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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-145 窯業を始めよう (1)


 窯業を始めるとして、最初の課題は窯と粘土になるだろう。

 養魚を始める時に素焼きの大きな皿を作ってはみたんだが、陶器の原料は何度ではなかったんじゃなかったかな?

 さすがに磁器は無理かもしれないが、陶器と磁器の違いは焼くときの窯の温度の違いらしい。

 窯はガラハウさん達が鉄を溶かしているような塔状のものではダメだから……。


 メモに概念図を描いては首をひねって、破り捨てる。中々良い形にならないんだよね。

 俺のもう1つの記憶に、古い陶器を焼く窯を再現した陶器作りの光景が浮かんでくるんだが、それは斜面に沿って作られた長い窯だった。大量の薪を使って焼き上げるのだろう。ずっと上に築いた煙突から炎が出ている姿は記憶ではあるが、かなりの迫力がある。


 だが、あれほど薪を使うとなればかなりの問題が出てくるだろう。薪は俺達の生活ではなくてはならない必需品だからね。食事を作るだけでなく、冬越しの暖房のために大量の薪を必要とする。

 開拓するために森や林を伐採しているから何とか需要を賄えるものの、将来を見据えて子供達に植林を行ってもらっているほどだからなぁ。


 数日の間悩み抜いて形にした窯は、記憶の中で言うところの反射炉に近いものだった。

 鉄を溶かすこともできるらしいが、鉄の加工はガラハウさん達に任せれば十分だろう。

 面倒な製鉄を行っているけど、ドワーフ族の伝統らしいからね。

 

 出来上がった窯の概念図をガラハウさんに見せると、首を捻っている。やはり少し問題があるんだろうか?


「出来ないことはねぇが、薪をここで燃やすのか?」

「燃やした熱が半球状の天井で反射して、ここに置いたものを焼いてくれるんです。フイゴを設置して石炭を燃やしますからかなりの高温になると思っているんですが……」


 青銅を大量に作ることができるかもしれないな。

 銅と青銅では融ける温度が少し違うから、細い棒を作って貰って、それで窯の温度を確認できるかもしれない。


「まさか、青銅を作ろうなんて考えてないだろうな?」

「それはガラハウさん達に任せてますから、俺の仕事ではありませんよ。これを使って食器を作ろうと考えてるんですが、原料は土です。孵化した稚魚を育てている大きな皿を見たことがあると思いますが、あれは水を通します。これで作った皿なら水を通さないと考えてるんです」

「フム……。水を通さない土ってことか? 全くレオンの考えることはワシ等には訳が分からんものばかりじゃ。じゃが、結果は出しておるからのう……。了解じゃ、作ってやるぞ。場所は……、東門の近くで良かろう。ブリガンディの連中に備えて、あの辺りには何も無いからのう。養魚場を大きくしたとしても、門の近くまで池を掘ることはないじゃろう」


 これで窯は何とかなった。

 夏至にやってくるエディンさんに石炭を20袋ほど頼んでおこう。

 実験も良いところだから、自腹を切ることになりそうだ。まだまだ銀貨に余裕があるから何とかなるだろう。

 さて、明日からは土探しを始めるか……。


 ナナちゃんと一緒にあちこち巡って、採取ナイフで土を掘る。

 何を始めるのかと、いぶかしげに見る連中もいるけどガッカリした表情で次の場所に向かうから余計に気になるようだ。

 数日後、夕食後の会議でその話題が出てきた。


「あちこち巡って掘っているようですけど、新たな金脈を探してるんですか?」


 問い掛けてきたエルドさんの言葉に、皆が頷いている。

 やはり皆が気になってたのかな?


「金脈がそう簡単に見つかるとは思えませんよ。それに金鉱石から金を取り出すのはかなり厄介なんです。砂金は純金に近いですから加工も容易なんですけどね。俺がやっているのは、土を探してるんですよ。稚魚を育てている深皿は粘土で作りましたけど、粘土よりももう少し白い土を探しているんです。土というよりぼろぼろに崩れる石のようなものなんですけど、ちょっと説明し難い品です」


 そんなものを探してどうするのかと聞いてくるから、できた時のお楽しみということで言葉を濁すことにした。

 まだどんな代物ができるか皆目見当がつかないからねぇ。


 そんなことがあって、少しは俺の奇行に目を瞑ってくれたようにも見える。

 とはいえ住民の中には俺達を見て、ひそひそ話を始める連中もいるようだ。まあ、それは仕方がないことなんだろう。


 半月も探したろうか?

 全くそれらしい土が見つからなかった。やはり諦めて粘土でやってみるかと、北の崩れた崖近くの石に腰を下ろした時だった。

 同じような石に腰を下ろしたナナちゃんが、近くの花を見つけて採取しようと腰を上げると、お尻が白くなっている。

 ん? ナナちゃんが座っていた石を採取ナイフで叩くとすぐに割れた。破片を手に取って強く指で摘まむと粉々になる。

 ひょっとして……、これじゃないのか!

 周囲を見ると、似たような石が沢山ある。魔法の袋に入るだけ詰め込むと、メモ帳に場所を描いておいた。

 

 さて、戻ったらこれを砕いてみるか。

 粘土と混ぜれば、案外簡単に整形できるんじゃないかな。

 ナナちゃんを呼んで、指揮所に戻ることにした。でもその前に俺とナナちゃんのお尻を軽く叩いて石の粉を落としておく。

 

 指揮所に戻り、指揮所の玄関口で切り株をえぐって小さな臼を作り始めたら、イヌ族の少年達が俺の隣でジッと見てるんだよなぁ。

 今日の伝令当番らしいけど、俺が面白そうなことを始めたので見ているんだろうけど、手伝ってはくれないようだ。

 手伝ってくれたのは、近くを通りかかったエルドさんだった。

 どちらかと言うと、俺の手付きを見ていられなかったらしい。


「また、おかしなことを始めましたね。この切り株を臼にすれば良いんですね? 俺が作ってあげますから、杵を作ってください。杵なら簡単でしょう?」


 言外に不器用だと言われている感じもするんだけど、エルドさんなら綺麗な臼を作ってくれるに違いない。

 ここは笑みを浮かべて、「よろしくお願いします!」と頼むことにした。

 杵はなるべき固い木が良いんだが、そうなると広葉樹になるのかな?

 焚き木置き場から、年輪の細かな重い木を探して、用意したノコギリで俺の身長ほどの長さに切り取った。太さは俺の腕ほどだが、できれば中間部分を細くしたいところだ。

 木工細工の小屋に行くと、お年寄りがロクロで木の皿を作っていた。

 これで、杵を作りたいと話したら直ぐに作ってくれたので、お礼にタバコの包みを1つ渡して小屋を後にした。

 

「何を始めるんです? モミを突くならもっと大きな臼を作るべきですよ」

「この石を粉にしたいんだ。結構柔らかいから、臼で突けば簡単そうに思えたんだけど……」

「それなら、フルイも作るべきです。粉と小石を分離しないといけないでしょうからね。ガラハウさんに頼めば作ってくれますよ」


 フルイか! 確かに必要だな。

 杵をその場に置いて、直ぐにガラハウさん達の工房のある鉱山に向かった。


 エルドさんに臼作りを取り上げられた3日後。どうにか道具が揃った感じだな。

 ガラハウさんが石を割るなら、と言って金床とハンマーを譲ってくれた。俺の握り拳2つ分ほどの金床だけど、石を割るには丁度良い。


 古い毛布をエクドラさんから頂いて、その上に金床を乗せると見付けてきた石を割り始める。ハンマーで軽く叩くと、小指の先ほどの大きさにバラバラになる。

 割った小石を桶に集めながら、半日かけて石を割り続けた。


 全ての石を小割にすると、桶に3つ程溜まった感じだ。

 最初だから、これぐらいあれば十分だろう。ガラハウさんに作って貰っている窯に余分な空きがあれば粘土でも試してみよう。

 道具を片付けて指揮所に戻ると、ナナちゃんがお茶を淹れてくれた。

 礼を言って、パイプに火を点ける。

 何となくやり遂げた、という達成感があるな。先は長いけど、少しずつ進めて行こう。


「石を割っていると聞きましたけど、だいぶ音が小さいですね」

「風化した石だから、俺でも指先で潰せますよ。でもハンマーなら楽に割れますからね」


「例の食器作りなんですか? ガラハウさんもレオンに窯を頼まれたと言ってましたが」

「ダメ元で初めてみます。ダメでも土器は出来ますから、料理に使えそうな鍋を作りますよ」

「鍋ですか! 小さなコンロに載せてじっくりと煮る料理はおいしそうですね」


 シチューなら最高だけど、ポトフでも美味しく頂ける。じっくりコトコトという感じで調理するなら土鍋が最高だろう。

 土鍋も作っておくか。粘土は取れる場所が分かっているから、少年達に頼んでみよう。


 翌日から、臼で小石を砕き始める。

 杵で何度も突くことになるから、初夏のこの季節には結構汗が出るんだよなぁ。

 休憩を取ると、少年達が交代しながら突いてくれる。


 ここはちょっとズルをして休ませて貰おうかな……。

 この際だから、彼らに作業を覚えて貰っても良いかもしれない。将来は兵士になるんだと言っていたけど、レイニーさんはあまり兵士の数を増やしたくは無いようだからね。

 俺も、それが一番だと思う。防衛だけの軍事力ならそれほど兵士の数を必要とはしないだろう。現在は名目上1個大隊だが、定員割れが酷いからなぁ。これから増やすとしても1個小隊程度で十分の筈だ。

 戦力よりも経済力を重視して、産業の育成に努めるべきだろう。


「エルドさん達は川ですか?」


 指揮所に入って、お茶を一杯。

 レイニーさんに、エルドさんをしばらく見ないから確認してみた。


「鉄を作るんだとガラハウさんが言ってましたから、砂鉄が足りなくなりそうだと言って出掛けました。護衛にヴァイスが付いていきましたが、ヴァイスの目的は……」

「良いじゃないですか。一生懸命に周囲を監視してくれますよ。そうしないと釣りの邪魔をされそうですからね」


 本音と建前が異なるけど、ヴァイスさんが周囲を監視しているならエルドさん達は心配せずに砂鉄を採取できるだろう。

 それにしても、ガラハウさんも精力的だよなぁ。良い歳なんだから、ジッとしてようなんて考えは無いんだろうか?

 総いえばマクランさんも同じようなところがあるな。中々後輩に仕事を託そうなんて考えは無いんだよねぇ。一応、後を継ぐ人選はしてあるんだけどなぁ……。


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