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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-162 旧王都に向かって馬車の旅


 まだ残雪がかなりあるけれど、エディンさん達の商隊が春分に合わせるように俺達の共和国を訪れた。

 獣人族の若い夫婦が3組同行してきたから直ぐにエクドラさんの仲間が新たに作った長屋へと案内していったらしい。


「今年もよろしくお願いいたしますよ。陶器の茶器はエクドラル本国で大人気らしく、

クライム殿が自ら私の家にやって来たぐらいです」

「もっとたくさん作れ! ということですね? 了解です。とはいえ、まだまだ試作をしている最中。冬の間に作った品を工房の棚に置いてあるそうですから、後程エディンさんの目で確かめてお持ちください」


 ある程度の数が出来ていると知って、エディンさんが笑みを浮かべている。


「ところで、俺達がエディンさんに同行するのは問題が無いんでしょうか?」

「全く問題はありません。オルバス殿より馬車を用意して頂きました。ティーナ様を名目にしているようですが、馬車そのものは王子殿下より遣わされたと聞いております」


 その違いが気になったけど、話を聞くと一回り大きな馬車らしい。

 6人ほど乗れるそうだから、俺達の数が少し多くなっても問題ないようにとの配慮ということかな。

 さすがに、馬車に紋章が描かれているようなことは無いらしい。どうやらお忍びで領地を巡るために作った物らしいが、いまだに利用されないで宮殿内に保管されていたようだ。


「まだまだ旧サドリナスの残党がいるのでは、紋章の無い馬車を使うことは出来ないと、オルバス殿が言っておられました。たまに噂に上がることはあるのですが、私が確認できるものではありませんので」

「それだけ危機管理が出来ているということなんでしょう。新たな治政に不満を持つ輩と手を結び、社会の裏に潜んでいるのかもしれませんね」


 ボニールでトコトコと旧王都に行くことを考えていたからなぁ。少しは楽になったかな。


 次の日。指揮所の扉が叩かれたので、旅の荷造りの手を休めて扉を開く。

 かなり興奮した表情のエディンさんが立っていた。

 とりあえず中に招き入れて、暖炉傍のベンチに座ってもらう。

 どこからか走ってきたのかな? 息が荒いから、お茶のカップを渡してエディンさんが落ち着くのを待つことにした。


「ありがとうございます……。そうでした! あのガラス細工はレオン殿が御造りになったと聞きましたが?」

「礼拝所の、女神像の後ろにあるガラス窓ならそうですが?」

「それです! どうやってあれを作ったんですか? あれを私共に売って頂くわけにはまいりませんか?」


 さっそく飛びついてきた感じだな。

 それほどまでに、欲しいということになるんだろうか?

 

「作るのに結構な時間が掛かります。マーベルの住民達にも評判が良いので、今年は礼拝所を一回り大きくしようと考えてるんですが、そうなるとあのガラス窓を交換しないといけなくなります。さすがにエディンさんに進呈することは出来ませんが、エクドラル王国内の神殿に寄付することは可能でしょう」


「すでに次の作品を制作しておられると?」


 少し安心したのか、胸を撫でおろしている。

 とはいえ、工房の規模が小さいからなぁ。それに芸術的なセンスも必要だから量産は難しいと思えるんだけどねぇ……。


「注文をしても製作に時間が掛かるのは、あの窓を見れば容易に想像できますが、受注には応じられるということでしょうか?」

「今の人員ならあの窓ぐらいであれば、年間に4枚程度なら可能ではないかと考えます。それに、マーベル共和国であのガラスを使う場所は限られていますからね。エディンさんの受注次第で工房の規模を考えるつもりです」


 笑みを通り越して含み笑い声が漏れてくる。

 どうやら、俺の意図を理解してくれたみたいだな。


「全く、御人が悪い……。それなら昨日に教えて頂きたかったですな」

「それだと、エディンさんの驚く顔が見られなかったでしょう? 商売は先ずは相手の度肝を抜くことだと思っているんですけどねぇ……」


 互いに顔を見合わせると、大声で笑い声を上げる。


「全くその通り。レオン殿を『さすがはオリガン家の人物』と称賛する人物は多いようですが、私はレオン殿の商才に驚くばかりです。そうなると、あのガラス窓を王都に運びこんだら、あちこちの神殿から注文が殺到するでしょうな。私も少し考えないといけません」

「その前に来ると思いますよ。王子殿下への土産として2枚組のガラス窓を持っていきます。神殿だけでなく貴族からも注文が行くでしょうから、その辺りの交渉はよろしくお願いします」


 エディンさんが目を大きく見開いて俺を見ている。

 そこまで驚くことかな?

 

「しばらく支店に隠れていた方が良さそうですな。あまりにも受注が多くなると、私が恨まれかねません」

「そこは先着順ということで押し通しても良いんじゃないですか? 俺達はエディンさんを通してのみ受注を受けることにしますよ。とはいえ、王子殿下の横槍は入るような気もしますけどね」


「年間に4枚組のガラス窓を4つ。それを明確にして頂ければ順番待ちに不平も出ないでしょう。さすがにマーベル共和国を訪れて直接交渉しようとする人物は出ないはずです」


 俺達の国への出入りを、ある程度規制しているということだろう。

 どんな連中がやってくるか分からないからな。その措置はありがたいことだ。


「材料の手配はよろしくお願いしますよ。色付きのガラス板が無いと話の外にⅡなりますからね」

「その点は大丈夫です。今回も各色を50枚程運んできました。ガラス職人達が十中を受けて喜んでいます」


 それならありがたい。

 だけど、ガラス職人を囲い込んで自分達で作ろうなんて考えるかもしれないな。

 少年達が作っているぐらいだから道具と作業手順が分かれば作ることができるだろう。とはいえ、美的センスも要求されるんだよなぁ。

 ナナちゃんの感受性と美意識に勝る人物を探すのはかなり大変だと思うぞ。


「さすがに、次の品を考えてはいないでしょうな?」


 疑り深い目で俺に顔を向けてきたけど、早々考え付くものでもない。


「まさかですよ。今回球王都に行こうという気になったのは、それを見付ける為でもありますからね」

「市場調査ですか……。商売の基本ですよ。その才の有無を見るのが、商人を目指す者を見極める私達の役目でもあるのです。私の商会では、私が指示して向かわせるのですが……。レオン殿は自主的にそれをやるというのですからなぁ。驚きを通り越してしまいます」


 2人でお茶を飲みながら、パイプを楽しむ。

 雑談の中にも、得る物があるからね。あちこち巡っている商人が相手ならなおさらだ。

 そんな中で、ふと気が付いたのは時間に関わる話だった。

 確かに俺達は1日を24に区切ってはいるんだが、あながちそれがどれほど正確なのか良く分からないようだ。

 そもそも時間という概念については、1年を30日ずつの12の月に区切って、神殿で祭る神の祝祭日のある月に1日を加えている。とは言っても土、水、火、風そして光の神は毎年なんだが、闇の神については4年ごとなんだよなぁ。

 それは古い時代に神殿の大神官達が集まって決めたらしいのだが、闇の神殿は魔に通じると言って破壊されたらしい。

 それなら、4年に1度の神の祭りも無くすべきだと思うのだが、各神殿が持ち回りで闇の神の祝日を神殿の奥で祝うとのことだ。

 まったく宗教とは理解できないところがあるんだが、民衆の心の拠り所でもあるから無くすわけにもいかないんだろうな。とはいえ、宗教上の解釈を政治に持ち込んでしまうとブリガンディのような王国になってしまうんだから困ったものだ。


「まあ、月日に年は神殿が管理していると言っても良いでしょう。問題は1日を24時間として管理している王宮の天文部にあるのです」

「王都なら毎時に鐘を鳴らしてくれる部門ですよね」


「そうです。何でも、星や太陽の動きを基に1時間を決めてていると聞いてはいるんですが、市販されている時計は、このような品ですからなぁ」


 バッグから取り出したのは日時計と砂時計だった。方位磁石と日時計があれば時間を知ることができる。夜は行動しないだろうからそれで十分なんだろう。

 砂時計は休憩時間を計るものらしい。6回使えば1時間との事だから10分を計れるということになるな。


「晴れていれば問題は無いんですが、いつでも晴れているわけではありませんし、森の中や家の中では使い物になりません。神殿ではロウソクに目盛りを刻んで時間を計ることがあるようです」

「祈りの時間は厳粛に決まっているのでしょう。曇りだからと言っていい加減には出来ないということですね」


「商人仲間でたまにそんな話題が上りますが、上手い方法は今のところないようです」

「少し考えてみますか……。でも、直ぐに頭に浮かんだのが、ロウソクと線香ですからね。あまり期待しないでください」


 砂時計があったんだな。そういえば煮込み料理の目安も、砂時計を使っているような話を聞いたことがあるんだが、ジャガイモが煮えたら、それで十分に思えるんだけどね。

 とはいえ、面白い命題を教えて貰った感じだ。

 どんな形になるのか分からないけど、暇つぶしには丁度良さそうだな。


 翌日。皆の見送りを受けて馬車の列が東の楼門を出る。

 エディンさん達の乗る馬車の直ぐ後ろが、俺達の乗る馬車だ。御者はオルバス家の家人らしいけど御者の隣には弓を持つイヌ族の私兵が乗っている。前後に5騎ずつ家人が馬を並べているから、盗賊に襲われることも無いだろう。少し先行してオビールさん達が歩いているから、馬車の速度もそれなりだ。

 先が長いからなぁ。まあ、のんびりと馬車の旅を楽しもう。


「旧王都のオルバス家に先ずは向かうことになる。ゆっくりと旅の疲れを取って、3日後に宮殿で謁見することになるだろう」

「大きな謁見の間でですか? さすがに気後れしてしまいそうです」

「まあ、諦めるのだな。大使待遇ということだから、あまり卑下することは無いぞ。遊牧民の大使は、礼儀も知らぬような輩ばかりだからな」


 大使も色々ということかな?

 そんな大使がいるんだったら、少しぐらい礼儀が出来なくても問題は無いのかもしれないな。とはいえ……、マーベル共和国の恥にならないようにだけはしないといけないだろう。

 さて、長い馬車の旅だ。ゆっくりと時間をどのようにして知るかを考えてみよう。


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