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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
151/384

E-150 陶器の販売に王国が関与しそうだ


 エディンさん達がやって来たのは、春分を10日も過ぎてからだった。

 どうやら、雪解けを待っての移動だったらしい。それでも20台を超える荷馬車の列は結構壮観だなぁ。


 いつものように指揮所でお茶を沸かして、エディンさんを待つことにした。

 賑やかな荷馬車の列が通り過ぎる頃、エディンさんとオビールさんが指揮所を訪ねてくる。

 ナナちゃんの入れてくれたお茶を飲みながら、ひとしきり雑談を楽しむことにした。

 

「ところで、陶器はどれぐらいできたんでしょうか? もう少し暖かくなるのを待ちたかったんですが、毎日のように来客が訪れるので……」


 エディンさんが困ったようなかを向けて問いかけてきた。

 断れない客ということなんだろう。大商人や貴族達ということかな?


「かなり出来ました。エディンさんの目で、商売になりそうなものを選んでください。代金は次に訪れた時で十分です。それと、入り口近くに置いてある木箱と布包みなんですが……。木箱は王子殿下に、布包みは王都にいるオルバス卿に届けて欲しいんです。木箱は俺達から王子殿下への贈り物です。布包みはオルバス卿がやってきた時に、頼まれた長剣なんですが、さすがに細工師がおりませんので、刀身だけになります。値段は金貨5枚と言っていたんですが、刀身を見た上で再評価して貰っても構いません」


「安くともよろしいと?」

「ちょっと変わった鉄を使ってますから、それなりの希少価値はあるでしょう。できれば、ただ腰に下げるだけにして欲しいですね」

「使ってこその、長剣だろう? オルバス卿なら俺も話を聞いたことがある。最前線に出ることも多いらしいぞ」


 折れるということは無いだろうが、王都で手入れができるドワーフがいるとも思えないんだよなぁ。


「そうなると、木箱の中身は……、陶器ですか?」

「茶器を一揃い入れてあります。王女殿下とお楽しみいただければ十分ですと言葉を添えてください」

「分かりました。実は内々で王子殿下からも、人を介して手に入れられないかと打診を受けていたのです。それにしても茶器を一揃いですか……。売れば相当な金額になりますよ」


「別に儲けようという気はありませんよ。ですから、相場よりも一桁安くしても十分です。大商人達が最終的にどれほどの値を付けるか分かりませんが、エディンさんの卸値は金貨1枚を超えることが無いようにしてください」

「たぶん、最終的には数倍いや10倍近い値になりそうです。それをあえてしないとは……」


「所詮は食器ですからね。食器として使って欲しいところです。それで、エディンさんの取り分は……」

「売値の1割を頂きます。少し分かってきました。値崩れすることで恨まれないようにとの事ですね。それなら私は単なる運送費としての取り分で十分です。それに、どうやらエクドラル王国が食指を伸ばして来そうですからねぇ。王国の財源として利用したいと考えているようです」


 俺達からエディンさん、エディンさんからエクドラル王国、エクドラル王国から大商人、そして大商人が販売することになるのかな?

 中間搾取が凄いことになりそうだけど、それは俺達が知ったことではない。

 俺達は少し高い食器を作るだけだからね。


「そういえば、王都の職人街はかなり賑わっているようですよ。大仕掛けの兵器を沢山作っているらしく、木材も値上がりしているようです」


 どれぐらいフイフイ砲を作ってるんだか……。まあ、あれば防衛戦を有利に運べるからなあ。


「となると、火薬もですか?」

「たまに王都近くの練兵場で爆発音が聞こえるらしいです。ですが火薬の値上がりは無いようですね。今回も10袋を運んできました。銃のカートリッジも千を超えています」


 カートリッジの値を聞くと、従来と同じ値段だ。

 ということは、爆弾の開発を試行錯誤で行っているということなんだろう。

 どんなものが最終的に出来上がるか分からないけど、俺達の爆弾を越えることはないんじゃないかな。


 いつものように残金を銀貨と銅貨で受け取ると、最後にオビールさんがワインとタバコの包みを俺に渡してくれた。

 思わず笑みを浮かべる俺だけど、これって賄賂ってことになるのかな?

 だけど、いろいろと自分の懐から資材の購入費を出しているんだから、これぐらいは良いと思いたいな。


「たくさん買ってくれると良いですね」

「少し俺達の予算が膨らみますね。それを何に使えば良いのかを皆で考えるのも良さそうです。とはいえ、どれぐらいの売値になるかは、まだわかりません」


 伝令の少年達がエディンさんを倉庫に案内してくれるはずだ。売れそうな陶器はどれほどの数になるんだろう。少なくとも半数は持って行って欲しいな。

のんびりとパイプを楽しみながら待っていよう。


 指揮所の扉がトントンと叩かれる。

 ナナちゃんが扉を開けると、笑みを浮かべたエディンさんが部下を連れて入ってきた。2人いるから、木箱を運んでくれるのかな?

 挨拶をしたところで、エディンさんが木箱を運ぶように指示を出し、ゆっくりと木箱が運ばれるのを見送ったところで席に着いた。


「前よりも格段に優れています。伝令役の方々が、これは試験に使ったものだと教えてくれたもの以外については全て運ばせて頂きます。次は何時頃になるのでしょうか?」

「秋分には今回ぐらいの数を揃えておきます。まだまだ摸索の最中ですから、色々と試したいこともあるので、あまり数を揃えられないのが残念です」

「それは仕方のないことですね。とはいえ、絵皿まで作られたとは思いませんでした。さすがにあの皿は金貨1枚を超えると思いますよ」


 お任せしますと言って、エディンさんに任せることにした。

 やはり俺に商才は無いんだろうな。


 お茶を1杯飲んで、エディンさんが指揮所を出て行ったけど、残った俺達は互いに顔を見合わせて大きな溜息を吐く始末だ。

 それほどの騒ぎになるとは思っていなかったんだよなぁ。たかが食器だからねぇ。

 確かに貴重なのかもしれないけど、落としたら壊れてしまう代物だ。

 絵皿を落として壊した侍女を怒って殺したりしないだろうな……。ちょっと心配になってきた。やはり高額商品の生産は良くないのかも。

               ・

               ・

               ・

「南西に作った砦に行きたいと?」

「はい。尾根の南の作った見張り台に、信号台を併設したんです。その信号台の信号が砦から視認できるかを確かめようかと」


 俺の答えにしばらくティーナさんが首を傾げていたのだが、見かねた副官のユリアンさんがごにょごにょと耳元で何か囁いている。


「何々……。そういえば、そんな話もあったな。ということは、魔族の早期発見の知らせを受けることができるかもしれぬということか! 問題ないぞ。私が同行しよう」

「レオン様はマーベル共和国の重鎮ですから、特に何の問題も無いと思います。先触れに私が出掛けますが、何時お出かけに? それと、レオン殿は馬に乗れますか?」


 先触れまでいるのか! ちょっと見たいだけなんだけどなぁ。


「出来れば早い方が良いですね。それと、あの小さなボニールに乗っていきますよ。何度か乗ってみましたから大丈夫ですよ。従者のナナちゃんを一緒に連れて行きます」


 俺達の会話をうんうんと聞いていたティーナさんが、やおら俺に顔を向けてきた。


「それなら、明日で良かろう。朝食後に出掛けるなら明日の昼過ぎに到着出来よう。翌日に試験を行い。3日後にここに帰って来れば良い」

「3日も留守にするんですか!」


 ティーナさんの言葉に、今度はレイニーさんが俺に問いかけてきた。

 心配性だからなあ。だけどちゃんと帰って来るから安心して欲しいところだ。


「一度戦をしてますからねぇ。それなりの心構えで砦の門をくぐりますよ。どんなことがあっても、ここに戻ってきますから」

「いくらオリガン家であっても、砦内で1個中隊を相手には出来ませんよ」

「そこまで無茶はしませんよ。とはいえ、俺に何かあった時には母上達を無事にオリガン領に戻してください」


「心配いらぬ。レオン殿の付いては私が責任を持つ。もちろんナナちゃんも同じだ」


 武系貴族の言葉だからな。文系貴族よりも遥かに信用が置ける。

 それに、そんなことをしたなら兄上が黙ってはいないんじゃないかな。常にオリガン家を考えなければならないような事態にはエクドラル王国としても考えたくはないだろう。


 砦にも望遠鏡はあるようだけど、倍率はどのぐらいなんだろう?

 一応、1個提供するつもりで、三脚を付けた望遠鏡を持っていこう。その望遠鏡でも確認ができないときは、次の方法を考えないといけないな。


 その夜に、試験の方法を記載したメモを2つ作って、1つをエルドさんに手渡して協力してもらうことにした。

 午後と夜に試験を行うことにして、俺が砦で上げる爆裂矢の炸裂を合図にして信号台の腕木を操作して貰うことにした。

 ガラハウさんが焼夷弾のように作ってくれた爆裂矢だから、大きな火の粉を空に広げてくれるだろう。

 2回行うと教えておいたし、俺の合図を見て見張り台からもエルドさんが爆裂矢を放ってくれることになっている。


「単なる知らせだけなら、爆裂矢だけでも十分でしょう。でもそれでは情報が不足しますね」

「さらに、情報を増やすことも出来るんだけど、それは子供達に教えようと思うんだ。信号の種類が多くなって、俺達には覚えられないからね」


「子供達なら可能だと?」

「文字を習っているでしょう? 最後の通信方法は、文字を送るということなんです。それが可能なら伝令は必要ありませんよ」


 そんなことが可能なのか? と皆が囁き合っている。

 案外簡単な手段なんだけど、誰も気が付いていないようだな。

 まあ、それは今後の話だ。当座は、今回の腕木信号で何とかしたい。


「明日出掛けるとして、試験は明後日の昼過ぎと夜ですね。夜は?」

「月が出てからにしたい。満月を過ぎているから、夕食後から2時間ぐらい後になるんじゃないかな」

「了解です。爆裂矢はヴァイスに頼みますよ。だいぶ爆裂矢を使って慣れてるでしょうからね」


「任せるにゃ。でも、上手く信号が伝わると良いにゃ」


 ヴァイスさんの言葉に皆が頷く。

 それが出来た時、初めてあの位置に砦を作った意味が出てくることになる。

 砦の東は、将来豊かな穀倉地帯に変わるだろう。


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