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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-173 明日の予定は


 夜更けまで続いた晩餐会の会場からオルバスさんの館に戻った時には、馬車の中でナナちゃんがぐっすりと眠り込んでいた

 起こしたら可哀そうだと、デオーラさんが抱きかかえて、そのまま自分の寝室に運んで行ってしまった。

 ちょっと不機嫌そうな顔をしていたティーナさんだったが、俺と一緒にグラムさんの私室に招かれたことで少し機嫌が直ったみたいだ。


 私室のソファーに腰を下ろして、メイドにお茶を用意させるとさっそく今後の話が始まった。


「とりあえずレオン卿のお披露目は問題なく終わったということになる。明日は、モルデン殿を訪ねるということだが、悪い噂を聞かぬ御仁だ。マーベル国と交易をする上で問題は無いだろう。武器店と防具店には足を運ばぬ方が良いぞ。何といっても斬鉄剣を作れるのは近隣王国ではマーベル国だけだからな。逃げ出すのに苦労するだろう」


 そういって笑い声を上げている。

 俺達は互いに顔を見合わせて溜息を吐くだけだ。楽しみだったんだけどね。


「そうなると、光の神殿に足を運ぶべきかもしれん。今夜の話が直ぐに実を結ぶとは思えんが、王子殿下の思惑ではステンドグラスを飾る神殿は光の神殿ということになりそうだ」

「間違いあるまい。6つの神々中で一番古い神が光の女神と闇の神だそうだ。闇の神の神殿が地上に無い以上、光の神殿と考えて良いだろう。他の神では、他の神官達の収まりが付かぬだろうからな」


 別格ということかな?

 それなら1度見ておいた方が良いかもしれない。とはいえナナちゃんがどんな印象を持つかが問題ではあるんだけどね。


「最後に、図上演習についてだが……。王子殿下はかなり乗り気らしい。たぶん今頃は若い士官達士官が怒鳴り合いながら案を纏めているに違いない。どんな形式になるのかおおよその形はレオン卿が説明してくれたが、彼らがまとめた演習案を確認してからマーベル国に戻ってくれぬか?」


 言い出した以上、後は知らんふりも出来ないだろう。


「了解しました。そうなると滞在が伸びてしまいそうです。申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

「感謝する。いくら滞在しても構わんぞ。いっその事、部屋を用意しておいた方が良いかもしれんな。館が大きすぎるのだ。この半分でも持て余してしまう」


「数部屋を用意すべきかと、今回はレオン殿だけでしたが、将来はマーベル共和国の重鎮も滞在して頂けるのではないかと」

「さすがにレイニー殿ともなれば迎賓館になるだろうが、マーベル国の士官達ならワシの館でも問題はあるまい」


 大使を置くことは出来ないけど、長期的に交渉ができる態勢造りを考えているのかもしれないな。

 1か月程度の訪問時に、利用させて貰えるならそれに越したことはない。

 今後、この地を訪れる機会は多くなるだろう。ありがたく申し出を受けることにした。


 最後にワインを1杯頂いて、客室に戻る。

 ナナちゃんを取られてしまったけど、真冬ではないからね。公式な行事は全てこなしたから今夜はぐっすりと眠れそうだ。


 翌朝。いつものようにナナちゃんに起こされた。

 まだ小さいと言っても、結構大きくなったんじゃないか? 布団の上に飛び乗ってくるから、グェ! と変な声が出てしまうんだよなぁ。


「皆起きてるにゃ! 起こして欲しいとティーナ姉さんから頼まれたにゃ」

「なら、早いとこ起きないとね」


 ベッドから抜け出して、いつもの服に着替える。さすがに今日は士官服を着ずとも良いはずだ。

 用意された銅製の水盆で顔を洗う。

 マーベルでは水場で洗うんだけど、さすがに元王都だからなぁ。水場は無いだろうね。

 さっぱりしたところで、ナナちゃんに手を引かれて向かった先は食堂だった。

 グラムさんの姿が見えないのは、すでに食事を済ませて宮殿に向かったのだろう。

 デオーラさんとティーナさんが席についてお茶を飲んでいた。すでに朝食を終えたということかな?


「おはようございます。申し訳ありません少し深酒をしてしまったようです」

「おはようございます。気になさらずとも良いですよ。それだけこの館を気に入って頂けたということですから、もう少し寝かせてあげたかったのですが……、ティーナが早く市内を案内するのだと言って……」


 申し訳なさそうな顔をして俺に小さく頭を下げてくれたけど、最後はティーナさんにきつめの顔を向けている。

 本人は気にしない様子でお茶を飲んでいるんだけどね。


 メイドのお姉さんが俺の朝食を持ってきてくれた。軽い野菜サンドだけど、少々二日酔い気味だからね。ありがたく頂いてデザートの果物に手を伸ばす。


「先ずは、軽く商店街を歩けば良いだろう。気になる店に立ち寄れば昼近くまで過ごせるに違いない。昼食はモルデン商会で頂けるそうだ。朝早くに是非とも立ち寄って欲しいと連絡があった。商会を出た後に光の神殿に向かう。神殿の図面は別に用意してあるが礼拝所を一度見ておくことも大事だろう」

「予定を組んで頂いて申し訳ありません。国への土産も見繕わないといけないので商店街の散策は楽しみです」


「父上からの注文が1つあるぞ。くれぐれも武器店と防具店には立ち入らぬようにとのことだった。斬鉄剣の話が彼らのギルドで評判らしい。入ったなら1時間では出てこれないだろうとの事だった」

「なるほど……。それほど難しい作りではないように思えるんですが忠告に感謝です」


 製造方法を知りたいということかな?

 わからなくもないけど、温度と材料が違うからなぁ。エルドさん達の砂鉄の採取が、今後とも安定して出来るかどうかも怪しいところではあるんだよね。

 現在までの採取量だけで数十振りの長剣が作れるとガラハウさんが言っていたけど、鉱脈を掘るわけではないからなぁ。後どれだけ採れるかは微妙なところでもある。

 

「火薬を作る工房からも是非にと言ってきているが、さすがに安全を担保できない場所だ。次に来るときに引き合わせると伝えておいた」

「製法の伝授ですか……。それはできかねると伝えて欲しかったですね。マーベル共和国が独立を保てる最大の要因でもあります。完成品の一部を提供することはあっても、エクドラル王国で大量に生産することは自国の首を絞める行為でもあります」


「我等を信用していないと?」

「信用しているからこそです。現在は有効関係を保てていても、将来は分りません。ですから毎年50個の供与で満足していただきたいところです」


 ティーナさんはちょっと不満そうな顔をしているけど、デオーラさんは笑みを浮かべて頷いている。

 歴史を振り返れば、友好国同士が急に争いを起こしたことは何度もあるはずだ。

 その原因の多くが国王の代替わりなんだけどね。

 国王が賢王だけだとは限らない。覇王もいるし愚王もいるからなぁ。

 それを避けるために、俺達は国王を持たない国作りをしているぐらいだからね。


「私達は国王陛下の御心のままに行動しています。次期国王陛下の代になっても、それほど大きく王国が変わることはないでしょう。でもその次ともなると、私達では測りかねます。レオン殿の言葉はそういうことですよ」

「国と国の関係は現状だけでは分らぬと?」


 納得がいったような、できかねるといったような複雑な顔をして終えを見ているから、またデオーラさんが笑みを浮かべてティーナさんを見てるんだよなぁ。

 今までに、そんな学習をさせなかったんだろうか? それとも本人が嫌がってひたすら長剣を振っていたのかな?

 たぶん後者なんだろう。グラムさん達は娘可愛さに、好きなようにやらせていたんじゃないかな。


「あちこち歩くから、馬車というわけにはいかぬぞ。そのまま出かけられるのか?」

「問題ないですよ。ナナちゃんだって、いつも通りですからね」


 俺がお茶を飲み終えるの待っていたかのように、ティーナさんが問いかけてきた。

 俺の返事に笑みを浮かべると、やおら席を立つ。そろそろ出かけるのかな?

 お茶のカップを置いて、デオーラさんに軽く頭を下げると腰を上げた。ナナちゃんも飛び降りるようにして席を離れて俺のと凝りにやってくる。


「出掛けて来るぞ。帰りは夕暮れ時になるだろう」

「あまり羽目を外してはいけませんよ。もっともにユーリアが一緒ですから、その点は安心できますけど……。それではレオン殿、市内を楽しんできてくださいな」

「はい。それでは後ほど」


 俺の返事が終わると同時に、食堂の扉を開けてナナちゃんの手を引きティーナさんが出て行った。

 慌ててデオーラさんに頭を下げると後を追いかける。

 玄関ホールに誰か待っているようだな。話の流れからするとユーリアさんということになるのかな?


 ユーリアさんと合流して、館の外に出る。

 通りまでは結構歩くんだよね。それにこの辺りは貴族街ということだから、商店の並ぶ地区まではだいぶ歩きそうだ。

 とはいえ、散策する時期としては最高だな。

 空は青く晴れているし、貴族館の植栽は新緑だ。綺麗に剪定され街路樹の並びも目を楽しませてくれる。

 広葉樹の街路樹だから秋の紅葉も楽しめるに違いない。


 先頭を歩くティーナさんはナナちゃんと手を繋いでゆっくりと歩いている。時折2人で何かを話しているようだけど、少し後ろを歩いている俺には聞こえない。俺の悪い噂話でなければ良いんだけど……。


「ティーナ殿は楽しそうですね。あのままだと最初に向かうのは洋品店になりそうです」

「服ってことかい? さすがに俺には入りずらい場所だね」

「早めに終わらせますから、ご安心ください。たぶんデオーラ殿からのご希望だと思います」

 

 ナナちゃんへの贈り物ということなんだろうか?

 結構散財させてしまうな。タダより高いものは無いと聞いているからなぁ。後でどんな要望が出てくるのか、ちょっと心配になって来た。


 城門を1つ通り越して、一般市民の暮らす区画に出る。

 大通りを真っ直ぐ東に向かって歩き、しばらくして前方に高い城壁が見えてきた。


「この次の四つ角を南に進むぞ。この辺りが一番賑やかな場所なんだが、さすがに朝早くは人通りがそれほどではないな」


 周囲を眺めると、酒場ばかりじゃないか!

 1つ奥の路地には酔っ払いが寝転んでいるんじゃないか?

 賑わうのは、日が落ちてからになるんだろう。


 そんなお店に酒や野菜を届ける荷車がある。どんなところにも持ちつ持たれつの関係があるのだろう。やはりマーベル共和国だけを栄えさせるのは問題がありそうだ。周辺諸国を交えての繁栄を考えねばなるまい。

 ティーナさん達が右に曲がった。

 置いて行かれないように、俺達も足を速める。


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― 新着の感想 ―
かつあげされているとも、属国として献上させられているとも思う。 あいてがもらって当然だと感じ、まだまだ不足だもっとよこせと考えるのも時間の問題だろう。
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