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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-161 共和国の職種を増やそう


「陶器にステンドグラス……。マーベル共和国の特産物ということですね。農産や畜産以外の産業が育つのは嬉しいですね」


 夕食後。いつものように指揮所に集まってきた連中と、ワインを飲みながらの雑談だ。

 今が冬の最中なんだろう。1か月も過ぎれば灰色の空に少しずつ青空が戻ってくるに違いない。

 赤々と燃える暖炉の火が指揮所を温めてくれるし、ワインは体の中から俺達を温めてくれる。

 そんな暖かさに包まれていると、話題も希望的な話になってくるのは仕方のないことだろう。

 心配性なレイニーさんも今夜は笑みを浮かべている。


「規模を大きくしても良さそうじゃが、同じ工房を2つ作って技を競わせるという手もあるぞ。ワシ等ドワーフ族の技を磨く方法なんじゃがな」

「なるほど。工房を大きくすることによって、雑な作りにならないようにするんですね。それは使えそうですね」

「小隊を競わせるみたいにゃ。弓兵もそれで腕を上げるにゃ」


 ちょっとした商品を出して、分隊や小隊を競わせているからね。もっともその商品がワイン1本なんだから、小隊長達のポケットマネーでも十分対応できるだろうし、毎月2本ならば格安でエクドラさんを通して買うことができるらしい。


「それで、次は何を考えておるんじゃ?」


 ガラハウさんの問いに、皆の顔が俺に向けられる。

 パイプを咥えて皆の話を聞いていたんだけど、急に話を振られてもなぁ……。


「とりあえずは、何も考えていませんよ。強いて言うなら、他の町に在って俺達の町に無い店を考えても良さそうに思えるんですけど……。生憎と俺が住んでいたのはオリガン家の館ですから、そんな店を思い浮かべられないんです」

「レオンは貴族じゃったからなぁ。確かに買い物は家人がしてくれたんじゃろう。そうなると……、醸造所じゃな。だいぶブドウ畑が増えたからのう。ワシ等とマクランで片手間にやっておるが、ブドウの収穫量を考えると専業に出来るように思えるんじゃが?」


 マクランさん視線を向けると、ガラハウさんの話を聞いて頷いている。

 農業分野全体に目を向けているマクランさんも同じ考えなら、十分に可能ということなんだろう。そうなると、ワインだけでは足りない気もするんだよなぁ。


「ガラハウさん。俺も賛成です。とはいうもののすでにワイン醸造の有名所はあるでしょうから、少し付加価値を高めませんか? 例の蒸留酒を規模を拡大して作れば売れると思うんですけど」

「あの火酒じゃな! 装置を一回り大きくして3式も作ればワシ等だけでは消費出来んじゃろう。余った物を売れば儲かるじゃろうな」


 先ずは自分達で飲む分を確保するってこと?

 まったくドワーフ族の酒好きには困ったものだけど、3式作るならその内の1式はマーベル共和国専用ということで良いのかもしれない。

 それに、蒸留酒を作ることで、関連する産業も生まれるはずだ。先ずは蒸留酒を入れるビンを作らねばなるまい。

 さすがにワインのビンに詰め替えるというのは考えてしまう。俺のスキットル程度の容量で販売したいところだ。


 席を立って、壁に掛けてある黒板に蒸留酒を作る作業工程をフロー図で描く。

 これで、どんな作業に何人程必要かが、皆にも分かるだろう。


「ブドウの摘み取りと、ブドウ搾りは季節限定ですから作業員を募集できそうですね。樽詰め後の管理はさすがに何人かを常時雇用することになりそうです」

「樽のままで販売するとなれば、樽作りも必要ですよ。ビン詰めも必要ですから、やはり数人は必要でしょう」


「蒸留作業は陶器作りと同じで日夜を問わない作業になるんですね……。そうなると必要人員の数倍を用意しないといけませんよ」


 一連の作業を皆で考えたら、100人を越える作業員が必要になってしまった。

 さて、どうやって合理化すれば良いのかな?


「まあ、最初は皆でやることになるでしょうな。蒸留装置も3式を最初からそろえる必要はないでしょう。先ずは1式作り、将来増設できるように小屋を作っておけば問題は無さそうです」


 マクランさんが、まとめてくれた。

 これはマクランさんとガラハウさんの仕事になりそうだな。


「毛糸作りの工房も欲しいですね。今は羊毛をエディン様に渡して、毛糸にして戻して貰っています。染色した毛糸になりますが、羊毛の代価を越える支払いになっているのが現状です」

「染色は無理でも、毛糸までは……。ということですね? 確かにそうですね。私も編み物をしてますけど、毛糸の値段は高いですからね。編み上げた品の売値を考えると、内職の域を出ないのが実情でしょう」


レイニーさんの提案にエクドラさんが賛成しているから、こっちは間違いなく実現しそうだな。

 その他には、ちょっとした甘味所が欲しいような要望も出ていたけど、さてどうなんだろう?

 女性兵士が多いからなぁ。酒場を作って甘味所を作らないとなると、ブーイングが出そうだ。案外大通りに何時の間にか出来ていそうだな。


「元大工という方も多いんですよ。そろそろログハウスから、板を使った家も良さそうですね」

「木工職人達も製材所を欲しがっていたぞ。まだまだ住民は増えるだろうが、確かにログハウスばかりではなぁ……」


 製材所か……。そうなると水車を使った製材加工をしたいところだ。水路が使えるのは東門の周辺地区なんだが、あそこは養魚場があるからなあ。あまり大きな製材所を作れないように思えるんだが……。


「東の城壁の外側の畑を潰して建てるしかなさそうじゃな。野菜畑になっておるが、場所を移すことは可能じゃないのか?」

「仕方がありませんね。春からは別の場所に野菜を植えましょう」


 ガラハウさんの提案に、苦笑いを浮かべてエクドラさんが答えてくれた。町の外にはなるけど、あの場所なら危険は少ない。

敵が来るとしても南側だけだから、東の楼門から直ぐに知らせれば避難するのも簡単にできそうだ。


「それぐらいですね。あまり欲をかいても碌なものになりませんから。そうなると……、今年の予定は、蒸留所と毛糸の加工所、それに製材所でよろしいですね。甘味所は状況次第ということにしましょう」


 レイニーさんの締めくくりで今夜の集まりはお開きになったんだけど、最初に出来るのが状況次第の甘味所になりそうに思えるのは俺だけなんだろうか?

                ・

                ・

                ・

 ステンドグラスの2作目が出来上がった。

 少年達の最初の作品になるんだが、ヒマワリが白と青の三角形に中に浮き立つような作品だ。

 空を表現しているらしいんだけど、何となく朝の陽ざしを浴びているようにも見える。

 これをどこに飾るのか楽しみだな。

 布で包んで魔法の袋に入れておく。これで忘れることは無いだろう。


「指揮所に使うんじゃないんですか?」

「春分にやって来る商人達と一緒にエクドラル王国に行くんだ。これはお土産にしようと思って作って貰ったんだよ。たぶん夏至にはたくさん注文が来るかもしれない。枠1つの大きさと、2つの枠で作り置きしておくと良いかもしれないな」


 少年達がちょっと驚いていたけど、礼拝所用の作品が出来たら取り掛かると言ってくれた。

 冬の最中にやって来たオビールさんに材料の色付き板ガラスを、色別に50枚程頼んだらしい。たぶん春分に運んできてくれるだろう。

 面倒なのはガラハウさんのところに頼んである『H』型の銅の棒だ。

2ユーデほどの棒を10本少年達が頼んだらしいけど、さて何時頃手に入るんだろう?


「それで、ステンドグラスを作り続けることができそうかい? やはり面倒だから他の職を考えているとか?」

「そんなことは無いですよ。これを生涯の仕事にしようなんて皆で話し合ってたんです。でも注文が増えるとなれば、俺達だけでは無理なように思えます」


 その時は、食堂の掲示板に従業員を募集すれば良いだろう。

 あの掲示板はけっこう色々な目的に使われているから、たまに覗いてみるのも面白いんだよね。

 スゴロクやチェスの同好会募集まで、張り出されていたからなぁ。

 そんな知らせが張り出されるんだから、住民にも余裕が出来てきたに違いない。 


「今年は、いろいろな仕事場を作る動きがあるんだ。君達もステンドグラスだけにとらわれずに色々と考えた方が良いと思うよ。だけど、もうしばらくはこのまま継続して欲しいけどね」


 せっかくそれなりの技能が身に付いたんだから、それを投げ出されると最初からやり直さねばならないからなあ。

 他の仕事に興味が出たとしても、次の担い手に技能を伝授するまでは残って欲しいところだ。

 とは言っても、自分達の力作が礼拝所の正面に飾られるんだからなあ。少年達の自尊心を大いに高めてくれるに違いない。

 やりがいのある仕事だと自覚するなら、一生の仕事になっても悔いは無いだろう。


 少年達とお菓子を摘まみながらお茶を頂く。

 やはり少年達には夢があるなぁ。すでに30近い歳になっているんだけど、見掛けは少年達とそれほど変わらない。

 そんなことだから少年達も気軽に色々と話をしてくれるんだけど、その中で一番の問題に気が付いてしまった。

 

 獣人族の寿命は人間族よりは短く、兄弟姉妹が多いらしい。少なくても5人はいると教えてくれたからなあ。

 マクランさんは一体いくつになったんだろう。まだまだ元気に開墾をしてるんだけど、あの人は例外と考えるべきなのかな?

 長男なら稼業を継ぐのが当たり前らしいけど、それ以外は村や町で他の仕事に就くことになるとのことだ。

 レイニーさん達の話もそんな感じだからね。レイニーさん達は食い減らしのために軍に入ったと言って気がする。

 そうなると仕事にあぶれた若者は、町から出て行かねばならないのだが、マーベル共和国は新興国だから開拓がまだまだ続いている。

 あぶれた若者も一緒になって、開拓地を耕しているのが現状なんだろう。やはりマクランさんの言う通りに早めに開拓地を分配した方が良いのかもしれないな。自分の土地ならますます農業に励むようにも思えるんだよね。


「友人の中には、西の村で開拓しようと考えている者もいますよ。数家族単位で作物を作ると聞きました。でも万が一の時にはクロスボウを使うということで、北の射撃場で練習しているらしいです」

「ここでステンドグラスを作るなら、投石具の練習だけしていれば良いですからね。それにフイフイ砲やカタパルトの手伝いがありますから、こっちの方が面白いと思うんですけどねぇ」


 面白いというなら、フイフイ砲が一番だろうな。みんなでロープを引いてあの思い籠を引き上げないといけない。それに長い腕木が音を立てて爆弾や大きな石を飛ばすんだからなあ。

 ガラハウさんがフイフイ砲の発射に人手が足りないと言った事が無いのは、皆が直ぐに集まってくるからだろう。それもちょっと考えてしまうな。


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