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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-172 晩餐会は相談の場でもある


 2時間ほどかけて食事が終わると、今度はテーブル席の真ん中を使ったダンスが始まる。

 さすがに俺には無理だけど、ナナちゃんはケイロン君に誘われてダンスをしている。ステップが中々上手なんだよなぁ。見ていて感心してしまう。

 テーブルに着いてワインを飲んでいると、軍人や商人達がしきりにやってくる。

 王子様もいるんだけど、無礼を承知でやってくるのかな?

 グラムさんも苦笑いを浮かべて俺達の会話を聞いているところを見ると、これも1つの無礼講ということになるのかもしれない。


 商人達の目的は陶器の増産ということに尽きる。一応、王子様立ち合いの元での競売という形を取ってはいるが、半数は本国へと送っているようだ。残り半数の品を巡って熱い商人達の戦いが行われているらしい。

とりあえず3割増しには出来そうだという俺の見通しを聞いて、笑みを浮かべて頷いている。


「全く、あのような品を作れるのですから大したものです。さらに次の新製品も王子殿下に贈られたと聞きましたぞ。来年には我等にも見ることができるとのことでしたが、新たな工房を作る際に困ったことがあれば商会ギルドに申し出てください。資金、材料、職人……、いくらでも手配いたします」

「儲かるかどうかは分かりませんし、商売になる品ができるとも限りません。原材料はエクドラル王国から取り寄せていますが、将来は半完成品まで作って頂けると助かりますね。明日にでもその相談をモルデン殿としてみるつもりです。とりあえず試作ということになるんでしょうが」


 先を越されたか! なんて顔をしているな。

 やはり商人は先を見る目が欲しいところだ。もっとも、あまり先行投資ばかりしていると財産が破綻してしまう可能性もあるからなぁ。その辺りの見極めも必要だろう。

 俺だって恨まれたくは無いから、安易な援助の申し出は断った方が良さそうだ。


「過去の戦を基に図上演習という話を聞きましたが、どのような演習をお考えなのですか?」


 壮年の仕官が数人でテーブルに着いた。女性士官がデオーラさんに騎士の礼を改めて採っているところを見ると、デオーラさんもかつては王国軍の仕官だったに違いない。


「戦況図と戦の経過報告が残っているはずです。それを基に、同じ場所の地図を用いて、同じ兵種、同じ戦力を用意して地図上で戦をしてみるということです。例として西軍と東軍とするなら、その両者を別の部屋に置きます。自軍の陣をまとめたところで、その状況を中立である監察班に送ります。

 監察班が東西両軍の陣を構築できたところで、いよいよ演習を始めます。この状態で両軍が最初に行うことは何でしょうか?」


「当然、索敵だろうな。先ずは相手の状況を知らねばならない」

「索敵部隊の数、能力、そして索敵範囲を監察班に送れば、監察班は時間経過ごとの索敵状態を図上で確認していきます。

 30分毎ぐらいが良いでしょう。索敵部隊の移動距離、互いの索敵部隊の交戦による索敵部隊の壊滅も考えねばなりませんね。

 半日もすれば敵の状況が分かるでしょう。その後は互いの仕官達の作戦率案能力に掛かってきます。

 かつての戦の経緯は、参考になりません。それはお互いが知っていることですからね。いかに相手の軍を殲滅するか……。作戦が決まったなら部隊を移動することになりますが、これも監察班が互いの軍の全体像を見ながら駒を動かしていくことになるでしょう。

 互いの部隊が交戦したなら、交戦した部隊の兵種と戦力で勝敗を個々に判定することになります」


 テーブルの上にカップや皿を並べて説明していくと、目を輝かせて聞き入っている。仲間に手を振りここに来るように合図をするから、何時の間にか大勢の仕官達が集まってしまった。


「面白そうだな。実際に軍を動かさずに作戦能力を高めることができるということか。兵種の違いによる優劣はある程度理解できる。その上に戦力差が加わるなら個別の戦いの評価はある程度できそうに思えるな。お前達で、少し考えてみないか? レオン卿がワシの館を離れるのは明後日になる。明日1日掛けて素案を作り、疑問点を確認するぐらいは出来るだろう」


 グラムさんの言葉に、士官達が一斉に騎士の礼を取る。直ぐに晩餐会の会場を出て行ってしまったけど、これから皆で激論を交わすのだろうか?


「我が軍の将来は明るいですね。今の話を聞いて少し疑問に思ったのですが、個々の戦の判定は可能でしょう。でも全滅しない場合は再編も出来ますよね?」

「気が付きましたか。果たして彼らがそのことに気が付くかどうか楽しみなんですが、軍の交戦でどの程度の損害を受けるかについては計算で導くことができるんです。兵士の戦闘力、兵士の数、武器の優劣、この3で評価すれば良いでしょう。この3項目が同数であるなら、一定時間経過後の生存者の数は同じになるはずです」


「どれほどの消耗になるかは過去の事例が参考ということか……。兵士の種族や武器の違いは戦闘力になるのだな? 武器の優劣には鎧の優劣も加味すべきだろう。それ以外には?」

「運を入れるかどうかですね。案外重要かもしれませんよ」

「微々たるものだが、確かに運の要素はあるだろう。天候、足場等による優劣ということになるやもしれん」


「軍で行う価値はあると?」

「若手を鍛える上でかなり使えそうです。過去の戦を再現するのではなく、その状況下で自分達ならどのように戦を行うか……。戦史の通りの結果にはなりますまい。チェスで戦略を練るよりも具体的ですし、実戦での応用にも役立つかと」


 さて、どんな演習になるのだろうか?

 マーベル共和国でも試してみたいところだけど、面倒なことは皆が嫌がるんだよね。

 

 最後にテーブルにやって来た人物は神官服を纏った女性だった。乾杯の挨拶をした御仁はかなりの高齢だったし、すでに晩餐会から去っている。まだ若い神官なんだけど王子様に直訴ということなんだろうか?


「失礼いたします。光の神殿に使えるエミネルと申します。少しお話をしたいと思い、伺いました……」


 女性神官が王子殿下に深々と頭を下げると、顔を俺に向けて話を始めた。

 どうやら、俺達の国に神殿を作ろうと考えているみたいだな。すでにフレーンさんがいるんだから新たな神殿はいらないはずだ。祈りの場はすでに設けてあるし、宗教が国の運営に関わるとろくなことにならない。


「どうでしょう? 全ての費用は私共の神殿で賄う所存ですが?」

「少し勘違いをしておられるようですね。俺達の国は街道にある町程度の人口しかありません。そんな町にも教会はあるでしょう。俺達もそれに倣って礼拝所を作り神官が領民の心の安寧に努力しています。とはいっても、神官が風の神殿の下で修業をした関係から礼拝所には風の女神像が祭られています。他の神々を信仰する領民もおりますから、別に他の神を祭る祠を作って祈りの場を設けました。立派な神殿は必要ありませんよ」


 俺の言葉に、ちょっと驚いている。大きな国だと思っていたのかな?


「マーベル共和国は、我等の王国とはかなり異なるのだ。住民は全て獣人族であり、ブリガンディや旧サドリナス王国での迫害を逃れて来た者達の国と理解しておいた方が良いだろう。ブリガンディの神官達は率先して獣人族を殺害しているのだぞ。それも神の名の元にだ。そんな国に立派な神殿を作ったなら領民が武器を手に押し寄せてくるのは明白だろう。オリガン卿は遠回しに断っておるが、そういうことなのだ」


 神官が顔を青くして聞いていたが、やがて顔を伏せて体を震わせている。

 状況を理解したのだろうか?


「申し訳ありません。開拓民による建国と聞いておりました。かつて矛を交えたとも聞きましたので、すさんだ民の救済をと考えた次第……」

「民度はここの住民を凌ぐかもしれんぞ。町中に争いの声は無く、子供達は礼拝所の神官殿が文字の読み書き、計算を教えているからな。それに神殿を作っても誰も参らぬかもしれん。マーベル共和国の礼拝所は光の神殿を超えるほどの創玄な場所でもある。私が思わず膝を着き腕を合わせるほど、と言えば理解できるか……」


「民衆の導き手は必要ないということですか……」

「必要ないのではなく、現在は間に合っていると考えて頂きたい。もっとも神官はハーフエルフ、長く我等を見守ってくれると思います」


「そうガッカリせずとも良かろう。迷える民衆を救うのが神殿の役目。神殿に来られずば、自らがその地に赴くという姿勢は他の神殿の鑑となろう」

「私も同感です。マーベル共和国の建国理念に宗教と統治は別ものという項目があるそうです。私達の議会のように重要な会議に神官が参加することが無いんです。マーベル共和国での宗教活動は全て民衆の安寧のためだけに行われているんですが、光の神殿はそれを許容できますか?」


 かなり難しい課題を王子様が突き付けた。

 神殿側にすれば、国政参加への機会が失われることになる。さすがに頷くことは出来ないだろう。

 しばらく考え込んでいたが、やがて決心したような口調で「持ち帰り長老様達と相談します」と答えてくれた。

 王子様は笑みを浮かべているけど、グラムさんは苦い表情をしている。

 さすがにまだ早いと思っているのだろうな。


「もし、マーベル共和国と似た形に神殿の運営が行われるようなら、参拝者を10倍に増やしてあげましょう。私の権限でそうするのではなく、民衆が自発的に神殿に参るはずです」

「そのようなことが可能なのでしょうか?」


「礼拝所を何度か破壊したティーナ嬢が、礼拝所に入った途端跪くぐらいですからねぇ。10倍を超えるかもしれませんよ」


 王子様の言葉に、思わす隣のティーナさんに顔を向けてしまったが、本人はフン! という感じで上を向いている。

 デオーラさんが口元を扇で隠して笑っているところを見ると、エクドラル王国では割と有名な話ということなんだろうな。


 それにしても、礼拝所を破壊したんだ……。神罰が怖くないってことなんだろうか。

 それとも神殿側の行動に激怒したんだろうか?

 正義感が強い人だからなぁ。相当な怒りを覚えた後の行動だったと思っておこう。


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