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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-129 魔族だけが脅威とは限らない


 翌日、王子達を連れて町を案内する。

 それほど変わった場所は無いのだが、ブリガンディと一か所だけ陸続きになる東の門の楼門に上がり景色を楽しんでくれたようだ。

 さすがに門の内側を見せるわけにはいかなかったが、門に3つも扉があるから門の内側に備えた大砲を見られずに済んだ。

 その帰りに、養魚場を見せたら全員が驚いていた。

 餌を投げると、渦を巻くようにして魚が集まってくるからなぁ。

 北の射撃場では、民兵達がクロスボウの訓練をしていたが、投石具の訓練は見合わせたらしい。

 簡単な道具で飛距離が倍以上になるんだからなぁ。それも教えないで置こう。

 銃兵はいたけれど、すでに数発を撃ち終えたようで、傍にある小屋でバレル内の掃除をしていた。


 簡単な昼食を頂いたところで、食後のお茶を飲みながら雑談を楽しむ。

 案外雑談の中から、俺達の情報を探ろうとしているのかもしれないけどね。


「それにしても銃兵だけで1個小隊を作っているのには驚きました。発射するには結構面倒だと聞いていますし、連続的に撃てないということで私達の中では、弓兵の一部に銃を持たせているぐらいですから」

「たとえ数発が打てるだけだとしても、魔族のオーガには有効です。オーガ相手では重装歩兵でも荷が重いですよ」


「我等は1班でオーガ1体を相手にしている。銃で弱らせて、ということなのか?」

「そんな感じですね。槍でも良いんですが、深く突き刺さねば槍兵が棍棒で弾かれてしまいます。俺達が大型クロスボウを作ったのは、投槍をオーガに撃ち込もうとしたからです。魔族にどんな種族がいるのかは定かではありませんが、ゴブリン、ホブゴブリン、コボルトそれにオーガと戦っています。面倒なのは、ホブゴブリンにオーガですかね」

「知恵を持つホブゴブリンは魔法も使えるし、オーガは3ユーデを越える巨人だからなぁ……」


 バクレムさんが頷きながら呟いている。

 俺に言葉に納得しているバクレムさんを見て、アドリナス王子が面白そうに顔を向けた。


「それほどの魔族なのかい?」

「まだ私は相手をしておりませんが、父上からホブとオーガについては仕官学校時代に何度も聞かされました。『姿を見たなら、先ずは隠れろ!』と言われましたよ。『隠れてからどうやって倒すか、それとも退けるかを考えろ』と、その後に付け加えたのですが、いつも真剣な表情で俺に注意してくれました」


「グラハンド殿が、そこまで言われるのか……。レオン殿は魔族相手に何度も戦をしているようだ。やはりレオン殿の忠告は真摯に受け取るべきだろうね」

「ここより南西の砦については、戻りましたら至急検討したいと思います」


「男性達はしょうがないですねぇ。そんなところばかり見てきたのですか? 私は、この国の産業に興味が湧きました。養魚場であれほどの魚を育てておられるとは……。先ほど頂きましたが、海の魚とは少し異なりますね。でも、美味しい魚であることは確かです」


 イザベルさんの言葉に応じも頷いている。焼き魚にして昼食時に提供したんだけど、結構満足してくれたみたいだな。


「それです! 川や池の魚と違って泥臭いこともありませんし、大きさが一様であることにも驚きました。さすがに武器の提供をお願いすることは無理でしょうが、魚を育てる技術であるなら教えて頂くわけにはいきませんか?」

「良いところに気が付きましたね。あの魚たちの大きさが揃っている理由が推測できましたか?」


「たぶん稚魚を手に入れて育てたのだろうと考えました。ですがどのようにしてあの数の稚魚を手に入れることが出来るのかは想像すらできません」

「似たことはエクドラル王国でもしていると思いますよ。良い例が鶏です。卵を得るにしても肉を得るにしても、それほど大きさに違いは出ていないはずです」

「その話は、少年時代に母上に聞いたことがあるな。テーブルに乗った鶏肉の大きさが同じなのは何故なんだろうとね。その時の母上の答えは、『卵から孵った時期が同じだから……』ということだった」


 アドリナス王子がイザベルさんに顔を向けて話をしている。

 感心して聞いているのは、少年時代にそんな考えを持ったということなんだろうな。結構探求心が深いのかもしれない。


「まさか! 魚を卵から孵化させたと!!」


どうやら気付いたみたいだな。驚いたイザベルさんが俺に顔を向けた。


「そのまさかです。最初は試行錯誤でしたが、どうにか技術を確立するまでに至りました。今では隣のナナちゃんが養魚場の責任者です」


「だが、魚の卵は砂利の中に産み付けられると聞いたことがある。それを集めるのは子供達にはかなりの重労働に思えるのだが」

「魚から直接卵を取り出します。俺達の手で受精させることで孵化させることが出来るんですよ。とはいえ、これを教えても現在のエクドラル王国で育てることは出来ないと思っています。それは先ほど食べた魚の生育条件が少し変わっていることに起因するんです……」


 低水温を好み、濁った水を嫌うこと。肉食であることを簡単に説明する。

 おかげで餌作りが大変だし、専用の水路まで作っているぐらいだからなぁ。


「夏でも水温が上がらないように、坑道から湧き出る水を引き込んでいるぐらいです」

「美味しい魚ですが、そうなると確かに難しそうですね」

「でも、似たようなことは出来ると思いますよ。日照り対策にいくつか池が作られているはずです。そこに小魚を放せば何もせずに大きく育てられると思いますが」


「日照りですって! サドリナス領は日照りの被害があるのですか?」

「俺が育ったのは、ブリガンディ王国の南岸でしたから、記憶には無いんですが……。開拓民を率いてこの国で開拓を指揮している者が言うことでは、過去に大きな干ばつが何度かあったということでした。それに備えて、俺達は開拓地に灌漑用の水路を作っているぐらいです」


「戻ったら、王宮の書庫を調べた方が良いだろうね。小さな池ならすぐに干上がってしまうだろうから、場合によっては私達で作ることも考えないといけないだろう」

「山が近いですから、日照りの時でもそれなりの水量があるのではないかと考えておりました。申し訳ありません」

「先に気付いたんだから謝る必要はないよ。でも、ある程度は備える必要もあるかもしれないね」


 治世の失敗には直ぐに繋がらないだろうが、食糧難で民衆が暴徒化してからでは手の施しようがない。

 それを未然に防ぐのが優れた統治者、ということになるのだろう。


「サドリナス王国の貴族達との話し合いの場では、このような話題が全くありませんでした。命を取らぬということを知ってからは、自分達の売り込みばかリでしたからね。

 有能であることを具体例で示さぬようでは、自分がいかに無能であるかを教えてくれているようにも思えます。それに、それほど有能であったならエクドラル王国に領土を明け渡すことも無かったはずです」


「やはり、アドリナス殿下の右腕になって頂くわけにはいきませんか? 待遇は、最高のものを御約束します……」


 アドリナス王子の話に、イザベルさんが言葉を繋げる。

 ちょっと心配そうな目でレイニーさんが俺を見ているけど、俺にそんな役が出来るとも思えないし、兄上から聞く王宮の暮らしは折れには窮屈に思えてならない。


「俺を高く評価して頂けるのはありがたい話ですけど、女神との約束もあればこのままここで暮らすのが一番に思えます」

「神の啓示を受けたのであるなら致し方ありませんね。できればエクドラル王国と大使の交換をしたいと思いますが……」


「ご案内した通り、共和国に住んでいるのは獣人族ばかりです。例外が1つあるのですが、エクドラル王国には関わらぬ事であれば、教えなくとも問題はないと思います。

 それに、我等共和国に大使となれる人物もおりません。教育が進めばそれなりの人材を出すことも可能でしょうが、現在は元兵士と開拓民の集まりに過ぎませんからね」

「なら獣人族の貴族であるなら、マーベル共和国に大使として派遣することに、問題はありませんね?」


 ブリガンディや旧サドリナスでは獣人族の貴族はいなかったが、エクドラル王国にはいるということなのだろうか?

 思わず、レイニーさんと顔を見合わせてしまった。


「まさか、エルバス殿を?」

「エルバス殿は、私の後見人だから無理だけど、娘さんなら条件に合うんじゃないかな?」

「ティーナ様ですか……。とはいえ、無理強いはいけませんよ」


 イザベルさんの苦言に、笑みを浮かべて頷いている。

 どんな人物なんだ? 話を聞く限り、女性のようだけどね。


「マーベル共和国から大使を送ることは出来ませんが、獣人族であるなら大使を受け入れることは可能です。この建物で暮らして頂きますが、問題はありませんか?」


 レイニーさんは、駄目なら受け入れられないと表情で示している。

 結構器用な人だな。


「当座はそれで十分でしょう。とはいえ、将来的には大使を交換したいですね」


 これで、迎賓館が大使館になってしまった。

 改めて迎賓館を作ることになるのかな。それとも部屋数がそれなりにあるから、このまま迎賓館として使っても良いのかもしれない。


 翌日の朝早く、王子達は南へ馬車を連ねて帰っていく。

 門の外にレイニーさんと一緒に出て見送ったけど、さてどんな大使がやってくるのかな?

 そんなことを考えながら指揮所に戻ると、レイニーさんがお茶を淹れてくれた。

 国家元首が部下にお茶を淹れてくれるのは、どう考えてもおかしいと思うのは俺だけなんだろうか?


「ありがとうございます。レイニーさんは大統領なんですから、これからはナナちゃんに頼んだ方が良いと思いますよ」

「本人にまるで自覚がありませんから、気にしないでください。でもお客さんがいた時には、ナナちゃんに頼みます」


 最後の言葉はナナちゃんに向かって言ってたから、ナナちゃんが嬉しそうにうんうんと頷いている。

 自分の仕事だと思っているんだろうけど、俺の仕事は何なんだろうと考えてしまうな。

 とりあえず明日からは、石垣用の石を積み込む仕事に戻ることになるんだろうけどね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 技術を公開するならば対価を要求するものでは? 国と言いたいならその程度はすべき。
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