表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
142/384

E-141 石火矢は弓を使わない


 石火矢という言葉とロケットという言葉が交錯するんだが、多分同じ意味なんだろう。

 使うのはヴァイスさん達弓兵ということになったようだから、石火矢ということにしておけば良さそうだ。

 弓で射る訳ではないんだが、矢の一種ということならヴァイスさん達弓兵以外の連中にも納得してもらえるんじゃないかな。

 そんな石火矢なんだが、開発は試行錯誤の連続だった。

 新たな取り組みというのは、ドワーフ族の気に入るところらしく、ガラハウさん達ドワーフ族の連中が他の仕事を放り投げるようにして石火矢の開発に取り組んでいる。


「とりあえず、燃焼薬という火薬の目途は立ったぞ。次は噴射口じゃが、銅ではダメじゃった。噴射炎の熱で溶けてしまう」

「やはり鉄ですか?」

「そうなるのう……。重くなるのは仕方が無いが、噴出口の大きさが変わってしまっては飛距離がばらつくじゃろう」


 噴出口の形状や口径、さらには燃焼薬をどのように搭載するか……。

 中々課題が多いようだが2か月も過ぎると、最初の試作品が出来上がったんだからドワーフ族の技術力は凄いとしか思いようがないな。


「これが石火矢なのかにゃ? 矢には見えないにゃ」


 それがヴァイスさんの正直な感想だった。

 直径2イルム(5cm)、長さは半ユーデほどの筒だからなぁ。重さは1グル半(2.2kg)ということだから、手に持つとけっこう存在感がある。

 俺から石火矢を受け取ったヴァイスさんが、転がしたり手に持って重さを計ったりしていたけど、最後に俺に返してくれたのは興味が薄れたってことかな?


「これを矢で射るわけでもないし、手に持って投げるわけでもないんだ。これ自体が自分で飛んで行って爆発する」

「試してみれば良いにゃ。それでどんな代物か分かるにゃ」


 そんなわけで、さっそく試射してみることになった。

 東の楼門の南に広がる雪原に簡単な三脚を立てると、石火矢を投槍より少し細めの棒を結び付ける。

 角度はおよそ45度で最大飛距離を試す。どんな風に飛んでいくかわからないので、方角は西南西に向けることにした。


「これで準備完了かにゃ? なんか簡単そうに見えるにゃ」

「簡単なんですよ。何度か試射を繰り返して、発射角度と飛距離の関係を調べないといけないんですけどね」


「ヴァイス、撃ってみるか? この松明で、石火矢の後ろに出ている導火線に火を点ければ発射するぞ!」

「大きな音がするんじゃないのかにゃ? 爆弾の爆発音を聞くと、尻尾が逆立つにゃ」

「だいじょうぶじゃ。どちらかと言えば気が抜ける音じゃな」


 ガラハウさんの言葉に首を傾げながらも、松明を受け取って恐る恐る石火矢にヴァイスさんが近づいて行った。

 仲間の弓兵達が、ヴァイスさんが石火矢に近づくと、それに合わせたように後ろに下がっていくんだよなぁ。

 やはり大きな音がすると思っているに違いない。

 エルドさんやレイニーさんは楼門の上から見物しているようだ。

 よく見ると、城壁にもたくさんの人が見える。

 かなり寒いんだけど、物好きな連中が多いことも獣人族の特徴なんだろう。


 1ユーデほどに近づいたバイスさんが腰が引けた格好で松明を石火矢に近付ける。

 導火線に火が点いた途端に急いで後ずさりを始めたから、危機管理能力は十分だな。


 誰も言葉を発しない。

 ジッと、石火矢を眺めている……。

 次の瞬間。シュッ! と鋭い音とオレンジ色の噴煙を上げたかと思うと、大空に向かって石火矢が飛んで行った。

 白い航跡を残して西南西に飛んで行った石火矢が、地上に落下していく。

 大きく炸裂して雪を周囲に散らした後に、ドォーン! という炸裂音が聞こえてきた。

 だいぶ音が届くのが遅かったな……。それだけ飛んだということになるのだろう。


「ほれ! 直ぐに距離を測らんか。……どうじゃ? あれが石火矢じゃ。もう少し改良すべき点はあるが、まあまあ完成したと言えるじゃろう」

「凄いにゃ! フイフイ砲の3倍以上飛んで行ったにゃ。あれを尾根から撃ったら斜面を下りてくる前に敵を攻撃できるにゃ」


 どうやら理解してくれたようだ。

 だけど、1発ではあまり役立たないだろう。狙いを正確に付けられないからなぁ。

 一度に大量の石火矢を射ることで、面で制圧することになるはずだ。

 弓での長距離射撃となる矢の雨と同じような使い方になるだろうから、ヴァイスさん達に任せるのが一番だろう。


 着弾点までの距離と方位を確認したところで、さらに3発ほどを放ったところで試射を終える。

 4発とも1コルムを超えているのだが、着弾距離が100ユーデほどばらついている。着弾点も、発射方向と角度が同じであってもかなり広い範囲に落ちているようだ。

 ガラハウさんがもう少し改良してみようと言っていたけど、俺には十分に思える。

 改良するなら……ということで、石火矢の形状の変更と、発射装置を作ってもらうことにした。


「やはり棒に付けただけでは安定しないようです。石火矢の後方に矢のような跳ねを着ければ飛行時の安定が得られるでしょうし、全体を軽くできそうです。それに、着弾点が広がるのは攻撃にも利点があります。ヴァイスさん達が1個小隊で同時に矢を放つようなものですよ。ですから1発ずつ撃つのではなく同時に数発、できれば10発を放って広範囲に敵を殲滅する兵器にします」


「なるほどのう……。狙っても当たらんなら、同時にたくさん撃てば良いということか。最初の1発で隠れれば被害は少ないじゃろうが、多数の石火矢が同時に着弾したなら隠れることなぞできんな。じゃが……」

「分かってます。魔族相手に限定します。ですが、敵が爆弾やフイフイ砲を俺達に使うようなことがあれば、躊躇することなく石火矢を使って仲間を守ります!」


 俺の言葉に笑みを浮かべて肩をポンと叩いてくれたけど、ドワーフ族の連中は力加減を気にしないからなぁ。

 思わず顔をしかめるほどの痛さだった。苦笑いを返しながら、試射場所を後にする。


 距離計が出来たのは、年が明けてからだった。

 底辺が2ユーデほどの直角三角形の形をしている。

 大きいし、銅板で縁取りされた板で作られているから重さもかなりある。

 石火矢よりも、観測装置の方が重いのは考えてしまうな。


「この直角に取りつけられた板の、照門と照星を合わせるんですね?」

「そうじゃ。それで、こっちの板の照門と照星を同じ目標に合わせると……。この板の針が距離の目盛りを示してくれる」


 三角測量? そんな単語が脳裏に浮かぶ。

 直角三角形の底辺の長さが分かれば、直角ではないもう1つの辺と底辺が作る角度で直角部分の距離が分かるということだが、俺には理解できないな。

 だが、おおよその距離はこれで知ることが出来るようだ。

 半コラムほどの距離ならかなり正確らしいけど1コラムほどの距離ではやはり誤差が大きくなるらしい。

 だが、目測よりはマシに思える。少なくとも攻撃距離を知ることが出来るんだからね。

 

「城壁の楼門なら、この底辺を長くすることで、もっと正確になるはずじゃ。3ユーデほどにして試してみるかのう」


 さらに重くなるってことかな? そうなると固定式になってしまうだろうな。

 移動するとなれば、やはりこれが精一杯ということに違いない。


 最終的な石火矢が完成したのは、春分の20日ほど前の事だった。

 発射装置は指2本分ほどの幅で直角に折り曲げた3ユーデほどの鉄の板を石火矢に付けた前後の翼の長さに合わせて四角い枠状に作ったものだ。鉄の筒でも良かったと思うんだが、どうやら重量削減の涙ぐましい努力の結果らしい。


「この枠に石火矢を入れれば、調度前後の羽で上手く収まるじゃろう。石火矢を入れたところで、この固定板を下ろして導火線を固定板の溝から外に出す。これで準備は完了じゃ」


 仰角を調整するハンドルの上に簡単な距離計が付いている。重りをワイヤーで釣ってあるだけだが、裏板に300から1500ユーデまでの距離が目盛られている。左右には30度程回転できるらしいな。


「だいぶ頑丈な発射装置になりましたね」

「固定式じゃからのう。簡単な方法ならば、これが使える」


水路に使ったような板の溝だ。上蓋が無いから雨樋にも見える。支え得る物が何も無いんだけど……。

 ガラハウさんが俺の戸惑う姿を見て笑みを浮かべながら、三角柱の枠だけに見える移動式柵に先ほどの雨樋を乗せた。 


「これで発射する。板の横に距離計が付いておるから、おおよその射程は分かるじゃろう。方向は雨樋の方向を合わせれば良い」

「数本同時に放てそうですね。これはこれで使えると思いますよ」


 こっちの方が現場向きじゃないかな?

 だけど、せっかく発射装置を作ってくれたんだから、中央楼門と、尾根の指揮所の屋根には発射装置を乗せたいところだ。


「さて、試してみるか……。ヴァイス! こっちじゃ!!」


 またしてもヴァイスさんの出番になったようだ。

 一緒にエルドさんもやってきたから、雨樋発射装置の方で試して貰おう。


 ヴァイスさんが松明で導火線に火を点けると、5本の石火矢がシュンシュン……と次々に発射装置から飛び立っていく。

 やがて前方にいくつもの炸裂炎が広がり、ドドドォォーン!!という地鳴りを伴った轟音が聞こえてくる。


「使えるにゃ! ……これは良い物にゃ!!」


 そんなに嬉しいのかな? 一緒に見ていた仲間の弓兵と共に、ヴァイスさん達が手を上げて踊り出す始末だ。踊るのは構わないけどやたらと松明を振り回さないでほしいな。俺にまで火の粉が飛んでくるんだよね。


「これなら、尾根の向こうに並んだ魔族軍を一網打尽に出来そうですね」

「使う際には、さらに、あれを並べるつもりです。一度に20本近くの石火矢を放って俺達に有利に戦を進めないといけませんからね。次はエルドさんやってください」


 エルドさんも、恐る恐る火を点けてるんだよなぁ。

 火薬は爆発するとばかり思っているんだろうけど、解放された部分があれば、その方向に圧力が逃げ出すからね。爆発には至らないと説明したんだけど、あまり信用していないようだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >「やはり鉄ですか?」 >重くなるのは仕方が無いが 鉄より銅の方が重いですよ。 一般的な鉄の比重が7.85に対して銅が8.96で1.1倍重いです。 また鉄の方が銅より強度があるため薄く作れ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ