表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
159/384

E-158 作業場所が必要だ


 朝晩の冷え込みがかなり厳しくなった頃、オビールさんが数人の仲間と共に俺達の国にやって来た。

 狩りの依頼のついでに俺達のところにやって来たらしい。


 大きな荷物を壁際に魔法の袋から取り出したところで、最後に取り出したのはいつものワインとタバコの包みだった。

 ありがたく頂いて、タバコの包みは腰のバッグへと仕舞いこむ。


「やはり、この辺りは獲物が豊富だな。新人を1人連れてきたんだが、狩りの良い訓練ができそうだ」

「エクドラルの治政は、今のところ安心できますからね。とはいえ川向こうはブリガンディですから、川岸は注意してくださいよ」


 苦笑いを浮かべているところを見ると、その辺りは十分に考えて狩りをしているのだろう。


「ここから南西に向かって狩りをしようと思っているのだが、魔族の動きに変化はあるのか?」

「今のところは平穏です。やはり南西の砦の存在が大きいのかもしれません。のその尾根に見張り台を作って監視は継続しているのですが、その見張り台に動きがある時には、十分注意してください」


 腕木信号を使う前に狼煙を上げることにしているから、その狼煙を見たら急いで逃げ出せば魔族の大軍に囲まれることは無いだろう。

 さすがに魔族の斥候の動きまでは分からないかもしれないが、その辺りはオビールさんの危機管理能力で凌げるんじゃないかな。


「マーベルのレンジャー達はどの辺りで狩りをしてるんだい?」

「西の尾根の……、この辺りらしいです。何組かは山麓部で獲物を取っているようですけど、狩りというよりは罠猟のようですね。さすがに魔族の集結する1つ先の尾根には向かうことはないようです」


「こっちの尾根は鬼門ということか……。となると、俺達の狩場はこの辺りになるかな。確か大きな森があったはずだ」

「森から急に出ると、砦の連中に魔族だと思われますよ。あまり深入りするのは禁物かと」

 

 俺の忠告を聞いてオビールさんが笑い出した。

 森の狩人でもあるレンジャーに忠告するという行為が面白かったらしい。


「悪い悪い……。そんな忠告を聞くのは久しいからな。だが、ありがとう。参考にさせて貰うよ」


 席を立って指揮所を出ていくオビールさんはまだ笑い声が収まらないようだ。

 それでも俺に片手を振って出て行ったから、宿の酒場で仲間達と狩場の相談でもするのだろう。

 

 さて、それじゃあ広げてみるか。

 それにしても大きな木箱が2つに、小さな木箱が1つだからねぇ。

 テーブル大きな木箱を梱包したロープを解くと、中に入っていたのは、色ガラスばかりだった。全部で9種類だな。虹色の7色に白と黒が入っている。城はすりガラスのような感じだから、ガラス自体に色を付けてはいないようだな。黒もよく見ると向こうが見えるから完全に光を遮るわけでは無いらしい。ガラスは半ユーデ四方の大きさで厚さは十分の一イルム(2.5mm)よりは厚みがある。ガラス窓に一般的に使われている厚さだから、これが多く用いられているのだろう。

 各色とも10枚以上入っているようだ。1枚ずつ布にくるんであったから割れたものは1枚もない。

 小さな法の木箱には、ガラス細工の道具が入っていた。

 道具といっても、小さなノミとハンマーに木製の金床のような台、それとガラスを斬るカッターにペンチのような道具が2つ入っていた。2つあるのは先端のつまみ部分の大きさが三分の一イルム程の大きさの物と、その半分の物があったからだろう。

 小さい方は細かな修正に使うんだろうな。窓の大きさはある程度決まっているようだけど、それ以外にも変わった形の窓を作る物好きがいるからかもしれない。

 

 さて、ここで1つ問題が出来た。

 色ガラスで窓を作るとしても、かなりの大きさになりそうだ。

 このテーブルを使うと、レイニーさんに怒られるんじゃないか?


 そんな俺の悩みを解決してくれたのは、エルドさんだった。

 夕食後の会議の雑談時に、指揮所近くに空いた長屋があることを教えてくれた。


「指揮所近くにあった長屋の住人は、後からやって来た住人と一緒に暮らしてますよ。雑貨屋や食堂が近くにありますし、この近くは私達兵士が多く住んでますからねぇ」

「殺伐とした区画より、開拓民は開拓民同士、職人は職人同士ですみ分けているようだな。その辺りはマクランが一番分かってるんじゃないか?」

「そうですねぇ。空いた長屋があるのであれば、私のところに申請してくれれば引っ越しを認めてますよ。確かにガイネルさんの言う通り、仕事仲間同士、知り合い同士が集まっているようです」


 最初に作った開拓民用の長屋を解体して、新たな長屋を作ることもあるらしい。とはいえ、長屋にも利用価値があるとのことだ。少し補強を施して倉庫に転用することもあるとのことだからね。

 さすがに火薬関係の倉庫には向かないが、食料倉庫や矢やボルト等の保管庫には最適だろうな。

 弓兵だけで200名ほどがいるのだ。矢筒に12本、バッグの魔法の袋に12本の予備の矢を持っているんだから、通常でも4千本を超える矢を持っていることになる。木工職人達が頑張って矢やボルトを作ってくれているけど、それを補完する場所は確かに必要だろう。3会戦分なら7千本を超えるからなぁ。

 クロスボウ部隊は開拓民達で組織しているけど、マクランさんの号令で4個小隊を超える人数が集まってくる。

 ボルトケースに入っているボルトの数は矢筒と同じく12本だが、弓兵部隊と同じように考えると、かなりの量になる。

 一応、楼門矢尾根の指揮所にも分散して保管をしてはいるけど、やはり拠点でもあるこの場所に倉庫が無いと話にならないな。


「それにしても窓作りですか……。俺達の長屋には窓があってもガラスは入っていませんからねぇ。出来上がるのを楽しみにしてますよ」

「ガラスが外れないように四角い枠を作るだけにゃ。レオンがやらなくても木工職人に任せれば良いにゃ」


「少し凝ったガラス窓を作ろうと考えてるんですよ。とはいえガラスですからねぇ。ここでやるとテーブルが使えなくなってしまいそうですから場所を探してたんです」

「このテーブルと同じ大きさの作業台ということですか? まあ、それを含めて私が準備しましょう。報酬はワイン3本で良いですよ」


 エルドさんから報酬を要求されたのは初めてだ。

 思わずエルドさんに顔を向けてしまったが、笑みを浮かべて頷いているから手伝いをしてくれる部下達へのちょっとした配慮というところかな。


「わしも3本で良いぞ。変わった注文じゃったが、一応できたからのう。真鍮ではなく銅の無垢材じゃ。酸で洗ってあるか良い色を出しておる。工具も合わせて作っておいた。まったくレオンとの付き合いは退屈がせんのう」


 そういえばガラハウさんにも頼んでおいたんだった。思わず魔法の袋に入っているワインの残量を確認してしまったが、オビールさんに頼んでおいたワインが12本だったから、問題は無さそうだな。


 そんなことで皆の笑い者になってから、数日が過ぎたところでエルドさんが俺を作業小屋へと案内してくれた。

 作業小屋と言っても、長屋そのものだ。

 扉を開けると、リビングだった場所真ん中に大きなテーブルがある。武骨な造りだけど、大きさは3ユーデ四方もあるから、かなり大きなものもできそうだ。

 長屋の暖房は土器のストーブなのだが、大きな暖炉に変っている。ここで暮らすこともできそうだな。


「左右の部屋は何もないですけど、一応右手の部屋には棚を3方に作ってありますよ。材料の保管場所も必要でしょう。例の木箱は運んであります」

「俺の趣味にこんな場所を提供して貰って、申し訳ありません」


 思わずエルドさんに頭を下げて礼を言うと、エルドさんが慌てて俺の前で両手を振っている。


「とんでもない。礼を言うのは私達の方ですよ。俺達に暮らす場所を見つけてくれて、その暮らしを維持できるようにしてくれているのはレオン殿じゃないですか。あの砦にレオン殿がやって来なければ、俺達は今頃この世から去っていますよ。ですが……」


 2人で暖炉傍にあるベンチに腰を下ろしてパイプを使う。

 エルドさんの気掛かりは、俺が旧サドリナス王都に向かって帰ってくるかということだったらしい。


「一抹の不安が無いこともないです。ですが、やはり一度この目でエクドラル王国のサドリナス領内の治世を見てみたいという思いの方が強いんです。去年から、旧サドリナス領内からの獣人族の移住は激減していますし、最近は全くないですからね。その原因が治世によるものか、それとも……」

「サドリナス領内から獣人族いなくなったということはないでしょう。未だに獣人族狩りを行っているブリガンディ王国からは俺達の仲間が避難してきてますからねぇ。それを考えると、やはりエクドラル王国の治世が上手く行っているようにも思えてきます」


「ある程度、俺達から便宜を図ったところもありますからね。これからの付き合いを考えると、獣人族の弾圧を表立って行うことは出来ないでしょう。それが本当なのか、それとも何らかの裏があるのかを探ろうかと思ってるんです」


 俺の言葉に、エルドさんが深く頷いている。

 理解してくれたのかな?


 だが、その政策に裏があるとなれば問題が大きいことは確かだ。

 フイフイ砲の構造を教えてあるし、爆弾も粗悪品を作れるまでになっている。

 次にエクドラル王国と事を構えるとなると、さらなる兵器開発を進めねばなるまい。

 

 一服を終えたところでエルドさんに3本のワインを渡すと、笑みを浮かべて受け取ってくれた。


「ところで、また伝令の少年達を手伝わせるのですか?」

「伝令役は結構暇みたいだから、喜んで手伝ってくれるんだ。あの陶器だってそうだから」

「陶器作りは奥さん連中にも好評ですよ。工房に10人ほど出入りしているようです。その辺りの給与はエクドラ殿がしっかり管理していると聞いてます」


 すでに住民の参加が始まってたか……。となると少年達の中から工房の責任者を早く決めないといけないだろうな。

 中には兵士になりたいという少年だっているだろうし、親の家業を継ぐ者もいるだろう。

 明日は、彼らと話し合ってみるか。

 それに次の伝令も探してもらわないといけないからなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ