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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-015 出城を作ろう (1)


 北の大地だけど荒れ地には草が芽吹いている。

 雪がしっかりと大地に水をもたらしたおかげなんだろう。森の西を回り込むように進むと、国境のレイデル川が見えてきた。

 川幅は30ユーデを越えていそうだ。かなり深そうだから魚も住んでいるに違いない。

 行商人に勧められるままに釣竿と仕掛けを買い込んでしまったけど、たくさん釣れれば趣味にしても良さそうだな。


 森を抜けたところで昼食を取る。まだ先は長いけど、景色が良い場所だからね。

 1時間程休んだところで、さらに北を目指す。

 まだ昼過ぎだが、ここからだいぶあるらしい。夕暮れ前には到着したいところだ。


 2度程休憩を挟み、どうにか目的地に到着した。川沿いに大きな石が並んでいるのが目印だったらしい。

 先ずは、ここで一晩過ごさなければならない。

 レイニーさんの指示で、エルドさん達が荷車を川に沿って半円形に並べ始めた。

 魔族の襲撃がないとは限らない。少しでも障害を設ければ被害を低減できるだろう。

 ヴァイスさん達が、周囲の灌木を切り倒して焚き木を集めている。

 見張り番の焚火も必要だろうし、なんといっても夕食作りを始める時間だからなあ。

 軍属の小母さん達が食事の用意を始めた直ぐ近くに石を組んでカマドが作られていく。


 先ずは周辺を見てみるか……。

 ナナちゃんを連れて、荷車の外側に出ようとしたら、板を組み合わせた簡単な柵が作られていた。

 板の裏に隠れて矢を放てそうだな。槍を使うにも間に障害があるとないとでは段違いだからね。このまましばらくは使えそうだ。


 だんだんと暗くなってきているが、東と北は見通しが良いようだ。北にも森が見えるけど、南の森と比べると倍以上離れているんじゃないかな?

 西は大きな石と岩が組み合わさって堤防のように見える。これ以上東に浸食することは無いだろうから、西の塀は低くしても大丈夫だろう。

 西の防衛が少なくて済むと言っていたのは、この天然の石組みが利用できるということだったのだろう。砦の配置をどのようにするか、今夜は皆で考えないといけないだろうな。

 新たに砦にやってきた連中は、他の部隊からの転属者と新人が半々だった。新兵だけでは無いから、ヴァイスさんの心配事は少しは改善したことになりそうだ。


 荷車で作った陣の中に入ると、雨風を避けるだけの簡単なテントがたくさん並び始めた。

 俺達のテントはどれになるんだろうと眺めていると、レイニーさんが手を振っている。

 テント3つ分ほどもある大きな屋根だけのテントのすぐ隣に、小さなテントがいくつか並んでいた。


「ここが小隊長と私達が使うテントになるわ。大きなテントの西に2つ目がレオンのテントよ」

「小隊長達は1人ずつですか。ある意味個室ということですね」

「ナナちゃんが一緒だけどね。夕食が済んだら、あの大きなテントに集まって頂戴」


 しばらくはテント生活になりそうだ。

 これから初夏になるから寒くはないだろうけど、秋までには兵舎を作らないと冬が越せないんじゃないかな。

 レイニーさんに教えて貰ったテントに持参した品を置いて、テントのポールにバンダナを巻いておく。館で暮らしていた頃のものだからだいぶ色落ちしてる。赤だったんだけど、何時の間にかピンクになってるんだよなぁ。


「これでナナちゃんもこのテントが分かるだろう? 同じようなテントが並んでるからね」

「だいじょうぶにゃ。焚き火の傍だから」


 確かに近くに焚き火がある。でもその近くに数張のテントがあるんだから、やはり目印はいるんじゃないかな。


 皆が並んでいるのは、夕食を受け取るためなんだろう。

 ナナちゃんと並んで、食器にスープを受け取った。

 パンはナナちゃんの分もまとめて貰って、食べる場所を探そうと辺りを見ていると、ヴァイスさんが手を振っているのが見えた。


 荷物を入れた木箱をテーブル代わりに並べて食事をしていたから、空いた場所に座り込んで食器を置いたナナちゃんにパンを渡す。椅子は丸太を横にしただけだ。

 早めにベンチを作った方が良いかもしれないな。


「今夜は簡単な食事にゃ。明日に期待するにゃ」

「明日から、いよいよ砦作りですね。食事が終わればテントに集まるように言われましたけど?」

「作業分担を決めるみたいにゃ。新人には穴掘りをさせるにゃ」


 確かに穴掘りは早めにしておく必要があるだろうな。砦から1個中隊が荷馬車で丸太を届けてくれることになっているから、昼過ぎには丸太が運び込まれてくるだろう。

 食事が終わると、皆の食器をまとめてヴァイスさんが【クリル】使って綺麗にしてくれた。

 兵士が近くの焚き火に掛けられたポットを持ってきて、カップにお茶を注いでくれる。


 さて、そろそろ大きなテントに向かうか。

 ヴァイスさんと一緒にテントに向かうと、小隊長達が集まっている。

 テント内の照明は、【シャイン】で光球を作り金属製の籠の中に入れてあるから結構明るい。

 ベンチ代わりの丸太に腰を下ろして周りを見る。

 初めて見る顔もあるけど、ヴァイスさん達がいるから、何となくいつもの下士官室の雰囲気だな。レイニーさんが中隊長になったことで、ヴァイスさん達も小隊長に昇進しているが、階級は軍曹のままらしい。

 第1小隊や軽装歩兵の小隊長はそのままらしいけど、新たに増員された小隊もあるから1度整理した方が良いかもしれないな。

 人によっては向き不向きもあるから、少しは融通してあげても良さそうだ。

 新たな砦の指揮官はレイニーさんになるんだから、それぐらいはレイニーさんの権限の範囲になるんじゃないかな。


 俺達の顔を眺めていたレイニーさんが立ち上がると、皆が注目する。


「いよいよ明日から、砦作りになります。縄張りはレオンと第1小隊、第2小隊は井戸掘り。第3小隊はテントを作って、まだ荷車に残っている荷物の移動。第4、第5、第6小隊は縄張りに沿って溝を掘ることになるわ。

 溝の深さと幅は半ユーデだから面倒な作業になるけど、訓練には丁度良いわ」


 新兵を配属された小隊長は少し頭を垂れている。

 一番の重労働だからなぁ……。


「第1小隊の仕事はそれほど時間が掛からないだろうから、終わり次第井戸掘りを手伝う予定だ。西に川が流れているが、そのまま飲むのは止めて欲しい。

 まだ水筒の水はあるだろうが、それがなくなったら井戸ができるまでは川の水を沸かして飲むことになる。生水を飲んだらお腹を壊すぞ」


 俺の言葉にヴァイスさんががっくりと頭を下げてしまった。

 サボれると思ったんだろうけど、そうはいかないぞ。


 明日の打ち合わせが終わったところで、テントに戻る。

 テントの床には毛皮が敷いてあった。地面からの湿気と寒さを防ぐためのものなのだろう。野犬の毛皮らしいけど、テントマットとして使えるなら十分だ。

 毛布を2枚敷いたところでテントの外に出ると、ナナちゃんに【クリル】を掛けて貰う。

 皮の上下を脱いだところで毛布を被ってナナちゃんと横になった。

 テント近くを歩く兵士の物音でなかなか眠れないけど、だんだんと睡魔が襲ってくる。今日は疲れたんだろうな。


 翌朝。周囲の物音で目が覚めた。ナナちゃんも目をパチリと開けていたけど、朝の寒さで起きられなかったのかな?

 衣服を整えて、毛布を畳んでおく。

 縄張りと言ってたから、朝食前に起点となる場所を見付けておいた方が良さそうだ。

 

 朝の散歩をナナちゃんとするとは思えなかったけど、川沿いを北に向かって歩いていると、レイニーさんが俺達に加わった。


「場所を探してるんでしょう? 西は岩がゴロゴロだから、途切れる場所となると、もう少し上になるわ」

「少しでも掘れないと塀を頑丈にできませんからね。でもそんな場所があるんですか?」


 笑みを浮かべたレイニーさんの後を付いていくと、直ぐにその場所が見つかった。岩と岩が重なって穴が開いている。直径は30cmもなさそうだがかなり深そうだな。

 

「この先にはこんな穴がいくつもあるのよ」

「使えますね。少し太めの丸太を入れれば西側の壁の柱としても使えますよ。問題は東側ですが……高さが5ユーデほどなら岩が下に有っても何とかなるでしょう」


 西にも塀を作ることにはなるんだが、回り込まれるようでは困ってしまう。

 3m程度なら、障害を作ることで回り込まれるのを防げるだろう。


「ここから東に50ユーデの溝を掘っていきましょう」

「問題は東の塀よ。きちんと角を出さないと格好が悪くなるわ」

「それは、きちんと角を取ればだいじょうぶですよ。まあ、任せておいてください」


 荷車の中に入って、朝食の列に並ぶ。

 何時も通りの乾燥した野菜と干し肉のスープだが、何時もより干し肉の量が多いように思える。

 パン釜が無いから平たいパンになってしまうけど、ヴァイスさん達と一緒に頂くことにした。


「今日は、縄張りにゃ。何を準備すれば良いかにゃ?」

「短い杭と紐が欲しいですね。それと杭を打つトンカチが欲しいです」

「これを使いますか? ドワーフの親方に、1ユーデごとに3か所目印を付けて貰ったんです。最初の1ユーデは半ユーデの場所にも印があります」


 エルドさんが後ろから取り出したのは短槍だった。柄のところに切り込みを入れてあるから、物差し代わりに使えそうだな。


「30ユーデ以上のロープを探してきてください。この槍を使ってロープに目印を作りましょう」

「私が探してくる。毛糸で1キュバルずつ目印を付けとく」

「後は……、インクはありますか?」


 隣で朝食を取っていたレイニーさんに聞いてみた。

 急いでパンを飲み込んで、俺に顔を向けてくれた。


「砦の日記を付けるのに、筆記用具が1式あるわよ」

「それを使って直角の目印を作ります。その前に、1ユーデ四方の板を見付けてくれませんか? 無い場合は板を切って作ってください」


 直角を板に描くのはそれほど苦ではない。先ず2つの点を板に描いて、それを結べば直線が引ける。次に短い板切れの両端に釘を打って、片方の釘にインクを付ける。直線を作った点に釘を合わせて板に円弧を描く。もう片方の点についても同じようにすると円弧が交わる場所が上下にできる。その交点を線で結べば、最初に引いた線と綺麗に直角に交わるのだ。


「私が作ってきましょう。上手くできない時には助力ください」


 俺の話を聞いていたエルドさんが頷きながら申し出てくれたから、思い当たる物があるのかな?

 朝食を済ませると、直ぐに3人が走って行った。結構物が必要になるな。


 直ぐに戻ってきたのは、ヴァイスさんだった。短い杭は、元は焚き木だったに違いない。小隊の連中と一緒に杭の片方を削っているから、直ぐに数十本程度はできるだろう。

 

 エルドさんが運んできた板を使って、俺の話を思い出しながら直角の線を描いてくれた。綺麗に出来たから、半信半疑で見ていた連中が感心して拍手を贈ってるんだよなぁ。。


「ロープが終わったよ。紐も貰って来た!」


 リットンさんの方も完成したようだ。

 皆で荷物を持って、起点を作る場所に出掛けた。


「ここから並べるのかにゃ? そうなると……、紐は少しこっち側に張らないといけないにゃ」

 

 ヴァイスさんが30cmほど位置をずらした場所を指差した。

 紐に沿って穴を掘るということで、紐の上に穴を掘るわけではないんだよな。


「この棒を使って紐からの距離を揃えるにゃ!」

 

 ヴァイスさんが3本の杭を持っていた。

 確かに手ごろだな。レイニーさんに顔を向けると頷いてくれたから、直ぐにヴァイスさんが片手剣で目印を付けている。

 3個分隊だから、3本で良いのだろうけど、念の為に5本作っておけば良いだろう。


 後は、起点となる杭をレイニーさんが打ち付けた。東に向って10ユーデほど歩くと2本目の杭を打つ。

紐を起点に合わせてぴんと張り2つ目の杭の真上を通して、3本目の杭を打つ。

 2点を通る線は直線だからね。こうやって伸ばして行けば北側の塀は真直ぐに作れるだろう。


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