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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-167 宮殿に出掛けよう


 オルバス館に到着して3日目。

 今日は、宮殿へ参内することになる。王宮と言わないところが面白いな。エクドラル王国の王宮は本国の国王が住まう場所ということなんだろう。

 となれば、ここ旧サドリナス王国の王都にも名前を付けた方が良いように思うんだけどなぁ。この地を王都という連中も多いようだからね。


「エクドラル王国の仕官服を用意したのだが……、よく似合っておるぞ」

「俺だけでなく、ナナちゃんの分まで用意して頂きありがとうございます。本当に合ってますか? こんな高級品は今まで着たことなど無いんですけど」


 緑色の乗馬ズボンに黒の長靴。白いシャツの上に黒いダブルの上着は7つの金ボタンが両胸に並んでいるし、裾は燕の尾のように左右に延びている。

 剣帯を付けて長剣を下げるのが本来なんだろうけど、俺の場合は背負うからなぁ。普段使っている装備ベルトをそのまま上着の腰に付けてバッグやホルダーを下げている。

 ナナちゃんも緑のズボンに黒の上着だけど、半長靴だし、上着はシングルのボタンだ。ナナちゃんも普段使っているベルトをしているけど、デオーラさんが用意した短剣を下げている。デオーラさんが持つと短剣だけど、ナナちゃんなら片手剣として使えそうだ。


「これは、私が娘時代に使っていた物なの。ティーナは大きくなったし、男の子は長い剣が良いみたいだから、ナナちゃんにあげるわ。丁度良い感じね」

「ありがとにゃ。大切に使うにゃ」


 うんうんとデオーラさんが目を細めて頷いているけど……。


「良いのですか? 大切な思い出の品に思えるのですが?」

「武器は実戦で使ってこその品ですから。ナナちゃんならティーナよりも使う機会が多いでしょう。ナナちゃんが持っていた品では、肝心な時に後れを取りかねませんよ」


 ちょっとキツイ目で睨まれてしまった。

 砦に向かう途中で買った安物だからなぁ。数打ちの品だと一目で分かったらしい。

 

「それなりに気を付けてはいるんですが……」

「まだ使った形跡はないようですね。でも使う機会が今後とも無いとは言いきれません。とはいえ、エクドラル王国に刃を向けることが無いように願うばかりです」

「現状でそのような事は無いと思います。王子殿下の領内統治は俺達も歓迎しております」


 俺の言葉に笑みが浮かぶ。傍らのソファーに俺を誘うと、侍女が直ぐにお茶を用意してくれた。

 2人でお茶を飲みながらナナちゃんと身支度に周りを忙しそうに動いているティーナさんを眺めることにした。


「ティーナは妹が欲しかったのでしょうね。でも、おしゃれに気遣いができるなら、そろそろお相手を見付けないといけませんね」


 短剣の位置を、あちこちから眺めながら微妙に変えているのをおしゃれというのだろうか?

 やはりデオーラさんも武官貴族出身だけのことはありそうだ。

 断りを入れて、パイプに火を点ける。

 火を分けて頂きたいと後ろに控えていた侍女のお姉さんに告げたら、ちょっと驚いていた。

 小さなランプを持って来てくれたからどうにかパイプを使うことができたけど、少し考えないといけないな。帰ったら姉上に相談してみよう。


「ティーナから何度も聞いていますが、本当に魔法が使えないんですね。でも、物を動かすことは出来るということですか」

「暗器使いになってしまいました。父上が知ったら何を言われるか……」


「暗器をあえて見せることで、長剣の腕を一段以上高められるのですから、恥じることはありませんよ。バリウスに何度も相手をよく見るように言っていたのですが、未だにその意味を理解できないようです」


 トラ族の人間には、しっかりと本音を伝えることが必要だ。真面目な性格だからそのままに受け取ることが多いんだよね。

 相手をよく見るという言葉は、そのまま伝わったはずだ。本来はどんな些細な動きも見落とさないようにとの意味だと思うんだけど。


「俺の目をジッと見てましたよ。目の動きを追えば俺の次の動作が分かるということなんでしょう。確かに通常ならそうなります。ですから、目を閉じることにしました」


 俺の言葉にちょっと驚いていたけど、直ぐにコロコロと笑い声を上げて慌ててハンカチで口元を隠している。


「グラム殿に教えてあげましょう。さぞかしバリウスは驚いたでしょうね。そうですか……、それであの大振りをしたんですね。すかさず動いたのは称賛しますが、あれではねぇ……。後ろに下がるということを教えないといけませんね」


「目を閉じても周囲を見ることができる……。さすがに周囲の景色は無理でしょうが敵意を感じることは出来ます。間隔を研ぎ澄ませることも必要ですね。でもそれがレオン卿に出来るとなると……」


 再び、笑い声を隠している。

 目が細めて俺を見ているんだけど、そんなに可笑しいことかな?


「グラム殿が王子殿下の傍に置きたいという意味がやっと分かりました。確かにレオン卿のような人物はエクドラル王国にはおりません」

「評価して頂けるのはありがたいですけど、俺は宮殿には向いていません。口調もこんな感じの田舎者ですからね」

「宮殿には色々な人物が出入りします。レオン卿なら十分に務まるでしょう。でも無理強いは良くありませんね。マーベル国の重鎮でもありますから」


「宮殿には、私とティーナが御一緒致します。グラム殿の私室がありますから、そこでお呼びがあるまで待つことにしましょう。ティーナは準備が出来ているのですか?」


 まだ、ナナちゃんの周りを回って、いろいろと調整をしているティーナさんに

デオーラさんが声を掛ける。

 少し首を捻っていたが、妥協点に達したのだろう。ナナちゃんと一緒に俺達のところにやって来た。


「朝食後に全て整えた。父上に比べると見劣りするが、私の長剣も斬鉄剣そのものだからな。これを佩くと身が引き締まる気がする」

「武装はそれで良いでしょうが、……ほら、糸くずが付いてましたよ。宮殿に到着したら再度ユリアンに見て貰うことです」


 それは俺とナナちゃんにも言えそうだな。


 デオーラさんが俺達の準備が整ったことを確認したところで、玄関へと俺達を案内してくれた。

 玄関のホールに着くと、すでに玄関前に馬車が用意されている。

 馬車の横にオルバス家の紋章が描かれているから、公式の場所へ向かう時にだけ使われる馬車なのだろう。緑の盾に黒と白の長剣が交差している。見ただけで武門貴族だと分かる紋章だ。


 デオーラさん、ティーナさんが乗り込んだところで、ナナちゃんの腰を持ってヒョイと馬車に入れてあげた。相変わらず体重が軽いんだよなぁ。

 最後にナナちゃんの隣の席に座ると、家人が扉を閉めてくれた。

 軽く頭を下げると、恐縮してお辞儀をしてるんだよなぁ。そんな俺達を見てデオーラさんが笑みを浮かべている。

 ティーナさんが後ろの壁をトントンと叩くと、『出発します!』と御者の声が聞こえてきた。

 石畳の上を馬車の車輪がガラガラと音を立てて進みだす。

 歩いても行けそうなんだけど、やはり形式に拘るのが貴族ということなんだろう。

 人通りの少ない貴族街の石畳の道を抜けると、宮殿へと続く大通りに出る。

 左に馬車が曲がると直ぐに城門が見えるんだよなぁ。歩いても10分は掛からないんじゃないかな?


「お堀があるにゃ。ちゃんと水が溜まってるにゃ」

「俺達の空堀にも水を貯めたいけど、そうなると結構面倒なんだよ。でもやっぱり堀と跳ね橋は俺達も欲しくなるね」


 馬車がすれちがえるほどの幅がある跳ね橋の真ん中を通って城門を潜ると、出口に太い丸太を2本横にしたような馬車止めがあった。

 御者と門番が言葉を交わすと、数人がかりで馬車止めを動かして、俺達の馬車を通してくれる。

 城に向かって真っすぐな並木道が続いているな。300ユーデはあるんじゃないか?

 

「右手に官舎が並んでいるのだ。左手には1個中隊が駐屯する兵舎や、武官貴族の控室がある。父上は宮殿内に私室を持っているが、普段は左手の官舎にいるぞ」

「やはり規模が大きいですね。俺達の国では100年過ぎてもこんな宮殿を作れませんよ」


「国の中心ということになるのだろうな。そういう意味ではエクドラル王都を越えることは難しいのだが、国王陛下が『破壊して、小さくする必要はない』とおおせになったそうだ」

「無駄な出費と思ったのでしょう。必要なものに税を使うのが国王陛下の役割だと思います。この必要なものの見極めが大事だと思っています。何を基準に必要なものと言うのか……、エクドラル国王陛下は王侯貴族ではなく領民に傾いた判断をしているように思えます」


 かつてはお城だったのだろう。その城の前に宮殿が作られている。

 城壁の上に見えたのはお城だったから、お城に住んでいるのかと思ったけど、宮殿があったんだな。横200ユーデほどもある3階建ての宮殿だ。宮殿前の噴水広場にたくさんの彫刻が立っている。

 ナナちゃんが窓に張り付いて見てるんだけど、ちょっと行儀を考えてしまうな。

 そんなナナちゃんをデオーラさんが笑みを浮かべて見ているだけだから、初めて宮殿に入る子供は皆同じなのかもしれない。


 宮殿の玄関にある馬車止めに馬車が止まると、直ぐに宮殿付きの召使が馬車に駆け寄り、扉を開けてくれた。

 最初に俺が下りると、ナナちゃんを下ろしてあげる。

 ティーナさん達が下りる時は手を取ってあげるんだが、慣れないと上手く出来ないんだよね。

 

 そのまま10段ほどの階段を上がり開け放たれた大きな扉を潜ると、家を建てられるほどのホールがある。

 ホールから2階に続く階段を上がり、通路に敷かれた絨毯の上を歩いていく。

 通路に並ぶ扉の両側には、近衛兵が立っている。

 いくつかの扉を過ぎたところで、デオーラさんの足が止まった。


「デオーラです。客人が一緒ですが、グラム殿は在室ですか?」

「先ほど殿下の元にお出かけです。『直ぐに戻る』と、奥方様に伝えるようおおせつかりました」


 近衛兵が部屋の扉を開けてくれた。中に入ると右手にも扉があるから、私室と言いながらも2部屋あるようだ。


 俺達が部屋に入ると、その扉から軍服を着た兵士が出て来てソファーに案内してくれた。見たことのある兵士だと思ったら、グラムさんの副官だった。


「ご苦労様です。オルバス卿は謁見の確認に先ほど出掛けられました。直ぐに戻りと言っておりましたから、ここで御待ちください。今、お茶をご用意しております」


 直ぐに会えるわけでは無いようだな。

 やはり大きな領地を治めるだけあって、いろいろと難しいのだろう。

 女性兵士が出してくれたお茶を飲みながら、パイプを楽しむことにした。


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