表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
170/384

E-169 互いに利のある関係を維持するために


 最初に部屋を訪れたのはデオーラさんとティーナさんだった。

 直ぐに殿下がやってくると言っていたから、昼食は此処で取ることになりそうだ。

 家具を汚さないようにと、改めて気を引き締める。


「あの窓には、驚きましたわ。ティーナも教えてくれれば良かったのに……」


 ジト目で娘を見ているんだけど、ティーナさんの方は笑みを浮かべてデオーラさんの視線を気にもしていない。

 ちょっと驚かせてあげたかったに違いない。案外おちゃめなところもあるからね。


「レオン殿が持参した品は2枚組だったが、マーベル共和国の礼拝所の品は4枚組であった。あれを見た時は、驚きのあまり棒立ちしてしまった。思わずその場で祈りを捧げてしまったぐらいだからな」

「神殿や礼拝所とは無縁じゃ無かったの?」

「ユーリアが是非とも見て欲しいと懇願されてしまった。普段は大人しいのだが、あの時は腕を引かれて椅子から立たされてしまったからなぁ」


 ステンドグラスの意匠が良かったんだろうな。ナナちゃんに感謝しないと……。


「陶器に長剣、そしてあのガラス窓……。次は何を?」

「しばらくは何も無いと思いますよ。今回この地にやって来たのはそれを探そうと考えていたぐらいですからね。国民の数が増えれば彼らの仕事を作らねばなりません。開拓したばかりの土地での農業は収穫もそれほど見込めませんから、材料をエクドラル王国より購入して、俺達が作った品をエクドラル王国を通して流通させることで食料を手に入れようとしてはいるのですが……」


 マーベル共和国だけに利があるのでは、エクドラル王国側も何らカニ手を撃ってくるに違いない。

 互いに利が得られるように調整することで、俺達への敵意も退けることができるだろう。

 国民が増えてはいるが、1万人にも満たない数だ。ここに来る途中にあった町の方が住民が多いんじゃないかな?

 国民の数は国力にも比例する。俺達とエクドラル王国が本気で戦えば惨敗は確実だ。


「農業と工房でマーベル共和国を持続させようと?」

「そんなところです。エクドラル王国にも俺達が存在することで利があるなら、再び軍を向けようとは考えないのではないかと」


「我が王国をそれほど恐れているのか?」

「ブリガンディや魔族を含めて、俺達の周囲全体を恐れていますよ。常に防衛に万全を期しています。自分達で国を作り、ましてや規模が町を越えるぐらいの弱小国ですからね。油断すれば直ぐに飲み込まれてしまうのは確実です」


 国力の小さな国の辛いところだ。

 防衛力はそれなりに上がったけれど、魔族の大軍をどこまで相手にできるかを考えると、まだまだ足りないだろうな。前回の2倍、およそ4万体の魔族を相手に出来るようでなければ、長く協和k奥を存続することが出来ないかもしれない。

 それだけの戦力があれば、柄百済る王国の代替わりによって再び矛を交えることになっても何とか王国軍を押し戻すことが出来るだろう。

 サドリナス王奥を征服したエクドラル王国はかつての2倍の国力を持つ。ブリガンディの比ではない。

 現在は互いに利のある付き合いを続けるのが得策だ。


しばらく待っていると、扉の外の近衛兵が王子様達の来室を教えてくれた。

 席を立って控えていると、近衛兵が大きく扉を開き王子様の来室を告げる。

 入って来た王子様に騎士の礼をする。デオーラさんは足を一歩下げて姿勢を低くして頭を下げるご婦人方達の礼をしている。

 記憶の奥から中世時代のご婦人達の挨拶が脳裏に浮かんでくる。かなり似ているな。

 

「そこまでかしこまらなくてもいいよ。ここにいるのは限られた人物ばかりだからね。先ずは座って欲しい。食事もそろそろ運ばれてくるはずだ」

「それでは失礼して……」

 

 とは言っても、王子様が腰を下ろしてから席に着く。これぐらいの礼儀は必要だろう。

 透明なグラスに入ったワインが運ばれてきた。ナナちゃんにはさすがにジュースだけど、透明感があるから俺達と同じだと思っているんだろう。笑みを浮かべてグラスに手を出している。


「それにしても驚いた。斬鉄剣は直ぐに工房に届けたよ。出来上がるまでには1か月は掛かるだろうけど、夏に本国に変える時には腰に佩けるだろう。私の立ち位置からすればあの位の長剣が丁度良い。前の長剣はかなり重かったからね。ところで妻の紋章が良く分かったね。ティーナは知らなかったはずだが?」


 思わず首を捻ってしまった。

 あの意匠が紋章に関係あるのだろうか? ひまわり畑のはずなんだが。


「王女殿下は、エルナンド家から王子殿下に嫁いだのです。エルナンド家は代々続いた文官貴族なのですが、貿易船を襲われて後継を断たれてしまわれました」

「妻が最後のエルナンド家となったのだが、私に嫁いだことでエルナンド家を閉じることになった。エルナンド家の家紋は大輪のヒマワリが3つなんだ。あのガラス窓に描かれたものと同じ意匠になる」


 そういうことか……。

 礼拝所のステンドグラスよりも少し凝ってみたんだろうけど、そういうことってあるんだな。だが、あの意匠を考えたのはナナちゃんだ。

 王女様の部屋に飾れるような物と言っただけなんだけどなぁ。


「拙かったでしょうか? あの席で披露してしまいましたが」

「いや、皆が感心していたよ。それに一番喜んだのは隣の妻だからね」


「まさか、あのような形でかつてのエルナンド家に思いを寄せることが出来るとは思いませんでしたわ。早速、部屋のガラス窓を入れ替えるように手配させました」

「あの意匠を考えたのは隣のナナちゃんなんです。俺は武骨な男ですから審美眼はありません。マーベル協和国で作るあのステンドグラスは全てナナちゃんが原図を作っています」


「あら、まあ……」なんて王女様とデオーラさんがナナちゃんに視線を向けたから、顔を赤くして小さくなってしまった。


「なるほど、少女ならではの感性ということですね。とはいえ妻の喜びは私の喜びでもあります。改めて礼を言いますよ」


 王子様が丁寧にナナちゃんに頭を下げているから、ナナちゃんが慌ててペコペコと頭を下げている。その様子が微笑ましかったのだろう。デオーラさんが席を立ってナナちゃんを抱っこしてしまった。そのまま自分の席に連れてくると膝に乗せている。


「ティーナもこんな娘なら良かったんですけどねぇ……」

「いまさら変わるものでもない。孫に期待するしか無かろう」

「そもそも、貴方が原因ですよ。物心つくとすぐに長剣を渡すんですから」


 これはグラムさんの負けが見えてるな。

 何となくオルバス家の地から関係が見えてきた感じだ。


「ティーナ殿は私の力になってくれていますよ。オルバス家として何ら問題はありません。ところで話を変えますが、あのような……、先ほどステンドグラスと言っていました品を、マーベル国に発注すれば請け負うことは可能なのですか?」

「可能です。とはいえどうにか体裁を整えた工房での制作になりますから、献上した窓を作るだけで2か月程度掛かってしまいます。意匠が簡単であるなら時間は掛かりませんが、現在は職人の技量を上げようとしている最中です」


「このリーナス市には5つの神殿があるのですが、あのステンドグラスを神像の背後に置きたいと思ったのは私だけではないはずです。何とかなりませんか? もちろん相応の報酬はお支払いできますよ」


 思惑通りということかな?

 だが気になるのはその神像の大きさだ。何と言って元は王都だからなぁ。礼拝所ではなく神殿だ。神像の大きさも大きいに違いない。

 

「神像の大きさと神像が置かれた礼拝室の大きさが一番の問題です。どれぐらいあるのでしょう?」

「神像の高さは5ユーデ。礼拝室の広さはおよそ横20ユーデ奥行30ユーデ、高さは12ユーデになる。詳しい図面を渡せるだろう」


 一体どれぐらいの窓の枚数になるんだろう?

 縦横10ユーデほどのステンドグラスともなると、現在の工房の人数を倍にしても1年近くかかるんじゃないかな。


「少なくとも1年、いやそれ以上掛かりそうです。30人ほどの職人を使って作ることになりますから、値段は金貨数枚程度になりそうです」

「数枚で良いのか!」


 グラムさんが驚いている。

 それぐらいは掛かるんじゃないかな。材料費だって金貨1枚を超えるだろうし、30人に毎月銀貨数枚を渡すことになるなら金貨2枚は必要だ。それにマーベル協和国の国庫にも少しは還元しないといけないはずだ。


「安過ぎます。献上していただいたステンドグラスでさえ、金貨を積んで作って貰おうと囁きが聞こえてきたほどです。その10倍でも何ら問題はありません」

「陶器もそうでしたが、あまりに安すぎるのも問題です。どうでしょう、窓を4枚使ったステンドグラスを作って頂けませんか? 意匠はお任せしますが暗い図書室を明るくするような物が良いですね。それを本国に送ります。国王陛下なら陛下を取り巻く学者や商人達が値を評価してくれるでしょう」


 エクドラル王国の宮殿にある図書室ということかな?

 それもある程度の間取りが分からないと難しそうだな。


「図書室って何にゃ?」

「本がたくさん並んでいる部屋なの。館に戻ったら、館の図書室を見せてあげるわ」


 ナナちゃんは図書室を見たことが無いんだな。意匠はナナちゃん任せだから、どんな部屋なのかわからないと、意匠を思い浮かべることができないかもしれない。


「たぶん本国にも伝えられるでしょう。王都を来訪する使節団を驚かせるのは陶器の比ではないかもしれませんよ」

「王都へ持ち込む際には、殿下もご一緒に向かわれたら如何でしょう? 詳しく話さねば次期の代官を願い出る貴族が出てこないとも限りませんぞ」

「だろうね……。そこで拗らせたなら、貴族の方は断絶でも問題は無いだろうが、マーベル共和国との国交が閉ざされかねない。外交上の大問題にもなりかねないからねぇ」


 王子様の話を聞くと、どうやら陶器の一部を周辺国への贈り物として使っているらしい。

 まだまだ日用品として使うまでには至っていないようだな。さらに生産力を上げても良いのかもしれない。


「それを考えると、陶器の生産量を増やすことも考えるべきなのでしょうか?」

「現在の2倍になれば商人達に喜ばれるでしょう。10倍を超えても周辺の王国から商人が群がるでしょうね。でも、可能なのですか?」


 マーベル共和国の住人が増えたことで、斡旋できる仕事を探している最中だと正直に答えた。

 ちょっと驚いていたけど、新たな陶器工房を作る費用の用立てを提案してくるんだからなぁ。


「試験目的とせずに生産目的で作って頂ければ、かなりの陶器を手に入れることができそうですね」

「ここだけの話にしてくださいよ。でないと商会ギルドより同じ申し出が出てこないとも限りません」


「これでイザベルも、孤児院の運営資金に困らないね」

「よろしいのですか? でも、それなら子供達に満足な暮らしを与えることができますわ」


 領内の福利厚生資金として使うということなんだろう。それなら俺達は職人達への給与だけ貰えれば十分だ。

 石炭と粘土それに釉薬の原料費も王国が持ってくれるなら、大歓迎なんだけど詳細は契約書で確認しなければなるまい。

 陶器とステンドグラスの新たな工房を作ることで、100人を超える働き口が出来そうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ