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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-153 砦で腕木信号が確認できた


「いやあ、驚きました。色々とお噂を聞くことはありましたが……、噂はあてにならないとはっきりと自覚できた思いです」


 エルダーさんの言葉は、褒めてるのかなぁ? 苦笑いを浮かべて、とりあえず頷いておいた。


「イエティの目を射抜くと聞いた時には、冗談だろうと思いましたが、あの腕なら頷けます。レオン殿に適わずとも、矢筒分の矢を射てイエティの目を貫ける弓の名手が欲しいところです」


 エルダーさんとエルダーさんの副官はどちらも人間族なんだが、獣人族を見下すようなことは無いようだ。

 ティーナさんにも敬意を払っているからなぁ。


「あれを見たなら、少しは精進するのではないか? 目標を見ることができたのだからな」

「あまりにも目標が高すぎるようにも思えます。とはいえ、『レオン殿には適わずとも!』という気負いを得たことは確かでしょう。他の弓兵にも見せてあげたいところです」


 副官の話に、エルダーさんが頷いている。まさか定期的に個々で腕を披露してくれなんて言い出さないだろうな。


「さて、昼食が届きました。午後に見張り台に昇れば、レオン殿の信号台の確認ができますよ」

「出来れば、私の同行をお許しください。どのような試験を行うのか興味がありますので」


「興味というより、実際に確認してください。これが、今回の試験項目なんですが……」


 エルダーさん達に、腕木信号で伝える腕木の動きとその情報についての一覧表を手渡した。


「これは……。なるほど、人間の腕の動きを模して、その動きが敵の情報になるのですな……」

「敵を見て、見張り台から狼煙を上げるだけでは、レオン殿には情報不足ということのようだ。確かに伝令が情報を伝えるのは狼煙から2、3時間程経過してしまうだろう。伝令の情報を基に、部隊を集めて送り出すならさらに遅くなる。レオン殿はその時間を短縮するのが狙いらしいぞ」


「この情報がマーベル国の見張り台から届くのであれば、1個小隊以上の偵察部隊に匹敵するでしょう。いや、私がそれを知るまでの時間を考えるとそれ以上の働きになります」


 とはいえ、この砦から見えないのでは話の外になるんだよなぁ。

 エルダーさんの話では、望遠鏡を使えば俺達の作った砦が見えるらしい。

 どんな望遠鏡なのか分からないけど、少し高倍率の望遠鏡を持参してきたから、場合によってはその望遠鏡を進呈することになりそうだな。


 お茶を飲み終えたところで、エルダーさんの副官の案内で砦の見張り台に昇る。

 俺達の見張り台と違って、さすがに軍の見張り台だ。ちょっとした建物だな。1階は兵舎になっているくらいだ。

 階段を上ると、2階は監視員の詰所になっているらしい。詰所だけど大きさは10ユーデ四方はありそうだ。

 さらに昇ると、ようやく見張り台に達する。高さは15ユーデ近くあるんじゃないか。


 四方を無の高さほどの頑丈な柵で囲んであり、真ん中の小さな休憩所は4ユーデほどだな。少し庇が伸びているのは、雨対策ということだろう。

 見張り台そのものは、10ユーデ四方ほどの大きさだ。1個小隊が見張り台に昇って矢を射ることも出来そうだ。


「北の見張り台は、この方向になります。異常の有無を各直で数回は確認しております」

「狼煙台がありますから、現状ではそうなりますね。ところで望遠鏡はどんなものを使っていますか?」


 副官が直ぐに見張りの兵士から望遠鏡を受け取って、俺に見せてくれた。

 その望遠鏡で砦方向を眺めてみると、かろうじて腕木信号台が確認できる。これではちょっと倍率が足りないな。

 バッグから望遠鏡と三脚を取り出して、三脚に取り付けた望遠鏡で腕木信号台を眺める。これなら問題なさそうだ。腕木先端の黄色の塗装まで見ることができる。


「倍率の高い望遠鏡を作ってきました。これを進呈しますから活用してください。これなら腕木の動きが見えるはずです」


 副官に事前に腕木を確認してもらう。自分達の使っている望遠鏡と見比べて、溜息を吐いているんだよなぁ。


「これほどの倍率とは……。ありがたく受領いたします。それで、何時始めますか?」

「こっちから合図しないといけないんです。少し大きな音がしますが良いでしょうか?」


 副官がちょっと考えて、兵士に試験を行うことと大きな音がすることを告げると、数人の兵士が見張り台を降りて行った。

 

「砦内に周知しますから、少しお待ちください。それで何かこちらで準備するものがありますか?」

「松明を1つ用意して頂けますか。爆裂矢を使いますから火を点けないといけないんです」


 直ぐに松明が用意される。見張り台の柵から外に向かって取り付けてくれたから、あらかじめ何本も用意してあるのだろう。

 魔法の袋から弓と爆裂矢を用意して、爆裂矢はナナちゃんに持っていて貰う。

 矢羽根に色が付いているのを面白そうに見てるんだけど、炸裂したらその色が発色するとガラハウさんが言ってたんだよね。本当かどうかは、やってみないと分からないんだけど、自信を持って言っていたから何度か試してみたんだろうな。


「おや? 両腕木とも、上を向きましたね」

「準備ができたということでしょう。それでは始めますよ!」


 ナナちゃんから赤い矢羽根の爆裂矢を2本受け取り、最初の1本に焚火で火を点ける。

 チチチ……、と弾けるような音を立てた矢を上空に向かって射る。

 続けてもう1本を受け取ろうとしたところで、上空で爆裂矢が炸裂した。

 ドォーン! という音が赤い火球の中から聞こえてくる。

 次の矢を射ったところで炸裂音を聞きながら、自分の望遠鏡で腕木信号の動きを眺める。

 手持ちの望遠鏡は倍率が低いからなぁ。動きだしたのは分かるんだがちゃんとメモに記載した通りの腕木操作が出来ているのだろうか?


「この2種類の信号を繰り返していますね」


 副官が望遠鏡から離れて、メモに記載した腕木の動きを教えてくれた。

 俺の肩越しに、ティーナさんまで覗いているんだよなぁ。


「この信号表によると、『魔族を確認、部隊数は1個大隊以下』、『指揮所の西に集結中』となるな……」

「これだけの情報が頂けるなら十分ですよ。少なくとも偵察部隊を北に向かわせる必要が無くなります」


「友好条約の協力として十便に見合うということか?」

「十分すぎます。2個小隊を砦に増やすよりも、この情報の提供に分があります」


 最後に青色の矢羽根の付いた矢を上空に撃って、今度は青い火球を作る。

 これで、昼間にも情報伝達が出来る事が分かったから、後は夜間での確認だな。


「さて戻るか。お茶でも飲みながらマーベル共和国との情報共有を協議しよう」


 ティーナさんの言葉に、俺達は見張り台を後にした。

 応接室に戻ると、直ぐにお茶が用意された。

 大きな皿に盛られたクッキーを見てナナちゃんの目が輝いている。


「どうぞ、妻の手作りで恐縮ですが……」


 エルダーさんの勧めで1つ戴いたけど、マリアン並みの腕前なんじゃないか?

 砂糖をたっぷりと使っているから、こっちの方が美味しく感じてしまうぐらいだ。


「美味しいですね。普段は焼き菓子ばかりなんで、このような御菓子を頂けるのを感謝します」

「妻が聞いたら喜んでくれるでしょう。それで、どうでしたかな?」


「私から報告いたします。情報伝達には十分です。できれば我等の軍にも用意したいぐらいです」

「仕組みはそれほど複雑ではありません。これが概要図になります」

「頂けるとなれば、この砦にも設けたいところですな。とはいえ、重要な情報を送ることは出来ないと思いますが」

「準備完了だけでも十分ですよ。それと、俺達の国に訪問者がある場合には前もって知らせて頂けると助かります」


 先ぶれの使者が馬を走らせるのも大変だろう。1騎だけなら魔族の哨戒部隊に襲撃されないとも限らない。


「なるほど、そんなことにも使えるわけですな。これは副官と色々考えねばなりませんね」


 エルダーさんが副官と顔を見合わせて頷いている。

 俺達とこの砦間だけでなく、エルダーさんとしてはエクドラル王国本国の王宮との通信にも使えると考えているのだろう。

 それは少し待った方が良いんじゃないかな。次の情報伝達手段なら文章を送れるんだからね。


「たぶん本国との通信にも使えるとお考えかもしれませんが、それはもう少し待った方が良いかもしれません。現在は符丁での情報伝達ですが、次は平文を送れないかと考えていますので」


 平文を送ると聞いて、ティーナさんまで驚いている。

 首を傾げているけど、どうしたら可能なのかを考えているみたいだな。


「可能なのでしょうか? 確かに腕木を増やせば文字を表すことも可能でしょうが、そうなると操作がかなり面倒になりそうです」

「操作そのものは簡単になるはずです。問題は新たな文字を覚えないといけないということになるんですが……。俺達で、実用化が可能と判断できればその技術を供与します。その時には10人ほどの少年を1年ほど俺達の国に滞在させることになるでしょう」


 俺の言葉に、4人が首を傾げている。

 その内にティーネさん達には分かるんだろうけどね。

 ティーネさんから、王子殿下に報告して貰えば良いだろう。

 

「話は変わりますが、弓兵を率いる小隊長達が喜んでおりましたよ。たまに砦に来て弓兵達に技を見せて欲しいとまで言っておりました」

「練習の賜物だと伝えてください。俺の場合は長剣の腕が無かった事もありまして、それなりに幼少から弓を練習していました」

「武官貴族の子供達でも、幼少から弓を練習する者はいないだろうな。私も長剣一筋だった」

「私もです。たまに槍を扱いたものですが、弓には手を出しませんでしたね」


 そういう事かと納得しているようだ。

 それだけでは無いんだが、納得できるということは長剣の練習に毎日汗を流していたのだろう。


 夕食が終わると、再び見張り台に昇る。

 合図の爆裂矢を放ったところで腕木信号の動きを確認したのだが、夜の方が確実だ。俺の持っている望遠鏡でも腕木の動きがはっきりと分かる。


「これでこの砦は、北部よりの攻撃を数時間前に知ることができるな。それがどれほどの意味を持つか、エルダー殿なら理解できるはずだ」

「十分な迎撃態勢を取ることが可能です。場合によっては増援すら可能かもしれません。同じような腕木信号台を街道の北の砦の設ければ、部隊の運用に大きく寄与できるでしょう。私からもオルバス殿に文書を送る所存です」


「……ということになる。友好条約はある意味等価の付き合いともいえる。どんな対価を頂けるか楽しみだな」

「それは次の手段を実用化出来たらで十分ですよ。ある意味、現状で可能な手段を使ったまでですからね」


「私から1つお願いがあるのですが、先ほど空に放った爆裂矢というものを我等が入手することは出来ませんか? それなりの値段だとは思いますが、あれを弓兵が一斉に放ったならと考えると自分でも震えを押えられません」

「それは現状では無理だろう。マーベル国の住民は我等を含めて周辺の王国と戦った過去がある。その矢が自分達に向かったならと考えるのは当然の筈だ。だが、父上の話では爆弾を20個供与されているはずだが?」

「5個頂きました。1個試してみたので現在は4個手持ちしています。敵が柵に取り付いた時に使うつもりです」


「なら、もう5個提供しましょう。内緒ですよ。俺の手持ち分ですからね」


 そう言って、バッグから5個の爆弾を手渡した。手で投げる代物だが、場合によってはバリスタを使うことも可能だろう。

 9個もあれば少しは安心できるんじゃないかな。

 だが魔族相手に爆弾を使ったなら、直ぐに数を増やすための交渉が始まりそうだ。

 俺達のように魔族相手に100個以上を使うようなことは無いだろうが、防衛戦では活用できるだろうからなぁ。


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