況悪化をどのように作るかだが……。とりあえずは部隊単位での戦力評価表を作れば良いのかもしれない。

 部隊の戦力は兵員数と使用する武器、種族で良いはずだ。それが初期の戦力になる。

 戦力の低下は疲労による士気の低下と兵員の消耗で良いだろう。

 外乱は、やはり天候を考えたほうが良いだろうな。昼と夜についても考えなくてはなるまい……。


 それにしても、これだと計算が追いつくかな?

 士官連中が果たして計算を得意とするだろうか? 図上演習を支える監察部隊は、思いきって商人に頼むということも考えないといけないかもしれないぞ。

 2個大隊程度がぶつかりあうことを考えると、部隊表は中隊単位ぐらいになりそうだ。互いに8個中隊だから16中隊の部隊戦力評価を30分ごとに見直すことになるからなぁ。

 それがぶつかるときは、かなり計算が面倒になりかねない。

 少なくとも部隊数と同等の戦力計算を行う人数を揃える必要があるだろう。戦闘時はさらに増員ってことになるだろうし、兵站の計算も必要だろう。計算を行う連中だけで30人近く必要になりそうだ。

 計算だけを行う連中の為にを別室に、もう1つ部屋が必要になるんじゃないかな?

 監察部隊を補完する計算部隊という立場になるんだろう。


 いくつもの相関図を描きながら、図上演習のやり方を検討する。

 まあ、最初だからね。上手く行かないのが当たり前……。そんな考えに至ったところでメモを閉じる。

 すでに夕暮れが迫っている。

 まだナナちゃん達は戻ってこないけど、今度はどこに行ってるんだろう?

                ・

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                ・

 デオーレさんを交えて、夕食前の一時を過ごす。

 ナナちゃんは館の図書室を見せて貰ったらしい。たくさん本があったにゃ! と元気な声で教えてくれた。

 デオーラさんの話によると王宮の図書室は図書館として1つの独立した建物になっているようだ。


「王宮で図書室と言えば、その図書館の中にある閲覧室ということになります。館の図書室が3つほど並んでいると言えば良いでしょう。中庭を囲むような形で配置されていますが、全て同一の作りです」

「ナナちゃん、何とかなりそうかい?」

「いくつかメモを取ったにゃ。この中から選ぶにゃ」


 メモは見せてくれないようだ。

 残念そうな俺を見て、デオーラさんが笑みを浮かべている。


「どんなステンドグラスになるんでしょうね? 王子殿下の私室の工事が始まったと聞きましたよ。あの窓があるだけで部屋が華やかになりそうですね」

「そうだ! 忘れてましたけど、マーベルの子供達に服と履物を王女殿下から贈って頂いたのですが、過分の贈り物に戸惑っています。どのようにお礼を言ってよいのか……」


「王女殿下は嬉しかったんでしょうね。私共も忘れていたのですが、分家が2つあるだけですからね。その分家とは長らく付き合いも無かったとか、実家からの嫁入り道具はあるでしょうが、実家の物ではありません。でも家紋となれば別ですからね」


 そんなものなのかな? その辺りの話は、俺には良く分からないところだ。王女殿下がそれで喜んでくれるなら作った甲斐があったといえよう。


「夕食は早めに済ませた方が良いかもしれませんね。グラム殿が『今夜が楽しみだ』と言って、王宮に向かいました。夜食を沢山用意するようにと言ったのは、初めてじゃないでしょうか?」


 遅くまで議論しようということかな?

 まあ俺が言いだしたことだから今さら後には引けないけど、どれほど士官達を連れて来るのだろう?


「大勢でやって来るということなんでしょうか?」

「小隊規模にはならないでしょうけど……、大広間なら何とか入るでしょうから、家人達が会場を作っているところです。黒板も仕官学校から運び入れたようですね」


 発表会じゃないんだから、そこまでしなくても良さそうに思えるんだけどなぁ……。

 とはいえ、軍の底上げにも繋がるということで、皆が乗り気なんだろう。

 魔族相手にどこまで通じるかは疑問ではあるが、他の王国との戦では有利に運べるかもしれない。

 戦は正攻法だけではないからね。相手の意表を突く奇策を用いることで、味方の損害を可能な限り削減する方法を考えるべきだろう。

 そんな作戦が容易に行えるようにするのが、図上演習の目的だと思う。

 互いに拠点を出ての戦を最初に経験したなら、防衛戦や城攻めなどのバリエーションも考えられるだろう。

 

 夕暮れが終わると直ぐに、夕食が始まる。

 早めに帰宅したグラムさんも一緒の夕食だ。夕食の話題はやはり図上演習になってしまうのは仕方がないな。

 ナナちゃんは飽きてしまいそうだから、デオーラさんに預けておこう。

 メイドさん達と一緒にカードゲームすると嬉しそうに教えてくれた。カードゲームもいくつか買い込んでおこう。伝令の少年達の御土産に丁度良さそうだ。


「王子殿下が是非にと言っておいでだった。途中参加で我等の状況を見て変えられるのだろうが、それだけ興味を持ったということになるんだろうな」

「でも図上演習に近いことは、今までもやっていたのではありませんか?」


「士官学校で、過去の戦の勉強をするぐらいだな。状況と結果だけを知っていても、自分達の戦にどれだけその教訓を使えるかということになると、はなはだ心もとない限りだ」

「図上演習の結果が必ずしも正攻法となることは無いと思っていますが?」

「戦に正道も邪道もあるものか! 結果を妬む輩の妄言の最たる言葉が『邪道』だからな」


 マーベル共和国の将来が少し不安になってきた。

 飲み込まれるかもしれないな。だが、飲み込まれたとしても都市国家に近い自治を認めさせねばなるまい。

 国力は人口と比例する。それを考えるとマーベル共和国とエクドラル王国の国力の差は100倍以上になるだろう。

 石火矢と爆弾で戦力は上げることができたが、総力戦になれば耐えられるものではない。殲滅戦は何としても回避したいところだ。


「どうした? あまり食が進まぬようだが」

「エクドラル王国と俺達マーベル共和国の国力に、大きな差があるのを思い出したからです。可能な限り戦を避けるために努力しなければと……」


 俺の言葉に、ティーナさんが驚いた表情を向けた。

 正直すぎたかな? もう少し遠回しに告げれば良かったかも……。


「レオン殿はエクドラル王国を信用しておらぬのか?」

「信用していればこその事です。王子殿下のサドリナス領の統治は俺達にとって理想的なんですが、それがいつまで続くかを考えると」


「それは王宮内がどのように考えるかで決まりそうだな。確かに危惧せねばなるまい。そこまで考える軍人はエクドラルにはおらんだろうな。将来計画と言えば簡単だが、それでも数年先までだろう。レオン殿は100年単位で物事を考えているということになるのだろう。王子殿下が欲しがるわけだ……」


 さすがに100年単位で考えているわけでは無い。俺がいなくなってもマーベル共和国が存続する方法を考えているだけだ。

 加工貿易で収益が得られるなら、共存という形が取れそうに思えるんだけどなぁ。


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