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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-142 ティーナさんの父上


 春分を5日過ぎた頃。エディンさん達がやってきた。

 伝令が大勢やってきたと知らせてくれたので、東の楼門に上って眺めてみる。

 どうやら、ティーナさん達も同行してきたらしい。それに新な住民も一緒のようだから、荷馬車を含めて馬車が20台以上も連なっていた。

 指揮所に戻ってレイニーさんに状況を伝える。ナナちゃんはお茶の準備を始めたようだ。


「いつもの事ですが、雪解けがエディンさん達の来訪を教えてくれるように思えますね」

「今年は、雪がそれほどではありませんでしたからね。車輪の下にソリを付けてやってきたときもありましたよ」


 マクランさんも春撒きの種を仕入れることが出来るだろう。必要な種は残しているようだけど、同じ場所で同じ種を使い続けるのは良くないらしい。


「それでティーナさんには、予定通りフイフイ砲の技術を提供することで良いですね?」「石火矢があれほど強力なら、フイフイ砲は魔族相手に有効でしょう。ですが、爆弾の供与は20個までにしてください」

「小さい奴を20個ですね。了解です。もっとも、向こうから言い出さなければ提供はしませんよ」


 エクドラル王国は、フイフイ砲を使って周辺王国の切り取りを始めるだろうか?

 だけど征服した後の治政が難しいことを、サドリナス領内で理解してるんじゃないかな。

 領土拡大に反対する人物が出て来れば良いんだけどね。とはいえ王政だからなぁ。耳痛い言葉をどれだけ聞くことが出来るかで、国王の器量を問われかねないと思うのは俺だけなんだろうか。


 やがて指揮所の前を馬車が通り抜ける音がしてきた。

 扉が叩かれ、一呼吸置いて扉が開かれる。

 入ってきたのは、エディンさんとオビールさんの2人だ。

 銀貨の袋を置いて、早々に立ち去ったけど何かあるんだろうか?

 入れ替わりに入ってきたのは、ティーナさんにユリアンさん。それに初老のトラ族の騎士とその副官の4人だ。

 俺とレイニーさんが腰を上げると、ティーナさんが2人を紹介してくれたんだが……。


「オルバス卿といえば、王子殿下が後見人と言っておられたお方でしょうか?」

「王都にいるより面白かろうという国王陛下のご配慮であって、後見人というのはどうかと思うが……。そうか殿下がそう言ってくれたのか。娘よりレオン殿はブリガンディの貴族と聞いている。同じ貴族同士、卿はいらぬよ。ワシの名はグランザムというのだが……、グラムで構わんぞ」


 とりあえず座って貰うと、ナナちゃんがお茶のカップを配ってくれた。

 俺の隣にチョコンと座ったのを見て、面白そうにナナちゃんをグラムさんが見てるんだよなあ。


「娘より話を聞いて是非とも会ってみたかった。サドリナス領に入って1年を過ぎたが、その間に2度も魔族の襲撃に逢っている。3個小隊以上の死傷者を出してしまった。

 だが、レオン殿達は魔族2個大隊を越える軍勢を撃退したどころか、死者を出していないと聞いてな……。驚くと同時に、その運用を教えて貰おうとやってきた。

 護衛はワシの身辺警護の1個分隊だけ、2日ほど滞在させて頂きたいのだが……」


「人間族で無いなら歓迎いたします。とは言っても、1度は鉾を交えた同志ですから、町中を不用意に動ぬようにお願いいたします」

「それぐらい容易いこと。宿泊は宿があると聞いたのだが?」

「宿と言わずに、宿泊場所にご案内いたします」


 トラ族だけあって礼儀正しい御仁だ。引退しているとも思えないから、案外サドリナス領に派遣された部隊の総指揮官辺りかもしれないな。


「済みません。初冬の魔族との一戦の話を聞かせたら、是非とも同行すると言い出して……」


 ティーナさんがペコペコと頭を下げている。

 来てしまったものは仕方がないから、俺達の様子をよく見て帰って貰おう。


 お茶を飲み終えたところでワインが配られる。

 グラスではなく、銅のカップであることを恥じ入るばかりだが、ここは辺境も良いところだからなあ。

 王都の貴族のようなもてなしが出来ないことは、向こうも心得ているに違いない。


「殿下がたいそう熱心に娘の話を聞いておられた。我等重臣も耳を傾けはしたものの、半数は本当の事とは思えなかっただろう。話が一段落したとみるや、娘を叱責する声が上がったほどだ。だが、殿下はそんな輩を直ぐに下げさせた。恥じ入って非礼を詫びていたが、相変わらず殿下は容赦がないな……」


「分別の分かるお人柄だという印象を受けました。とはいえ、やはり笑って注意するぐらいが王族としての器量ではないかと……」

「ハハハ……、殿下が欲しがるわけだな。改めて殿下の親書を持参した次第。中を確認して返事をいただきたいのだが」


 ティーナさんが父上殿から親書を受け取り、レイニーさんに手渡している。

 一読して少し意外な表情をしているな。

 もう一度読み返しているところを見ると、かなり困った内容なのだろうか?

 書状を丁寧に折りたたむと、俺の前に親書を置いてくれた。

 読ませて貰うか……。

 親書を取り上げて、軽く一礼をして中身を読む。

 なるほど、これは少し驚くな……。


「どうだろう? 我等が提案ではあるのだが……」

「どう返事してよいやら少し戸惑います。現状通りの国交については問題はありませんが、魔族相手の共闘及び技術協力については即答しかねます。これについては今後の調整をお考えなのでしょうか?」


 グラムさんがティーナさんに顔を向けて笑みを浮かべている。

 俺の返答は予想通りということになるのかな?


「将来的には、同じ戦場で魔族を相手にしたいと考えておるが、さすがに国力に差がある。親書の文面は殿下の思惑であり、その方向に沿って現状を前に進ませたいと考えておられるようだ」

「それなら、原則として了解するとお答えください。共闘と協力についてはその内容について協議した結果とするなら問題はありません」


「なるほど……。文官の舌をもってしてもレオン殿の敵ではないようだ。ワシはそれで十分に思える。その協議をしたいと思うが、明日で構わぬか?」

「俺としても、そのような考えを携えてくることは予想出来ていましたから、落としどころについてはある程度決めております。それほど時間は掛からぬでしょう。明日の朝食後にこの場でということで」

「了解した。さて話はこれまでだが、席に着いてからというもの背中が逆立ってしょうがない。武器を構えた人物はどこにもおらんのだが、レオン殿は何か含むことがおありか?」


 さすがは武人だけのことはある。長らく戦場で培った勘が、危険を察知しているのだろう。


「レイニーさんはマーベル共和国の国家元首です。万が一に備えた俺の技がすでにこの部屋で使われているとお考え下さい。もっとも防衛目的ですから、攻撃されない限り行使することはありません。オリガン家の名を持つ身にとって、はなはだお恥ずかしい限りですが長剣2級の腕に免じてお許し願います」


「そういうことであったか。それなら合点もいく。王宮内なら近衛兵を立ち並ばせる身ということか。レオン殿も恥じることはない。国を統括する者の護衛として武器を恥じることはない」

「父上、どういうことです?」


「分からんか……。暗器を用いるとレオン殿はぼかして言っておる。ワシが長剣を抜けばすぐさまそれがワシの目を射抜くのだろうな……。ハハハハ」


 なんとも豪快な人だな。

 暗器を恥じる武器ではないと言ってるけど、やはり相手の隙を突くような使い方なんだから俺としては恥じるばかりなんだが……。


「ならば合点もいく。その延長にイエティの目を射抜く弓の腕があるわけだ。武人は長剣という輩も多いが、要は結果だ。結果を残す者が立派な武人であるとワシは思うぞ。

 ワシをエクドラル王国の剣と評する者も多いが、ワシにはイエティを倒すことなどできんからな」

「それでは明日の朝食後に……」


 最後にそう言い残して、ティーナさん達は指揮所を出て行った。

 慌ててナナちゃんに後を追い掛けて貰ってグラムさん達を迎賓館に案内させた。あのままだと宿屋に向かいそうだからなあ。


「凄い威圧感でしたね。レオンがいてくれて助かりました」

「ティーナさんの父上だけのことはありますね。確かにエクドラル王国の武の要的な存在であることは間違いなさそうです」


 そんな人物が、なぜやって来たかだな。

 やはり俺達の存在が、エクドラル王国の脅威となるかを確認しに来たのが本音だろう。

 ティーナさんの報告が本当かどうかを確かめたいとなれば、やはり例の2つが落としどころになりそうだ。

 石火矢が完成して良かった。あれを持っているかどうかで、技術供与後のエクドラル王国の脅威度が大きく変化するからね。


「技術供与はそれで良いとして、共闘の方が問題かもしれません。まさか直ぐに轡を並べてというわけにもいかないでしょうが、友好国から同盟国に関係が深まればそうなる可能性も出てきます」

「直ぐにと言うことではないんですね? そうなると落としどころは情報提供ということぐらいなってしまいますよ」


 情報提供だって、立派な共闘だと思うんだけどなぁ。

 レイニーさんは、それより少し進ませた関係を結びたいのかな?


「魔族の終結状況を知らせてあげるぐらいで、当初は十分だと思いますよ。西の尾根の南に作る砦は、魔族の襲撃をもろに受けかねません。事前に知らせるなら近くの砦からの増援や救援も可能に思えます」

尾根の南の見張り台から狼煙を上げるということですか! そうですね。先ずはその辺りを落としどころとしたいですね」


 とは言うものの、相手がどこまで要求してくるかが問題だ。

 王子の後見人ということは、エクドラル王国内で重要な地位であることは確かだろう。

 武技を誇るだけの人物とも思えない。

 明日は、どんな協議になるのか……、だんだんと不安になってくる。


 翌朝。朝食を少し早めに取ったところで、指揮所でレイニーさんと地図を眺めながら、現状の部隊配置に問題が無いことを確認していると、トントンと扉が叩かれた。

 ナナちゃんが扉を開けると、ティーナさんとグラムさん、それにグラムさんの副官の3人が部屋に入ってくる。

 先ずは座って貰い、ナナちゃんにお茶を頼む。


「宿の地峡を感謝する。中々良い食事だったぞ」

「恐縮です。至らぬところは辺境の山暮らしということで納得して頂ければ幸いです」


 とりあえずは、当たり障りのない話からはいる感じだな。

 最初から高圧的でないのが不気味に思えるほどだ。年の功というわけでもないのだろうが、この種の人間は腹の内を中々見せないんだよね。

 俺達の暮らしの様子を一通り話終えたところで、こっちから本題に入ることにした。


「ところで技術供与の方ですが、俺達の投石がそちらの投石の倍以上も飛んだことは、ここを攻めた士官より聞いているはずです。クロスボウを大型化したバリスタをエクドラル王国は使うつもりであったようですが、あまり使わずに破壊されたと報告がなされたと思っているのですが……」


 俺の言葉に、笑みを浮かべていたグラムさんの表情が変わった。鋭い視線はまるで俺を射るようだ。

 突然部屋の温度が下がったかのような錯覚を覚える。

 ちらりとレイニーさんに顔を向けると、不安そうな表情を俺に向けていた。


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