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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-144 これで友好国が出来た


 フイフイ砲の試射を準備段階からじっくりと眺めて、熱心にメモを取っている。グラムさんの副官は武芸だけで副官になったわけでは無いようだな。

 レバー操作で頭ほどもある石が3つとも350ユーデ程飛んだのを見てエクドラル王国からやって来た連中が驚いていた。


「凄い仕掛けだ。あの石を積んだ籠が要ということなのだろう。よくもそんな工夫が出来たものだ」

「フイフイ砲は丸太の組み合わせで作ってありますから、接合部分が分かるように、接合する部分に文字を入れておきます。副官殿のメモにも同じ文字を記載しておけば組み立ても容易でしょう」


「助かる。王都の城壁にも設置したいところだな」

「攻城櫓を潰すには都合が良いですよ。俺達もフイフイ砲で全て潰しましたから」

「だろうな……。マーベル国を潰そうという連中も、少しは考えるに違いない。我等にこれを提供するということは、すでにこれを越える兵器があるということだな?」


 苦笑いを浮かべながら、俺に小さな声で問いかけてきた。

 まだまだ表に出したくは無いから、俺も苦笑いで応じておく。


「まあ、それも良かろう。どんな者にも上があるということだな。ワシは、これを越える代物など想像すらできないが、500ユーデは石を飛ばせるということであろう。だが、そのような代物を軍が上手く使えるとも思えん。防衛というよりも攻撃に使うということなのだろうが……、やはり我等には使えんか」


 兵器は持っていれば良いというものではない。それをどのように運用するかが問題なのだ。長射程の兵器であればなおさらだ。フイフイ砲なら攻城櫓や整列している兵士を攻撃するのは容易だが、それは距離と方向をその場で修正できるからに他ならない。

 石火矢の散布界はかなり広いから、狙って当てようなんてことは出来ないだろう。

 数発を同時に放って、敵を面で制圧するのが目的だからね。そんな運用を思いつかなければ無用の長物でしかないだろう。


「新たな戦術を考えれば、それにあった兵器は試行錯誤で作れます。兵器が先となるような戦術では、少しお粗末と思いますが」

「確かに……。やはりエクドラルに欲しい人物ではある。我等に敵対する存在であるなら、ワシの命と引き換えにレオン殿を斬るつもりだったが……、それを考えると、なぜか背中と尻尾の毛が逆立つ始末だ。長剣の腕が無いと卑下しているが、分に合わぬ謙遜は礼を失するぞ。とはいえ、長剣を背負ったレオン殿よりもワシが長剣を抜く方が早いと思うのだが……」


「たぶん、これのせいでしょう」


 グラムさんに体を向けながら、右手の籠手を見せた。


「単なる、革の籠手と思うが……」

「ここに、太い釘を3本差してあります。20ユーデなら狙いを外すことはありません」

 

 籠手から釘を引き抜いてグラムさんに見せた。

 受け取った釘を調べているけど、大工道具の釘の頭を潰したものだから、どこにでもある代物だと思うんだけどねぇ。


「20ユーデが必殺圏になるのか。道理でワシの背中がうずくわけだな」

「武人に対して、このような代物でしか相手に出来ないことを恥じ入るばかりです」

「恥じることは無い。立派な武器だ。だが、それでは4人を相手に出来ぬのではないか?」


 釘を投げる物だと思っているようだ。

 まあ、別に教える必要も無いだろうから、苦笑いを浮かべるだけにした。

 向こうで勝手に解釈してくれるだろう。

 釘を受け取って、再び籠手に差し込んでおく。


 指揮所に戻ると、エクドラル王国とマーベル共和国との友情条約の内容を再確認する。

 面倒でもあるが、条約を破るようなことがあるなら、それは後々に問題になるだろう。俺達は約束を破ることは無い。だが、エクドラル王国はどうかな?

 

「これで南は少し安心できそうですね」

「マクランさんが喜びますよ。さすがに村を作ることは出来ないでしょうが、牧草や畑を広げられそうです」

 

 もっとも、しばらくは牧草地として使うことになりそうだ。

 城壁で囲った内側は、今までに開拓した土地の数倍もの土地が手付かずに残っているのだから。


「ところで、ナナちゃんがどこに行ったのか知りませんか?」

「ナナちゃんなら、ティーナさんが呼んでいたので付いていったようです。何でもボニールを数頭連れて来たらしいですから、ナナちゃんに見せてあげたかったのかもしれませんね」


 例の小さい馬だな。数頭ならば伝令の少年達に乗って貰おう。

 2頭も待機させれば十分だから、残りは農耕馬として使えるか試してみるのも良さそうだ。


「忘れて無かったんですね。ありがたく受け取りましょう」

「その他に、ワインが5樽と干し肉が5樽。火薬が2袋に肥料が20袋です。エディンさんに頼んだ品はそのままですから、ありがたい贈りものです」


 鉄や銅のインゴットは無かったということか……。エクドラル王国としてもそれらは品薄ということになるのだろう。

 前回の戦で手に入れた武器や鎧で鉄に不足は無いし、エディンさん達がガラハウさん達の工房に必要な品は運んでくれるから別に問題は無い。

 だが贈り物だけを見ても、エクドラル王国の状況がある程度分かるというのも面白い。


「それにしても、砂鉄で作った長剣にあのような評価をするとは驚きました。砂金の採取量が減っていますが、それを補うことも出来そうですね」

「さすがはガラハウさんですね。俺の拙い説明で、よくも形にしてくれたと感心してしまいます。たぶん、毎年1振りぐらいは注文が来るかもしれませんが、王子殿下には別途贈り物として渡すべきかと考えます」


 王子が帯剣するとなれば、ガラハウさんも頑張りがいがあるんじゃないかな? 少しは美意識を持つかもしれない。何といってもガラハウさんの銘が刻まれるんだからね。


「そうなると、ドワーフ族が、この地にやってきそうですよ?」

「案外来ないかもしれません。『奴に出来る者がなぜ俺に出来ん!』なんて言い出すんじゃないですか? ドワーフ族の負けず嫌いは有名ですからね」


 鉄鉱石よりも砂鉄の方が不純物は少ないらしい。少しは出るけど、爆弾に混ぜて利用できるから捨てるところが無いと言っていた。もっとも鉄を作るたびに炉を解体するのは面倒らしいけど、鋼が出来るということで十分にお釣りがくると言っていた。


「戦で手に入れた武具が、倉庫に入りきらず洞窟の中に山積みされているようですから、しばらくは鉄を買わずに済みそうです。もっとも真鍮や青銅の材料は相変わらずですけどね」

「最初は木製の皿やカップでしたが、この頃は真鍮の食器になりました。でも、木製の食器もそれなりに需要があるようです。エディンさんが笑みを浮かべて引き取ってくれますから」


 今飲んでいるカップは真鍮製だけど、雑貨屋で買えば8ドラムほどの値が付くそうだ。木製のカップは1個3ドラムということだから、貧しい家庭ではやはり木製品ということになるのだろう。

 それだけ俺達が豊かになったのかもしれないな。砂金や銅鉱山が見つからなかったときは、今でも木製品を愛用していたに違いない。


「とはいえ、しょせんは小遣い稼ぎ程度です。やはり産業となるものを考えないといけませんね」

「養魚に炭焼、鉱山や砂鉄と砂金の採取。それに開拓によってかなりの畑も出来ましたし、ヤギの飼育も順調ですよ。美味しいチーズが作られています」


 やはり農畜産業がマーベル共和国の主力産業ということになるのだろう。製造業はガラハウさん達の工房以外は内職の域を出ないからなぁ……。

 石炭が手に入ったから、窯業に挑戦してみるか。もう1人の記憶の中である程度の知識は持っている。だけどかなり概要的なもので、詳細ではないのが残念なところだ。分からないところは試行錯誤ということになるんだろうけどね。


「1つ新たな産業に挑戦してみましょう。エクドラル王国との友好条約で広く商いが出来ると思います。最初は富裕層に売ることになるでしょうが、量産が出来れば広く民衆に広まるのではないかと……」

「何を作るのですか?」

「食器ですよ。現在の食器の材料は鉱物や木材、それにガラスです。俺が作ろうとする食器の原料は土になります。土を食器にするためにはかなりの高温が作れないといけないんですが、石炭がありますから何とかなるんじゃないかと思ってます」


 レイニーさんが俺の話を聞いて首を傾げるぐらいだから、そんなことが出来るとは思ってもいないのだろう。

 だけど……、美味く作れたなら銀の食器を上回る値段が付くと思うんだけどなあ。


「やはり国を運営するための資金が足りないと?」

「マクランさん達が頑張ってくれてますから、将来は立派な農業国に慣れると思いますよ。それまで何とか食つなぐためにも、いろいろと試してみようと思っています。それに、農業が性に合わないという人も出てくるでしょうからね」


 生産業に製造業その2つを多様化していけたら良いんだけどね。

 獣人族の移住者はまだまだ増え続けるだろう。そのためにも仕事を沢山作っておくべきだろう。


 3日目の朝。グラムさん達はエディンさん達と一緒にこの国を後にした。

 ティーナさん達が残ったのは、大使という役目があるからだろう。

 フイフイ砲を解体した台座に、四角い枠が並んだものが設置されたのを見て、首を傾げていたけれど、さすがにそれがフイフイ砲を越える兵器だとは分からないようだ。

 案外、クロスボウを設置するための構造物ぐらいに考えているのかもしれないな。

 いくら何でも石火矢という概念を持つ者は、マーベル共和国以外にいるとも思えないしね。


「ボニールがあんなに役立つとは思いませんでしたね。伝令用に2頭は確保してますけど、残った3頭は小型の鋤を曳いていますよ。ロバよりも言うことを聞くとマクランさんが話してくれました」

「マクランさんに、ロバとボニールの役割分担を考えて貰いましょう。それによって将来の頭数を考えれば良いと思います。やはり全てをボニールにするのは問題が出て来そうです」


 荷車は2周りほど小さくなってしまいそうだ。やはりある程度のロバの確保は必要だろう。

 さすがに馬は俺達には無用に思えてしまう。

 騎馬隊を作ろうなんて考えは全くないからね。

 マーベル共和国の馬は、ティーナさん達が乗る2頭だけの状態が続くんじゃないかな。


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